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海の挽歌  作者: 門戸
エリン姫の出現
43/256

43 エリン姫の出現3:隠し部屋の王女たち

 くだんの部屋の前には、ずいぶん野次馬どもが詰めかけていたが、皆パスクアを見ると通してくれる。


 そこは書物庫のひとつに見えたが、いくつかの棚が寄せられて、東側の壁に低く開いた出入口があらわになっていた。


 先ほど聞いたように、“壁をぶち抜いた”様子は見られない。


 戦斧や山刀を手にした傭兵数人に囲まれ、両手を頭の後ろにした女性たちが、部屋の中央に座らされている。


 入り口扉のところ、パスクアの後ろからひょいとメインが覗き込んだ時、一足先に来たらしいエノ王が女性たちの前にしゃがみ込んだ。



「五人、これで全部か」


「はい」



 戦斧を持った傭兵が答える。



「この、白い服の子が王女なのかな?」


「あとの四人は、お付きだって言ってます」


「へえ」



 パスクアもそうだろう、と思った。


 エノの手前で深くうなだれている娘だけ、目に鮮やかな純白の長衣に長羽織を重ねて、同色の頭巾をきれいな金髪にかぶせている。


 たおやかな口元が震えているようだ。


 見るからにお(ひい)さまである。


 と言ってもこの場にいる傭兵どもは、それまでお姫さまなんて誰も見たことがなかったのだけれども。


 他の四人も若い女性だ、子どもみたいなのが一人いる。皆テルポシエ騎士のようなお仕着せ外套を着て、それなりの防具を身に着けていた。


 エノの脇には何本かの剣が、鞘に入ったまま置かれている。抵抗せずに投降したらしい。



「あの、ウルリヒの妹だからなあ。どんな跳ねっかえりかと思ったが」



 はは、とエノが笑ったようだ。



「なあんだ。かわいらしいお嬢さんじゃないか。どれ、顔をよく見せなさい」



 言いつつ、右手を白衣の娘の顔近くに伸ばす。



「いち、」


 誰かが呟いた。


「にの、」


 王女の後ろに座る女たち、その後ろに回した手の中で、外套の背から取り出された何かが、じゃきじゃきじゃききと素早い音をたてて組み立てられる。



「――さーんッ!!」



 白衣の娘のすぐ右脇にいた娘が、雷撃のような気合いで吠えた。



 すっくと立ちあがった上背のある女が、手にした得物をぶうんと一ト回しする、がしいッッッ。


 その場を恐ろしいほどの風圧が席巻する!


 側頭を打撃されたらしい、彼女らの真後ろにいた兵がもんどり打って倒れた。


 左右にいた娘たちはめいめい手にした短槍で、兵たちを下方から突き上げる!


 不意をくらって、誰もが思わず後じさりをした。


 エノももちろん、とっさに間を取ろうとした。


 しかし目の前の娘、たおやかな白衣の姫が、両腕を巻きつけるようにして彼の右手にすがっているのである!



「ああ、しまっ……」



 た……の所で姫のすぐ後ろ、憎悪むき出し恐ろしい形相の女が、自分に向かって何かをふうっと飛ばすのがエノに見えた。


 白衣の姫を横に突き飛ばし、エノも転がる。



「王ッッ」



 パスクアが叫んだ瞬間、吹矢をとばした女は太腿に巻いた布の中から、小刀を抜く。



――やったか!?



「危ないことするなあ」



 一回転してむくり、と起き上がったエノが、顔の左半面を手で押さえながら言った。



「かすったぞ、ちょっとだけだけど!」



――外した!



 くうっ、と握りしめたその手がばしり、と強くはたかれ、エリンは思わず小刀を放してしまった。



「やめろッ」



 飛び出したパスクアはそのまま背後から、娘の両手を掴んで拘束する。


 すると他の女たちがざわり、と一斉にこちらを見た。


 それで、はっと理解する。


 手中の女の右腕を高くねじり上げ、左手でその頭を抱え込む。あばらが痛いから、あまり力は入れなかった。



「全員、動くなッ!! 王女・・の首を、へし折るぞっ」


「ぐうっ」



 切り詰め髪の娘が、喉を潰すような音を立てて、握りしめた短槍を胸に抱き込む。


 長身の女は、床に突き倒された白衣の娘をかばいこむようにしてから槍を下ろした。


 それを見ていた一番ちいさな年少の娘が、残念そうな子ども顔でかたり、と短槍を床に置いた。




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