34 テルポシエ陥落戦14:キヴァン対先行隊
そのキヴァン戦士は、≪四ツ辻型≫の最後尾を進んでいた。
彼ら独自の守備型のひとつである。前方に一人、左右に二人、後方に一人という配置で敵地を歩く、少人数用の陣形だ。
本来は中央に頭役をひとり置くのだが、テルポシエ人たちは彼らを四人だけで出撃させた。文句を言いたくても、言葉がよく通じないのが痛い。
こんなので本当に報酬がもらえるのか、と彼は訝しむ。
おそろしく動作の鈍いエノの傭兵を倒すのは簡単だったが、どれだけ働いてみても最後はイリー人達に丸め込まれ、体よく追い払われるような気がして、彼は憂鬱だった。
自然と歩みがのろくなり(と言ってもキヴァン標準の話ではある)、前の三人からほんの少しだけ遠のいた。
かさり……。
その時、彼の耳は不自然な草ずれの音をとらえた。自分が通って来た、真後ろの枯草だ。
――石壁の後ろに、伏兵の気配なんぞなかったはずだが?
即座に反応して周囲を見回す。やはり何もない。テルポシエ兵でもなかった。
――踏んだ折れ草が、元に戻っただけか。
彼は再び、視線を前方に向けた。
次の瞬間、両腕が左右に強く引き伸ばされ、喉に重い枷のようなものが絡みつく。
しまった、と思った時にはもう、気道がふさがれている。
キヴァン戦士の左半身をイオナが、右半身をニーシュが拘束して音なく地に倒し、背中からパスクアが戦闘鎖をぎりぎりと締め上げて、それで第一の目標を無力化した――はずだった。
しかしさいごの最期。薄れる意識の中、キヴァン戦士は舌を口蓋に当てるのに成功し、絶命していった。
「……ッッ」
小さな小さなその舌打ちは、前方の三人に届く。
キヴァン戦士たちはほぼ同時に振り返ると、枯草の上を飛ぶようにして向かって来た。亡骸となったばかりの体を半ば突き飛ばすようにして、イオナは鋼爪を構える。
「散って!!」
同時にニーシュが、腰の山刀を抜いた。
戦闘鎖を巻き取ったパスクアの脳裏には、先刻イオナと交わした不吉な会話が甦る。
・・・
「うん、そうか! 三人がかりで一人ずつ、静かに仕留めてくんだな! それで、他の奴に気付かれたらどうするんだ?」
「その時は全力です」
「全力でどうすんの」
「自分が殺されないよう全力で動く、戦う、それだけです。わたしたちは普通の重装兵よりずっと速いから、まあ何とかなるかと」
「イオナ、それは方針であって戦術じゃないぞ。もっとこう、具体的にだな……」
・・・
エノ軍先行隊長パスクアは、内心でうめいた。
――はあ、具体例が眼前に迫ってる……。