249 東の丘の最終決戦35:虜囚
「どうなのよ、瀕死その後の調子は?」
テルポシエ城、新北棟地下階。がらんと立ち並ぶ牢の一室、薄闇のような男の身体が、もやりと動いた。
そこにさっと、外光があたる。左目元の引きつれたあざがうごめいて、それで男の笑い返すのがわかった。
「いつまで、こんな辛気くせえとこに押し込めとく気だよ」
開いた扉の敷居に立つ小さな魔女は、青い頭巾の下の眼を光らせる。
「知ってるか? ここの地下牢な、北の墓所につながってんだよ。囚われ者を喰いに来る、死霊だか化物だかが出るんだ。俺もそのうち、喰われっちまうぞ?」
「ほーお……。それはそれで、まあいいかも。いずれにせよ、ここの牢はあたしの盟友となったティルムンおばちゃん達が、理術の結界を張っている。窓や扉を破ったり、牢番を殺して脱出とかはできないようになってるから、安心するのね」
「うげえ。またしても女だよ……」
何だか、こないだまでのメインと似た状況になっちまったなー、とギルダフは笑顔の裏でうめく。
「さっさと衰弱することね。もう少し操りやすい状態になったら、また喋らせに来るわよん」
すすす……アランはすり足後ろ歩きで、牢の外に出かけた。
「すげっ、こっち歩いてるようにしか見えないのに、うしろ進んだ。それも魔術か」
「あなたの知らない、秘儀の世界よ。じゃあまたね……」
「おいおいおい。べつに今話しても、全然かまわんよ?」
「あら、そうなの?」
すすす……今度は前に進んできた!
「島の話、聞きたいんだろう?」
割に快適な地下牢である。外光も風も入ってあかるい。それなのに男の瞳はすべての光を呑み込んで、全き深闇だった。
対するアランの蒼い双眸が、ぎいんと光る。




