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海の挽歌  作者: 門戸
冷えひえカヘル若侯の怜悧な推理
193/256

193 冷々16.ガーティンロー市職員の便り

 その場では口に出さなかった仮説を、カヘルはいたく気に入った。


 事件解決どころか、出口がぐうんと遥か遠くにいってしまった、……しかし何かが胸中でうずく。


 理由ははっきりしない……。けれど、自分の触れたこの小さなきっかけと知識とが、すさまじく巨大ななにか・・・につながっているような予感がしたのである。


 カヘルも口角を上げた。



「……ファイー侯、実に興味深い解説をありがとうございました。今後も地理地勢情報について、あなたに助力を乞う時があると思いますが、その際はどうぞよろしくお願いします」


「お任せください。カヘル侯」



 ずどんとものすごい貫禄で、ファイーはひくく言い切った。



・ ・ ・


 デリアド城へ引き返す途上、カヘルの機嫌がのきなみ良くなっているのに、側近は気付いた。歩き方が、こう……しゃかしゃか軽やかにのって・・・るのである。


 事件が解決したわけでなし……。一体どうしてなんだろう、と彼はいぶかしむ。



――まさか、あのおっかなめの地図姉ちゃんが気に入ったとか、言わないよなあ??



・ ・ ・



「カヘル侯、今日の分のお便りが来ています」



 執務室に戻ったところで、城勤の文官が通信布のつまった籠を持ってきた。


 机の上に仕分けてゆくうち、カヘルは妙な一通に行き当たる。



――ガーティンローから?



 全く覚えのない差出人である。


 フィングラスのルリエフ・ナ・タームが、でたらめな仮名と筆致で書き送ってきたのかと、一瞬カヘルは勘ぐった。が、それにしてはあまりに役人らしい走り書きである。うそ・・臭さがみじんも感じられなかった。



――ガーティンロー市庁舎・総務課どめ、ベッカ・ナ・フリガン……。全然知らない人物だ。市職員の文官騎士、しかも他国人が、私にいったい何の用だろう?



 小刀でぱつんと麻紐封を切る。


 たっぷり長文らしい、その厚みのある巻き布は拘束を解かれて、ふんわり・ぷよん! とふくらんだ。


 とりあえずカヘルは読み始める。読み続ける。


 ひきこまれる。



 デリアド副騎士団長が目をひんむいて、息も止めかけでその通信布を読んでいるのに気付かず、側近はそろそろ炉に火を入れないとなー、と考えていた。室内に帰ってきたばかりなのに、寒々しさが強く感じられてならない。


 窓辺から、ふいと灰色の空を見上げて、……おや、と思う。


 乾いた雪片が、ひそやかに落ち始めていたのだ。寒いわけだ、と側近は無言でうなづき、ひとり納得した……。



 冬も冬。


 冬至まぢかのデリアドは、冷えひえなのである。


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