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海の挽歌  作者: 門戸
冷えひえカヘル若侯の怜悧な推理
191/256

191 冷々14.カヘル若侯、仕事に逃避する

 登城する頃には、一応通常仕様のカヘルになっていた。


 長い前髪はきれいに後ろ向き撫でつけてあるし、朝食後にじゃこう草湯のれがら布袋をしぼってあてたから、まぶたのむくみもすっきり取れている。


 しかし、長年の付き合いがある側近騎士は、きちんとその辺を見抜いていた。


 目を合わせないよう、すうーと横から署名分の書類を出し入れしつつ、おだやかな声でもちかける。



「……例の傭兵の死体について、侯のいない間に、ひとつ思い当たったふしがあります」


「何ですか」



 ほとんどしゃがれるような、地ひびき低音でカヘルも答えた。



「首を切ったのは、そもそも何のためだったのか? と」


「……。遺体の身元を、他者に知らせないためでしょう」



 音声こそすりきれているが、平坦な調子でカヘルは言った。



「はい。しかしそれなら、どうしてすぐに傭兵のものと判別できる衣類のまま、身体を流したのでしょう? 本当に身元を隠したままにしたいなら、裸にして森や山中に埋めてしまった方が確実だと、私は思ったのですが」


「……それも、そうですね」



――では殺害者たちは、そういった“確実な方法”をとれない状況にあった……?



 死体の謎に全神経が集中する、カヘルが不機嫌を忘れた・・・のを感じ取った側近は、すかさず副団長の視線にきっちり自分の目線をあわせて、はっきりと言った。



「これも、工作なのではないでしょうかー!」


「工作?」


「本当は、エノとも傭兵ともまるきり関係のない人物が、殺されたのかもしれません。それをけむ・・に巻くために、いかにもエノ傭兵のようなお仕着せ衣装を着せて、流したのではないでしょうか」



 手は込んでいるが、……なるほど自分の殺した者の身元を隠すには、ありえるかもしれない。


 しかしそうすると、事件は全くの振り出しに戻ってしまったことになる。……手掛かりがここまで、皆無とは!




 目を落として考え込んだカヘルの視界、ふと机上の隅に置かれた、太い布巻が見えた。



「おや、見落としていた。これは?」


「あっ。それは市庁舎から、昨晩届いた調査報告です」



 かねてから地勢課に頼んでおいた、“銀の浜”に注ぎ込む水流の詳細である。


 事務的にくるっと開封して、カヘルは何気なく読んだ。そして、眉根を寄せる。立ち上がった。



「市庁舎へ行きます。確認したいことがある」



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