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海の挽歌  作者: 門戸
冷えひえカヘル若侯の怜悧な推理
188/256

188 冷々11.日替わり夕食:いわうおのねぎ包み焼き

「侯。追跡しますか?」



 直属部下のひとりが、すいとカヘルに寄って囁いた。左手が外套留め具に添えられている。



「……ええ。次に行くところだけ、簡単に確認を」



 うなづく副団長を見て、部下は即座に黄土外套を脱ぎ、裏地をおもてにひっくり返して羽織ると、柔らかな身のこなしで立って行った。



――あの書面から見て、代筆業をいとなんでいるというのは嘘ではあるまい。今は年末のかき入れ時で、請求書作成の代行依頼も多かろう。まず間違いなく店に帰る……。おおもとの在所くらいは、押さえておくか。



 冷めきって苦くなった薄荷はっか湯をぐっと飲み干して、カヘルはタームの話を反芻した……口の中まで、すうすうの冷えひえである。



――肝心かなめの、エノ傭兵の情報は得られなかったが。思いもよらない収穫はあった……。



 しかし、最後の進言はよくわからない。


 マグ・イーレ王の正妃を叔母に持ち、十分かの国の王室に近い自分が、何故にこれ以上あの妙な一家に近付かなければいけないのだ?


 叔母のニアヴは頼りにしているが、それ以外は王以下、のきなみ変人がそろっている。


 ひょろ長い最強老人の騎士団長の横で、ぶんぶん軍旗を振っている小っさい第二妃、その背後にべったりじっとり無表情で貼りついているどでかい傭兵は彼女の間男で、つまり双子にランダル王の血は流れていないのだ。


 王の実子の第一王子は平和主義者、戦争をやりたがる母ニアヴに対抗して、留学先ティルムンに逃避したまま帰国のめどはつかない。


 医者をやってる第二王子がいるから、とりあえず次の世継ぎに悲観をしていないのかもしれないが……?? それにしたって、庶子の双子を第三妃と手塩にかけて育てているという、ランダル王の気が知れない。


 そういう子どもと縁組したって、……何か良いことがあるのだろうか?


 この辺の裏事情まで、タームが把握しているとは思いにくかった。同年代の自分に親しみをこめて、冗談を言いたかっただけなのかもしれない。




 今度こそ、カヘルはげっそりと渋面をつくって鼻息をついた。


 追跡にやった部下が戻りしだい、この店でとっとと夕食をたべてしまおう、と思う。


 先ほど入る前にちらりと見たが、隣はおあつらえ向きに宿屋である。寝床直行ばたん・きゅう、明日の朝から飛ばしてデリアドへ帰還する……。



 ふと、店の小僧が炉の上の方、貼り布を留めた薄い板を掲げて置こうとしているのが、目に入った。



 “本日の日替わり夕食:いわうおのねぎ包み焼き”



 カヘルはぎーんと目をみはった。



――これくらいは大収穫・・・があったって、ばちは当たらないはずだッ。



 生臭みの少ない淡水魚は、彼の好物である。



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