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海の挽歌  作者: 門戸
冷えひえカヘル若侯の怜悧な推理
183/256

183 冷々6.費用対効果、いぼいぼ戦棍

 仰々しくするつもりはなかったのに、結局は近隣の集落住民を動員して、領内北部の森林域で山狩りをすることになった。



「いつもの山かがり・・・・を、少し早めにやってもらえば良いのでは?」



 フォーバルに言われ、そうかと思う。


 よく考えれば、もう闇月も半ばなのである。乾燥の強いデリアドでは年末近く、冬の山火事対策として地元の住民集団が、森林間を点検してまわる習慣があった。


 今回はそこに、騎士達が少数ずつ便乗する。騎士団長の提案に国王も執政官らも同意して、通達と準備とは滞りなくすすめられた。



「ほーい」


「ほーい」



 太く掛け声をあげながら、十数人の男達が野良仕事用のなたを手に、樹々のあいだを縫って歩いてゆく。


 やはり野良用のごつい革長靴をはき、外套のかわりに黄土色の毛織作業衣を着た騎士らが続く。


 カヘルも同じかっこうで、側近・部下とともに森の中へ入っていった。



「どういった箇所が、あぶないのでしょうか?」



 まじめに問われた農家おじさんは、若いカヘルを副騎士団長とは思いもしない。


 外仕事に駆り出された、かわいそうなひら・・騎士か何か……と思い込んで、こちらも真面目に答えた。



「夏枯れの茂みに、朽ちて倒れた古い木なんかが落ち込んでいるとこですよ。まわりにちゃんとがありゃええのですけど、やっぱり枯れかけの古い樹々がたくさんあると、つうと火が伝っちまいますから。風通しをあけてやらにゃいけません」


「なるほど」


「おーい、あれ見ろやぁ」



 前の方から声がかかる。先を歩いていた人たちが、まさにそういう古い木の密集を見つけていた。


 いつかの嵐で倒れかけていた老木、そこに斧が打ち込まれる。枯れ枝はなたでばらばらに解体されて、ずるずると引きずられて行った。



「ふんッ」



 ず太い枝に、カヘルは自前の得物えものをふるう。


 さっきの農家おじさんが、それを見てぎょっとした。


 騎士と言うのはたしか、長剣とか槍とか弓のたぐいで戦うもんではなかったっけ……?


 なんでこの人、棍棒ふるうのがさま・・になってるのだろう……、坊ちゃんぽい見かけなのに。



「あのう、騎士さま、それは??」


「ああ、戦棍といいます」



 カヘルは顔をあげて、さらっとおじさんに答えた。



「ご覧の通り、色々なところで役に立ちますもので。よく使っているのです」



 いかにもの切れ者、自身が短剣のような男なのに、キリアン・ナ・カヘルは実は剣が苦手である。


 切ってすてる、という動作がどうにも心地わるくて、幼少時の鍛錬から“相手をぶっ叩いてのす”方向にしか使わなかった。それならば、とはじめからぶっ叩いて倒す専用の得物えものを探した結果がこれなのだ。


 粗布を巻いた柄の先の鉄球には、丸いいぼいぼ・・・・がくっついている。


 傭兵が好んで使う安価な武器で、壊れにくく手入れもいらない。それでいて破壊力抜群、まさに費用対効果重視のカヘル向き得物なのだ!



「ふんッッ」



 ばっきぃいん!


 も一つ、派手な音を立ててカヘルは木枝を粉砕した。



――戦棍はいい。実に良い。何も考えずに敵を粉砕だ。



 いつか騎士を引退した後には、妻に頼んでつけもの石に利用してもらってもよかろう、とカヘルはしごく真面目に心の中で考えていた。



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