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海の挽歌  作者: 門戸
冷えひえカヘル若侯の怜悧な推理
181/256

181 冷々4.激まず・妻の根菜お煮物

 おそく帰宅すれば、街なかでも住宅地でも鎧戸はかたく閉められて、もれ出る光すら少ない。


 冬至の近づくこの季節、足元がおぼつかず危険であるからという理由で、貴族も平民も仕事の早じまいをするように敢行されている。


 しかし若く夜目のきくキリアン・ナ・カヘルとしては、そういうものも無視であった。宮城きゅうじょう夜警の時間帯ぎりぎりまで、書類を作ったりしている。父のカヘル老侯は、とっくに帰宅してしまっていた。



「いかがですか、今日のお煮物!」



 両親の住む母屋とはべつ、離れの小さな食卓にて晩餐である。


 華々しくやさしく、笑顔で問うてきた正面の妻に、カヘルはうなづいた。あかるい金髪ちぢれ髪が鳥の巣のように膨張している、だいだいの毛編み上衣も含めて、見た目から熱源みたいな女性である。



「普通ですね。いつも通りで、それが一番です」


「良かった!」



 カヘルは自然体で、野菜と肉の煮込みを口にした。


 野菜……根菜数種に薬味は季節のものを使っている、そしてあぶらが体を温める豚肉。栄養源としては申し分ない、しかしまずかった。


 有毒物混入だとか、火の通っていない危険なまずさではない。単におかわりしたくない、積極的に食べたくない、そういうまずさである。


 野菜の青臭さとえぐさが舌につく、それを隠せないのは度を越した薄味だからか。


 しかし正面の妻は終始笑顔で、自分の作ったものを口に運んでいる。


 なのでカヘルは何も言わなかった。


 恐らくこれは“慣れ”で何とかなるのだろう、毎日まずい夕食を供されるのも、騎士修行の一環である。


 否定的意見を述べて改善要求をしても、目の前の女性には伝わらない可能性が大きい。そこからことが大きく広がり、またしても別居や離縁となれば、これはもう大損害である。



「あの……、明日から数日ほど、実家へ泊ってもよろしいでしょうか? 母が体調をくずしてしまいまして……、ついていてあげたいのです」


「ええ、どうぞ。お大事にしてあげてください」



 このくらいのお願いごとなんて、するすると受理である。


 妻は笑って、うなづいた。



「ありがとうございます。……お代わりを、さしあげましょうか?」


「いいえ、結構です。たくさんいただきましたから」


「そうですか」



 上げかけた腰をすとんと下げて、二度目にもらった妻は、やはり笑顔であった。



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