表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の挽歌  作者: 門戸
冷えひえカヘル若侯の怜悧な推理
178/256

178 冷々1.“銀の浜”の漂着死体

 ぎゃあ、ぎゃぎゃあ……。


 耳障りな鳴き声が西から東へ、過ぎ去ってゆく。何の鳥だろう?


 ついと見上げたキリアン・ナ・カヘル若侯の目の中に、色をうしなった冬の空が重く立ちこめた。その端をぼつぼつと飛び去ってゆく、――黒い鳥の群れ。


 彼はすぐに、視線を戻す。不愉快きわまりない地上の現実へ。


 じめついた寒さの支配する灰白色の浜、……夏のあいだこそ領民たちが海水療治や散策、釣りに憩うところだが、今はその“銀の浜”からもすべての色彩、全ての生命がうしなわれていた。


 カヘルの足元に横たわる男の身体にも、やはり色彩がなかった。生命が失われている。



「何者なのだろう」



 防寒用の毛編み帽子に黄土色の外套頭巾を重ね、さらに口元あたりまで厚く巻いた覆面布の内側、カヘルはくぐもった声で呟いた。



「男性、としかわかりませんね。これでは……」


「……周辺をくまなく探しましたが、この身体以外に別に流れ着いたものは、何もありませんでした」



 低い声、やはりくぐもりがちに言ってくるのは、分厚い皮手袋と皮長靴、漁師のような装備に黄土色の外套を重ねた、地元駐在の巡回騎士・主任である。



「手の部分の膨らみ方を見ると、さほど長く漂流していたようには見えません」



 カヘルの後ろにいた側近が言った。吐き出す息が盛大にしろい、覆面布を巻かない彼の口まわりでは、ひげが霜ついている。



「――とりあえず、担架へ。村の安置所に置いて、衣類の内側を調べましょう。ここではいずれ、凍りついてしまいます」


「そうですね」



 巡回主任に同意して、カヘルと部下たちは他の巡回騎士らとともに、浜辺に漂着したその男性の遺体を持ち上げて、担架にのせた。


 つめたく濡れそぼり、首をどこかに落としてきたその身体は、表情なくされるがままになっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ