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12 精霊使い1: イニシュアとエンマ
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「イニシュア」
苦し気に、重たげに絞り出す細い息の合間をついで、若い娘は――若い母親は、その名を呼ぶ。
「何だ」
石組み小屋の外には真夏の陽光がきらめいていたが、粗末な病床は暗く、そして小さな妻は青白く冷え切っていた。
もともと細かった身体はさらに痩せさらばえ、顔も指も喉元も、痛々しく骨のかたちが見て取れるまでになっている。優しい瞳だけが大きく潤んで、彼を見つめていた。
「わたし、あなたに……ひとつだけ、お願いがある」
彼女はもう、以前のような声は出せない。かすれ声の囁きを聞き洩らさないよう、彼は枕元へ顔を寄せた。
「あの子を、あなたの娘にしてほしい」
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