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箱庭のマリオネット  作者: ニシロ ハチ
21/22

エピローグ 1



「どうですか?」ネオンが振り返って言った。

 お馴染みのレプリカタウンにいる。グリーン・ピースに会ったのは昨日のことだ。

 ネオンはバットキャッチが出来るようになっていた。蝙蝠を六匹捕まえて、こっちに近づいてきた。

 本当に驚いた。あと一ヵ月は掛かると思っていたから、ここまで早く出来るとは思わなかったからだ。

「凄いね。これはもう、十分だ」僕は言った。

 蝙蝠の移動パターンを分析している。でも、それ以上に彼女の動きが洗練されている。着地から次の動作までが遅いと、バットキャッチは出来ない。パイロットの殆どは、一匹に触れることも出来ない。それを、時間以内に、この短期間で成功させたのは、彼女の才能だろう。

 それに、彼女の動きは、この前、僕が実演したのを意識しているのではない。十五年以上前に有名だった世界ランク一位のベイビィ・ブルーを参考にしている。

「随分早く出来たけど、コツでも掴んだの?」ケースに蝙蝠を収納しているネオンにきいた。

「……。いえ。寝る間も惜しんでやっただけです。エンプティの操作が上達すれば、もっと出来ることが増えると思ったので」ネオンは、僕を睨んだ。少し怒っているようだ。勿論、心当たりはある。

「……。そう」

「次は、何をすればいいですか?」

「毎日十分間は、僕と一緒に出来ることをしよう。まずは、鬼ごっこでいいかなと思う。それ以外の時間は、今までやったことを、時間をもっと短縮出来るように、反復すればいい。それでもし、僕を捕まえることが出来たら、下手なプロより上達していることになる」

「…わかりました」ネオンは、不敵に笑った。

「でも、今日は時間切れだから明日からだね」

「わかりました」彼女の声のトーンが下がった。「結局、エターナルテイルズは、なんでエンプティにダイヴして生活していたのですか?」ネオンは大きくジャンプして、僕の傍に着地した。

 ネオンには、グリーン・ピースのことも、裏の世界のことも伝えていない。彼らがサナギと呼んでいた施設が地下にあったとだけ報告した。人の数が少ないのは、一日中カプセルに入っているからだと。僕は嘘を付いたので、報酬を受け取るわけにはいかなくなった。

 ネオンには、住人に見つかったので、潜入は失敗だった。ただ、向こうの好意で説明してくれたと、嘘を塗り固める報告をした。それで、報酬を受け取らずに済んだ。

 でも、さっき睨まれたので、彼女も、何かを勘づいているのだろう。ネオンの勘が鋭いことは、既に知っている。

「便利なんだろう」僕はまた、嘘を言った。

「でも、なんでしょう。ゲームやエンプティもそうですけど、いくら上達しても、リアルの肉体が成長したわけじゃありません。リアルの肉体に戻った時に、虚しくなる、というか、現実にぶん殴られるみたいな感覚があるんじゃないですか?ベルさんは、エンプティにダイヴした時と、リアルでのギャップをどう埋めているんですか?」

「どうもしていないよ。リアルは、鈍くて煩わしいものだと知っているだけだ。でも、それは、エンプティに限らず、全てのものがそうだろう。リアルのある分野で一芸に秀でても、他のことはからっきし駄目だという人はいる。それでも、特定の分野を極めることは、無駄な行為ではない。むしろ、それによって、リアルでの生活も変わってくるだろう。後は、その奥深さというか、高さが、分野によって違うけど、それは本人の捉え方次第でどうにでもなる。要は、思考はいつでも自由なんだよ」僕は、自分がグリーン・ピースに影響を受けていることに気付いた。

「ふーん。そうですか」ネオンは短く何度も頷いた。「カプセルに入っていたんですよね。それって、普通に横になってダイヴするのと、何が違うんですか?」

「モデルにもよるだろうけど、健康面で適切な補助をしてくれる。後は、離脱した時に、マッサージ機能とかついているんじゃない?」

「それって、快楽に溺れていませんか?堕落だと思います」

「無理に頑張る時代でもなくなったし、豊かさの象徴だと思うけど」

「食事やトイレはどうしているのですか?」

「ハッキリとはきいていないけど、食事は錠剤を水で流し込んでいる人もいるだろう。もしくは、点滴をしているのかもしれない」

「うーん。健康で人間的な生活とは、程遠いような気がします。畑仕事とは対極に位置するんじゃないですか?どんな気持ちで、汗をかいて畑作業をしている人と、接していたんでしょう」

 僕は笑ってしまった。そんなことは、考えてもいなかった。

「体を動かすとエネルギィを消費するし、疲れる。わざわざ、そんなことをしなくてもいい。それよりも、人と人が一緒にいる最大のメリットは、会話が出来るということだ。メールだとわざわざ送ることでもないかな、ということでも、一緒にいると話しが出来る。そうしていれば、なんとなく、仲良くなった気がするんじゃないかな。それに、あそこにいた人は、エンプティとも親友だと言っていた。結局、生身かエンプティかは、大差がないんだろう。それは、エンプティが人間に似て作られたからだ。人間と親しくなるのが、人間を模した最大の理由なんだから」

「……。なるほど。面白い意見です。ああ、こういうことですね」ネオンはパッと笑顔になった。「私たちは今、エンプティですけど、ベルさんの部屋で話している時と、大した差はありません。ケーキが食べられるかどうか、という違いしかないんです。でも、それでも、私は、そのケーキを、二人で食べたいです」


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