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箱庭のマリオネット  作者: ニシロ ハチ
14/22

第一章 9



 アミダとリンゴは離脱した。

 アミダの連絡先は知っているが、リンゴは知らない。ただ、ネオンが知っているので、もし用があれば彼女に頼むか、一緒に行動しているアミダにきけばいいだろう。

 二人の動向は、最近の一番の関心ごとだ。それは、僕だけではなく、世界中が気にしているだろう。運がいいのか、悪いのか、二人は、どこかに属することも、関わろうともしていない。結果的に、物凄く不安定に傾いた状態で、奇跡的に均衡がとれている。この不安定な均衡を維持するのか、立て直すのか、それとも崩すのかは、二人にかかっている。

 それは二人も自覚しているだろう。だからこその静観なのだと考えている。

 二人が離脱した少し後に、僕も離脱した。

 少ししてから、ラムネが部屋にやってきた。

「誰と会っていたの?」ラムネは僕のデスクの前に立っていた。

「知人と」僕は答えた。

 ラムネは数秒間、僕を睨んだ。

「業務命令。誰と会っていたの?」ラムネの声のトーンが下がった。

「アミダとリンゴ」

「なんの為に?」

「ネオンのバットキャッチのアドバイスをしていたね。僕が呼んだのではなく、ネオンが呼んだんだ」

「他に報告することは?」

「ないよ」

「……わかった」

 そういって、ラムネは部屋に戻っていった。ラムネの仕事は、僕の監視なので、僕も可能な限り、彼女に手間をかかせたくないと思っている。ログを確認せずに、わざわざ尋ねたのは、アミダがわからないように、鍵をかけたのだろう。

 それから二日経った。

「ベルさんの動きを何度も見返していますが、あんなに上手く捕獲が出来ません。なにが違うんでしょうか?」ネオンはテーブルの向かいに座っている。

 久しぶりに、ネオンが持ってきたケーキを食べている。僕は紅茶を選んだ。賞味期限が近いので、最近はずっと紅茶ばかり飲んでいるが、もう、飽きている。アイスやホットで誤魔化したり、砂糖やガムシロップを入れて味を変えているが、限界が近いだろう。

 そもそも、お金なら沢山あるのだから、腐らせてしまってもいい。無理に飲む必要もないのだが、なんとなく勿体ないと思ってしまう。

「ただ、追っかけても絶対に捕まえられない」僕はネオンの映像を見ながら言った。「あの二人もそうだけど、ちゃんと考えて動いている。よく見て、よく観察するしかない」

「んー。そうなんですけど」ネオンは目を細めて、映像を見ている。「でも、アミダさんはともかく、リンゴもすぐに出来ましたし」

「リンゴのボードの操縦技術は、たぶん世界一だよ。特に、ああいう対象を追いかけたり、誰かから逃げたりするのは、ずば抜けている。ダンス部門とかで争わない限り敵なしだろうね」

「やっぱ、才能ですか?」彼女は体を逸らして両手を上に伸ばした。

「いや、ネオンの成長速度は僕の予想よりも早かった。だから、課題の難易度を上げたんだけど。それでも、一匹捕獲するのに、二カ月はかかると予想している。まだ、一週間も経っていない。こんなに早く出来るなら、誰でもプロになれるし、結果的に、プロの稼ぎが減ってしまう」

「二カ月ですか?そんな課題を与えたんですか?」彼女の両目が大きく開いた。

「まぁ。そうだね」

「なるほど。そうですか」目を細めて睨むように僕を見た。「そういえば、アミダさんの捕獲シーンは映像に残っていませんが、物凄く簡単そうに捕まえていました。なんというか、吸い込まれるみたいに。あれはなんですか?」

「さぁ、初めて見る動きだった。あの時、蝙蝠は避けていたけど、アミダの間合いだった。簡単に取れたように見えたのは、蝙蝠の動きに合わせて、捕まえる手を無駄なく動かしたからだ。予想したのか、反応したのか、どっちにしても凄い」

「ベルさんも真似出来ませんか?」

「あれは無理だね」

「リンゴのはどうですか?」

「あのレベルのボード操縦が出来ない。ただ、リンゴの捕獲方法は参考になると思うよ。蝙蝠の最高速度は決まっている。こっちのジャンプを逃げられない位置まで近づけば、確実に捉えられる」

「んー。なんか、私の手の届く範囲に蝙蝠がいないんですよね。もっと近づこうにも、家とか電柱とか限られますし」

「少しだけアドバイスをすると、ジャンプでの移動速度が少し遅い。もっと速く跳べる。ただ、捕まえるのも、着地も、アシストに頼らないとなると、難しくなる。それに、少なくとも、ジャンプした瞬間には、着地の姿勢と蝙蝠の動きに合わせた次の動きを、複数のパターンで考えていないと、捕まえることは出来ない」

「……わかりました」ネオンは、紅茶を飲んだ。「そういえば、エターナルテイルズは、少しだけ評判が良くなりましたね。ラムネさんの記事のお陰です」

「へぇ。そうなんだ」あまり関心がなかったので、この二日間は調べていない。

「それに便乗して、怪しげな宗教団体も記事を書いたりしていますが、全然ダメですね。なんでしょう。既に中が異様なので、外面を良くしようとしても、まともな顔の作り方を忘れているって感じというか。化粧道具が墨で真っ黒になっていることに、気付いていないって感じなんです。自分たちが、危ない集団だと暴露しているだけになっています。相対的に、エターナルテイルズの株は上がっているのですが、入団は出来ないみたいですね」

「ああ。そうらしいね」

「それって変ですよね。信者を沢山集めたいと思うのが普通です」

「場所の問題もあるんじゃない?住み込みで生活しているから」

「でも、増築すればいいだけです。思い通りに動く信者がいるなら、そんな費用、あっという間に、稼げますよ」

「うん。確かに、変なんだ」僕は同意した。

「なにが目的とか、言っていましたか?」

「楽園の永住だったかな。外から壊されたくないから、記事を依頼したと言っていたよ」

「楽園の永住。……。大層な目的ですね。ウイルスが流行したら楽園どころか、永住も出来ないですし。死ぬまで楽しく暮らしたいってことですか」

「そういえば、死んだ人はいないらしいよ」

「はっ?」ネオンは眉を寄せた。「一人もですか?」

「そう言っていたよ」

「そんなわけないじゃないですか。二十年以上集団生活して、死者がゼロですか?」

「簡単な治療は受けられるみたいだ。後は、若い人が多いから、例えば、当時三十代の人がいても、五十代だから、寿命まで、まだまだ生きられる」

「安楽死もゼロですか?」

「そうらしいけど」

「……それは、おかしいですね。やっぱり、グリーン・ピースの噂は本当なのでしょうか?」

「さぁ。そういえば、十五年前らしいよ」

「なにがですか?」彼女は首を傾げた。

「グリーン・ピースを探すには、十五年前がいいらしい。手掛かりがあるんだって」

「どこの情報ですか?聞いた事がありません」

「どこだろう?僕もよく知らないけど」

「……ちょっと、失礼します」ネオンは、ケーキを三口で食べ、紅茶で流し込んだ。

「食器は片付けておくよ」

「ありがとうございます」そして、ネオンは、自分の部屋に入った。


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