第一章 6-2
「あの。エターナルテイルズについてきいていいですか?」ネオンが言った。
「うん。いいよ。折角だから、この街を歩こうか」僕は二メートルの塀の上にジャンプして、その上を歩いた。イオの情報では、このレプリカタウンには、『猫の道』というのがあるそうだ。そのルートを歩くことにした。ネオンも後ろから付いてきている。
「中はどうなっていましたか?」ネオンが直接言った。
「建物は、大きな寺と集落があっただけだよ。人は、あまり出会わなかった」僕も直接答えた。
「人が隠れる所はありましたか?」
「どういうこと?死角なら、勿論沢山あるけど」
「そうじゃなくて、秘密基地みたいな空間です」
「どうだろ?集落の家の中は見ていないし、山の中も立ち入っていないから。それに、秘密基地は秘密にしないと意味がないから、教えてくれなかったよ」
「ベルさんはどう思いました?」
「なにを?」
「エターナルテイルズの印象です」
「中の住人は楽しそうに暮らしていると思うよ。本人たちが楽しいなら、僕はそれでいいと思う」
「宗教らしさはありましたか?」
「多少はね。でも、小さな集落で集団行動を行っているなら、その地域特有の色みたいなのがあるのが、普通だと思う。そう考えると、誤差の範囲だと思う」
塀を降りて、家と家の隙間に進路を変えた。室外機が道を塞いでいるので、屈んだり、ジャンプしたりするのだが、隙間が三十センチ位しかないので、服を汚さない様に気を使う。地面には、潰れた空き缶や、煙草の吸殻が落ちていた。真上を見上げると、二階に窓があった。そこから落ちた吸殻という設定なのだろうが、隣の家の壁を見ながら煙草を吸うのでは、美味しくないのではないだろうか。今なら、視覚情報を幾らでも変えられるので、それでも問題ないが、このレプリカタウンは、百年位前の日本の住宅地がモデルになっている。その時代には、そんな機能はなかったはずだ。でも、家の住人が、まったく気にしない人なのかもしれない。煙草を吸う人は、そんな程度の奴だと、設計者が考えている可能性もある。
「住人同士の交流はあるのですか?」
「仲のいいグループはあるみたいだね。全員と交流はないみたいだ。五百人全員と友達になんてなれないから、それでもいいと思うけど」
「その中に、リーダもいるのですか?」
「いや、いないらしい。会議で話し合って決めているみたいだ」
「おかしくないですか?創設者というのは、存在します。そういう人は、自分の立場を誇示する為に、人を集めるのが普通です」
「そうだね。あまり表に出たくないのかも」
「なんでですか?」
「さぁ。でも、あそこには、序列みたいなものは、無いのかもしれない。そういう風に装っているだけかもしれないけど」
「住人の健康状態は良好ですか?」
「そりゃ、そうだろう。風邪をひいている人が、外を出歩くわけがないよ」
家の庭に出た。花壇から花が咲いており、植物もリアルに作られていた。一階に大きな窓があり、家の中が見えた。ここは主要なコースなので、この家は、室内も造られていた。平凡な部屋が窓から見えた。
レトロというには、個性がなさすぎる。もしかしたら、設計者の個人的なノスタルジィが含まれているのかもしれない。その後は、破れたフェンスの穴を潜らされた。
「違和感は、感じませんでしたか?」ネオンは直接言った。
「例えば?」
「なんでもいいです。些細な事でも知りたいんです」
僕は、エターナルテイルズで見たものを細かく、なるべく正確にネオンに伝えた。マリさんの話も一語一句正確に言った。記憶しているわけではなく、記録してあったから出来るのだ。
猫の道は、あと少しで終わりだ。街を一周するコースのようだ。
「そうそう。住人の何人かはエンプティだった」僕は付け加えた。
「えっ?ホントですか?」
「僕があそこで見たのは八人で、一人は、ちゃんと見てないからわからないけど、少なくとも、三人はエンプティだった」
「それは、全員が知っているのでしょうか?」
「さぁ?知ってるとは思うけど。隠す必要がないんじゃない?」
「でも、エンプティだったら、その孔雀という人が言っていた、理念みたいなものに反するじゃないですか?健康の役に立ちませんし。トップがそれを許すのも、普通じゃないです。それに、ベルさんはエンプティパイロットのプロだから、違和感がないかもしれませんが、普通の人からすると、エンプティとわかる相手と話す時は、その人が実際に喋っている、という感覚と、どこかで人形だと思う感覚が、少しずつ混ざっています。純粋にダイヴしている本人と会話をしている、というわけではないんです。ヴァーチャルのアバタで話す感覚と似ています。宗教のような、自分の心を全てさらけ出して、強い結束を得ようとしている集団には、受け入れられないはずです」
「ふーん。それじゃ、どう考えるの?」
「エンプティじゃなく、生身だと嘘を付いているんだと思います。それなら、リーダというか、支配しようとしている側が、その場にいなくても、統率出来ます」
「統率出来たって、あまり生産的な活動をしているようには、見えなかったけど。お金を生むならその可能性もあるけど、生身の人間がしていたのは、畑仕事だ。ジャガイモなんて、働かなくても、手に入る。その為に支配者が、自分の時間を犠牲にするとは思えない」
「それじゃ、ベルさんは、善意であの集団が出来ていると思いますか?」
「思わない。善意だけで集団生活をするなんて、あり得ないだろう。善意があって、困っている人がいるなら、寄付すればいいだけだ。だから、あの閉ざされた空間に、理由があるんだと思う」
「そうです。私もそう考えています。世間的に見れば、怪しい宗教団体です。でも、それがカモフラージュで、実際はあの土地と環境が必要なのだと思います。シェルタの中では出来なくて、あの環境だから出来ることがあるはずです。それは、やっぱり、人間の数だと思います」
ラムネと同じような結論になるのだな、と感心した。
「人間を集めて何をするの?」僕は直接きいた。
「私は、ある人を探していました。私の目的の為に、その人が知る情報が欲しいからです」ネオンが話題を変えた。「でも、その人は行方不明で、私の捜査でも見つかりませんでした。ですが、とある筋から、その人が、そこにいる可能性があるとの情報が入りました。私はその後、エターナルテイルズを調べましたが、特に進展はありませんでした」
「それは、誰のことなの?」
「グリーン・ピースです。知ってますよね?」
「有名な研究者で医者だからね」僕は驚いたけど、表情には出さなかった。後ろを歩くネオンには、驚いたのが悟られていないだろう。
「マッドサイエンティストで犯罪者です。歴史上、最も多くの人を、その手で殺した人物が彼です」
「どの研究のことを言っているの?」
「万能細胞です。非合法に受精卵を集めるルートを構築して、何年も研究を続けていました。何千人の命がその実験で亡くなったか、知っていますか?」
「詳しい数はわからないけど。でも、そのおかげで今の人たちは、長寿になった。メディカルチェックさえ受ければ、病気で死ぬリスクを、ほぼ百パーセントに近い確率で防ぐ事が出来る。手足を失っても、義手や義足に頼らなくても、自分の細胞で治せるようになった。その功績は称えたいとは思うけど」
「本気で言ってますか?」ネオンは、口にだして言った。ネオンの足音もなくなっていた。
僕は立ち止まって振り返った。
「本気で言っているよ」僕も空気を振動させて言った。
「研究というのは、成功が約束されているわけではありません。何十年と、研究に時間と資金を費やし、なんの功績も得られないというのは、よくある事なんです。結果が残っているから、そう言えるだけで、もし、仮説が間違っていれば、ただ、殺戮を繰り返していただけになります。それに、結果を残しても、過去、現在に至るまで、あんなに命を粗末にした研究が認められた歴史はありません」
「そんなことは知っているよ。でも、憎くて研究を行っていたわけじゃない。料理人は、動植物に恨みを持っているわけでも、憎いわけではない。普通の人よりも敬意を持っているかもしれない。研究者だって、それが必要だから、人々の為になるから、行ったんだと思う」
「自分の名誉の為に、敬意さえあれば、命を粗末にしてもいいのですか?」
「粗末にはしていない。彼がいなかったら、医学はあと百年位遅れていたかもしれない。その、時間と費用とエネルギィの損失を考えると、やはり、天才だと認めざるを得ないと思う。それに、研究に必要な受精卵だって、無理やり入手した訳じゃない。中絶を申し出た患者から採取したものだ。失われる命を有効活用したともいえる」
「神様にでもなったつもりですか?人がやっていい領域を超えてます」
「そう。考え方が違うね」僕はわざと微笑んだ。
ネオンは、目を大きく見開き、そして僕を睨んだ。歯を食いしばっている。
「どうして、君がそんなに怒るのか、わからないな」僕は言った。「君が生まれた時には、もうとっくに研究は終わっていた。過去の歴史と一緒だ。もっと昔には、お金や資源の為に戦争をやって、人間同士で殺し合っていた時もあるんだから、それよりは、善意に溢れて生産的な活動だと思うけど。もしかして、彼が今も生きているから、自分と距離が近いとでも思っているの?」
「バカにしないでください」ネオンは叫んだ。僕を睨んだままだ。
「していない。質問をしているだけだ」
「私の………」ネオンは、舌打ちをして、地面を蹴った。そして、地面を見たまま、大きなため息をついた。
「ハコブネを知っていますか?」ネオンは、表情も声もいつも通りに戻っていた。あの短期間で感情をコントロール出来たのなら、僕の認識を超えている。素直に関心した。
「十年前の?」
「そうです。私の目的は、ハコブネの真相を調べる事です。あれは、なんの為に行われたのか?被害者はどこを目指したのか?何から救済されようとしたのか?……その為に、私は、ここに所属しました。過去も名前も全て捨てても、私は知りたいんです」最後のセリフに力が入っていた。
「ハコブネ」僕は呟いた。「あれは、ただの集団自殺だ。真相もなにもない。ただ、大勢が一斉に死んだだけだよ。それに、ハコブネについて調べる事は、世界中で禁止されている。何も無いと、結論づけられているからだ」
「私の両親は研究者でした。私の育児を全て家政婦に任せて、一日中研究をしていました。私の誕生日にも、一度も会わずに研究を行っていました。私は、私を生んだ二人を嫌った事もあります。何度、声を出しても関心を示さないからです。それでも、私は両親を尊敬していました。二人の視線が私に向かなくても、未来を見つめる目が、綺麗だったからです。それは自分たちの未来ではありません。もっと先の何百年先の未来です。私は、両親に憧れて研究者になると決めていました」ネオンは、淡々と語った。
平凡な住宅街。
地面には止マレの文字。
窓から明かりは一つもなく、街灯が僕とネオンの間の地面を照らす。
月はネオンの背後に、風は二人の髪を揺らした。
「十年前のあの日」ネオンは、顔にかかった髪を指で直した。「両親は、それぞれ自分の部屋で、いつものように研究をしていると、思っていました。私は、母の部屋をノックしました。返事がないので、扉を少し開けると……。その日、両親は、二人とも、自殺していました。十歳の私を置いて。研究はまだ、残っていました。二人は、研究も私も残して、命を捨てたんです。後になって、世界中で同じように自殺が行われた事を知りました。そして、『ハコブネ』と名付けられたこの事件は、何度も余波を繰り返して、やがて、調べる事を禁止とされました。でも、私は、研究も子どもも残して行うだけの理由が、ハコブネにはあると考えています。聡明な両親が、無駄死にするはずがないからです。それを調べる為に、捜索能力を高める為のバイトをして、そして、ここの存在を知り、全てを捨ててここに来ました」
僕は頷いた。
「両親の直接的な死因は、グリーン・ピースが製造した睡眠薬。通称『ゴッドドリーム』の過剰摂取です。これはハコブネで死んだ人たち、全員に共通する事で、この睡眠薬を過剰摂取しています。通常使用であれば、普通の睡眠薬なので、世界中に広まったゴッドドリームですが、過剰摂取の場合は、安楽死が出来る薬へと変わります。グリーン・ピースは、それを知らなかったはずがありません。過剰摂取のリスクも認知していたはずです」
「それは、関係ないと思う。ナイフ職人が販売したナイフが、人殺しの道具に使われても、それは、殺した人の責任だ。ナイフ職人が悪いわけでも、ナイフが悪いわけでもない」
「それは、知ってます。でも、グリーン・ピースは、ハコブネについて、何か知っているはずです。私はどんな手掛かりでも、見つけ出して、両親が死んだ真相を知りたいんです」
「もし、グリーン・ピースが、ゴッドドリームの過剰摂取で安楽死出来る事も、それが行われる事を予想していたとしても、彼に罪はない」
「わかってます。そんなの、わかっています」ネオンのセリフは、祈りのように力がなかった。
ハコブネは、累計二十万人の人が亡くなった、集団自殺のことを指す。十年前のある日、世界中で示し合わせた様に、十二万人の人が亡くなった。それだけでも奇妙な事件なのだが、その死因がさらに、事件の特異性を際立たせた。
十二万人の人たちは、エンプティにダイヴする専用端末を装着して、起動させたまま、死んだのだ。ダイヴする前に、大量のゴッドドリームを摂取して。
これにより、ただの自殺が特別なものへと変わった。当時は、誰だって陰謀論を唱えた。それが普通だと思えるほど、奇妙な事件だった。自殺した人たちは、医師、講師、研究者、学生、聖職者など、職業、性別、年齢、どれもが、バラバラだった。共通点は、とあるサイトを覗いていたことと、死因だけだ。
この集団自殺は、世界中で報道され話題となった。そして、奇妙な事件は、これで終わりではなく、個人的に事件を調べていた人や、世界で起こった奇妙な事件の連日の報道で、不安を募らせた人などが、一種の催眠状態となり、後を追うように、似たような方法で自殺をした。
似た方法となったのは、専用端末を持っていない人が、ゴッドドリームで安楽死したケースや、仮想世界に行っている間に安楽死をした人など、僅かな違いがあるからだ。錯綜した情報に惑わされた結果ともいえる。
そして、八万人が半年の間に自殺した。
この二十万人の死をもって、これ以上犠牲者を増やさない為に、ハコブネについて調べる事と、報道する事を、一切禁止としたのだ。
そして、この奇妙な事件は、真相がわからないまま、無理やり蓋を閉められた。
表現の自由が認められている国であっても、調べるだけで刑罰の対象となる。その規制がより一層、ハコブネを伝説へと持ち上げる結果となった。
つまり、死者たちは、自殺をしたのではなく、肉体を捨てて、どこかに移ったのではないかと。
それを、仮想世界という人もいる。エンプティに永久にダイヴしている、という人もいる。研究者や政府はそれを否定した。僕も同意見だ。理論的に考えられない。
専用端末は、脳から体に送られる信号を読み取り、エンプティに反映させる機械だ。その状態で自殺をすると、脳からの信号が途切れるだけだ。ダイヴしたまま、生きられるなんてあり得ない。
つまり、陰謀論や都市伝説として、大きくなっているハコブネも、結論は、ただの集団自殺事件となる。その規模と方法が、これまでに無かったというだけだ。
僕もこの事件をよく覚えている。当時は調べもした。その結果、今の結論となった。
ネオンの両親がハコブネに関わっているとは思わなかった。ネオンがハコブネに関心があるのも、知らなかった。確かに、今あるハコブネに関する記事は、面白おかしく脚色されたものばかりで、正確な情報は一つもない。当時のサイトは、全て政府によって消されたからだ。それらのサイトは、自殺を誘発させるような内容だった。あの当時は、そういうサイトで溢れていた。
でも、それらのサイトも、最初の十二万人の自殺者たちが見たサイトとは、別のサイトだ。
今はもうない、十二万人が見た、その幻のサイトの名前が『ハコブネ』だったのだ。それがそのまま事件を指す言葉となった。
ネオンは、ずっとそれを追っていたのか。
十歳のネオンが、両親やその職業に憧れ、それを奪った事件に恨みを持つのは理解出来る。両親の死が、何か意味がある事だと、信じたい気持ちもわかる。
でも、あの事件は、何もない。
睡眠薬の過剰摂取。
それだけだ。
事件を調べる事を、今すぐにでも、止めた方がいい。時間の無駄だからだ。
でも、そんな事、言えない。
もしかしたら、生き残ったネオンは、真相を調べる事だけが、唯一の生きがいとなったのではないだろうか?
もし、そうなら、僕に一体、何が出来るだろう?
何を言えばいいのだろう?
グリーン・ピースのつくったゴッドドリームは、世界中で一時的に販売禁止となったが、探せば誰でも見つける事が出来た。一応、政府も建前上、サイトを見つければ消していたが、追いついていない。それに、現在は製造も販売も許可されている国が殆どだ。正式名称が変わっただけだ。
先進国では、安楽死は認められている。宗教上、禁止としている国や、途上国故に、経済の為に禁止としている国もある。でも、それこそ、不自由だろう。
誰だって自由に死ぬ権利はある。宗教や経済的な理由で、死に苦痛を伴う必要はない。
ゴッドドリームは、安価に製造可能で、販売価格も安い。誰だって手に入れることが出来る。
そして、過剰摂取した時には、眠りに落ちて、夢の中で死ぬのだ。
その死に、苦痛がない事は、証明されている。
まさに、夢のような薬なのだ。
現に、安楽死を認めていない国ほど、ゴッドドリームが蔓延している。その現状を見て、安楽死を認める動きが世界中で起きている。
先進国では公的に安楽死を行う場合は、カウンセラを受ける必要がある。そこで、考え直す人や、思い留まる人もいるからだ。
現在、安楽死が認められていない国の人からすると、グリーン・ピースは、救世主だ。僕もこの件において、グリーン・ピースに一切の非がないと考えている。ただ、元々、悪い噂の絶えない人物なので、これは彼の悪評を増やす結果となった。
グリーン・ピースは、どこの国にいても、犯罪者として裁かれる立場にある。だが、今まで一度も捕まっていないのは、彼を匿う勢力が世界中に存在するからだ。色々な組織に所属していたはずだが、僕たちの所にも所属していたと、ラムネは言った。そして、抜け出し、今はエターナルテイルズにいる可能性が、最も高いそうだ。
もし、グリーン・ピースを見つけた場合は、どうするのだろうか?また、僕たちの組織で研究を続けさせるのだろうか?
それとも…。
「ネオンは、もし、グリーン・ピースを見つけたらどうしたいの?」僕はきいた。
「話を聴きます。ハコブネのこと、研究のことを。そして、法律の下、裁かれるべきです。本来、一人で逃げ切れるわけがありません。協力者が多数存在している証拠です」
「それは、間違いないだろうね」
「ベルさんは、どう思いますか?」
「僕は……どうだろう?よくわからないな。やっぱり、そんなに悪い人だと思えないんだ」
「………。そうですか。私は、ベルさんのそういう所が嫌いです」
「えっ?」僕は、驚いてネオンの顔を見た。
「ですが、嫌いなのは、ベルさんの善悪の基準についてです。それは、個人で違っていいと思います。ただ、私はどうしても、許す事が出来ません。だから、私は、ベルさんの一部が大っっ嫌いです」ネオンは吐き出すように言った。「………でも、その他の殆どは、尊敬していますし、認めています。なので、もし、良かったら、これからも、これまでの関係を続けられたらと思っています。それでもいいですか?」
「僕は、元々、そう考えていたけど。それに、ネオンがそういう人だと、だいたい、わかっていたから、今更、何も驚かないよ」
ネオンが面白い人物だと、評価を改めた。思っていたよりも、ずっと素直で、チャーミングだ。そういう思考が出来る人は限られている。敵か味方か、その両極端で判断しようとするからだ。今の彼女の思考は、彼女をより一層魅力的にさせた。
「ホントですか?」ネオンは子犬のように言った。
「うん」
「それじゃ、今まで通りの関係でいましょう」ネオンは、無邪気に笑った。「あっ。折角なら、もっと仲良くしませんか?」
「それは……どうだろう?……考えとくよ」
僕は、思わず笑みが零れた。