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第九章『タアム・ログライン』

アメリカ王国。

ここはこの地球上で最も技術が進んでいる国。

そう言えば聞こえはいいだろう。

実際は違う。

ここに住んでいる人達は皆何かしらの事情を抱えている。

例えば親を亡くした子供達。捨てられた子供。

犯罪者の子供。

借金を抱えた家族。

生まれた時から奴隷の子。

戦争で両親を失った子。

病気で余命いくばくもない子。

犯罪を犯して逃げてきた人々。

そんな人々が暮らしている。

だけど僕だけは少しだけ違った。

僕はこの時代の人間じゃない。

遥か何億年前もの過去からやって来た人間なのだ。

僕は過去では普通の10歳の少年だった。

しかしある日、僕は大切な人を失った。

結婚の約束をしていた、とても大切な女の子を失ったんだ。

その凄まじいショックで僕は発狂した。

自分の身体から血が出る程に首を掻きむしったり、壁に頭を叩きつけたりしていたらしい。

その時は記憶がないけどね。

それから僕は精神病院に入れられていた。

僕は毎日泣き続けていた。

僕の愛しい少女はもういない。

彼女は死んでしまった。

だがある日その狂気が臨界点を突破した瞬間目の前が真っ白になって…気づいたら僕はこの時代に来ていた。

ここは未来も未来で何もかもがかつての時代とは違っていた。

平和なあの頃と違いロボットが暴走し人を襲い文明は滅びかけていた。

そんな中でも僕は何とか生き延びる事が出来た。

そしてこのアメリカ王国に流れ着いた。

このアメリカ王国では戦争の中でも僕みたいな身寄りの無い子供を引き取り育ててくれていた。

僕もここでなら生きていけると思い、与えられた仕事をこなし続けた。

僕の仕事は諜報活動。

つまりスパイだ。

世界のトップシークレットである人工知能 オキシジェン=レヴについて探っていた。

オキシジェン=レヴは恐ろしい兵器だと聞いていた。

だからこのアメリカ王国を守る為に、それを破壊しようとずっと考えていた。

そんなある日、突然現れた謎の人物に声を掛けられた。「こんにちは。タアム。」

「誰?」

その人物はフード付きのローブを着ていて顔は見えなかったが、声色から若い女性だという事は分かった。

「私はララ・プラント。」

「えっ!?」

驚いた。まさかこんな所でその名前を聞くとは思わなかったからだ。

ララ・プラントとはこの時代では伝説的な存在、共鳴振動装置で生命の守護者の母だ。

「君はどうしてこの時代に来たの?」

「えっ!?」

僕は驚いた。

なんで僕が過去から来たって知ってるんだ?

「そりゃそうよ。私は貴方を知ってるもの。タアム・ログライン。」

「何故知っているのですか?」

「それは秘密♪さて、本題に入るわね。あなたは何をしたいの?」

「オキシジェン=レヴを破壊します。それが僕の使命です。」

「ふーん。オキシジェン=レヴを壊すね……。まぁいいや。それより君に良い話を持ってきたんだけど聞きたい?」

「良い話?」

「私に協力しないかしら?」

「協力?」

「そ。私のお願いを聞いてくれたら報酬として私があなたの願いを叶えてあげる。」

「…お願いとは?」

「私と一緒に来て欲しいの。」

「どこに?」

「生命の守護者が集まる聖地へ。」

「生命の守護者が集う場所……そんなものがあるんですか?」

「あるわ。そこで一緒に生命を守って欲しいの。」

「生命を守る……」

「そう。あなたにとっても悪い話では無いわ。生命の守護者になればこの世界で生きやすくなるもの。」

「確かに……」

「それに、今のあなたはオキシジェン=レヴを破壊する事しか頭に無いんでしょ?それじゃダメなの。もっと視野を広く持って考えてみて。」

「……。」

確かにそうだ。

僕はオキシジェン=レヴを破壊すれば世界が平和になると思っていた。

でも、それは間違いかも知れない。

オキシジェン=レヴを破壊した事で、より強力な兵器が生まれるかもしれない。

それならオキシジェン=レヴを破壊せず、別の方法を考えた方が良かったのではないだろうか? 少なくとも目の前の彼女と協力して何かをやった方が良いのでは…。

でも、僕は。

「申し訳ないけど、ララ・プラント。

応じる事は出来ません。」

「あら。どうしてかしら?」

「僕はこんな身寄りのない僕を匿ってくれて生きる術を教えてくれた国を見捨てる事は出来ません。僕はこれからもアメリカ王国に忠誠を誓います。

だが、貴方が言っている事は正しいと思います。

だから、オキシジェン=レヴの破壊はやめ別の道を目指してこの国を守ります。」

「そう。残念ね。

でも、仕方ありません。

私も無理強いするつもりはありませんでしたから。

それに、オキシジェン=レヴは破壊される事なんて有り得ないんです。」

「えっ!?」

「あれはただの機械ではありません。

世界の延命のために作られたんですから。」

「どういうことなんでしょうか?」

「それは教えられません。

ですけど、もしも貴方がアメリカ王国の王になったら…全てを教えてあげる。」

「何故教えてくれないのですか。」

「だって、教えたら面白くないじゃない。

私は何も知らない無知な人々を導くのが好きなんだから。」

ララ・プラントは悪戯っぽく笑った。

その笑顔はまるで天使のように美しかった。

…だが、僕は王になれる器なんかじゃないと思ってたしまだ16歳。

それに現国王を尊敬していたから王に成ろうとは思わなかった。

だけど、それから数日経って戦争が始まった。

敵国は同盟国であるカネフ共和国とハシィヨ帝国。

理由は僕達を裏切ったから。

この2つの大国は僕の住むアメリカ王国よりも国力が大きく軍事面でも勝っていた。

更に2カ国は同盟を組んでいて、経済圏を形成していた。

しかし、今年に入って両国とも急激に成長を始めた。

それは何故かと言うと、この両国のトップが突然死んだからだ。

そして両国で後継者争いが起こった。

その結果、両国で若く好戦的でそれでいて有能で知略に富んだ後継者が現れて、両大国の権力を掌握する事に成功した。

結果、カネフ共和国の大統領を父に持つ男とハシィヨ帝国の皇帝を父に持つ男が次期帝王として君臨している。

そして2人はお互いの国の軍事力を増強して世界征服に乗り出した。

カネフ共和国は自国の技術力で作り出したアンドロイド兵士を、ハシィヨ帝国は自国が保有する超兵器を世界中にバラ撒いた。

アンドロイド兵士はアンドロイド同士の戦いに特化した兵器。

一方、ハシィヨ帝国が所有する超兵器は生物相手に特化された兵器。

この2つがあればどんな国にも勝てる。

…そして僕達のアメリカ王国は窮地に立たされたが僕は戦い続けた。

それがアメリカ王国への忠誠の証だと思ったから。

しかし、僕達は負けた。

敵が予想以上に強かった。

それでも僕は必死に抵抗していた時だ。

僕はとある男と出会った。

彼は当時の僕と同い年の26歳。

冒険家であり、アメリカ王国の傭兵をしていた。

名前はダクドゥ・ア・ルージ。

後に伝説の冒険家となる男だった。

「君がタアム・ログラインか?」

「はい。そうですけど……。」

「君は強いな。」

「ありがとうございます。」

「だが、今の君の力では奴らに勝つことは出来ない。」

「そんなことは分かっています!ですが、僕はアメリカ王国に忠誠を誓っているんです!」

「そうか。だが、このままだとアメリカ王国は滅びるだろう。」

「何でそう言い切れるのですか!?」

「何故なら……この国が負けるのは目に見えていたからだよ。」

「えっ?どういうことですか?」

「この戦争は敵の策略によって仕組まれたものだ。アメリカ王国は最初から負けるつもりで無茶な戦争をしている。」

「なっ…!!」

僕は言葉を失った。

何故なら、この戦争は両国のトップの急死から始まった事だからだ。

当然、両国の国民は混乱した。

だが、両国で協力して事態を収拾しようと努力したが、上手く行かなかった。何故なら、両国のトップは互いの国に不信感を抱いていたからだ。

結局、戦争になってしまった。

そこで、両国のトップは互いに暗殺者を送り込んだ。

そして、お互いに自分の国のスパイを送り込んで互いを探り合う事になった。

結果は、どちらも相手の事を探る事に失敗した。

それは何故かというと、両国で協力しているフリをして相手を欺いていたからだ。

それで困ったのは前々から二つの国に狙われていたアメリカ王国だ。タアムはダクドゥの話を聞いていた。

「つまり、今回の戦争はカネフ共和国とハシィヨ帝国が仕組んだものって言うことですよね。」

「そうだ。」

「でも、それがとうしてアメリカ王国がわざと負けるために無茶な戦争をする理由になるんですか?アメリカ王国が負ければカネフ共和国とハシィヨ帝国が世界を支配できる。

それなのに、どうして……」

「簡単な話さ。国を解体するためさ。なるべく無事な内に。」

「国を解体する?」

「ああ。今の内にアメリカ王国の上の連中は財源やら何やら本当に重要なモンは外に運んでる。

奴ら派手に戦争仕掛けてる様で実は自分達だけで逃げる算段だ。」

「じゃあ、あなたはなんでそんなことを知ってるんだ?」

「俺は特別待遇で傭兵として雇われたモンでな。」

「そうなのか……。ところであんたの名前はなんていうんだ?」

「ダクドゥ・ア・ルージだ。」

「ダクドゥさんか…。何で僕にこんな事を教えてくれるんだ?普通はもっと秘密にするべき情報だと思うんだけど……。」

「まぁ、お前には借りがあるからな。」

「借り?」

「……忘れたのか?タアム。俺だよ、センゴク・カシベ。」

「……えっ!?」

センゴク・カシベ。

可視部戦国。

彼は僕が8歳の頃まで一緒だった幼馴染だ。

「久しぶりだな。元気にしてたか?」

「う、うん。」

僕は動揺していた。

まさかあのセンゴク・カシベに会うとは思わなかったから。

「センゴクも僕と同じでタイムスリップしたの…?」

「…多分な。お前の状況は知らないけど、お前もララを想ってここへ来たんじゃないのか?」

「ララ…!?」

「ララ・シュヴラ。事故で儚く散った俺達の幼馴染。俺達が愛した女の子。」

………そうだ。僕は10歳のあの時、大好きなララを事故で失い狂ってしまった。

そしてその狂気が臨界点を突破した瞬間に僕は時空を超えた。

まさか、センゴクも…。

「キミも…ララを想って…?」

「うーん、多分違うな。俺達がララを想ったから…と言うよりララが俺達を想ったから俺らはこの時代にやって来たんだ。

……ララ・プラントを知ってるな?」

「あ、ああ…。数日前に会っているよ。」

「アイツはララ・シュヴラだ。」

「……え?」

僕は言葉を失う。

確かにララと同名ではあるがあの女にララの面影は無い。

ララはもっと無邪気で、純真で可愛くて、それでいて芯が強くて勇敢だった。

なのにあの女の何処にララを感じる事が出来る? そもそもララは10歳で死んだし外見も全然違う。

それにララ・プラントはアンドロイド。それもただのアンドロイドでは無く共鳴振動装置だ。

………まさか…。

僕は驚愕しながらダクドゥの顔を見ると彼は強く頷き

「そうだ。共鳴振動装置ララ・プラントはララ・シュヴラの魂を利用して作られたアンドロイドだ。」

「そ、そうか……。」

だが僕はあの女をかつて好きだったララに重ねる事は出来なかった。

僕はララ・シュヴラの幻影を今も見ている。

彼女はいつも明るく優しく微笑んでくれた。

だけどあの女は彼女に似た雰囲気を感じられない。

むしろ僕には、あの女は神秘性の中に邪悪さがある様な…不可思議な印象を僕に与えた。

そんな様子を察した様にダクドゥは笑い

「まあお前の気持ちも解るよ。俺にもあの女はとてもあの可愛いララには見えない。だが、それでもアイツはお前と俺が愛していたララなんだ。」

「そうなのか……。」

僕は複雑な心境になる。

だが、となればララはあの時代から数億年も生き続けてたって事になる。

そりゃ性格なんて変わっても仕方ないだろう。

そしてセンゴクは踵を返して歩き出す。

ひらひらと手を振りながら

「ま、俺にとってララは昔の初恋。勝ったのはお前だから正直どうでも良い。俺は俺の恋を探すだけだ。…ただ、もしお前があの娘をまだ求めてるなら、会えるかも知れねえな。何せここには正義の盾ザリヴェルが眠ってるしな。」

「ああ。ありがとう。」

僕も礼を言いながら彼を見送った。

ふぅ。

そして、僕は溜め息を吐く。

色々と衝撃的過ぎて頭が混乱している。

だが、戦争は待ってくれない。

この戦争をどうにか終わらせる事を考えたが、結局答えが出ないまま僕はがむしゃらに戦い続け、自分達だけ逃げようとした愚かな王族の逃亡を阻止し、

気付けばアメリカ王国軍の最高司令官になっていた。

しかし、僕は自分の力だけでは限界を感じていた。

この国を救えないと思っていた。

だからこそ、僕はある決断をした。

それは、この国の城の地下にある正義の盾ザリヴェルを手にする事だ。

僕は地下の礼拝堂に赴きそして「おお!神よ!」

と叫んだ瞬間に僕の意識は途絶えた。

次に目覚めた時、僕は白い空間にいた。

ここは何処だろうか? いや、そもそも此処は現実なのか? すると背後から声が聞こえてきた。

その聞き覚えのある懐かしいその声を聞いて振り返るとそこに居たのは、 ララ・シュヴラだった。

彼女は言った。

「タアム、久し振り。」

あの頃と同じ姿で無邪気に微笑む彼女に僕は「ララなのか!?」と言ったら、ララは首を横に振った。

「違う。私はララじゃない。」

えっ!? じゃ誰だよと思った。

だって姿形が全く一緒なんだぜ。

それに、あのララの表情や仕草にそっくりだ。

「確かに私は貴方の恋したララ・シュヴラの魂。

記憶もあるしララ・シュヴラとしての感情もある。

でもあくまでコピー。私は貴方が知ってるララじゃないの。」

コピー。

つまり別人。

だけど、見た目も中身も同じで……。

だが彼女は申し訳なさそうに微笑み、

「貴方が知ってる本物のララ・シュヴラはララ・プラントね。

あれの中にある魂こそがララ・シュヴラよ。」

と言ってきたのだ。

「……そうか、僕が愛したララはもう居ないのか…。」

だが、不思議と絶望は無く、寧ろスッキリした気持ちだった。何故なら、僕はララに再会出来たからだ。

例えそれが偽物だとしても、それでも良かった。

ただ、また会えただけで嬉しかった。

だから、自然と笑っていた。

そして目の前にいるララの姿をした少女はクスッと笑いながら、「やっぱり優しいね。」と言うのであった。

「なぁ、お前は何者なんだ?」

「私の名前はララ・シュヴラのコピー。

私はララの記憶を持ってるけど、あくまでも別人。

ララとして生きて来た経験は無いわ。」

「そっか。ま、何にせよ、こうして再び出逢えて嬉しいよ。…でも、だとするならキミは何者なんだ?」

「私は貴方が触れた正義の盾ザリヴェルの管理者。

守護霊の様な存在なの。

私は貴方を正義の盾の所持者に選ぶわ。」

「僕は選ばれた理由は何なんですか?」

すると彼女は答えてくれた。

「あら?貴方もこの盾が欲しかったんじゃないの?」

「それはそうだが、キミが僕を選ぶ理由が気になったんだ。」

「ああ、そういう事ね。簡単な話よ。貴方は私の好みだったから選んだの。」

おい、ちょっと待て!

「いや、それじゃキミの公私混同じゃゃないのか!?」

「うふふ、ごめんなさいね。でも、それだけでは不満かしら?」

「いや…そう言う訳では…。」

彼女はかつて愛した人瓜二つだ。

そりゃあ嫌な訳が無い。

何だか掌の上で踊ってるような気がして悔しいな。

「…まあ、良いや。キミがそれで良いなら僕も良い。今日から僕が正義の盾ザリヴェルの所持者だ!」

そう宣言した瞬間眩い光に包まれ気がつけば僕は立派な盾を手にしていた。

僕はこの盾の所持者になったのだ。

それからの僕は、この盾を使い国の人々を守った。

正義の盾ザリヴェルの能力は"持ち主を守る力"だ。

その効果は絶大で、どんな攻撃からも守ってくれる。

例えば毒ガスの攻撃にも効果があったし、銃の弾ですら防いでくれる。

だから、僕は今まで何度も危ない目にあった事がある。

でもそれだけじゃない。

この盾のもう一つの能力、それは"持ち主を導く力"である。

この力は、使用者に様々な恩恵を与えてくれる。

例えば僕の場合、盾の所持者になって以来、不思議な夢を見るようになった。

所謂予知夢と言う奴だな。

けど、さらに凄いのはこの盾には凡ゆる物を停止させる力がある。

例えば、銃弾を撃ったり爆弾を投げたりしても全て止まってしまう。

だから、もし仮に僕に向かって飛んで来たとしても止められてしまう。

しかも、この停止させる時間は僕の任意で調整出来る様になっている。

これはとても便利だ。

そして僕はこれらの能力を駆使して国を守り、そしてとうとう王座を手に入れた。

アメリカ王国国王ログライン。

それが今の僕の名だ。

それから数十年が経ち僕が38歳になったある日。ある夜、僕は夢を見た。

夢の中で一人の男が語りかけてきた。

『正義の盾ザリヴェルを持つ者よ。』

「えっ?誰ですか!?」

と、その時目の前に鏡が現れた。

そこに写っていたのは紛れもなく僕の顔だった。

ただ少し違う所があるとすれば、それは額から角が生えていて瞳の色が赤いという事だ。

『私は九つの肉体の一人。正義の盾ザリヴェルその物です。』

「ララ・シュヴラでは無いのですね。盾その物だと…では貴方は何故僕の前に姿を表したのですか?」

『もうすぐ貴方の元に九つの肉体のうちの一つ、二つ目の愛が現れます。それをお使いなさい。』

「愛ですか。分かりました。しかし、どうして私に忠告をして下さったのでしょうか。」

『私の願いを聞いて欲しいのです。どうか、この世界を救って下さい。お願いします。』

そこで目が覚めた。

今日は日曜日なので一日ゆっくり過ごそうと思っていたのだが、散歩していると中庭に見知らぬ一人の少女がいた。

金色の髪をした虹色の瞳の少女で年齢は10歳くらいだろうか。その子の手には、不思議な形をした物が握られていた。

恐らくは武器なのだろう。

でも、一体何の為にここにやって来たのだろう。

「こんにちは。君の名前はなんて言うんだい。」

すると彼女はこう言った。

「あたしはリリス・メリッサだよ!よろしくね!」

と元気よく答えてくれた。

「僕はタアムっていう名前なんだ。君は何処から来たんだい?お母さんとかお父さんはどうしたのかな?」

「うん、あのね、ここは夢の中の世界なんだよ!だから大丈夫。」

(夢?)

「どういうことだい。もしかして迷子なのかな。」

「迷ってはいないよ?ただ、ここに来ただけ。だって、あなたに会いたかったから。」

えっ、僕に用事があったのか。

なら、仕方がないけど、ここで何をするつもりなんだろう。

「ねえ、遊ぼうよ。いいでしょう?」と聞かれてしまったので、

「まあ、少しだけだぞ。」と言ってしまった。

その後、色々な遊びをしているうちに、いつの間にか夕方になってしまった。

結局彼女の正体は解らずに城に泊めてやる事にした。

それから結局彼女の身元は不明のまま一年が過ぎてしまった。そしてある日、城の前にリリスが現れた。

その日は、丁度彼女が来てから1年目の記念日だった。

「あっ、おじさんだー!!」

相変わらず元気いっぱいの声で言う。

あれ以来、彼女は毎日のようにこの城に来ている。

「やぁ、また来たのかい?」

「今日は何して遊ぶ?」

いつも通り、彼女とは遊んでいる。

ただ最近は、彼女の行動に疑問を持ち始めていた。

何故、こんなにも僕の事を慕ってくれるのだろうか。

それがずっと気になっていたのだ。

「ねぇ、聞いているの!?」

おっと、考え込んでいたら怒られてしまった。

「ごめんよ、リリス。ちょっとぼうっとしていた。」

「むぅ~、次からはちゃんとしてよね!」

「ああ、分かった。じゃあ、何かゲームをしよう。それで良いかな。」

「やった!じゃあ、トランプする。」

「よし、決まりだ。早速始めよう。」

「うふふ、楽しみだわ。」

それからも僕達は楽しく過ごしていたがそれも長くは続かなかった。

再び力をつけたハシィヨ帝国が同盟の契約を破り襲い掛かって来た。

カネフ共和国は助けてくれずアメリカ王国のみで戦う事になった。

だが戦況は芳しくなかった。

何とハシィヨ帝国はオキシジェン=レヴを使ったのだ。その結果、街には甚大な被害が出た。

それでも何とか持ちこたえた。

だが、それは束の間の平和に過ぎなかった。

ハシィヨ帝国の皇帝はとんでもない事をしてきた。

オキシジェン=レヴを使い、世界中の人々の意識を奪ったのだ。

それにより人々は混乱し戦争どころではなくなってしまった。

僕はそんな人々を守るために戦ったが、遂に力尽きてしまった。

最後に見えたのは、白い髪の少女の姿だった。

そうして、僕の人生は幕を閉じた…そう思っていた時彼女は現れた。

「もう、オジサンってばそんな立派な盾を持ってるのにダメダメなんだから。」

リリス。リリス・メリッサだった。「えっ?君は……」

「私の名前はリリス・メリッサ。

九つの肉体の内の二つ目。愛。

私の能力はね、全ての封印。

相手の能力を無効化出来るの。

だから、私に力は関係無い。

私はどんな相手も切り裂く剣になる。

だからね、オジサンの剣になってあげる。

そして彼女はオキシジェン=レヴと戦い始めた。

しかし、その戦いは長くは続かなかった。

「あら、あなたはどなたですか?」

「あたしはリリス・メリッサ。

九つの肉体の二つ目。愛。

あなたの力を貰うわ。」

「そうですか。貴方が愛、ですか。正義の盾ザリヴェルだけ頂いたら私はどうでも良かったのですが、朗報です。ザリヴェルと貴方は私が持って行きます。

「あっそ。それじゃあ早速……。」

リリスはそう言うと、突然、リリスの右手が白く輝き出した。

そして、次の瞬間、リリスの右腕は白き閃光となり、オキシジェン=レヴを貫いていた。

「グハッ!」

「さようなら、愛してる。」

「リリス!貴方は一体!?」

「ただの愛よ。さぁ、帰りましょうか。オジサン。」

こうして僕達は王城に戻った。

だが彼女、リリス・メリッサについて聞かねばならない事が沢山ある。

僕はリリスに様々な話を聞いた。

「私の話なんて退屈なだけよ?

私は貴方の持つ正義の姉に当たる存在。

でも、今は身体が封印されているの。

厳密には眠りについた状態で、実はあらゆる全てを封印出来るのは嘘。

オキシジェン=レヴの封印もすぐに解かれるわ。

だから今は何も出来ない。

それにね、私には使命があるの。

この世界を終わらせない為にね。

だから、オジサン、貴方の力を貸して欲しい。

お願いします。」

「どうして僕なんだ?確かに僕はアメリカ王国の国王としての権力もあるし、正義の盾の所持者でもあるが適任は他にもいるんじゃないか?そもそも君は何者だ?」

「何故貴方を選んだのかと言うと、一番信用できるから、かな。

私も全容は知らないけど他の兄弟達は何で言うか、癖が強い感じがする。

実際オキシジェン=レヴも面倒臭いし協力する気になれないし。」

「キミとオキシジェン=レヴは姉妹なのか!?」

「あら?知らなかったの?オキシジェン=レヴは九つの肉体の五つ目。知恵だよ。まあ、その話はまた後でしよう。

それで、協力してもらえるの?くれないの? もし嫌なら私がこの国を滅ぼすまでだけど。」

「…はは、とても『愛』とは思えない発言だな?」

「愛なんてそんなものじゃないの? 少なくとも私の知る限りではね。」

「キミはなかなか面白いな。嫌いじゃない。

解ったよ。世界の危機なら僕も協力しないとな。キミのおかげでこの国の危機は逃れた。そのお礼もしないとだし。」

「ありがとう。まあでも、当分はゆっくりさせて貰おうかな。あたし、まだ起きられないみたいでさ。ごめんなさい。」

「そうか、じゃあ暫くは安静にしていてくれ。」

「うん。よろしくね。オジサン。」

「ああ、こちらこそ。キミの身の安全は保証するし不自由の無い生活をさせてあげよう。」

「うん、ありがとう。」

そして、それから5年の月日が経ちリリスも15歳くらいに成長した。

彼女には好きに生活をさせてやったが私の側を何故か離れようとしなかった。

美しいドレスに美味しい食事、楽しい娯楽に快適な環境。

普通の女の子であれば喜んで飛び付くであろうものを彼女は欲しがらなかった。

ただ静かに本を読んでいるだけだった。

ある時、彼女がこんな事を言った。

「ねえ、王様。もしもの話だけど。もしも、誰かを心の底から愛してしまったらどうすれば良いと思う?」

彼女の質問には僕も覚えがある。

僕もララ・シュヴラと言う猛烈な初恋があるから。だから、僕はこう答えた。

「それは愛ではないと否定する事は簡単だよ。でも、その人の事しか考えられなくなって他の事が手に付かなくなるなんて事は誰にだってあるんだ。だから、まずはその気持ちを大切にして欲しい。それが、どんな感情であれ、自分にとって大切なモノだと思えるなら大切にすべきだよ。」

僕の言葉を聞いた彼女は嬉しそうな顔をして笑った。

「ふーん、そっか。そういう考え方もあるのか。参考になったわ。ありがとね。」

そうして僕らは今日もこの国で日常を過ごす中、ララ・シュヴラがまた声を掛けて来た。「あのさ、私って今幸せだと思うんだけど。それでも、まだ何かを望むのは贅沢かな?例えば、もっと素敵な王子様と結婚したい。とか言っても良いのかな?」

彼女の言葉を聞いて僕は思わず吹き出してしまう。

そして、ララはムッとした顔になる。

「ちょっと何で笑うのよ!」と彼女は怒っているようだ。

しかし、これは仕方がない。

無欲で九つの肉体としての使命に忠実な彼女がこんな女の子らしい夢を持ってるだなんて誰が思うだろうか。

そして、笑いながらも彼女に謝罪する。「ごめん、まさか君がそんな乙女チックな悩みを持つとは思わなかったからつい。」「もう!私は真面目に相談したのに。」

と言いつつも彼女も少しだけ照れ臭そうだ。

それから僕は考える。

「確かにキミには壮大な使命があるが恋愛や結婚してはならないと言う理由にはならない。

なあ、リリス。きっとキミが恋焦がれる王子様は現れると思うぞ。」

すると彼女は嬉しそうな顔をした後に何故か僕を睨む。

「王様は私が好きな人と結婚しても良いの!?」

その問いに僕は困ってしまう。

そして、答えを出す前に僕は質問をする。

「ちなみに君は誰と結婚したいんだ?」

彼女は少し考え込む。

「う~ん。

まずは優しい人がいいな。

あと、頼りがいのある人で、一緒に居て安心できるような人が良いかも。

それと、やっぱりイケメンじゃないと嫌だな。

それから…………」

そう言いながらリリスは指折り数えていく。

「えっと、後は私の事を大事にして守ってくれるような人なら文句なしかな。

でも、一番大事なのは優しくて誠実な人である事だけど。」

彼女の要望はどれも難題である。

しかし、これだけの条件を満たしている男など果たして居るのだろうか? まぁ、仮に条件を全て満たしている男が居てもそれはそれで問題になりかねない。

そんな奴が現れたら国が大混乱になってしまうだろう。

でも、今はこの幸せな日常を楽しむとしよう。

だが、僕はまだ知らなかった。

これからその平穏を脅かす存在が現れる事に。

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