第四章『二人の少女』
私の名前はニナ・ル・クレスト。
とある水没廃墟都市で暮らす12歳の女の子。
私はこの荒廃した世界を必死に生きていた。
私にはお父さんとお母さんがいない。
二人は私が生まれる前に死んじゃったみたい。
そして私を育ててくれたお姉ちゃんは今はいない。
お姉ちゃんはずっと昔に私を置いて行ってしまった。
それからは、このボロボロのアパートの一室で、たった一人で暮らしてる。
でも、この半年前くらい嬉しい事があって…。
「アメリアさん、おはよう!」
「……おはよう。」
この人は同じアパートの同居人のアメリアさん。
半年前にこの街にやって来た。
綺麗な金髪でクールな雰囲気だけど実はとても優しい美人なお姉さんだよ。
私より3つ年上の15歳で、お姉ちゃんとは外見は似てないけど何だか雰囲気は似てるかも。
とても頭が良い所も似ていてアメリアさんは難しい学問を研究してる。「今日は何して遊ぶ?」
「うーん……ボードゲームとか?」
「良いわね。」
「やったぁ!」
「じゃあ、始める前にご飯にしましょう。」
「うん。」
テーブルの上には美味しそうな料理が並んでいる。
「いただきます。」
「……いただきます。」
今日のメニューは野菜スープとパンだよ。
「ふぅ、ごちそうさまでした。」
「……ごちそうさま。」
食器を片付けてゲームを始めるよ。
「このゲーム面白いのよ。」
アメリアさんの言う通り、このゲームは凄く面白かった。
「……あっ……負けちゃった。」
「惜しかったね。」
結局私は2位だった。
「次は、これね。」
今度はカードゲームをする事にした。
アメリアさんは時々私にとっても面白い遊びを教えてくれる。
でも、普段は部屋に籠って研究をしてるの。
私はゲームをしながらアメリアさんに尋ねた。
「ねえ、アメリアさんはどんな研究をしてるの?」
「……生命についてよ。」
「命?」
「ええ、そう。生命を模範、複製する学問について研究をしているの。」
「よく分からないや……」
「……簡単に言えば生き物の仕組みを調べているの。」
「ふーん、ねえ、アメリアさん?」
「何?」
「アメリアさんはどうしてこの街に来たの?この街以外でも研究は出来そうなものだけど。」
だって、私の街は水没していて、しかも殆どが瓦礫の山。
かろうじて残っているこのアパートと、幾つかのマンションとドームがあるくらい。
しかも、住民も人間は私くらいであとは旧式のロボットやアンドロイドがいるくらいだ。
正直、研究するならもっと良い所がありそうだけど
「私にはどうしても知りたい事があるの。それがこの水没した世界にあるからよ。」
「それって、どんな事なの?」
「それは秘密。」
アメリアさんは少し意地悪そうな笑顔を見せた。
「あー、ずるい!私にも教えてよ!」
「そうね…。じゃあ、ニナがもう少し大きくなったら教えるわ。」
「む~、約束だからね。」
「ええ、約束。」
そんな会話をした後、アメリアさんは部屋に戻った。
私もそろそろ寝ようかな。
明日も狩りをしたり物資を集めたりで忙しい。私は布団に入った。
次の日、私は狩りに出かけた。
「今日は何を狩ろうか。」
この廃墟の街では沢山の動物達が暮らしている。
そして、私はその動物達を狩ったり、機械の部品を集め旅商人にて売っているんだ。
この廃墟の街には壊れた機械が多くあるからね。
「あれっ、こんな所に扉なんてあったっけ?」
今まで気がつかなかったけど、目の前に大きな鉄でできたドアがあった。
開けてみると中は真っ暗だった。
「なんだろ、ここ……」
私は恐る恐る足を踏み入れた瞬間。
ザバーーッと大量の水が溢れ出した。
「きゃああ!?」
慌てて水の中に飛び込む。
なんとか溺れずに済んだけど、どうしよう……。
「うぅ……出口は何処だろう。」
周りは暗くて何も見えない。
「そうだ、ライト!」
ポケットの中から懐中電灯を取り出しスイッチを付ける。
するとどうやら何処かに続いている様で、足元に気を付けながら歩いて行くと扉があり、
そこを開くと……。
「わあ…!!」
「そこは美しい植物に覆われた遺跡の様な建物だった。殆ど水没しているけど大きなお屋敷らしい跡地もある。
「凄いなぁ……」
私は暫くの間、そこで探索をした。
不思議な事に、この廃墟の街よりも機械が多い。
もしかしたら、ここは昔はお金持ちが住んでいた場所なのかな? そう思いながら更に奥へと進む。
そしたら澄んだ水が溜まったプールの様な場所があり、その水底に何がキラキラ輝くものがある。
私は水の中に飛び込み、それを手に取る。
(これは……薔薇!?)
青い薔薇だ。しかも、光輝いている。光輝く青い薔薇を見つけた。「綺麗……。」
私はその青く輝く薔薇を見つめていた。
「これ……持って帰っちゃおうかな?」
でも、もし誰かに見つかれば怒られるかもしれないし……
それに、あのアメリアさんも言ってた。
「生命を簡単に奪ってはいけないのよ。」って。
「でも、こんなに綺麗なんだもん。いいよね?」
私はその青い薔薇を持って帰ることにした。
その日の夜、私はアメリアさんの部屋を訪れた。
「アメリアさん、いる?ちょっと聞きたいことがあって来たの。」
そう言うとアメリアさんは部屋のドアを開けた。
「あら、ニナ。どうしたの?」
「ねえ、アメリアさん。この前、私が見つけた青い薔薇なんだけど、光ってるの。これ、何だろう…。」
私がその薔薇を差し出した瞬間。アメリアさんは血相を変えた。「ダメ!!それを離して!!」
アメリアさんの剣幕に押されて思わず手放してしまう。
その途端、青い薔薇から眩い光が発せられ目がくらむ。
目を開けると、何故かアメリアさんはいなくてそこには一人の女性がいた。
「えっ、誰?」
多分18歳くらいで長い銀髪の女性はゆっくりと口を開いた。
「初めまして。私の名前はララ・プラントです。」
「は、はじめまして……。」
私は戸惑っていた。だって、いきなり人が現れて……。
「ごめんなさいね、驚かせて。貴女の名前を聞かせてもらえるかしら?」
「あ、はい。私の名前はニナ・ル・クレストと言います。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくね。じゃあ、本題に入ろうかしら。ニナ・ル・クレスト。
……貴女は、生命の守護者に選ばれたわ。」
「生命の守護者?」
「生命を守る人々の中でも特別な存在。生命を愛し守り育て導く者。」
「特別……ですか。」
「そう、だから貴女の身に危険が迫った時、私は貴方の力になる事が出来る。」
「えっと、どういう事でしょうか?」
「まあ、その時になれば分かるわ。」
「は、はい……。」
そして、次の日。
気が付くと私はベッドで眠っていた。
ララ・プラントと名乗った女性は何処かへ消えてしまった。
でも一番驚いたのはアメリアさんも、青い薔薇もなくなっていた。あれは夢だったのかと思ったけど、違うみたいだ。
アメリアさんが居ない代わりに、アメリアさんにそっくりな人が私の部屋に居る。
「おはようございます。ニナ様。」
「うぇ!?アメリアさん、ですよね?」
「いいえ。私はアメリアが残したアンドロイド、フロールです。」
「そ、そうなんですか……。」
昨日の事はやっぱり夢じゃないんだ。
私は改めて思った。この世界は不思議な事が沢山あると。
フロールさんは凄く礼儀正しくて優しい感じだ。
でも、気になるのは…。
「フロールさん!アメリアさんは何処へ行ったんですか?青い薔薇を持って行ったんですか!?」
「すみません。それは私にも分かりません。」
「そう、ですか……。」
「ですが、アメリアは私を起動して貴女を独りぼっちにさせないでくれと命令しました。」
「……アメリア、さん……!」
私は思わず涙ぐんだ。
そうだよね。アメリアさんはきっと私を守ってくれる為にフロールさんを作ったんだ。
「ニナ様、お身体が冷えますよ。そろそろ朝食の時間では?」
「あっ、そうですね…。」
フロールさんはとても美味しい食事を私に作ってくれた。
それから私はアメリアさんに代わってフロールさんと二人で暮らし始めた。
フロールさんとの生活
は楽しい。
でも、時々アメリアさんの事を思う事がある。
ある日の事。
「ねえ、フロールさん。生命の守護者って何か知ってる?」
「はい。ニナ様、生命の守護者はその名の通り命を守り慈しむ者の事を指します。」
「慈しみ育てる……かぁ。」
「はい。」
慈しみ育てる…。
ララ・プラントと名乗った女性は私は生命の守護者と言ったけど…本当にそんな事私が出来るの?
「ニナ様。貴女がどうして生命の守護者の事を知っているのですか…?」
「え、あの…ララ・プラントって人に言われたの。私は生命の守護者だって。」
「成程……。」
「でも、ララ・プラントさんは一体何者なんだろう……。」
「恐らく、彼女は生命を慈しみ守る者として造られたアンドロイドでしょう。」
「そっか……。」
「それと、生命の守護者は生命を愛し育み守る者との事です。」
「愛し、育む……。」
ララ・プラントと名乗る女性が言っていた言葉だ。
ララ・プラントは生命を慈しみ守り育てる者と言っていたけど、それだけじゃ無い気がする。
「ニナ様。私は貴女の側に居ます。」
「うん。ありがとう。」
フロールさんは優しく微笑んでくれた。
そして、その日から私はフロールさんと一緒に過ごす時間が増えた。
フロールさんは私の事をとても大事にしてくれる。
フロールさんとの日々は穏やかで平和だ。
一緒に本を読んだりゲームをしたり、ご飯を作って食べたり、色々な話をしながら過ごしたりする毎日。
フロールさんは私をいつも見守ってくれている。
でも、時折ララ・プラントを名乗る女性の言葉を思い出す時がある。
『……貴女は、生命の守護者に選ばれたわ。』
…でも、そんな事を言われても今は自分の事で精一杯だし自分の楽しい事だけしていたい。
ララ・プラントは生命を愛し育み守る存在と言っていたけど、私は自分がやりたいと思う事だけをやって生きていきたい。
だから私は今日もフロールさんと好きな物を食べて、好きな事をして、好きな人と過ごしていく。
フロールさんは私が望む事なら何でも叶えてくれる。
美味しい料理に、楽しい遊び、お喋り、綺麗な景色、楽しい音楽、優しい人達。
狩りも必要無くなったし、あまり外に出る事も無くなりアパートの中で過ごす様になった。
私はフロールさんが大好き。
それから一ヶ月経った頃だった。
私は久々に外に出た時、不思議な少女を拾った。
白い髪の少女。
ボロ布の様な服を纏っているけど凄く可愛い女の子。年齢は多分12歳位だと思う。
その子は私を見ると怯えていた。
「大丈夫だよー!怖くないよ!」
そう言っても中々警戒心を解いてくれない様子で、少し悲しかった。
「どうしよう……。」
アメリアさんの事も心配だけど、この子を放っておく訳にはいかないし……。
その時、背後から声が聞こえてきた。
「あらあら、可愛らしいお客様ね。」
「あ、フロールさん。こんにちは。」
振り向いた先にはフロールさんがいた。
「えっと……この子は?」
「分かりません……。気付いたらそこに倒れていて……。」
フロールさんは白髪の少女を見て言った。
「ふむ、彼女は……人間ですね。貴女と同じ、人間です。」
「そうなんだ……。」
彼女はずっと怯えていた。
でも仕方ないからアパートの一室で保護する事にした。
ぼろぼろの衣服は可愛らしく清潔感のあるワンピースに変えた。
そして、暫くすると少しずつ笑顔を見せてくれるようになった。
名前はクーオちゃんと言うみたい。
でもそれ以外の事はまだ教えてくれない。
でも、それも良いかも知れないと私は思ってた。
私は同い年くらいの友達が出来た事が嬉しかった。
彼女にあてがった部屋もベッドを置き、生活が充実する様にいろんな家具をそろえた。
フロールさんにも私の世話よりクーオちゃんの世話を優先させた。フロールさんはとても優秀なアンドロイドで、クーオちゃんのお世話は彼女にお願いすることにした。
フロールさんはクーオちゃんの面倒を見る時にとても楽しそうだ。
私はたまにクーオちゃんのお部屋を訪ねて、また狩りや瓦礫漁りの生活に戻っていった。アメリアさんは一体何処に行ったのだろう。
クーオちゃんと暮らし始めて1週間が過ぎた。
クーオちゃんとはもうすっかり仲良くなった。
それでもクーオちゃんは自分について余り多くを語らない。
このままこんな時間が続けば良いと思っている。
クーオちゃんは私の事をニナ様と呼んでくれる。
でも、それは何だか違う気がして、ニナでいいよって言うんだけど「いえ、ニナ様です。」って返ってくる。
私はフロールさんに聞いてみた。
「ねぇ、フロールさん?クーオちゃんはどうしてニナ様って呼んでくるのかなぁ?」
フロールさんは答えてくれた。
「クーオさんは…もしかすると奴隷の生まれなのかも知れませんね。」
「ど、どういうこと!?」
フロールさんは少し困った顔で言った。
「私も詳しくは分からないのですが……確か、この世界では人間の奴隷が認められていた筈です。恐らく、クーオさんもその一人なのでしょう。」
「そんな……酷い…。」
「その分、私達で幸福な世界を作ってあげましょう。このアパートで楽しく暮らすのですよ。」
「うん、分かった!」
私はクーオのためにアパートの中を豊かにする事にした。
アパートは3回建て。
部屋数は15室だ。
まず、部屋の一覧を紹介しよう。
101:監視室
102:大浴場
103:食品加工室
104:倉庫
105:食糧庫
201:団欒室
202:娯楽室
203:図書室
204:食堂兼食糧庫
205:フロールの部屋
301:ニナの部屋
302:クーオの部屋
303:空き部屋
304:空き部屋
305:空き部屋
こんな感じで、クーオちゃんが楽しめる様な部屋づくりを心がけた。
さらに空き部屋はクーオちゃんが自由に改装できる様にもした。
クーオちゃんはお風呂が大好きだったから、大浴場を用意した。
他にもいろいろ作ったけど……。
クーオちゃんと出会ってから半年後。
私は13歳になった。クーオちゃんは相変わらず自分の事は話してくれなかったけれど、フロールさんと一緒に一生懸命尽くしてくれた。
でも一つ気がかりな事があった。
クーオちゃんが時々何かを探しているような仕草をするのだ。
ある日、私は気になって聞いてみた。
「ねぇ、クーオちゃん。」
クーオちゃんは私の方を振り返った。
「どうしましたか?ニナ様。」
私は意を決して聞いてみる事にする。
「あのさ……クーオちゃんは何を探してるの?」
クーオちゃんは目を丸くして驚いていた。
「えっ!?あー……ごめんなさい。何でもないんです。ちょっと考え事をしていただけです。気にしないで下さい。」
「うぅん、やっぱりおかしいよ。いつも何か探してるみたいだし、それに……」
「わ、分かりました!言いますから!」
クーオちゃんは観念したように話し始めた。
「実は……ある人を探しているんです。」
「ある人?」
「はい、その人は今から数億年前にこの星にいたアンドロイド、ララ・プラントです。」
「ララ・プラント!?…う、嘘でしょ…。私、その人と会ったよ!?」
「え!?ほ、本当ですか…!?」
クーオちゃんは目を見開いて驚いた。
「う、うん。でも…夢だったのか…現実だったのか解らないけど、私が綺麗な青い薔薇を見つけて、
それをアメリアさんって言うクーオちゃんがいない時に一緒に暮らしてた人に見せた瞬間…突然現れたの。銀髪に緑色の瞳の綺麗な人…。」
「…彼女は、ニナ様にどんなお話をしたのですか…?」
「……私は「生命の守護者」に選ばれた…って…」
するとクーオちゃんは涙を流し始めた。
「……ありがとうございます……本当にありがとうございます……!!」
「ど、どうして泣いているの!?大丈夫だよ!また会えるかもしれないんだし。ね?だから泣かないで。」
クーオちゃんは泣きながら笑っていた。そしてこう言った。
「ニナ様……貴方はもうすぐ死ぬでしょう。」
「はぁ!?何言ってるの!?そんな訳無いじゃん!!まだ死にたくないもん。だってやりたい事が沢山あるんだよ。学校にも行ってないし、それにクーオちゃんとももっと遊びたい。」
クーオちゃんは優しく微笑んでくれた。
「大丈夫です。人間としての貴方は死ぬと言う意味ですよ。ニナ様はアンドロイドとして生まれ変わるのです。」
「え、ええっ!?な…何それ…私は人間だよ!?アンドロイドになるなんて無理だよ。」
「生命の守護者になると言う事はほぼ永久とも言える寿命を生きる事が出来るアンドロイドになると言う事。
普通のアンドロイドと違って生命の守護者は死を超越しています。つまり不老不死の存在になります。」
「そ……そうなの!?」
「ニナ様はララ・プラント…いいえ、ララ・オキシ・プラネットによって生命の守護者として導かれる事になるでしょう。
この街で平穏を謳歌しますか?それとも生命の守護者として生命を育み、守り、慈しむ道を歩みますか?
もし、ニナ様が平和を謳歌したいと言うのなら……残念ですけど、ララ・プラント様を探して謝りに行きましょう。私は貴方に従います。」
私はしばらく考えた…。
確かに私、この街で退屈で変わり映えしない人生を歩んで行くのかなってずっと考えていた。
でも…アメリアさんに貰ったあの薔薇を見た時、不思議な感覚になったのを覚えている。
あれは一体なんだったのだろう……。
あのまま、アメリアさんの事を何も考えず、忘れてしまえば良かったのかな……? だけど、私はまだ死にたくはない。
それにまだ解らない事だらけだ。私はクーオちゃんをじっと見て
「ねえ、クーオちゃん。まず、ララ・プラントって一体誰なの?その人は何処にいるの?」
クーオちゃんは静かに目を閉じて答えた。
「ララ・オキシ・プラネット様はこの世界に自由自在には干渉する事が出来ません。彼女はこの世界の外から生命を見守っています。」
「この世界の外側から見守る……?どういう事?」
「現在、ララ・オキシ・プラネット様は半永久的な休眠に入っていて、夢の世界と言う別次元におります。ですが、彼女は自分の肉体を九つに分ける事で眠りながらもこの世界に干渉している状態になっています。」
「じゃあ、私が会ったララ・プラントはその九つの内の肉体の一つだったって言うこと?」
「はい。そうです。ララ・オキシ・プラネット様から生み出されたアンドロイド、ララ・プラントは生命の守護者の使命を果たす為に、生命を慈しみ守る者と生命を喰らう者を調停する存在。それがララ・プラントの正体です。」
「生命の守護者って……そもそも何なの?」
「生命の守護者とは、人類や動物、植物、アンドロイドなどの生命を守る役目を持つ存在の事を指します。
人類の文明の発達に伴い、生命を脅かす脅威も増えた為、ララ・プラントは生命の守護者を作る事にしました。
生命の守護者は全ての生命の守護者であり、生命の敵と戦う運命を持った存在です。
生命の守護者は人類を導き、生命を育み、守ろうとする存在なのです。」
「私が…なんでそんな凄い存在に選ばれたんだろ…?」
「ララ・プラントは、この世界で生きる生命を慈しみ、守る者を探していました。そしてニナ・ル・クレストを見つけました。
ララ・プラントは生命の守護者を創る際に、ある条件をつけていたのです。それは、この世界で生きる生命全てを愛せる者である事でした。
これはとても難しい条件でした。何故なら、人によっては特定の人や物を愛する事もあるからです。
だから、ララ・プラントはあるシステムを作りました。
『恋』と『愛』、『友愛』と『恋愛』を区別するシステムを造り上げました。しかし、たまにこの感情のどれでもない、「慈悲」と言う感情しか持たない存在がある事が発覚しました。それらはピュアラルと名付けられ、新人類の一つとして扱われました。ピュアラルは生命の守護者として理想的な存在で、ララ・プラントはそんな存在を探していた…恐らくそれこそが貴方。つまり、ララ・プラントは貴方を選んだんです。」
私は呆然としていた。
私の人生は……最初から決められていたというの? ララ・プラントが私を導いた……?
「でも、私は……そんな特別な存在じゃないよ……」
「いいえ、ニナ・ル・クレスト。貴方は特別ですよ。」
クーオちゃんは私の手を握ってくれた。
「ニナ・ル・クレスト、貴方がこの世界をどう生きて行くのかは、貴方の自由です。
ですが、どうか覚えていて下さい。貴方がこれから先どんな選択をするにせよ、必ず誰かと関わる事になるでしょう。その時は、その人と関わり合いなさい。例えどのような結果になろうともね。」
「うん……。分かった。ありがとうクーオちゃん。」
「いえ、お礼なんてとんでもない。ただ、忠告させて頂きたいだけなんですよ。」
「そっか、そうだよね。」
「ふふっ、そうですね。」
クーオは微笑んで言った。
「さて、もう夜も遅いですし、今日は休みましょうか。」
「うーん……待って。クーオちゃん。」
「は…はいっ…なんでしょう…?」
私は訝しげにクーオちゃんを見つめた。
そして、思い切って切り出した。
「クーオちゃんは一体何者なの?なんで、そんな話を沢山知ってるの?なんで、ララ・プラントを探してたの…?」
「……まず、順番に答えていきますね。
私はクーオ・プラネット。オキシ・ララ・プラネットの九つの肉体の内の五つ目、知恵に当たります。次に、私が何故、ララ・プラントを探しているのかについてですが、それは……
私が、ララ・プラントの一部だからです。」…………えっ!?どういうこと? 頭が混乱してきた。
「私は、オキシ・ララ・プラネットの9つの肉体の5つ目の肉体、つまり、知恵に当たる存在です。
そして、九つ目の肉体はララ・プラント。
私は覚醒し他の肉体を探し当ててこの地球の復興を目指しているのですが、まず数億年前から活動が活発なララ・プラントから探しています。勿論、他の肉体も見つけなければいけないのですが…私の話を信じて貰えるでしょうか……?」
「クーオちゃんの話は信じるよ。でも、よく分からない。クーオちゃんは宇宙人じゃないの?」
「確かに、オキシは宇宙由来の神ですが、私自身は人間です…人間の肉体、遺伝子として転生したオキシ・ララ・プラネットの一部なのです。」
「なんか…よくわからないなあ。その、ピュアラルとか言うのも…今一つ…。私は普通の女の子だよ?」
「いいえ、ピュアラルは慈悲しか持たないだけでなく、特殊な能力を扱えますから。」「そうなんだ……」
「はい、そうです。ピュアラルは、地球人の中で、オキシ・ララ・プラネットの力に適合出来る可能性のある人の事を指します。ピュアラルはオキシ・ララ・プラネットとの繋がりが強くなる程、強力な能力を得られるようになるんです。例えば、私なら、テレパシーやサイコキネシスと言った超能力を使えます。他にも、念動力、透視、予知夢などですね。しかし、ピュアラルはオキシ・ララ・プラネットと融合する必要があります。ピュアラルはオキシ・ララ・プラネットと一体化する事で、地球上で最強になり得る存在となるのですよ。」
「へぇー!すごい!」
「はい。ピュアラルはとても希少で強力な存在です。……まあ、はっきり言ってしまいましょうか。ピュアラルはオキシ・ララ・プラネットの九つの肉体の一つ、慈悲です。ピュアラルは、地球上で最も強大な力を持つ生命体となりうる存在であり、ピュアラルは地球上にたった一人しかいないはずでした。しかし、ニナさん、あなたが現れた。」
「……もう一人、ピュアラルがいるの?」
「…はい。その方の名前はアメリア・ブックアウト。彼女は古き生命の守護者の一族ブックアウト家に生まれ共鳴振動理論の権威となった天才でした。そして自分がピュアラル…九つの肉体の一つ目、慈悲である事に気づき、地球の生命達を助けていたのです。」
「アメリアさんって、私が半年間ずっと暮らしてたアメリアさん!?」
間違いない。名前も同じだし、確かそんな事研究してた気がする。
「はい。間違いなくアメリア・ブックアウト本人でしょうね。彼女が失踪したのは、おそらく、あなたのせいなのでしょう。あなたがピュアラルとして覚醒してしまったので、ピュアラルの力を悪用されないために自ら姿を消したのだと思いますよ。」
「そっか……。じゃあ、やっぱり私がピュアラルなんだね。」
「はい。そうなります。……ちなみに、ピュアラル…慈悲の能力は、慈愛の感情を持った時のみ発動します。」
「どんな能力なの?」
「はい。能力の内容は、簡単に言えば、地球上のあらゆる現象を支配出来てしまう力です。例えば、地震を起こしたり、天候を変えたり、隕石を落としたりと、何でも思いのままです。また、ピュアラルが慈愛に満ちた感情を抱いた瞬間、地球は破滅しかねません。その為、慈悲の力は強大過ぎるため、ピュアラルには厳重な制約が課されているのです。」
「へぇ〜……凄いんだねぇ。……でも、私は、アメリアさんの居場所は知らないし、アメリアさんが私に何を隠してるのかも分からない。アメリアさんは私に何も言わずに居なくなっちゃったから。」
「えっ……!?それは本当ですか?アメリア・ブックアウトはニナ・ル・クレストに何かを伝えたかったのではないのでしょうか……?」
「ううん……。多分、違うと思う……。アメリアさんはただ、私を自分の問題から引き離したかっただけだと思う……。だって、アメリアさんは優しい人だったから……。」
「…………。そうですか……。では、アメリア・ブックアウトは今どこにいるのでしょうか……。」
「ごめんなさい……。私にもわからない……。」
「そうですか……。それで、ニナ様はこれからどうするのですか?アメリア・ブックアウトを探しに行くのですか?それとも、生命の守護者としての責務を果たすのか…。それともこのまま平穏にこの街で生きるのですか?」
「……まだよくわからないけど、今は、もう少しだけ、この街で生きたいかなぁ……。今までずっと、一人だったから寂しかった。……だから、もうしばらく待ってみる。アンドロイドになるのがいつかは解らないけど、私のそばにはララ・プラントもいるから私が動かなくても大丈夫みたいだし。」
「わかりました。……では、私は再びララ・プラントを探しに旅に出ます。そして、もし、またお会いする事があれば、その時は、もっと色々な事をニナ様に教えましょう。」
「うん!ありがとう!」
「いえいえ……。ニナ様の為ならこれくらいなんでもありませんよ。それでは、そろそろ失礼いたします。」
そして、クーオちゃんはこの街を去った。それから、しばらくして、なんとアメリアさんが帰ってきた。
「え…!?アメリアさん…!?」
「ニナ、ごめん。突然居なくなって
。色々あって、やっと帰って来れた。」
「アメリアさん……!!良かった……!!」
アメリアさんは行方不明になってた半年の間何をしていたのだろうか。
「アメリアさん、あの、アメリアさんは一体何処に行ってたの?」
「……あの、青い薔薇をあるべき場所に帰していたの。」
青い薔薇…それは私が遺跡で手に入れた輝く花だ。
それを手にして私はララ・プラントと出会った。
「アメリアさん、あの薔薇ってなんなんですか?
私、私の事と貴方の事をクーオと言う女の子から聞いたの。」
「……そう、なんだね。ニナには知っておいて欲しいから話す。私は、ブックアウトと言う生命の守護者の一族の生まれなの。生命の守護者とはその名の通り、この星で生きとし生けるもの全てを慈しみ守る存在。それが私達。」
「そうなんですか……。アメリアさんは私と同じ生命の守護者だったんだ……。」
「……でも、私はその使命を放棄して逃げ出したの。生命の守護者は、常に命を狙われている。だから、ブックアウトの人間は子供の頃から厳しい訓練を受けている。……だけど、私には耐えられなかった。訓練も任務も何もかも。」
「どうして、そんなに嫌になったの?」
「……それは、私がブックアウトの一族の中でも異端の存在だったから。……私は、ピュアラルだったの。ピュアラルは慈悲と言う感情以外存在しない。私は、全ての生命を慈しむ事しか出来なかった。
生命を喰らう者もまた生命…。私は彼らを傷つける事が出来なかったの。だから、私は一族を飛び出して逃げてきた。」
「……そうだったんだ……。」
「でもね、私は生命の守護者として戦う事は出来なくとも、別の道を模索した。それは…共鳴振動理論を解明する事。」
「……共鳴振動理論?……なんですか、それ?」
「人間の脳波を増幅させて特殊な電波を出して、それを受けた生命の意識とAIの思考をリンクさせる学問。そして、その理論を転用した装置こそが、共鳴振動装置ララ・プラント。」
「えっ!?ララ・プラントが!?
「うん。ララ・プラントは生命の守護者の母だけれど、元は共鳴振動装置…簡単に言うとあらゆる生命の意識を模範し、最終的には複製させる力を持った存在。」
「複製させる……!?」
そんなの、神様じゃない!?私はそんなものがこの星に居る事が信じられず身震いした。
「私はララ・プラントを探していたの。共鳴振動理論を解明するためには彼女の存在が必要だったし、彼女の存在を証明する必要もあった。
そして、その手がかりになるのが「オキシ」と言う神様。」
「オキシ……」
「この世界で1番偉大な神。この世界の全てを知る神。」
「この世界全て……」
「その正体は…まあ、言ってしまえば宇宙由来の植物ね。」
「植物!?」
「そう。厳密には地球の植物とは違うのだけれど、オキシは沢山の星に根を張り数を増やす事でその意識を星々に根付かせた。
その姿は、光輝く青い薔薇だった。」
「薔薇……!?まさか私が拾ったのは……」
「そう、オキシよ。…ただし、それはあくまでオキシの亡骸。オキシの意識はとうの昔に別次元に封じられ、後にオキシ・ララ・プラネットとしてララ・プラントに寄生した。」
「……な、なんか頭がこんがらがって来た……。」
つ、つまりオキシって言うのはこの世界で一番偉大な神様で、その偉大な神様と共鳴振動装置が一体化したのかオキシ・ララ・プラネットって事…?
私は頭痛を起こした頭を摩り苦しみ始めた。
それを見たアメリアは話すのをやめて
「ごめんなさいね。これ以上はまた今度にしましょう。でも、私が知っている事を貴方には全て覚えて貰う事になるわ。」
「はぁ……はぁ……、はい。」
「でも、最後にこれだけ。この世界の全ての知識を持つ神であるオキシ・ララ・プラネットは、この宇宙のどこにも居ない。」
「じゃ、じゃあさっき話していたララ・プラントは……。」
「そう、今存在しているララ・プラントはオキシ・ララ・プラネットから分離した存在。」
「……九つの肉体の内の一つと言う事ですか?」
「……!?それを知っているのね…クーオと言う人物…一体何者なのかしら。
けど、その通りよ。ララ・プラントは九つの肉体の内の九つ目。」
私はもう何が何だか分からなくなった。
そして思い切って切り出した。
「アメリアさん!私は一体これからどうすれば良いんですか!?」
「何もしないで。」
「えっ?」
「そのままでいて。……少なくとも今の間はね。
貴方は私に代わって生命の守護者に選ばれた。
だとしたら、その時が来るまで下手な事なしない方が良い。
ピュアラルは九つの肉体を始め他の生命に依存した存在なの。
だとしたら尚更、今は安全に過ごす方が良い。……いつか、貴方の元にララ・プラントはやってくるはすだから。」
そして、私とアメリアさんは私の元に戻り、そしてフロールさんはアメリアさんのトランクの中に戻った。
フロールさんは普段はアメリアさんのトランクの中に入っているらしい。
どうしてフローラさんを閉じ込めるのかとアメリアさんに聞いたら
「あの子には、まだ外での生活に馴染むのは早いから。」と言っただけだった。
少し残念だったけど、私は前みたいにアメリアさんとの生活を謳歌した。
アメリアさんは相変わらず優しい人だったし。
それに、いつも一緒に居るから寂しくもなかった。
それから1年が経った。
私は13歳。アメリアさんは16歳だ。アメリアさんは時々家を出て何処かに出かけている様だけど、それでも週に一度は必ず家に帰って来てくれた。
アパートは二人で何度も改築し、今では立派な一軒家になった。
私はあんまり狩りや探索も行かなくなり、アメリアさんのお世話になりながら好きな事をする様になった。
例えば料理を作ったり、掃除をしたり。
アメリアさんと一緒にお風呂に入ったりするのも楽しいし、アメリアさんとボードゲームで遊んだり、本を読んだりして過ごす時間が一番好きだった。
そんなある日の事、私はふと思いついてアメリアさんの部屋にある大量の書物を漁っていた。
すると、気になるタイトルの本が目に止まった。
タイトルは『オキシ・ララ・プラネット』
それは、かつてアメリアさんが話してくれた神様の話。
「……これ、読んでみようかな。」
そう呟いた時、部屋の中に誰かいる事に気づいた。
「誰!?」
そこに居たのは銀髪に緑の瞳の女性…。
そう、ララ・プラントだった!
彼女は私に優しく微笑み、
「久しぶりね。ニナ・ル・クレスト。」
「ララ…さん…。な、何しに来たんですか…?ここは今私が住んでいて……」
「大丈夫よ。ニナ・ル・クレスト。今日はただのお知らせ。
貴方に重大なニュースをお伝えするわ。貴方は二年後、15歳になったら旅に出る事になる。
その旅は危険な物になる。そして、命を落とすかもしれない。
でも、安心なさい。
その時は私が守ってあげるから。
だから、それまではゆっくり暮らしていけば良いの。
もうすぐ、貴方は運命に出会う。
その人と共に、世界を救う為に戦うの。
それが、貴方に与えられた使命。
でも、その時が来るまでは、貴方はここで穏やかに暮らすべき。……この事は誰にも言っちゃダメよ?」
「え……、ど、どういう事ですか……?」
ララ・プラントは私に背を向けた。
「それじゃあ、また会いましょう。ニナ・ル・クレスト。」
ララ・プラントは消えた。
私は困惑しながらも手元の本を開いた。そこにはこんな事が書いてあった。
【オキシ・ララ・プラネット】
オキシ・ララ・プラネットとは。
数億年前、地球に存在した神。
しかし、異星の侵略者から地球を守るため戦い九つの肉体に分離する。地球を守る役目を担ったのは9番目の個体であるララ・プラント。
その後、ララ・プラントは数億年かけて地球を再生させた。
しかし、異星からの侵略者は未だに存在し続けている。
本にはそう書かれていた。
つまりオキシ・ララ・プラネットとは、この世界の守護神様の事らしい……。
それから、私はアメリアの望み通り、ララ・プラントの予言に従う様にいつも通りの日常に戻り始めた。
私とアメリアさん、二人の生活だ。アメリアさんは前よりもずっと私に優しくしてくれる。
まるで贖罪の様に。
私はこの世界の事やオキシ、そしてララ達の事に興味を持ち始め、アメリアさんの持つ本を漁ったり外に出てこの世界について調べたりする事も増えた。そんなある日だった。
私は、とある廃墟の屋上で彼と出会った。