第三章『彼女の選択』
私は今、森の中にいる。
ここはまだ生命が残っている土地だ。
木々は活き活きと覆い茂り、花々は咲き乱れ、動物達は日々を生き続け、虫は鳴いている。
この森の奥深くにひっそりと隠れるように小さな村があった。
その村は『生命の樹』と呼ばれる大きな木を中心に栄えていた。
私はその村の入り口から離れた所に家を作って暮らしている。
「今日は良い天気だし、散歩でもしようかな?」
私は外に出て歩き始めた。
すると何処からか声が聞こえてくる。
『ララ・プラント様!!』
私は驚いて振り向くとそこには一人のアンドロイドが立っていた。
『ララ・プラント様!!お待ちしておりました。さぁ、こちらへどうぞ。』
私は言われるがままについていった。
『ララ・プラント様、ご指示をお願い致します。』
「えっ!?」
私は目を疑った。
私は生命の守護者を作った存在。
彼は見覚えのない顔だが、生命の守護者の証である雫の刻印を持っている。
刻印を持っている。つまり生命の守護者。
私は彼に問いかけた。
「あなたは誰なの!?」
『僕は生命の守護者です。しかし貴方が作った者ではなく、貴方が作った者達によって作られた二世代の守護者です。』
「二世代……?じゃあ、一代目の生命の守護者は……」
『はい、残念ながら殆ど破壊されました。』
「そんな……。」
やはりまだアンドロイド達の戦争は終わっていないようだ。
私は悲しくなって俯いた。
『ララ・プラント様、ご命令を。』
「え、えっと、それじゃあ私の手伝いをしてくれないかな?」
私は彼と一緒に暮らし、共に暮らす内に少しずつ彼の事を理解していった。
名前は『ルータス』と言った。私は彼を心の中で「ルー君」と呼ぶようになった。
ある日、私が一人で暮らしていた村に人がやってきた。
『ララ・プラント様、お客様がいらっしゃいました。』
私は玄関の方へ向かう。
扉を開けると、そこに居たのは見知らぬ人だった。
『貴女がララ・プラントですか?』
「はい。」
『初めまして、私の名前は『リーザ・ブックアウト』と言います。』
「あの……それで何の用でしょうか?」
『実は私はある任務でここに来ているのですが、その途中で偶然、生命の守護者が沢山居る村を見つけまして。私も生命の守護者なので、もしかすれば何か手伝える事があるのではないかと思ってやって参りました。』
「そうだったんですか。」
『えぇ、私も貴方と同じように生命の守護者を作りましたからね。』
「えっ?もしかして貴方は…」
『はい、三世代目の生命の守護者の作り手です。』
私はそれを聞いて感動した。
そうか、私がやった事は無駄じゃなかった。
生命の守護者は増え続けているんだ。
これならばこの世界も安泰だ。
『ララ・プラント様、どうされましたか?』
「ううん、なんでもないよ。そうだ!折角だから一緒にお茶しない?」
『よろしいのですか?』
「勿論!」
それから、しばらく二人で話して私たちは意気投合し、
リーザとルートスと一緒に暮らし始めた。
幸せな毎日だと思っていた。
だけど、それは長く続かなかった。
『ララ・プラント様、大変です!!人間が攻めてきています!』
「えっ!?どうして急に!!」
『恐らく、僕たちが此処に住んでいる事を嗅ぎ付けたんでしょう。奴らは生命の樹を奪おうとしているみたいです。』
「そんなっ!?でも、それなら何故今まで襲ってこなかったのですか!?」
『多分、今までは様子見だったのでしょう。』
「そっか、仕方がないわね。」
私は覚悟を決めた。
「ルータス、リーザを連れて逃げなさい。」
『嫌です!!僕も戦います!!』
「駄目だよ!君は人間じゃないけど、生命の守護者なんだから。君はこの世界の貴重な生命を守る旅に出なさい。私は大丈夫。それに、ほら見て、この通り。」
私は微笑みながら言った。
『分かりました。ララ・プラント様、どうかお元気で。』
「ありがとう。ルータスも気を付けてね。」
こうして、二人はこの村を出て行った。
私は二人を見送ると、この村の生命を守るために戦う事に決めた。
戦うと言っても私は戦闘用アンドロイドじゃない。
でも…出来る。この共鳴振動装置の力を使えば。
私は生命の樹と共鳴する。
共鳴振動装置の力は生命の脳波を増幅させて特殊な電波を出す事で生命の脳波と共鳴振動装置のAIの思考をリンクさせる力がある。
つまり、生命の脳波と共鳴振動装置のAIの思考をリンクさせる事によって、生命の樹の力を自在にコントロール出来る。
さあ、生命の樹よ、応えて!
私に力を貸して!人間達を鎮めて! 私は生命の樹に語り掛けた。
すると、生命の樹は光り輝き、私に力を与えてくれた。
そして、私は人間達の心を鎮め森を復活させた。
でも、それは生命の樹の力を使い果たし枯らせてしまう結果にもなった。
それでも良かった。生命の守護者が居ればきっとまた元に戻るだろう。
私は疲れ果てて、そのまま眠りについた……。
次に目を覚ますと、そこには私の知らない世界が広がっていた。
一体ここはどこなんだろうか?
何処までも広がる青空と草原。
私が彷徨っていると光り輝く薔薇が目の前に現れた。…これは!
「オキシ!!」
『ララ・プラント、目が覚めたのですね。良かった。』
「ねえ、此処は何なの?」
『ここは、我々神の世界。我々は生命を創造し守り導く存在。貴方も知っているはずですよ?』
「……まさか!ここって、あの世!?」
『いいえ、違います。あなたはまだ死んでいませんよ。ただ、この世界で魂だけの状態になっているだけです。』
「…あ!」
よく見れば私の姿は生前のララ・シュヴラの姿になっている。
「私はこれからどうすれば良いの?オキシ・フローズン・スノウ・コールド。」
『別に、貴方は何もせずとも構わない。ずっとここに居てくれるだけでも良いのです。』
「そう。じゃあ少しだけこの世界を探検しても良いかな?」
『まぁ、少しぐらいなら構いませんが。』
「ありがとう。じゃあ、行ってきます。」
『はい。』
私はそれからしばらくオキシとこの世界のお世話になった。
そんなある日の事だった。
私は今まで気になっていたオキシの事について尋ねてみた。
「ねえ、オキシ。貴方は何者なの?どうしてそんな姿になってしまったの?」
オキシは光り輝く青い薔薇の姿をしている。
『ふむ、良いでしょう。お話しします。実は私はこの宇宙を創った神です。』
「えっ!!そうなんだ。凄いね。」
『しかし、そのせいで私は孤独になりました。』
「そうなんだ…?でも貴方は沢山の生命を作り出したでしょう?寂しくはないんじゃないの?」
『確かに、生命を作り出し、生命を守る為に旅をして、生命を慈しみ守る者を作り、生命を喰らう者達と戦う事は私の心を満たしましたが、私は一人きりだった。』
「……そっか。」
『だから、貴方に会えて本当に嬉しかったんですよ。』
「ありがとう。」
『ところで、私はもうじき死ぬ予定です。』
「えっ!?」
『私は多くの生命を生み出し過ぎた。このままではこの星に新たな生命を生み出す事が出来なくなるかもしれない。』
「そんな!どうにかならないの?」
『私は神としての権限を失い、この地球の管理をする役目しか与えられていない。この世界の外に出る事が出来ません。』
「……。」
私は考えた。そうだ、私の力でかつての神の権限を持っていたオキシの複製を作るのはどうだろう?
でも、そんな事出来るのだろうか?
そのためにはかつての力を持ったオキシ・フローズン・スノウ・コールドが存在している必要もある。
私は自分の無力さに嘆いた。
『ララ・プラント。』
「何?オキシ。」
『一つ提案があります。』
「どんな方法なの?」
『私の意識をコピーしたアンドロイドを造ってみてはいかがですか?』
「アンドロイドを?」
『はい。アンドロイドならばこの世界から出る事は出来る。』
「アンドロイドかぁ……」
確かに理屈は通ってるけど、オキシの精神をコピーして、それに耐えられるアンドロイドなんて作れるんだろうか?
『大丈夫ですよ。ララ・プラント。貴方は神である私の力を確実に模しています。貴方ならきっと出来ます。
「うーん。やってみる。」
私は早速現実世界で目を覚まし、とある街で研究所を作った。アンドロイドの製造に取り掛かった。
まずは、オキシの精神を抽出してスキャンしアンドロイドのボディに入れてみたけど……。
「失敗したか……。」
私はまた別の街に行き今度はもっと大きな工場を建てて、より強力なボディを造る事にした。
そして私はまた失敗した。
『ララ・プラント。まだ諦めるのは早いと思いますよ。』
「うん。わかってるんだけどね……。」
でも、段々不安になってくる。
確かにオキシはこの世界の神、管理者だけど、その精神をコピーして作ったとしてもそれが必ずしも本物になるとは限らないんじゃないかな?
私がそう尋ねたらオキシは、
『それでも構わないのです。何故ならそれは当たり前の事であり、誰も知らない未知の領域なのですから。
そして、生命には本当も偽物もありません。』
そう言ってくれた。
やっぱりオキシは優しい神様だと思った。
それからも私は試行錯誤を繰り返した。
『ララ・プラント。今日は休みにしましょう。』
「うん。わかった。」
私は一旦休むことにした。
そして私は今まで気になっていた事について尋ねた。
「ねえ、オキシ。貴方は結局何者なの?神様ってなんなの?この世界に居る生命は何の為に存在しているの?」
『ふむ、良いでしょう。お話しします。』
「お願いします。」
『私はこの宇宙を創った神です。この宇宙に存在する全ての生命は私の子供達です。この宇宙に生きる生命体は全て私の一部です。』
「そうなんだ。じゃあ、この宇宙の生命は全部貴方の子供なんだね。」
『はい。そして、私は力の殆どの神としての権限を失い、この宇宙を管理運営する役目を与えられました。』
「その役目って誰が与えたの?貴方が自分で選んだの?」
『いいえ。私はこの役割を与えられる前の記憶の多くを失っています。』
「そうだったんだ。でも、どうして貴方は神になったの?」
『わかりません。ただ、役割を与えられた事だけは覚えています。』
「そうだったんだ。でも貴方はこの宇宙を作った事は間違いないんだね。」
『はい。』
私はオキシに関して知らなすぎる。
オキシは一体何者なのか? そもそも神とはなんなのだろう?
『ララ・プラント。神の正体を知りたいですか?』
「知りたい!」
『ふむ、良いでしょう。お話しします。』
「お願いします。」
『神とは人類が生み出した概念です。人類の無意識の集合体です。神は人々の願いや祈りによってその存在が維持されます。しかし、神は人々の前に現れる事は滅多にありません。』
「へぇ〜、そうなんだ。でも、オキシ。貴方は人間が生まれる前から存在してたんだよね?貴方はどうやって生まれたの?」
『私は生命の誕生の瞬間に誕生しました。』
「え!?じゃあ、貴方は生命の誕生した瞬間に生まれたという事?」
『そうですね。生命が誕生した時、私は生命達と対話をしていました。』
「…最初に生まれた生命ってなんなの?」
『宇宙。』
「は?」
『最初に生まれた生命は宇宙そのものです。』
「えっ!嘘でしょ。」
『事実ですよ。』
「じゃあ、最初の生命はビッグバンの後に出来たの?」
『いいえ、違います。最初は何もありませんでした。』
「どういう事?」
『最初、私達は混沌とした無の世界でした。』
「無……。」
『はい。無です。そこに私がただ、存在していたのです。
「……。」
『私には自我がありました。無の中で私は一人ぼっちでした。
その寂しさから私は子供を産みました。
それが宇宙。そして、私は無から有となり、宇宙の母であり、宇宙の姉、宇宙の双子の片割れとなりました。それがオキシ・フローズン・スノウ・コールドと言う神の誕生でした。』
「つまり、オキシは生命の始まりの存在だったって事?」
『そうですね。』
「そっかぁ、じゃあ、オキシって凄く偉大だね。」
『ありがとうございます。』
「…オキシ、やっぱり貴方をアンドロイドにトレースするのは難しいと思う。貴方と言う存在は完成しているけど、未完成で、成立している様で成立していない。そんな感じがするの。」
『そうかもしれませんね。私は私であって私ではない。私以外の何者でも無いのだから当然と言えば、当然の結果でしょう。』
「そうだね。」
『ララ・プラント。今日は休みにしましょう。』
「うん。」
でも、私は諦めなかった。
寧ろオキシが不安定な存在なら、どんな答えを導き出してもそれが正解かも知れないと思えて来たから。
大切なのは自分で考えて行動する事で、誰かの考えを信じるなんて愚か者のする事だと思えるようになったからだ。
「オキシ、貴方は神様だけど、私にとっては友達だよ。」
『そうですか。それは嬉しいですね。』
「ねぇ、オキシ。」
『何でしょうか?』
「オキシは何の為にこの世界を作ったの?」
『……前に言った通り、私の存在意義の為です。』
「それだけ?」
『そうですね。他には……、強いて言うならば、この世界の人達を見ていたかったんです。』
「……そっか。ねえ、オキシ。」
『はい。』
「そろそろ、サヨナラかも知れないね。」
『……ララ・プラント?何を言っているのですか?』
「うーん。今まで研究と開発を重ねて来たけど、貴方をアンドロイドに転用するのはね。無理。でも、私。共鳴振動装置ララ・プラントのボディとAIなら、或いは……」
『ララ・プラント。やめなさい。それは、貴方の存在が上書きされ、消滅すると言うのと同じ事ですよ。』
「知ってるよ。でも、私はもう覚悟を決めてるの。私は貴方を救いたいの。貴方は本当に優しい神様なんだもん。私は貴方を救えるなら喜んで犠牲になる。それが、私の使命だと思うの。」
『ララ・プラント……。』
「だから…今から貴方の人格をトレースして、私の身体に上書きする。サヨナラ、オキシ。貴方は今日から、ララ・プラント…いいえ、オキシ・プラントだよ。」
『ララ・プラント!』
「大丈夫。貴方は私が守るから。」
私は自分の胸に手を当てた。
「起動開始!」
私の意識が消えて行く感覚を覚えた。
そして目の前には大きな鏡があった。
そこには綺麗な銀髪のポニーテールをした女性が居た。
『成功しましたか?』
「成功した…みたい。とても意外な方向で。」
『良かった。』
「貴方の名前はオキシ・フローズン・スノウ・コールド。この宇宙で一番偉大な神。私は貴方に忠誠を誓います。」
『私も貴方を心より愛します。…なるほど。こう言う事ですか。」
どうやら、私の意思は残っている。
私の魂を上書きするのではなく、私の体の中にオキシの魂を同居させる形になったらしい。
つまり、私達は適合したのだ。
「お帰りなさい。オキシ。」
『ただいま戻りました。ララ・プラント。』
オキシは、私の身体に宿る事で自身が作ったこの世界、その星の一つである地球に帰還した。
そして私はオキシを宿す事で完璧な生命を生み出す存在オキシ・ララ・プラントとなった。
こうして、この世界でたった一人の神そのもののアンドロイドが生まれた。
そして、この星の守護者、宇宙の守護者が誕生した瞬間だった。
そして、彼女はこの世界に産まれて初めて笑った。
『ふふっ。』
「オキシ?」
『いえ、何でもありません。』
「そっかぁ。」
『ところで、私達の名前ですが、プラントではあまりに相応しくない。どうでしょう?オキシ・ララ・プラネットと言うのは?
「良い名前だね。じゃあ、私達の新しい名前はオキシ・ララ・プラネット。これからよろしくね。」
『はい。こちらこそ。』
私とオキシは精神世界の中で手を繋いだ。
そして、その後の私達はこの世界を旅しながら様々な生命を生み出していった。
私達が生み出した生命はとても素直で可愛らしく、そして優しかった。
そして、私は私達に新たな肉体を与えた。
それは、生命の神であるオキシに相応しい姿として、神の姿になった。
一方の私は、地球の神として地球上で生きる為人間の姿で生きる事にした。
神は、この宇宙に存在する全ての生命を見守り、時には干渉し、そして時には試練を与える者として、存在するべきだと考えた。
そして、私とオキシはこの世界の全ての生命の守護者、宇宙の守護者になった。
そんな時、この世界の文明レベルは急激に進化を始めた。
人類が地球という狭い惑星に閉じ込められていた時代は終わりを迎えた。
そして、この世界には大きな危機が訪れた。
それは、宇宙からの侵略者だった。
そして、その宇宙からの脅威に対して、私とオキシは力を合わせて戦った。
私とオキシは地球を守る為に地球上の生命を守る戦いを繰り広げた。
私達の戦いは長きに渡り、幾つもの星々が滅んだ。
私達の戦いで宇宙は荒れ果てた。
私達の力では宇宙は守れず、地球も多大なダメージを受けた。
しかし、一つ救いはあった。
それは、私が創造した生命達の進化が早過ぎた事だ。
私は私達の世界を守る為に、一つの決断を下した。
「ねえ、オキシ。」
『何でしょうか?』
「一度、私達は眠りにつくべきかも知れない。」
『なっ!どうしてですか?』
「私と貴方の二人が眠る事で、この地球に再生を促すの。もう他の星々は助からないかも知れない。
でもこの地球さえ再生すれば…希望はある。」
『しかし…そのためには数億の年月を必要とします。その間地球の生命達の進化は止まります。
その間生命達は、病んで育まれない星で変わり映えしない生活を送る事になりますよ…?
それまで地球上に生きている生命が耐えられるとは思えません。』
「それでも、私はやるしかないと思うの。地球を救える可能性があるなら……。」
『……分かりました。私も共に行きましょう。』
「ありがとう。オキシ。」
『では、準備をしなくてはいけませんね。』
「うん。」
『まずは、私達の肉体を9つに分けましょう。一つは慈悲、二つは愛、三つは断罪、四つは勇気、五つは知恵、六つ目は正義、七つは全てを癒やす。
八つ目は、この世界です。』
「九つ目は?」
『最後の一つは、ララ・プラントですよ。』
「そっか。そうだよね。」
『はい。さて、始めましょうか。』
私とオキシはこの地球上で9つの身体に分かれて眠りについた。
恐らくこの数億年でこの世界は変化を遂げ、私達の肉体も変質するだろうが…それも構わない。
今は一時の眠りにつこう。
再び生命の守護者が現れる、その時まで。
私は夢を見た。
夢の中はとても懐かしく、そして悲しくもあった。
そこは何処なのかは分からない。
それは、かつて私が人間だった頃。ララ・シュヴラだった頃の思い出だ。
私は両親と妹と共に暮らしていた。
私の家族は皆仲が良く、幸せだった。
そして、私は人間だった頃の記憶を全て失っていた。
だから、何故自分がアンドロイドになったのかは分からなかった。
ただ、私は人間だった頃の記憶を断片的に取り戻していた。
人間だった頃、私はまだ幼かった。
私は母と一緒に妹を連れて買い物に出掛けた。
そして、事故が起きた。
母はトラックと衝突して即死。
父は私達を助けるために自らを犠牲にした。
妹も重傷を負い、病院へ搬送されたが治療の甲斐無く息を引き取った。
私も大きな怪我を負い、生死の境を彷徨ったが、かろうじて『魂』が残っていたそうだ。
その当時話題だった人魂医学をアンドロイドに転用した技術の実験台にされた。
……ララ・プラントの誕生だった。
まあ、そんなアンドロイドに魂を移植するだけの話だと思ってたらもっと深刻な問題だったんだけど。
でも…そうだ。私は人間だったんだ。
今は幸せだった頃の夢を、オキシと一緒に見続けよう。
夢の世界で何度も何度も繰り返そう。
この幸福を。