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第十ニ章『可視部戦国』

俺の名前はダクドゥ・ア・ルージ。

今はララ・プラントの精神の中に入っている。

俺はララ・プラントに語り掛ける。

「おいララ・プラント、聞こえているか?」

《……はい。》

「お前を止めに来た。」

《……なぜですか?》

「それはこっちのセリフだよ。なんで俺の息子やそのダチを苦しめる様な真似をしているのか聞かせろ。」

《……。》 沈黙が続く。

だがやがて、ララ・プラントは答えてくれた。

《あなたには関係ありません。さあ早くここから立ち去りなさい。》

「あ?俺はアイツの父親だぞ?それに、今のお前は俺の魂を自分の精神の中に取り込んだ。つまり俺達は一心同体って事だろう。それなのに関係ないだと?ふざけんのもいい加減にしとけ。」

《……まるで脅迫ね。ダクドゥ・ア・ルージ。…いいえ、センゴク・カシベ。あなたは何故ここに来たのです?私をどうするつもり?》

「お前を止める。ただそれだけだ。」

《そう。なら、力ずくで止めてみせて。》

「上等だコラァッ!!」

俺は全力疾走して駆け出しながら叫んだ。

俺はララ・プラントが眠る白い光の繭へと自らの精神の波動で攻撃する。

しかしララ・プラントの本体は難なくそれを受け止めてしまう。

「ちっ!やっぱり駄目か!」

俺は舌打ちをして、今度は拳による連打を放つ。

ララ・プラントは両手を前に出して防御しようと構える。

するとララ・プラントの体が少し後ろに下がった。

「おらぁっ!!」

そのままララ・プラントの顔に向けて蹴りを放った。

ララ・プラントの顔面に命中したが、特に変化はない。

そして次の瞬間。

ララ・プラントは俺の腹へ光のレーザー光線を放ってきた。

俺は即座に後ろに飛び退く。

「うおっ!?危ねぇなオイ!」

《ふぅ。流石ね。まさか私の攻撃をこうも簡単に避けるとは思わなかった。》

ララ・プラントは余裕そうな表情を浮かべている。

「そいつはどーも。しかしまあ、お前とまたこんな喧嘩が出来るとはな。数億年ぶりだ。」

《私は本来争いを好みません。争う事は無意味だからです。》

「ハッハ。そりゃそうだ。だが、今は違う。」

俺は腰を落として構える。

ララ・プラントも臨戦態勢に入る。

《……仕方ありませんね。では、行きます。》

ララ・プラントの体から光が発生する。

その光が形を成していく。

そして、そこには巨大な半人半機の人型兵器が現れた。

背中には白い翼。

全長は50mくらいはある。

「これがララ・プラントの真の姿ってわけかい。」

俺は目の前に現れたロボットを見て呟いた。

『そうよ。』

頭の中に声が響く。ララ・プラントの声だ。

だが、俺は臆する事無く神にも等しいのその姿を見上げる。

「……どうしてこんな事になっちまったのかねえ。もう、あの頃のお前とは別人になっちまった。」

ララ・プラントは何も答えない。

ただただこちらを見下ろすだけだ。

まるで俺の言葉など聞こえていないかのように。

いや、実際に今のこいつにとってはどうでもいい事なんだろうな。……本当に悲しい話だよ。

今から数億年と千年とほんの少し前。

俺は普通の少年…と言うには家系が特殊過ぎたかな。

俺のかつての名は可視部戦国かしべ せんごく

可視部家はかつて存在していた『日本人』の遺伝子を色濃く受け継いでいる。

日本という国があった時代に生まれた人間の子孫であり、現代において最も強い権力を持っていると言っても過言ではない程の力を持つ一族である。

そんな可視部家の当主は俺の父、可視部武臣かしべ たつおみなのだが、父は生まれつき体が弱く、若くしてこの世を去ってしまった。

その為、跡継ぎとして俺は生まれた。

俺は幼い頃から英才教育を施されてきた。

しかし、それはあくまでも次期当主としての教育を受けていただけであって、当主を継ぐ為に必要な能力を身に付ける事を目的としたものだった。

当主を継いだ後に必要になる能力は別物だからな。……まあ、それも結局は無駄になってしまったんだけど。

でも、当時10歳のあの頃の俺はそんなモン知るかって感じで日々遊び惚けていた。

その時に出会った友人がタアム・ログラインと言う少年。

そして…、ララ・シュヴラと言う少女だった。

タアムは優しくて穏やかな奴で、ララは大人しくて可愛い女の子だった。……いや、正確に言うならば……、ララは少し変わった子ではあったんだ。

ララは身体が弱くて、外に出たりする事はほとんど無かったけど……。

それでも、ララは毎日楽しそうに笑っていたよ。

「ねぇ、戦国!見てみて!」

ララはそう言って見せてくれたのは、ララが作った綺麗な花の冠。

ララは手先が器用で、こういった細かい作業をするのが得意なんだぜ。

「へぇ~、すげえじゃん。」

「ふふん♪凄いでしょ?」

ララは嬉しそうな顔をして笑う。

その笑顔を見てるとこっちまで幸せな気持ちになれるんだよ。

俺はララが大好きだった。世界で一番大好きな女の子だった。

……けど、ララが選んだのは俺じゃなくてタアムだった。

昔は理解出来なかった。

俺の方がタアムよりも運動も勉強も出来てカッコいいと思っていたから。

だから、ある日の放課後に教室に残っていたララとタアムの後をつけてみた。

そしたら、二人はキスをしていた。

最初は意味がわかんなかった。

タアムは鈍臭い所があって頼り無くて女みたいな顔で

、いつもクラスの中心にいるような俺とは真逆の存在。

ララは体が弱いから学校には滅多に来ないし、来たとしても保健室で休んでいる事が多かった。

だけど、二人とも幸せそうにしていた。

あの時はまだ子供だったからわかんなかったが、今なら分かる。

タアムは誰よりも優しく純粋で俺よりもずっとララを気遣い愛していた。

俺にはそんな優しさは無かった。

でも、ガキだった俺は納得いかなくてそれでタアムに決闘を申し込もうとしていた時だった。

ララが交通事故にあって家族と一緒に死んだ。葬式の時にタアムが泣き崩れていたのを覚えている。

その後、タアムは心を病んで学校へ来なくなった。

俺もグレちまって登校拒否を繰り返していたから詳しくは解らなかった。

……だが、状況はそれ所じゃなくなった。

俺はある日夜を歩いていると眩い光に包まれて…気付いたら数百年後の未来に飛んでいた。

この未来では、俺の暮らしていた街は廃墟になっていた。

……まあ、でも、俺は強く有能だった。

正直家族にも、ララの居ないあの時代にも用は無く、だったらこの未来で人生を謳歌してやろうと決意した。

……そして俺は11歳にして冒険家として世界中を旅した。

金は有るし、何でも出来ると思っていた。

そんなある日の事だった。

とある国の用心棒をしていた時、俺の前に一人の女が現れた。

ソイツの名はララ・プラント。

その国で所持されていた共鳴振動装置と言う兵器らしい。

どう見てもただの女にしか見えない。

しかし、コイツの発している波動は尋常じゃない。

そしてララは俺にこう言った。

「私は貴方の心の内を知りたい」

ララは続けて言う。

「私を使ってみない?」

「断る。お前は一体何を言っているんだ? ふざけんな。誰がテメエ何かを使うかよ!」

「どうして?」

「当たり前だろう! そもそもこんな兵器に頼るなんてダセえ真似なんかするかよ!」

そう言って俺はその場を去った。

次の日、またララは現れた。

そして昨日の続きをする様に言ってきた。

俺はとうとう根負けして、仕方なく使ってやると言った。

するとララは嬉しそうな顔をしていた。

それから毎日の様にララは俺の前に現れるようになった。

ある日、ララは自分が何なのかを教えてくれた。

ララ・プラントは共鳴振動装置と呼ばれる物だそうだ。

共鳴振動装置は特殊な電波を出す事で、それを受けた人間の意識と共鳴振動装置のAIの思考をリンクさせる装置らしい。

つまり、ララを使えば様々な生命を模範、複製することが可能なのだとか。

…正直、初恋の少女と同じ名前と似た面影を持つこいつを戦場に出すのは気が引けるが、俺はとうとうララを使った。

ララは俺と同じ姿になると共に戦ってくれた。

その力は凄まじく、敵はあっという間に壊滅した。

ララは更に力を増して行き、ついには神の領域まで達するほどの力を得た。

そして俺もそれを追う様に力をつけていく。

そりゃそうだ。成長するララの姿は未来の俺の姿なんだからな。

だが、戦争が終結するとララは国を去り何処かへ失踪した。

そして俺は15歳になり、様々な国を渡り歩こうと決めた時だった。

また俺はタイムスリップして1000年近く後の時代に飛んだ。

そこで俺はある人物と出会った。

それこそがメリヴァン・ロムド博士。

メリヴァン・ロムド博士は言った。

「私は君のような才能を持った少年を探していたんだ。」

俺はその時、まだ15歳だった。

だから俺は思った。

ああ、また天才扱いされるのか。

そう思うと同時に期待感があった。

メリヴァン・ロムド博士は厳密には本人では無く、その魂を受け継いだアンドロイド。

ロムド博士はララ・プラントを作ったサリィ・シルヴァーンの師匠で、サリィの死後はバーチャル世界を作り上げてそこで生活していた。

そんな彼は自分の研究の成果を世界中に発表したいと思っていた。

しかし世間はそれを許さなかった。

科学は人類にとって必要不可欠なもの。

それは理解している。

しかし、それでも人々は危険だと言う。

だから科学者は自分たちの研究成果を公にする事を許されなかった。

ある時、一人の青年が現れた。

名をシルシエ・クロインと言った。

彼もまたメリヴァン・ロムド博士と同じ研究者であった。

彼はメリヴァン・ロムド博士と同じく人工知能の研究をしていた。

メリヴァン・ロムド博士は彼に協力を求めた。

メリヴァン・ロムド博士はシルシエ・クロインに協力を求め、二人は共に人工知能の開発に取り組んだ。

そして生まれたのが共鳴振動補助装置レイン・プラントだった。メリヴァン・ロムド博士はレイン・プラントを完成させた後、すぐに姿を消した。

…って言うのが表向きの話で実際はいろいろあったらしいけど。

メリヴァン・ロムド博士は俺に言う。

「君が私の後継者に相応しいと思った。」

「はぁ?俺がぁ?冗談はよしてくれ。」

メリヴァン・ロムド博士は言う。

「私の魂は既にすり減っている。元々何十分の一にも薄めた魂だ。いつ消えてもおかしくない。それにもう限界に近い。」

「おいおい、いきなり何を言ってんだよ。」

「私はいずれ死ぬ。それが早いか遅いかの違いでしかない。」

「ふーん。でも人はいずれ死ぬぜ?アンタも俺もな。」

「確かにそうだね。けど、私には時間が無い。だが君には時間がある。」

俺はメリヴァンを睨み付ける。

「アンタの願いのために俺の時間を使えってかい?ふざけるんじゃねぇぞ!」

メリヴァンは言った。

「私が君を後継者として選んだ理由はいくつかある。まずは君は天才的な頭脳を持っている。それは誰よりも優れていると言っていいだろう。」

「まあ、そうかもな。で、もう一つの理由を教えてくれないか?」

メリヴァンは答える。

「君には未来が見えるはずだ。それも遥か先の未来の話だ。」

「はっ!そんなもの見えたことなんて一度も無いし、そもそも俺には予知能力なんて持ってない。」

メリヴァンは言う。

「いや違う。君の目は真実を見抜く目であり、あらゆる事象を理解し、そして予測する力だ。」

確かに、俺は昔っから先見の明みたいなモンはあった。

それをこいつは求めてるって言うのか…?

「他に理由はあるかい?無いなら俺は行く。」

メリヴァンは答えた。

「もう一つだけある。これは君にしか出来ないことだ。」

「ほぅ……。そいつは何だい?」

「私の助手であり親友であったシルシエ・クロインの魂を宿したアンドロイドの創造主になって欲しいんだ。」

「はぁ!?」俺は耳を疑った。

「もう一度言ってくれ。今何て言った?」

メリヴァンは呆れた顔で言う。

「だから、シルシエ・クロインの魂を宿すアンドロイドを創れと言ったんだ。」

「何故に?」

メリヴァンは当たり前のように言い放つ。

「シルシエ・クロインはある意味私以上の天才だった。

何故ならクロイン博士は私には無い。特異な才能、技術を持っていたからだ。」

俺はため息をつく。

「つまり俺があいつの代わりになれってか?」

メリヴァンは首を横に振る。

「まさか。ただ単にシルシエの魂をアンドロイドに移植して欲しいだけだ。

私は人工知能の知識はあってもアンドロイドのボディを製造する才能は無くてね…そこで君に頼むしかないと思ったんだよ。

もちろん報酬は用意しよう。」

メリヴァンは引き出しから光輝く水晶を取り出し、

「ここにシルシエの魂がスキャンされている。君はこれを使い、シルシエの魂を宿すアンドロイドを造ってほしい。

報酬は50億だ。これでどうかな?」

俺は迷わず即答する。

「断る。」

メリヴァンは驚きの声を上げる。

「えぇーッ!!何故だい!?」

「決まってるだろ?面倒くさいからだよ。

それに報酬額が少ねぇ。それじゃあ引き受けられねえよ。」

メリヴァンは困り果てた様子で答える。

「う~ん……。まぁいい。なら追加報酬として100億出そう!」

俺は鼻で笑う。

「おいおい、この俺をそんな端金…しかもんなくだらない事で雇うのかよ。悪いが他を当たれ。お前の頼み事を引き受ける奴なんていくらでもいるだろう。」

するとメリヴァンは肩を落としながら言う。

「仕方ない……。ならば君の望み通り、この件は忘れようじゃないか。

さようなら、センゴク・カシベ。」

「…けど、アンタの延命くらいならしてやれるぜ?」

メリヴァンは目を見開く。

「……何だって?」

「俺はアンタの事気に入ってるんだ。あと50年くらいなら生き永らえる様にしてやれるけど?」

「……そんな事が出来るとはとても思えない。それは私の古くなった魂を取り替えると言う事か?それは神の所業だ。」

「バーカ、ちげーよ。アンタの魂の欠けた部分を埋めていくんだよ。つまり、俺の魂を使ってな。」

「君は何を言っているんだ?」

「まずアンタの魂をスキャンし、それからその欠けた部分に俺の魂を入れる。それだけだ。」

メリヴァンは少し考え込む仕草を見せる。

「……それは、内臓の移植と同じ考えだな。だが、魂は内臓よりもずっと繊細だ。

それは最早、メリヴァン・ロムドの死を意味する事となるかも知れない。」

まあその言い分はご尤も。

俺の健康な魂を使って何とか適合させて魂の欠落を補完させるまでは良いが、

問題は俺の魂の一部が馴染んだ所でそれは最早純粋なメリヴァン・ロムドじゃない。完全な別人になってしまう可能性は十分にある。

だが、それでも構わねえと俺は考えている。元々器が何度も変わってる時点で目の前にいるメリヴァンもオリジナルとは程遠い存在だ。

要はメリヴァン・ロムドの記憶を継承した状態で魂を保っていれば良い訳なんだからな。

「それとも、アンタはそれを望まないか?メリヴァン。」

「いや…むしろ望むところだよ。」

「そうかい。じゃあ決まりだな。」

俺はニヤリと笑う。

そして俺はメリヴァンの魂の欠落に俺の魂の一部を補完する移植手術を始める。

結論から言うと手術は成功した。

一見すると殆ど、何も変わらない程度にはメリヴァンのままだったが、何処かしら奇天烈な雰囲気にはなった。

まあ、それは俺の魂のせいか…?

とにもかくにも俺はメリヴァンを直す事に成功し、奴の元を去りまた旅を始めた。

そして俺は19歳となった。

そんな旅の途中、俺はあの女と再会した。

そう、ララ・プラントだ。

この時代のララは恋人を失い自暴自棄になっていた。

ララが暮らしていたのは山岳地帯の田舎町で静かに暮らしている。ここにはララと、古いアンドロイドしかいない。

俺は偶然にもララと再会した瞬間に、ララは俺を抱き締めた。

「センゴクっ!どうして貴方がこの時代に居るの!?嘘、信じられない!!」

と彼女は涙を流して言ったのだ。

彼女はソフィアと言う恋人を失ったばかりなのだと言う。

それから俺達は二人この村で暮らし始めた。

この村はアンドロイドしかいない村だったがこの分ネット設備は充実していた。村の中はホログラムで満たされておりバーチャル環境も充実している。

「センゴクさん、お帰りなさい!」

と村人のアンドロイド達が挨拶をしてくる。

俺は適当に手を振ったりする。

俺とララは結婚した。

結局俺はララを愛した。

姿形は変わってもララはララだと思っていたから。

俺は毎日の様に散歩に出かけたりして暇を潰していたが、ララの提案でバーチャルで暮らす事にした。

バーチャル世界は娯楽施設が充実しており飽きる事は無かった。

「センゴク、今日はどうします?」

「そうだな。」

俺は考える。

今日は何をしようかと。

「センゴク、ちょっと付き合って欲しいんだけど。」

とララが言う。

ララに案内されたのはバーチャル世界を楽しめるシステムルームだった。「ここは私達が住むバーチャルの世界を疑似体験出来る部屋です。この中に入ってくださいね。」

言われるままに俺は入室する。

すると部屋の中央にはカプセルがあった。

「センゴク、目を閉じてください。」

「分かったよ。」

と俺は目を閉じる。

すると辺りは神秘的な森になった。

俺達はそこで散歩をした。

「センゴク、貴方は私の事を愛していますか?」

「ああ、勿論だ。お前を誰よりも愛している。」

「ありがとうございます。私は今とても幸せですよ。」

そして俺らはこのバーチャル世界に移住した。

俺達が暮らすのは神秘的な森の中のツリーハウス。

その名も"幸福の木"。

ここで俺達は平和に暮らしていた。

森で好きな物を食べ、好きなように遊び、たまには勉強もしたりもするが。

「センゴク、一緒に寝ましょう。」

とララは甘えた声で俺を誘う。

その日は夜遅くまで二人で話し合った。

明日は何をするのか、どこに行くか。

そして次の日の朝、俺達は海へ行った。

青く澄んだ空、白い雲。

砂浜では海水浴を楽しむ人々の姿が見える。

波打ち際を歩く。

「センゴク、綺麗ですね。」

とララが笑う。

俺はララの手を握った。

「センゴク、また来年もこの場所で会いたいです。」

「約束するよ。必ずこの場所に戻ってくると。」

そう言って俺とララは口づけを交わした。

だが俺はこのララ・プラントに疑念と虚しさを感じ始めていた。

何故なら彼女は俺の記憶の中のララではないからだ。

俺が求めているのは記憶の中にあるララであって目の前にいるララではないのだ。

それでも彼女と過ごす時間はかけがえのないものだった。

だから俺は彼女と一緒にいようと決めた。

ある日の事、ララはこう言った。

「ねぇ、センゴク、私達の子供が出来たみたい。」

俺はその言葉に愕然とする。

有り得ない。

俺は人間、ララはアンドロイド。

しかもここはバーチャルで子供なんて作れる訳は無いのだ。

ララは毎日愛しそうに腹を摩っているが、腹が膨らむ兆候は見られない。

ただずっと、ずっと、一年経っても二年経っても腹を愛しそうに触れるだけだ。

ララは、狂っていた。

何かに執着していた。

そして俺の事も束縛する様になった。

俺を何処にも行かせない様にして、外出もさせなかった。

ララはまるで別人になっていた。

でも俺は彼女を見捨てる事が出来なかった。

俺はそんな今のララも愛していたから。

そんなある日、ララは二つのAIを作り出した。

その名はレヴとヨヴ。

遥か昔から存在する土着の神だ…。

レヴは黒き炎を操る女神でありヨヴは白き氷雪を操る女神である。

彼等はこの惑星に降り立ち、やがて文明を築き上げた。

レヴは人間達に知識を与えた。

ヨヴは人間達を導き、導かれた人間は科学を発展させた。

そしてこの星の人間達は高度な技術を持つようになった。

しかし人間達は争いを始めてしまう。

そこでレヴとヨヴは人間同士の戦争を止めさせる為に一つのルールを作った。

それは『力』による支配だった。

そのルールにより人間は争う事をやめた。

それから数千年もの時が流れ、人類は繁栄を極めた。

そんな二大神の名前が付いたAIをララはどうすると言うのだろう?まさかレヴとヨヴを使って戦争を始めるつもりなのだろうか。

レヴとヨヴが目を覚ますと、レヴは黒い霧に包まれて人型になり、ヨヴは白い霧に包まれて人型になる。

それを見てララは言う。

「私は…死なない。でも生きる理由も無い。

だからこうやって恋をして、何かを生み出したり作ったりして、それを見守ったりして、たまには誰かと触れ合ったりする。

それが私の夢。

だからあなた達が生まれた。

だからあなた達が生まれて良かった。」

ララはそう言いながら微笑んだ。

「私はお前の願いの為に生み出されたのか?」

とヨヴが問うとララは答えた。

「うん。私は漠然とだけど気づいたの。人間の様に生きたいんだって。この一瞬一瞬を全力で生きたいんだって。レヴは人間を守る存在で、ヨヴは人間を導く存在でしょ。

だからあなた達が必要なの。

これから先もずっと一緒に居てくれるよね。」

とララは少し悲しげに笑いかける。

「ああ、約束しよう。」

とヨヴは答える。

ララは泣き崩れる。

ヨヴはララの手を握る。

ララ・プラントは、あまりにも人間らし過ぎるアンドロイドだった。

強大な力と長年培った技で恐ろしい物を生み出す邪神となりかねない。

これはいつか危険な存在になりかねない。

もうこいつはララ・シュヴラじゃない、兵器なのだと。

だから俺は、ララを殺す事にした。

レヴが黒い霧に覆われると、レヴは斧に変わる。

俺とララは見つめ合う。

「君が、私を殺せるの?」

とララが言った。

俺は無言のまま斧を振り下ろす。

しかしララも攻撃体勢に入る。

ヨヴは白い霧におおわれると、長剣に変わる。俺の振り下ろした刃は受け止められ、ララは薙ぎ払うように振るう。

俺は距離を取り、そして再び接近すると、ララは飛び上がって回転しながら斬撃を繰り出す。

俺は受け止めるが吹き飛ばされてしまう。

ララは着地と同時に、今度は突進してくる。

俺は咄嵯に飛び退く。

そして、ララは剣を振るい衝撃波を放つ。

その衝撃は凄まじく、俺は壁まで押し戻されてしまう。

ララは跳躍して斧を横一閃に斬り付ける。

俺は間一髪避けたが、左腕にかすってしまう。

腕から血が流れる。

ララはそのまま空中で回転すると勢いを付けて剣を振って、縦に切り裂こうとする。

俺は再び避ける。だが、バランスを崩してしまう。

そこにララが体当たりする様に抱きついてきた。

俺は壁に叩きつけられる。

ララは馬乗りになって何度も殴ってくる。

俺は殴られながらも、必死に抵抗する。

そして、何とか立ち上がると、ララを突き飛ばした。

「何故だ?何故こんな事をするんだ!」

と俺は叫んだ。

ララは涙を流しながら答えた。

「あなたには分からないでしょうね。あなたは愛を知らないもの。」

何だって?俺が愛を知らないだと?

俺は確かに人間だった時のお前を愛していたんだぜ?

「それは違うわ。私が求めているものはそんなものではない。」

そう言うと、彼女は悲しげな表情を浮かべてログアウトした。

残された俺は一人考えていた。

この世界は、人間のエゴによって支配されている。

俺達は生まれるべきではなかったのか?

いや、それは間違いだ。

我々はこの地球に生まれたからこそ、様々な生き物と出会い、そして別れていったのだ。

あいつは、別れを知っているのに知らないんだ。だから何度も繰り返し歪む。

俺はもうこれ以上あいつのそんな姿を見ていたくない。

そして、ある場所へと向かう。

そこは、何もない空間が広がっている。

この場所こそが、俺達の故郷なのだ。

ここは、あらゆる次元と時間に存在する事が可能であり、また同時に存在する事が出来ない場所である。

俺は、過去に戻る事にした。

ずっとどうでも良いと思っていたのだが吹っ切れた。

俺は俺が本来存在していた時代に戻り自分の宿命を受け入れる。

そう思った時だった。

『まだ、貴方にはやるべき事がある。それにもう、貴方は普通の人生等送る事は出来ない。』

誰かの声が聞こえる。ララに似ていた。

「…誰だ?」

『私はオキシ・ララ・プラネット。』

オキシ・ララ・プラネット?聞いたことがない名前だ。

しかし、何故か懐かしさを感じた。

俺は彼女にこう尋ねた。

俺はこれからどうなるのだろうか? と。

するとオキシ・ララ・プラネットと名乗る人物は言った。

『貴方はララに受け入れられたのです。

一見拒絶されている様に見えてもそれすらが必要な行為だからです。貴方は彼女と共に生きていく事になるでしょう。

そして、彼女と向き合う事で貴方が知りたい事も分かる筈です。

それでは、ごきげんよう。』

そう言い残すと彼女の気配は消えた。

夢でも見ていたかの様に。

目が覚めるとベッドの上に寝転がっていた。

見た事無い場所だ。

窓の景色を見ると白いビルが連なる近未来的な都市が見える。

そして、私の隣で椅子に座って小説を読む女性。

「…あらっ!?気づいたの!?」

その女性は私の方を見る。

綺麗な人だ。まるで人形みたいだと俺は思う。

彼女は俺に向かって微笑む。

それが俺とヨーティ・ア・ルージの初めての出会いであり俺の本当の初恋の始まりでもあった。

だが俺はこの時、気づいていなかった。

この女性が俺にとって大切な存在であるという事を……。

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