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第十一章『人々の現状』

…正直言って私は安心していた。

最初はリッスをララ・プラントのものにしたくない余り、ニナの姉トオ・ル・クレストとリッスを巡り合わせようとしていた。

しかしそれはまさかのダクドゥ・ア・ルージに台無しにされ私は機嫌を損ねていた。

けど、ララ・プラントもニーアと自身の子を作るのには失敗。

結果は痛み分けに終わった。

それでも、ララは今酷いダメージを負っている様だ。

当分は悪さは出来ないだろう。

私は奴への嫌がらせとして奴の精神世界にアクセスしてやった。

「ララ・プラント。お見舞いに来たわよ。」

ララは大樹の様な玉座に腰を下ろしていた。

枝が絡むララの全身はヒビ割れて痛々しい。良い気味だわ。

「……貴方か。何の用?」

「あら?随分と弱ってるみたいじゃない。」

私は悪意たっぷりの笑顔でララ・プラントを見下ろした。

ララはいつものポニーテールを解いてボロボロになった姿で私を見上げ

「……お陰様でね。でも、もうすぐ治る。」

「そう。なら良かったわ。」

「……ところでニーアの様子はどうなの?」

「あら?リッスよりもニーアが気になるの?まだ子作りは諦めてない?それともリッスを諦めるのかしら?」

私が大袈裟に驚いて見せるとララは鼻で笑い

「まさか。私はリッス一筋よ。」

「そうなの?」

「当然でしょう。リッスと結ばれる事が私の願いなんだから。」

「ふーん。でもリッスとは恋人になる事は求めてないのよね?

「違うわ。」

ララは即答した。

「リッスの心の中で生きる事だけを求めているの。」

「それで満足だって言う訳?」

「えぇ。それが私にとって一番幸せなのだから。」

リッス・ア・ルージとの日々を思い返しているのか、 ララはうっとりとした表情を浮かべている。

しかし、ララ・プラントのリッスに対する想いはやはり歪んでいて一方的だ。

私も最初はこの女に対しての反抗から思惑を阻止しようとしていたけど…。

「ララ・プラント。やはり貴方のその恋心はリッスのためたならない。リッスの意思を尊重するべきだと思うの。」

「へぇ……。」

ララ・プラントは少し驚いた様に目を丸くする。

「それにリッスの心を覗いたら分かる。あの子は貴方の事は過去の女性として見ている。貴方がどれだけリッスを想っても、リッスにとって貴方は自分の目的を果たすための目標でしかない。」

「それはどうかしらねぇ……」

ララ・プラントは不敵に微笑む。

「リッスが私を見てくれないなんてあり得ない。リッスは私の事を誰よりも理解してくれている。」

「そうね。リッスなら確かに貴女の事を理解してくれるかもしれない。」

「何よりリッスは世界中の誰よりも私を愛してる。」

「それも確かだと思う。リッスには特別な能力があるし、リッスの愛情の深さも認めるしかない。だけど……だからこそ私は貴方とリッスの関係を認めるわけにはいかない!」

「あら?どういう意味かしら?」

「貴方の恋路のためにこの星を、リッスを危険な運命に巻き込むつもりなの!?」

「巻き込むって言い方は良くないわぁ。これはリッス自身が望んだことよぉ。」

「違う!リッスはそんなことは絶対に望まない!!」

「そうかしらぁ?久々に会った時、リッスの心の中にはずっと私が居て、リッスの頭の中には常に私の姿があった。それが分かった時、私は確信したわ。やっぱりリッスは私の事が大好きなんだって。」

「だからと言って、この星の未来を犠牲にしていい理由にはならない!!もし本当にそうなったとしたら、この世界はリッスの愛によって滅びる事になる。」

「別に良いじゃない。」

ララ・プラントはあっさりと言い放つ。

「どうせ滅びるのだし。」

その言葉に私は怒りと言うより混乱した。

…だって…。

「………ねえ、貴方本当にララ・プラント?

確かに貴方は自由奔放で身勝手で、それでもこの星と宇宙のために生き続けていた存在でしょう?でも今の貴方は何かが違う。まるで別人のように感じる。」

「私が言ってる事は全て真実。

でも真実は一つとは限らないの。

私の中には生命の守護者の母としての側面と恋多き魔女としての側面、そして女神の片割れとしての側面が存在している。

私はこの地球、そしてオキシを愛しながらもリッスの事を心の底から愛している。

それは間違いない事よ。

そしてリッスの方も私のことを想ってくれている。

だけど今のリッスの中の一番は私ではない。

リッスは別の人の事で一杯になってる。

リッスが恋をした相手が誰かなんて言うまでもない。

彼は私にとっての宿敵であり天敵でもある。

何しろ、彼のおかげでリッスと結ばれなかったのだから。

だからこそ私は彼に対して大きな憎悪を抱いている。

リッスを奪った憎むべき男。

リッスの心を独り占めする許せない相手。

その名はリッス・ア・ルージ。

私はリッス・ア・ルージを殺す。

リッスを奪う全ての者から取り返す。

そのためには手段を選んでいられない。

例えそれが神殺しの大罪であっても。

リッス・ア・ルージを殺せるのならね。」

私はゾッとした。

リッスは確かに今、自分を愛している。

でもそんなの不思議な事でもない。

自己愛は誰しもに存在している。

他者であれば間違い無くリッスはララを想っているのにそれでも彼女は許せないのだ。

これはもう壊れている。

ララ・プラントは、既に。

「あぁ、リッス・ア・ルージ。

お前はどうしてこんなにも私の邪魔をするんだ。

私がどんな想いで我慢してると思っているんだ。

お前さえ現れなければ、お前さえいなければ、私はリッスの側にずっと居られた筈なのに。

絶対に許さない。必ず殺してやるからな。覚悟しておくといい。」

私はララ・プラントの狂気に怯えながらも訊ねた。

「……ララ・プラント。前々から気になっていたのですが、どうして貴方はそんなにもリッス・ア・ルージに執着するのですか…?」

そうだ。ここなのだ。

確かに伝説の英雄ダクドゥ・ア・ルージの息子であるリッスは私も、ララ・プラントも注目していた存在だ。

けれど、今のララ・プラントの様子は度を超えている。

「私がリッスを愛する理由…? そうですね。まず、リッス・ア・ルージの父親は人類最強の男でした。その血を受け継いだリッス・ア・ルージもまた、最強になれる可能性を秘めていました。

しかし、リッス・ア・ルージには致命的な弱点があった。

それは彼は無垢過ぎたのです。純粋過ぎるほどに真っ直ぐだった。

だから、ララ・プラントである私にとってリッス・ア・ルージは眩しく映った。

リッスが成長する度に、私の心は喜びに打ち震えました。

あの子は本当に素晴らしい。

そして、私は気付いたんです。

リッスは特別な子だと。

リッス・ア・ルージは神の子であり、世界を救う救世主になるだろうと。

リッス・ア・ルージはリッス・ア・ルージというだけで特別でした。

そして私はとうとう我慢出来ずにリッスに接触し私は初恋の人となった。

………でも、結果としてはそれだけだった。

だから私は彼の前で死んで見せたけど、彼は私を追い求めるだけで愛そうとはしなかった。

私は彼の永遠の人にはなれなかった…。だから、次こそ私は彼の永遠になる…。」

私はララ・プラントの様子をただ見つめるしか出来なくなっていた。

彼女はリッスにかつて自分にあった無垢なる心を求めているのかも知れない。

私はこれ以上この場に居られなくなり精神世界を去った。


それから、次はゼクター・ジックの様子を見てみる事にした。

ゼクター・ジックは相変わらず機械の街で傭兵として過ごしながら自身の断罪の活動に精を出している。

彼は3人の所持者の中では一番私に話しかけてくれる。

……まあ、タアムにはリリスを始め様々な人が居るし彼は王として多忙だ。

リッスもニーアが居るけど、彼には話し相手が居ない。

だから寂しくて私に話しかけるのかも知れない。

私の企みが潰えた理由を作った一人でもあるからしばらく口を聞いてなかったけど、

そろそろ優しくしてやっても……うーん、でもこいつ全然反省しないしな。

もうしばらくはだんまりを決め込もう。

でも、仕事も順調だし彼は今の街をそろそろ出て行くかも知れない。

しばらくは動向を伺っていよう。…どうせ、彼が死なない限り私と彼の縁は切れない。

そして次はタアム・ログライン。

正直私は彼とは関わりたくないと思っている。

……何故なら、ララ・シュヴラはかつてタアム・ログラインに恋をしていたから。

その感情にこの魂が引っ張られそうになる時があるのだ。

…痴話喧嘩してるタアムとリリスを見ると、胸がチクチクしてしまう。

今は政務に励んでいるらしく、最近は国の英雄としてリリスも外交等で祀り上げられている様だ。

リリス・メリッサは九つの肉体の二つ目、愛。

彼女は他の肉体に比べ特別な仕様をしている。

オキシ・ララ・プラネットは自分の身体は九つに裂く際に愛だけは眠らせたまま生んだ。

それは、愛の感情だけが別格で強力な為である。

その為、九つの身体の中で唯一、愛を司る彼女だけは他の八つの身体よりも特別性になっている。

しかし今回私は彼女に指示を出した。

正義の盾の所持者に守って貰え、と。正義の盾は彼女の力と相性が良いし、何よりタアムは良い人格者だ。

気が強く屈折したリリスにはぴったりだと思った。

結果的にリリスはタアムに惹かれていた。

それに、あの二人の間には私達ですら立ち入れない絆の様な物を時々感じる様になっていた。

そう考えるとやはり心がざわついて……ああもう、私まであの壊れたアンドロイドみたいになってしまう。

……さて、お次はリッスとニーア。

二人もそろそろサイバースペースて200年の時間が経っている頃だと思うけど……。

そんな二人の様子は驚くべきものだった。ニーアの外見は幼児と言っていい程小さくなっていた。

ニーアの年齢はまだ5歳位だろうか?

「リッス、どうしよう……」

リッスは優しくニーアを抱き締める。

リッスもニーアと同じで見た目は幼くなっている。

リッスは元々ニーアより少し身長が高いくらいだったが今ではニーアの方が高い。

……これはどう言う事だ?

確かにサイバースペースでは自由に姿を変えられるけど明らかに二人の制御下に無い姿だ。

私はこの調査を行ったがその結果…。

「きゅ、休眠期間!?」

サイバースペースは現実と時間の流れが違う。

しかし長い時間を生きてたら脳が追いつかないらしく定期的な休眠が必要らしい。

精々サイバースペースで10年くらいではあるらしいけど…ニーア達は休眠の代わりに自らの体積を小さくしたらしい。

これは任意で姿形を変えるのとは訳が違う。

彼らの精神も能力も下がってしまう。

それなら、10年眠る方が良いはずだ。

私は急いでニーア達の元へ急ぐ。

そしてホテルの中のベッドで横になるリッスとニーアに声をかけた。

「リッス!ニーア!眠りなさい!今すぐ!」

二人は私の方を見る。

「ララ、でも俺達まだ遊んでたいんだ。この世界で。」

リッスは私の言葉に返事をしてそう言った。

私はリッスを見てこう話す。

「リッス、ダメです。ここは仮想空間の世界なんです。休眠を取らないと現実の体が衰弱してしまいます。」

リッスはまだ納得出来ないのか反論する。

「じゃあ、いつになったら起きれるんだよ?」

「10年後。たった10年ぽっちじゃないですか。貴方達からすれば昼寝の様なもの。」

ニーアはリッスの手を握る。

リッスはニーアの方を振り向く。

そしてニーアは笑顔でリッスに話しかけ、

「リッス、やっぱり今は眠ろうよ。大丈夫だよ。リッスが居なくても私が居る。だから安心して眠ってね。」

その言葉にリッスも納得して目を閉じ始めた。

あとはこのホテルの執事ソーダライトゥスに任せれば良い。

…全く、世話の焼ける子たちだ。

本当はもう帰っても良いんだけど。

……ちょっと、私もこのサイバースペースを散策しようかな。

ここなら魂だけの私も電子の肉体を持てる。

さて、どんな体にしようか?

まず性別は女性。

年齢は12歳ぐらいが良いかも。

身長は低い方が良いよね。

髪は銀色の長髪で。

瞳は濃い青にしておこう。

肌は白い方が綺麗だし。

服装は……白のワンピース型ドレスにしましょう。

結局いつもの私とそんなに変わらないかな。

ララ・プラントにも似てるかも?

まあいいか…動きやすいしこれで行こう。

私はホテル付近の海を歩き出し、砂浜で遊ぶ。

夜空には満月が浮かんでいる。

波の音だけが静かに響いている。

ゼリー状の海の感触も良い。

ふぅ。

気持ちいい風。

少し疲れたので休憩。

木陰を見つけてそこに座った。

周りを見渡す。

誰もいない。…そう思っていた。

「お前、ララ・シュヴラか?」

目の前に現れたその姿に目を疑った。

それは何とリッスの父であり伝説の冒険家、最強の男であるダクドゥだったのだ。

何故ここにいるのか、色々聞きたいことはあったが、とりあえは一番気になった事を聞いてみた。

「……何故貴方みたいな野蛮な自由人がサイバースペースなんかに?」

彼とは因縁もあるしどうしても口調が悪くなる。

しかし彼は怒る事もなく、笑顔で答えた。

「いやぁ。俺も最初は驚いたんだぜ。ここはサイバー空間だって言うじゃねえか。だけど、俺は今まで旅してきた世界の中で、こんな場所は見た事も聞いた事もなかったからよ、つい好奇心で来ちまった。」

ダクドゥは笑っていた。

本当にリッスと親子なのか疑問を感じる程、ダクドゥという男はリッスとは正反対な性格をしていた。

彼の性格は簡単に言えば破天荒。だが、悪い人ではない。……少なくとも私の目からはそう見えた。

私は彼に質問をした。

「この近くのホテルにリッスがいますよ?会わないんですか?」

「ああ。あいつに会うのは今じゃない方がいい。」

別に会う必要も無いだろうしリッスも今の所父親に会いたい訳でも無さそうだが会うのを躊躇う理由があるのだろうか?

ここは九つの肉体の管理者である私も知っておきたい。

「その理由を教えてください。どうしてリッスに会うのは今じゃない方が良いんですか?」

するとダクドゥさんは少し悲しげな顔をしながらこう言った。

「俺には夢があったんだ。リッスと一緒に冒険をするっていうな。」

「そうだったんですか……。」

「ああ。だがリッスはあの正義の剣の所有者になった。別にアンタを責めてる訳じゃないぞ。リッス自身が決めた事だからな。リッスの人生なんだ。リッス自身の意思を尊重するべきだ。」

「はい。」

リッス自身。リッスの人生。

確かにそれはリッス本人が決めるべきことだ。

つまり…。

「彼がこの星を救うまでは会わないつもりなのですか?リッスとは?」

「その通りだ。俺はリッスの父親として、あいつがこの世界を救ってくれる事を願うばかりだよ。」…………。

「リッスならきっとこの星を救えますよ。」

「ふっ。だと良いけどな。」

ダクドゥは何処か嬉しそうに言葉を返す。

それを見て私は少し疑問が浮かんだ。

これは意地悪な質問等では無く…。

「かつての貴方はこの地球が滅ぶ事自体深刻に捉えて居なかったでしょう?

どうせ、自分は地球が滅んでも生き残るからと。

やはり息子が生まれると気持ちも変わるのですか?

今はもう、地球の滅亡には興味が無いないのですか?」

私がそう言うと、彼は少しだけ驚いた顔をする。

「…良く覚えてたな?そんな事…。まだ俺が20だかの頃の話だろ。」

「はい。忘れませんよ。貴方の言葉はね。」

「……そうかい。けど、今も俺は地球が何で滅びるのかは興味がある。お前もララも教えてくれねぇし。」

「それは教えられないからです。」

「まぁ、そりゃそうだわな。」

ダクドゥはお手上げのポーズを作りながら私を見る。

「しかし、この星の未来はどうなるんだろうな?仮にリッスがこの星の滅亡を回避したとしても、また別の何かしらの問題が起きそうな気がしてならないんだよ。」

「確かにリッスはこの星の救世主になるかもしれません。けれど、それが必ずしも幸福に繋がるとは限らないのですよ。」

「……..はぁ、それを解ってるのにリッスやタアムを救世主に選んだのかよ。お前らは生命の保全さえ出来ればそれで良いのか?」

「リッス達を選んだのは生命の為なのです。」

「お前らって思ったより浅いよな。俺は生命なんぞ放っておいても滅ぶ奴は滅ぶ。そう思って現在いまを生きている。」

「……。」

「それに生命を守るとか、慈しみ守る者とか、意味不明だって。そもそも、その言葉の意味は何だよ?アンタらは生命を守るとは言うがその癖あのララ・プラントは世界中で好き勝手してるし、プラネット様の分身である九つの肉体も殆どが本来の目的を忘れてる様にしか見えん。お前らは本当に星の延命をする気があるのか?俺にはそう見えないぜ。」

「確かに、そう見えても可笑しくは無いかも知れない。しかし、生命の守護とは、地球の延命とは一見無駄な事でも長期で見れば意味がある。

……ただ、最近のララ・プラントの様子は私も心配しているのです。彼女は何を考えているのか解らないのですよ。」

「いや、だからさ。それは単にアイツが生命の守護に無関心になってるだけじゃねーのか?…つーかよ、俺は前から生命の守護者ってのに胡散臭さを感じてた。正直生命の守護者自体、そんな高尚なもんじゃなくて、ララ・プラントの単なる思いつきで作られただけじゃねーのか?」

「……そ、それは……。」

「まぁ、いいけど。結局、生命の守護者なんて、生命の守護者本人にしか理解出来ないんだろうから。」

「……うぅっ。」

「で、アンタはどうしたい訳?ララ・プラントを何とかする為に何か策でもあるのか?」

「えぇ。勿論です。私は生命の守護者として、何としてもララ・プラントを説得します。」

「説得ねぇ~。どうやって?あの女が自分の前世のコピーの言う事を聞くとは思えないんだが。」

「私はララ・プラントの精神世界に直接会いに行けますから、何度でもトライ&エラーは出来ます。」

「へぇ~。それで本当に上手く行くと思ってんなら、相当おめでたい頭してるぜ。」

「むぅ。」

「そもそも、あの女は自分の意志を他人に押し付ける様なクソアマだぞ。自己愛性人格障害者にしてソシオパス。おまけに異常性欲者。それがララ・プラントの正体だ。」

……まあ、間違ってはいない。

いないのだけれど、私はくらりと目眩を覚えた。

「……ララは、貴方の初恋の人でしょう?良くそこまでの事が言えますね…。」

私が力無くそう言うとダクドゥはため息を吐き

「……俺だってこんな事言いたかねーよ。

だがな、人は変わるのさ。いや、正確には変えられちまったって言った方が良いかも知れんがな。」

「どういう意味ですか?」

「……俺は、三度アイツを愛した。

一度目はガキの頃ララ・シュヴラと出会って。

二度目はタイムスリップして目覚めて間も無いララ・プラントと。

三度目は生命の守護者となる前、旅をしていたララ・プラントと。

……けど、気づいちまった。

どんなに俺が未来を渡り歩いても、アイツが永久に生き続ける限りアイツの魂は変質して俺の愛したアイツじゃ無くなるって。だから、俺はアイツを殺せなかった。」

「……」

「けど、お前さんは違う。

これから先、何十億年経とうとも、お前さんはララ・シュヴラだ。

だが、そこには何の変化も無い。ただの思い出の幻影だ。だが、だらこそ信用している部分はあるな。」

私には、彼の言っている言葉の意味は理解出来ない。

私はただの魂のコピーであり、プログラムだ。

だから、変化などする筈が無い。

それを信用してるだなんて言われても困ってしまう。

「……貴方は、私に何かをさせようとしているのですか?その答え次第では協力する事を考えます。」

彼は私の質問に対して少し悩んだ様な表情を見せる。

「そうだな……。

とりあえず、お前さんの願いを教えてくれないか? それが分からんと、どうにもこうにも動けんからな。」

私が願う事か。正直、今となっては何を願っていたのかさえ分からない。

ただ一つだけ言える事があるとすれば、九つの肉体の管理者としての使命から解放される事。

でもそれは叶わない。もし私が使命から解放されるとしたら存在意義を失い、消滅する事になるからだ。

「……私に望みなど…ありません。」

私は彼にそう答えると、彼は何故か嬉しそうな顔をしていた。

「ふむ、成程ねぇ。それなら、こっちから提案させて貰おう。

お前さんを俺が殺してやろうか?お前さんはこの世界に居るべき存在じゃあない。」

突然の提案に私は困惑した。

「何故、貴様の様な奴から殺されなければいけない?」

私がそう言うと、彼は笑いながら話を続けた。

「いーや、別に俺はお前さんを殺したくてしょうがない訳じゃないんだぜ?ただ、この世界で生きるにはアンタの使命はあまりにも辛すぎる。生き地獄と言っても良い。九つの肉体の管理は一体化しプラネット様が蘇れば解放されるんだろうが、そんなのは永遠に来ないかも知れん。なら、そろそろ死んでもいいんじゃないかと思ってな。

「…………」

「それに、お前さんがこの先ずっと存在し続けても辛いだけだぞ。」

「どういう意味ですか?」

「解ってんだろ?アンタは成長しない。未来を生きられない。アンタはいつか必ず取り残される。」

「ッ!」

その言葉を聞いて私は思わず息を飲んだ。

確かに彼の言う通りだ。

私の時間は止まったまま。

老いる事も死ぬ事も無い魂だけの存在。

それが私に与えられた使命。

神であるララ・オキシ・プラネットの命令は絶対。

私は、この九つの肉体を管理、監視する事を命令された。

そして、この世界の秩序を保つ事が私の仕事なのだ。

「俺ならお前を殺してやれる。お前の願いを叶えてやれる。さあ、どうする?この世界で生きるか、それとも楽になるか。」

彼からの提案。

それはとても魅力的な提案に聞こえた。

けど一つ疑問なのは…。

「ダクドゥ・ア・ルージ。

何故貴方は私にそこまでの事をしてくれるのですか?目的はなんです?」

そう、彼は何の為に私を殺すのか。

そもそも、彼に得なんてある筈が無いのだ。

なのに、どうしてここまでしてくれるのか。

「目的ねぇ…。

第一に俺にとってアンタは目障りなんだ。初恋の相手の最も美しかった頃の幻影なんて見てたら気が狂いそうだ。

第二にアンタを消すことで九つの肉体にどんな影響を及ぼし世界がどう変わるのか気になるから。

そして第三は、まぁ、アンタの願いを聞く事と引き換えにアンタにも頼みたい事がある。」

彼の言葉を聞いて私は理解した。

彼が求めている事は私を消した後の世界の事。

つまり、私がこの世界に干渉しなくなる世界。

ならば私がすべきことは……。

「わかりました。私の魂を捧げましょう。

ですので、どうか世界をお願いします。」私にはもう何もできない。

だから、せめてこの世界に生きる人達の幸せを願うことしか出来ないけれど。

それでも、それが私の使命だと思うから。

「ああ、だがその前に少し待ってくれ。」

「え?」

「言ったろ?その願いを聞き入れる前に頼みたい事があるって。まあ、そんな大層なことじゃないんだがね……」

そういうと彼は、自分の胸に手を当てながらこう告げてきたのです。

「俺をララ・プラントの精神世界に連れて行ってくれ。」……どういう意味でしょうか? そう思いつつも、私は彼に問いかけます。

「俺がララ・プラントの精神に介入してアイツを止める。

もう息子に関わらせない様にするために。

それに俺だって、あいつと決着をつけたいとは思っているんだ。

俺がアイツを止める。白状するとな、本当はその為に俺は、ここに来た。」

この男の覚悟は本物だ。

だから私はこの男の魂をララ・プラントの精神世界へ送る事にした。

「わかりました。あなたの魂をララ・プラントの元へ送ります。」

「感謝するよ。じゃあさっそく頼むぜ。」

「はい。では行きます!」

こうして、男は自分の魂をララ・プラントへと送り込んだ。

それが私の、そしてララ・プラントの運命を狂わせることになるとは知らずに……。

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