敵には徹底的に
宿舎に戻る前に商業ギルドに寄る。
「審議の日は決まりました?」
審議会は明日だ。少し早めに帰って来て良かった。審議会に不参加なら向こうの言い分がすべて認められてしまうところだった。春休みいっぱいはいないと伝えてあったのを利用されたっぽい。通知は既に学園の宿舎に届けてあるとのこと。受付のお姉さんは苦い顔をしてそう伝えてくれた。
宿舎に戻ると手紙が届いており、俺が出発した翌日の日付になっていた。審議会の日が都合が悪ければ一週間以内にその旨を知らせて欲しいとの事もご丁寧に書かれてあった。
「なるほどな。タチが悪いとお前が言った事がよくわかった」
「そうだね」
この手紙は俺がいないと知っていて書かれたものだ。審議会の日程変更も可能だと記載してあるので不参加の場合は落ち度はこちらにあるようになるからな。
「で、お前はどうするつもりなのだ?」
「別に。今まで販売した売上の3倍請求して、販売の差し止めだけ」
「向こうは騙されただけと言い張るだろうな」
「でしょうね。素直に払えばそれで済ませるけど、そうじゃなかったら仕返しをする」
「何か策があるのか?」
「メロンも手助けしてくれる?」
「出来ることなら何でもやってやるが貴族の権威を盾に何かすることはできんぞ」
「ん?商売のトラブルは商売で片を付けるよ」
ー審議会当日ー
「では只今より、レシピを無断使用した件において審議会を始めます。尚審議会会長の判断は絶対であります。ではシャルロッテさんより申し出のあった審議内容をお願い致します」
「はい。私の登録したレモンジャム及びはちみつレモンのレシピをイチバーン商店が不正に取得し、販売している事の差し止めと不当に得た売上の3倍を請求致します」
「ではイチバーン商店は申開きがあればその旨をお願いします」
「私どもはレシピを考案した者と契約を交わして、製造及び販売の権利を取得致しました。その契約を交わした者が偽者であったという事でありますが、我が商店は被害者であり訴えられる覚えはございません」
まぁ、こう出て来るのは想定済だな。
「シャルロッテさんは今の意見を聞いていかがなさいますか?」
「騙されたのはそちらの落ち度。レシピを不正利用された事実に変わりはありません。当初の要求はそのままであります。イチバーン商店が不当に利益を得ているのは事実であり、被害者であると言うならばその被害額を騙した者へ請求すれば宜しいのでは?」
「イチバーン商店はいかがなさいますか?」
「被害者にすべての被害額を被れというのは随分な言い草であると思います。騙した者は既に行方不明であることから被害額はすべて当店が被らねばなりません。審議会長、ここは改めてシャルロッテ様と正式な契約を交わしてから、契約後の販売分に付いてレシピ代を払うというのが妥当だと思われます」
「私はイチバーン商店と契約を交わす気はございません」
カンカンっ
審議会会長が木槌を叩く。
「シャルロッテの発言は認めておらん」
「失礼致しました」
「では審議内容を申し伝える」
は?
「まだ私の意見の場を頂いておりませんが」
カンカンっ
「発言は認めておらんと言ったであろうがっ」
あー、出来レースか。
「判決を申し渡す。イチバーン商店もシャルロッテも双方被害者である。これにより両者痛み分けとする。今後はイチバーン商店とシャルロッテは正式に契約を交わして販売するように言い渡す。以上」
審議会会長の沙汰は絶対。もう結果は変わらないらしい。
「ではシャルロッテ様、審議会会長のお申し付け通り契約を交わしましょう」
そうニヤつきながら言われた。
「イチバーン商店様」
「何かね?素直に言うことを聞いておれば済んだ話なのだよ。ではこの契約書にサインをしろ」
レシピ代は売上の1%。しかもラーメンの契約まで記載されている。酷い契約である。
「イチバーン商店様」
「なんだ?」
「私を敵に回した事を後悔して下さいね」
「ふんっ。負け惜しみを。お前は色々とレシピを持っているそうだな。そのうち全部うちで取り扱ってやるから感謝しろよ。ウワッハッハッハッハ」
シャルロッテは差し出された契約書に指に針を指して契約を行ったのであった。
「さて、シャルロッテよ。お前もえげつない事を考えるものだな」
「商売は信用第一。あんな所は潰れた方がいいんだよ。あの審議会会長の方は宜しくね」
「任せておけ。叩けば色々と出て来るだろう。ガーデンは貴族特権がないと言われてるのは普通の事をしている時だけだ。犯罪者には通用せんからな」
シャルロッテもクインシーもとても悪い顔になっているのであった。
宿舎に戻り、食堂のおばちゃんと話を行う。
「おばちゃん、イチバーンと契約を交わさざるを得なくなったから早速買いに来ると思うんだ」
「あら、そうかい。何があったんだい?」
おばちゃんに事のあらましを話す。
「汚い奴らだね」
「うん。だからイチバーンには10倍の値段を請求して」
「わかったよ」
契約書にはここの売値は記載されていない。ギルトに登録したのものには製を詳しく書いていないので独自で作るのも無理だろうからここで仕入れるしかないのだ。しかも・・・
シャルロッテは冒険者ギルドにクインシーと共に向かう。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ギルドは犯罪の嫌疑がかかっている所と繫がりがあるのか?」
クインシーはいきなりそう切り出した。受付嬢は慌ててギルマスを呼びに行く。
「クインシー様、こちらで詳しく聞かせて下さいませ」
ギルマスの部屋で事のあらましを説明する。
「イチバーン商店に出入りする商人の護衛を受けるなと?」
「誰も受けるなとは言ってはいない。犯罪の嫌疑が掛かっている所と繫がりがあるのか?と聞いているだけだ。衛兵の上層部にもフルーツ連合として調査に入る。その時にイチバーン商店のやって来た事が明るみに出るだろう。冒険者ギルドも余計な事に巻き込まれると大変だろうな」
「そ、それは大変でございますね・・・」
「あぁ、私も心配だな。ここの食堂も繫がりがあれば帳簿から何から何まで調べられるだろう」
「わ、わかりました・・・」
そしてクインシーがメロンに帰国後、フルーツ連合の商人向けに同じ通達が出された。
その通達を待たずにイチバーン商店にレモンとオリーブオリーブを卸している商人が来なくなった。どちらもオレンジの商人だ。
「ちっ、せっかくレシピをただ同然で手に入れたというのに商人のやつは何をしているんだっ」
そして毎日卸や仕入れに来ていた商人が日を追うごとに来なくなって来た。
「おい、なぜ商人が来んのだっ」
苛立つイチバーン商店商会長。
それに引き換えサバーン商店には連日商人が押し寄せていた。
「はい、はい、オレンジ王国から各種柑橘類が大量入荷していますよ。特にこのグレープフルーツはこうやって食べるととっても美味しいんですっ」
「よっ、シド。精が出るね。他のバイトも忙しそうだね」
「おぉ、いちご姫。もうめちゃくちゃだよ」
シドや他のバイト達がはちみつを掛けたグレープフルーツの試食を、他のバイトは柚子胡椒を付けた豚バラの焼肉やサラダに他の柑橘類を掛けた試食を行っている。あまりにも商人が溜まっているので護衛を受けたい冒険者もここに集まり自ら護衛の売り込みをしていた。ギルドへの依頼は後付でもいいらしい。
ヒソヒソ
(イチバーン商店に関わるとヤバいらしいぞ)
(おぉ、聞いた聞いた。うちも通達が来てたぜ)
(連合からの通達なんて初めてだよな)
(何をやらかしたんだ?)
(さぁな。しかし、サバーン商店って珍しい物があるし値段も安いな。まったく知らなかったぜ。通達様々ってやつだ)
(違いねぇ)
イチバーンからニバーンに鞍替えした商人もサバーンの噂を聞きつけてここに集まって来るようになってきた。
「商会長、お世話になりました」
「おいっ、こら待てっ。お前まで辞めるのかっ」
「はい。家族が大切ですので」
イチバーン商店は商人が来なくなり、ラーメンを仕入れに行っても値段交渉もまったく聞き入れられず、どんどんと人も辞めていく。
「なぜだ?なぜこんな短期間でうちがこんな目に合わねばならんのだ・・・」
「動くなっ。衛兵幹部の自供により只今より帳簿の調査を行う。容疑は脱税及び収賄罪の嫌疑だ」
フルーツ連合の査察隊がドヤドヤとイチバーン商店に訪れ、その後イチバーン商店はガーデンから姿を消したのであった。




