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イチゴ姫

10歳向けの授業は退屈で仕方がない。が、ホワホワな先生を眺めて楽しもう。ちょっとドジっ子みたいな所もいいよね。


そして、休み時間に算数を教えて欲しいと言う人が増えて来た。どうやら俺の教え方はわかりやすいらしい。


「シャルロッテ様ってすごーい」


庶民の娘達とも話せるようになってきた。さすがに呼び捨ては無理なのか、だんだんと言葉はくだけてきてはいるが様付けは抜けないようだ。


で、コトカとアキと貴族食堂で昼飯を食う。


もちろんイチゴソース抜きで塩胡椒のみ。そう注文したときは驚かれたが、最近ではもう何も言わなくてもイチゴが料理に混入してくることはなかった。


夜は庶民食堂に行くことが増え、毎日のようにイチゴを持っていく。


だんだんとイチゴ目当てもあり、皆とご飯を食べるようになっていた。


「シャルロッテ様は王族なのに庶民に対して偉そうにされたりしませんね」


そう言ってきたのは2つ年上の男の子。


「偉そうにするも何も偉くないもの」


「いえ、ラズ様は我々と口もきかれませんよ」


こいつはラズと同級生のようだ。


「そうなんだ。まぁ、ラズ姉様は正妻の子供だからね。私は半分庶民だからまた違うのよ」


もう妾腹とか普通に話すので皆も腫れ物に触るような態度は取らなかった。


そして厨房のおばちゃんに頼み事をしてみる。


「おばちゃん、お願いがあるんだけど」


「おや、どんなのだい?」


「ここでラーメン作ってくれないかな?」


「ラーメン?」


と、ゼルに作り方を説明してもらう。


「まぁ、これならなんとかなるかしらね」


「でね、麺を油で揚げて欲しいのよ」


「揚げる?」


「そう。そしたら食べたい時にもう一度湯がいたら食べられると思うんだ」


と、インスタントラーメン作りをおばちゃん達に託した。


「保存出来るってことだね」


「そうそう。最終的には麺に味が付いて、お湯掛けたら食べられるようになればいいなって」


「随分と便利な食べ物になりそうだね。これは売るのかい?」


「ううん。自分で食べたいの」


と、これから毎晩試食をすることになった。


「ゼルは他のメニュー食べたらいいからな」


「いえ、シャルロッテ様と同じ物を食べます」


「自慢の腹筋がダメになるぞ。お前はしっかりたんぱく質を取れ」


「たんぱく質とは?」


「肉とか魚とか大豆とかだよ。カチカチになりたいんだろ?」


「ちっ、違いますっ」


嘘つけ、毎日筋トレ欠かさずしてんじゃねーか。


「それに代謝が落ちてくるお年頃だ。カチカチデブとかになったら誰も嫁に来てくれないぞ」


「よ、嫁などもらいませんっ」


俺とゼルのやり取りは毎度のことなので皆はそれを聞いて笑っている。


「いつもイチゴを貰ってるからね、頑張らして貰うよ」


「ありがとうね、おばちゃん」


授業の合間に算数や理科とか教え、代わりに裁縫や音楽の事を教えて貰う。コトカは裁縫が、アキは音楽が得意なのだ。


そして、夜の庶民食堂では年上の子達まで色々と聞きに来るようになっていた。同国とか他国とか気にしない。


「イチゴ姫、これ分かる?」


と持ってきたのが連立方程式だ。15歳で習うらしい。元の世界より少し遅いか?


「方程式は出来る?」


と、簡単な問題を出してみるとここで躓いているようだ。


「これがわかんないと、連立方程式は解けないからね。まずこれはね」


と連立方程式に行く前に方程式に遡って解き方を教えていく。


「あー、なるほど。さすがイチゴ姫だ」


最近ではイチゴ姫と呼ばれている。あだ名みたいなもんだ。


「じゃ、これは?」


図形か。


角度とか面積とか。まぁ、中学生程度なら大丈夫。大学受験レベルまでになると参考書とか見ないと忘れてるやつも多いからな。


シャルロッテはおばちゃんの作ってくれた試作ラーメンを食べながら、塾みたいな事を庶民食堂でやっていた。ゲームもテレビも無いから部屋にいても暇なのだ。


「おばちゃん、ポテト揚げて」


「はいよ」


と、メガ盛りにしてもらったのをレモン炭酸で食べてると、一人の学生がビールを頼んでいる。


「何それ?」


「ビールだよ。バイト代が入ったから奮発したんだ」


「ここで飲んでいいの?」


「成人してたらな」


クソっ、羨ましい。だいぶ気温が上がってきたから飲みたいと思ってたのに、これみよがしに飲みやがって・・・


「ん?バイト代が入ったから?食堂って無料じゃないの?酒は別か?」


「無料なのはご貴族様だけ。庶民は月ごとにまとめて払うんだよ」


「そうなの?金持ってる貴族だけ無料とかおかしくない?」


「シャルロッテ様、貴族、王族は授業料以外に多額の寄付金を払っておりますので」


「そうかもしんないけど、元々は皆の税金でしょ?」


「それはそうですが・・・」


「イチゴ姫はそういう考えしてんだな」


「普通じゃない?元々はお前がバイトして稼いだ金の一部だぞ」


「そりゃそうだけどさ、そういう仕組みなんだからしょうがねぇさ。ま、イチゴ姫はここで俺達と同じ安飯食って、皆に勉強教えてんだから無料じゃなくて金貰ってもおかしくないんじゃないか?」


「それは別に暇つぶしだからいいんだけどさ」


「そ、それに、か、か、可愛いしよ」


お前、何真っ赤になってんだよっ。


「ははーん、お前、私に惚れてんな?」


「ばっ、馬鹿言うなよっ。俺は庶民だぞっ。ひ、ひ、姫様に惚れるなんて」


「あーっはっはっは。ごまかすなって。私は可愛いからな。自分で鏡を見て惚れ惚れするぐらいだ」


「そんなの自分で言うやつがあるかっ」


「ダメなの?」


と、上目遣いで見てやる。  


「ダ、ダ、ダメじゃないけど」


中身がおっさんだと知らずに真っ赤になりやがってコイツ、笑かす。


「ま、おさわりは無しだぞ。そんなのことしたらゼルの腹筋が火を吹くからな」 


「腹筋から火など出ませんっ」


と、怒るゼルに抱きついて。


「私はお前を頼りにしているのだ」


と、言ってやると感動していた。


冗談のように言ったが、実は本当に感謝している。男を必要以上に近付けないようにさり気なく牽制してくれるのだ。だから安心してこうやってここにいられる。ちょっと乱暴なやつがいたら、学生のノリでお触りぐらいされそうだからな。


こうしてガヤガヤとした日々を過ごした。



「イチゴ姫っ!期末テストめちゃくちゃ成績上がりましたっ!」


「私もです」


「私もっ」


と、年上の子達が食堂でラーメンを食べてるとテスト用紙を持ってやって来た。


「良かったじゃん」


「はいっ、これもイチゴ姫のお陰です」


と、テスト用紙を見せて貰うと空欄がある。


「これ、分かんなかったの?」


「はい」


文章問題か。試しに数式を書き出してやると解けた。


「お前、国語の点悪いだろ?」


「どうしてわかるんですか?」


「これは数学がわからないんじゃなくて、文章の意味がわからなくて出来てないんだ。簡単な本で良いからたくさん読め」


「本なんて貴重な物は・・・」


「図書館に行けばいいだろ?」


「図書館はその、金額が・・・」

 

ん?


「ゼル、図書館ってお金いるの?」


「はい、庶民は保証金と入館料が必要になります」


本は貴重らしく、盗まれたり、破損したりしたときの為にお金が必要だそうだ。


そういや、シャルロッテの部屋にたくさん本があったな。


「わかった。夏休み明けを楽しみにしていろ」


夏休みの庶民はここに残ってバイト尽くしだったり、故郷に帰ったりするらしい。別に俺も帰りたくはないが、ミリイとホニホニしないといけないし、ゼルからも戻らないとダメだと言われた。



で、夏休みに入り、王宮へ戻った。


「ただいまっ。ミリイは?」


オバサンメイドが出迎えてくれたのでミリイがどこにいるか聞いてみる。俺にはホニホニ成分が不足しているのだ。カチカチ成分はお腹いっぱいなのだ。



「退職致しました」


は?


「え?どうして?」


「結婚したのです」


嘘だろ・・・


「追放されても付いて来てくれるって・・・」


「退職致しました」


ムゲにロッテンマイヤー系のメイドにそう言われる。


俺は何の為に帰って来たのだ・・・



「なぁ、ゼル。女の子って平気で嘘をつくのか?」


トボトボと部屋に向かうときにゼルにそう聞いてみる。


「ミリイは16歳ですからね。結婚してもおかしくはありません」


「でも王室のメイドって、働き口としてはかなりいいはずだよね」


「そうではございますが、結婚したら退職する決まりになっておりますので」


そうなのか。こんなことなら学校に行く前に一緒にお風呂に入って貰えば良かった。生ミリイをホニホニ出来る機会が一生なくなってしまった。嫁にするつもりだったのに。



落ち込むシャルロッテをゼルが癒やしてくれようとするが、カチカチ成分は足りていると断っておいた。


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