コソッと出発
「姫様、婚約は誰かとされるつもりはありますか?」
「ないよ」
風呂上がりに炭酸レモンを飲みながらゼルとリーリャと話す。
「リーリャ、婚約してくれる?」
「腹と太ももだけ差し上げます」
それでいいかもしれない。
「シャルロッテ様、この前おヘソの横にキスマーク付けたでしょ」
「うん。私のって印付けておいた」
「ぜんぜん知らなかったから他のメイドに言われてしばらく疑われたんですからね。お嫁に行けなくなったらどうするんですか」
「貰ってあげるヨ」
「もうっ。なら男の人になって下さいっ」
そうしたいのは山々だけど、無くすのは出来ても付けるのは無理だろうなぁ。
そして今日も食堂に食べないといけないので移動。
前菜はハムメロン。ハムとメロンを別々に食べる。こうした方が美味しいよね。出来ればハムだけマヨでいきたいところだ。
「シャルロッテ、あのジーク・メロンとはなんだ?」
バレンシアも不思議に思ってたようだ。
「掛け声」
「ん?軍にそんな掛け声あったか?」
とアームス。
「あれはシャルロッテが作った言葉だ。メロンに勝利をという意味だそうだ」
ハムメロンを一口で食べたクインシーが補足する。
「それではジーク・オレンジでもいけるのか?」
「いけなくはないけどゴロは悪いよね」
バレンシアはあの掛け声が気に入ったようだ。確かに兵士が声を揃えて言うのは迫力あるしな。
「お前はあの時に初めてやったのか?」
「そうだよ」
「アームス、メロン軍はあのように声を揃えて掛け声を上げるのは以前からやっているのか?」
「母上に聞け」
「バレンシア王子。あんなのは初めてだ」
「初めてであのように揃うものなのですか?」
「私も驚いた。それにあの演説はなんだシャルロッテ」
「カッコ良かったでしょ?敵をうちのめせとか物騒なのは避けた。防衛を主体に言ったつもりだったけどダメだった?」
「いや、非常に良かった。兵士を鼓舞するのに十分過ぎる。次回から私もあれをやらねばならんではないか」
クインシーのジーク・メロンは様になりそうだな。
食事が終わった後にコックと打ち合わせ。何故か全員残ってる。
「こういう形のケーキ型で」
と、説明してシフォンケーキの作り方はゼルが説明してくれた。
「ケーキよりフワフワになるのですか?」
「そう、もうフワッフワッなの。さすが神のケーキって感じ」
横から口を挟むユーバリー。あれめっちゃ気に入ってたからな。
「シャルロッテ様、このシフォンケーキなるものはどういう意味なのですか?なぜ神のケーキと呼ばれるのでしょうか?」
「神様の名前がシフォン。神様が好んだからシフォンケーキってしたの」
「神に名前があるのですか?」
「神、神って呼びにくいから名前を勝手に付けたの」
「ということは神様の名前も、ケーキを気に入っているということもシャルロッテ様の中での話ということですか?」
「そうだよ。名前も神様もこれが好きだというのは私の中の話」
「ではアレンジしても問題ないのですか?」
「お菓子なんて好きにアレンジしたらいいと思うよ。決まりなんてないから。それをだんだんと受け継がれる内にこうじゃないとダメとかになるんじゃない。それを伝統と言うのかもしれないけど」
「そうかもしれませんね」
「ケーキの型は帰ったら発注しておこうか?一回作ってるから早いと思うし」
「わかりました。クインシー様、ケーキ型が出来る頃にガーデンに行っても宜しいでしょうか?シャルロッテ様が懇意にされている店で食べてみたいのです」
「ランチは行列が出来てるんだよね。予約受けてくれるかな?」
「そんなに混んでる店なのか?そこでアームス達はどうしてケーキを食べられたのだ?」
「バイトとして雇って貰って賄で出してもらったんだよ」
「では同じようにバイトコックとして手伝いにいくか?」
「それは嫌だと思うよ。厨房って自分の城みたいなもんだし」
「そうですな。よそのコックに厨房に入られるのは嫌でしょう」
「だったら夜に食べに行こうか。シフォンケーキは持ち帰りで頼んでおくから」
これで打合わせは終わり。
部屋に戻って明日からの話をクインシーとすることに。
「どこに行くの?」
「マーセナリーだ」
は?
「クインシー様の実家まで行くの?」
「正確にはその近くだ。私の実家にも顔を出す。長い間帰ってないし、お前にマーセナリーの家名を付けているから紹介だけをしておく」
傭兵国家か。どんなところなのだろうな。
「王様は誰がしてるの?」
「弟だ。父も健在だがな」
マーセナリー家に顔を出したら近くの廃教会で特訓だそうだ。ラーメン持ってくりゃ良かったな。
「魔法コースの先生は?」
「うちのに送らせてある。廃教会といっても寝るところもあるから心配するな」
クインシーのうちのというのは誰なんだろうな?メロンかマーセナリーかわからん。
翌日は早朝からコソッと出発。そしてこのままメロンには最終日まで戻らないらしい。
馬で一日とちょっとらしいが、めっちゃ寒い。
「さ、さ、寒いです」
「毛布を着せてあるだろ?」
「クインシー様みたいにホワホワの防寒乳持ってません」
シャルロッテボディは貧相だ。外気温の影響をモロに食らう。ゼルは平気そうだけど筋肉で自家発電でもしてるのだろうか?
寒くて我慢できないので休憩して火を起こしてもらう。
ガタガタガタガタ。寒くて震えが止まらん。寒くて鼻ったれになるけど手を出したくない。ゼルがそれに気がついてチーンとしてくれた。
お湯を沸かしてそれを飲むとだいぶマシになって震えが止まるけどまだ寒い。
「貴様がここまで寒さに弱いとは参ったな。これからもっと気温が下がるのだぞ」
「ここでこのまま野営しますか?」
「ここは魔物が出るからゆっくりと休めん」
ゼルが焼けた石を取り出し、布で包んでくれる。
「姫様、これを抱いていてください。しばらくは暖かいと想いまございます」
「ありがとう」
ホントだ。重いけどめっちゃ暖かい。
持ってきた着替えをさらに着込んで出発。
もう顔も毛布で包んで景色も見ない。初めは知らない景色を楽しんだがずっと代わり映えがしないのだ。
まだ暖かいかどうかも分からない石を抱いたまま馬の衝撃に耐えてようやく野営ポイントへ。ゼルがスープを作ってくれたのをズゾスゾすすって暖を取る。
小さなテンテで二人に挟んで貰いクインシーのホワホワに顔を埋めて寝た。
夜が明けたらまたスープを飲んで出発。昨日まではクインシーの前に乗せられていたが、今日は背中側だ。落ちないように紐でクインシーに括り付けられている。風が来ないのとクインシーのマントの中なので暖かい。馬に乗るのは運動し続けてるのと同じみたいでクインシーがめちゃくちゃ暖かいのだ。
そりゃ、じっと乗ってるだけの俺は寒いはずだ。
休憩中に初めから後ろに乗せてくれれば良かったのにと言うと、クインシーが乗りにくいらしい。シャルロッテというおもりを背負って上下運動しないといけないからだ。
予定より遅く廃教会に到着すると魔法コースの先生がいた。暖炉に火を入れてくれているので暖かい。
「今日はここで泊まって、明日マーセナリーに入る。そこで一泊して戻ってきたら特訓開始だ」
「わかりました」
ベッドで寝ようとするとクインシーに話し掛けられる。
「神のケーキの話は本当なのだろう?」
「そう。食わせろってうるさいから供えた。あの神様はフルーツが好きなんじゃなくて甘いものが好きみたい」
「そうなのか。フルーツが特別という時代は終わるのかもしれんな」
「いや、甘いお菓子が増えてもフルーツと組み合わせた方が美味しいから特別であることには変わりはないよ。でも今よりかは重要度は下がると思う」
「神の名は広めるのか?」
「シフォンケーキが広まったら勝手に広まるだろうね」
「そうか、女神シフォンか。いい名前だ」
クインシーはそう呟いてホワホワに包んでくれた。
翌朝からまたクインシーの背中に潜りこんでマーセナリーに向かうのであった。




