勝手に号令
ユーバリーの私も攻撃を振り切って馬で庶民街へ。
「こんにちはー、ファイトスさんと話したいんだけど」
「おー、いらっしゃい」
「私の事覚えてんの?」
「店先でナイフを振り回した赤髪のお嬢ちゃんを忘れるやつなんておらんだろ」
「お恥ずかしい限りです」
「お嬢ちゃんも可愛いいけど、お母さんも美人だな。ちょっと待っててくれ」
お世辞ではない感じで褒めてくれた。まさか美人のお母さんがクインシーだとは思ってないだろう。
「おう、久しぶり・・・。ク、クインシー様っ」
わ、ファイトスの奴、クインシーの名前を呼びやがった。
「早く中に入れてっ。騒ぎになる」
ゼルは店にいた人に他言すると後悔するぞと脅してからこっちに来た。
工房の中に慌てて入るとファイトスはポーッとなっていた。
「シャルロッテが世話になってるそうだな。礼を言う」
「めっそうでもありません」
直立不動のファイトス。これはチャンスだ。
「懇意にしている料理人がいてね、作ってくれたスライサーを気に入ってくれて、このナイフを見せたら包丁作って欲しいって言ってるんだけど作ってくれる?」
「包丁じゃと?」
チャンスかと思ったら不機嫌な顔をするファイトス。
「無理か?」
「いえ、作らせて頂きます」
さすがクインシーの一声。思わず受けちまったと頭をポリポリ掻くファイトス。
「その料理人はメロンにおるのか?」
「ううん、ガーデン」
「ふむ、一度合わねばならんからな。姫はいつにガーデンに帰る?」
「冬休みが終わったら帰るよ」
「では学園の宿舎を訪ねればよいな?」
「料理人に会うの?」
「手や体格、何にどう使うのか聞かねばならんからな」
「ほぅ、包丁でも剣と同じ事をするのだな」
「そ、そうざます」
何だよザマスって。俺のことシャルちゃまとか呼ぶなよ?
「ゼル、お前の剣はお前に合わせてつくられたものか?」
「いえ違います」
「なら、一度見てもらえ」
と、ゼルは剣をファイトスに渡した。
「むぅ、剣としては良い作りではあるが、これ、硬いものを無理矢理切ったか?」
「あ、ハイ」
あの鑑定の魔道具を切った時か。
「打ち直してやってもいいが、元の性能は出んな。歪みが出ておる」
「なら、こいつに合わせた剣を打ってやってくれるか?」
「わかりました」
クインシーには全く逆らわないファイトス。
ファイトスはベタベタとゼルに触る。スケベな感じはしないから許してやろう。
「これより軽い剣にしようと思うがどうじゃ?」
「ゼル、そうしろ。その方がお前の良さが出る」
「わかりました。ではそれでお願いします」
「ファイトス、値段はいくらでも良い。最高のを仕上げてくれ」
「ははっ」
「クインシー様、最高の物となるとその・・・申し訳ありませんがそこまで資金が・・・」
「お前はメロンの王宮騎士だ。それに私の娘の直属の護衛でもあるのだ。私が支給してやる」
「し、しかし・・・」
「今使っている剣は思い出に取っておけ。苦労して手に入れたのであろう?」
クインシーが支給するとの言葉にゼルは踏ん切りが付かないようだ。
「ファイトス、最高の剣っていくらぐらいなの?」
ファイトスは少し考えてから答える。
「金貨10枚」
「じゃ、私が買う」
「ひっ、姫様っ」
「ゼル」
「はい」
「これで私を守ってね」
「か、かしこまりましたっ」
クインシーから預かってる金を使う事になるけどこれは必要経費だ。学生の間にせっせと稼ごう。
「シャルロッテ、いいのか?」
「ゼルはメロンの王宮騎士である前に私の専属騎士だからね。私が支給する」
「そうか。ならそうしておこう」
剣は冬休み中に作ってくれるらしい。休み明けに訪ねて来るときに持ってきてくれるとのこと。その後にスライサーを100ずつ頼んだら口をあんぐりしていた。2月中の納品で大丈夫と伝えたらホッとしていた。お金は今先払いしておこう。
そして今度は軍の訓練場だ。
クインシーは大半の兵士を集めたらしくめっちゃいる。それにバレンシア達はもう来ていた。
兵士達はクインシーが到着するとバシッと敬礼する。気合入ってんじゃん。これ、俺はいらなかったんじゃない?
ちゃんと演説台とマイクみたいなものも用意されているのでクインシーがそこに立つ。
「ご苦労であるっ」
クインシーのその声と共にザッと音がして敬礼を解く。
「本日はオレンジ王国第一王子を訓練にお招きした。者共気合を入れよっ」
「ハッ」
と大きな声が返事が返ってくる。
「では、バレンシア王子。挨拶をお願い申し上げる」
と、バレンシアに挨拶をさせた。
「メロン王国軍の者共よ、我がオレンジ王国第一王子バレンシアである。クインシー王妃のご厚意により訓練を見学させて頂く」
短めの挨拶だが上に立つ者って感じをちゃんと持ってるな。
兵士達も大きな拍手を贈っている。
「本日はシャルロッテも訓練に参加する」
今度はうぉぉぉっと歓声が上がった。人気あんな俺。
「シャルロッテ、挨拶をしろ」
と、マイクを渡された。これ普通に立ったら台に隠れてみんなから見えないだろうな。
脳内でボタンを押してジャンプ。ドンッと演説台の上に立った。
「メロン王国軍の諸君、私はシャルロッテだ」
ウォぉぉおおっ
「軍隊とはチームだ。共に暮らし、共に食べ、共に眠り、共に戦うチームである。我々は家族だ。そして国民も皆家族だ!」
ウォぉおぉお!
「私は平和を望む。争いは不要だ。しかし望まぬとも争いはやってくる。その時に備えるのだっ!家族を守るのだ」
ウォぉぉぉお!
「掴めっ勝利を!掴めっ平和をその手にっ!」
ウォぉおおおっ
「我に勝利をもたらせっ!平和を守る為にっ!私に続けっジーク・メロンっ」
「ジーク・メロンっ」
「ジーク・メロン!」
「ジーク・メロンっ」
ドンドン大きくなるジークメロンコール。こんなとこか。
「構えっ!」
ザッ
「敵に向かって突撃ーーーつ!」
ウォぉぉおおっ
ドドドドドっ
一斉に敵に見立てた的に突撃する兵士達。
自分の号令で軍が動くってゾクゾクする。実際に人が死ぬような時でなければ楽しい。
「シャルロッテ」
「はい」
「突撃の号令はまだだ」
クインシーは勝手に突撃命令を出した俺に呆れていた。
クインシーが今日の号令はシャルロッテに移譲すると宣言してからだったらしい。その流れを無視して号令をかけた俺にも呆れだが、その号令で動いた軍にも呆れていた。
収集がつかなくなってしまったのでしばらく経ってからクインシーが訓練終了宣言をした。
「いちご姫様っ!我らの勝利ですっ」
敵に見立てた的を持ち上げそう声を上げる兵士。そして自然に沸き起こるジーク・メロンコール。
ジーク・メロンっ
ジーク・メロンっ
ジーク・メロンっ
「シャルロッテ」
「はひ」
「お前に軍を任せる」
嫌でございますと小声で答えておいた。
後は隊長に任せてその場を去る事にした。バレンシア達は馬車で帰るらしい。
王宮に戻るとぐったり疲れた。出迎えてくれたリーリャを補給する。
「シャルロッテ、後で部屋に行く」
「はひ」
怒られるんだろうな・・・
今日はマスク王は留守らしいけど食堂でご飯を食べる様にリーリャから言われた。その後にコックとのお話。シフォンケーキの説明をしないといけない。
コンコン
はい、とリーリャが扉を開けるとクインシーだった。
「風呂に入るぞ」
「リーリャも連れてっていい?」
「今回はダメだ。他のメイドからリーリャだけ贔屓してると言われているからな」
やっかまれてんのか。なら仕方がない。
湯に浸かりながらクインシーのホワホワ枕を堪能する。クインシーは頭を撫でながら聞いてきた。
「ジーク・メロンとはなんだ?」
ギレンの掛け声とは言えない。なんだっけ?勝利を!みたいな感じだったかな。
「勝利をみたいな感じ。メロン王国に勝利をもたらせみたいな?」
「そういうことか。あれはこれからも使って良いか?」
「お好きにどうぞ。もう私は満足しました」
「まぁ、ハプニングがあったがバレンシアは圧倒されていたから概ね成功だ」
あ、怒られないのか。良かった。
「我の号令とシャルロッテの号令が同時に出たらどちらを優先するのだろうな?」
と、意地悪な質問をしてくる。
「私かな」
と、茶化す。
「そうかもしれんな」
そんな訳あるかっ。
「シャルロッテ」
「はい」
「そのうち誰かと婚約をしておけ」
は?
「婚約?私は年が明けても11歳ですよ?」
「そのうち誰かに婚約を申し込まれたら面倒臭いことになる」
「どうして?」
「内密に申し込まれたなら無かった事にも出来る。が、公に申し込んで来られたら厄介なのだ。断る正当な理由がなければ相手に恥をかかせるからな」
「そんなの知ったこっちゃないじゃない」
「庶民はそれで済むが貴族はそうはいかん。私の所に話が来れば何とかしてやるが、知らぬ間にマスクの所に行けばややこしくなる」
「私がメロンの王族に成ってるから?」
「そうだ。バレンシアはそこを突いて来ただろ?マスクは元々の王族だ。発想が私とは違う。他国の第一王子の正妻として婚約を求められたら受ける可能性が高い」
「政治利用されるってこと?」
「いや、マスクはシャルロッテを好ましく思っている。お前の幸せを願っているのだ」
「ならどうしてそんな話を受けるのにつながるの?」
「マスクは王だからだ。将来王になる者の正妻になるのは最高の幸せだと思っていてもおかしくは無い」
なるほど。
「誰かと婚約してあとから破棄するとか可能?」
「出来ると思うか?」
無理だろうな。
「じゃ、ゼルと婚約する」
「女同士では無理だ。リーリャもダメだぞ」
「婚約してなくてマスク王経由で婚約申し込まれて断ったらどうなるの?」
「マスクが恥を掻くな」
それはそれでまずいな。ここまで世話になってしまったからなぁ。
「ちょっと考える」
「アームスはダメか?」
「嫌いじゃなくなったけど、男と結婚したくない。私は女の子が好きなの」
「そうなのか」
「クインシー様に結婚を申し込まれたらする」
「そうか。フフフ。なら私はマスクと別れねばならんな」
クインシーは笑ってそう答えた。
これ、ヤバいかもしんない。王族の身分剥奪された方がいいかな。しかしそれをするとゼルと一緒に宿舎に居れなくなるんだよなぁ。
シャルロッテは髪の毛を坊主にしたらみんな女として見なくなるかもとか考えていた。




