上手の上手
「ご挨拶をさせていただくのは初めてになります。オレンジ王国第一王子バレンシアと申します。この度はお招きを頂きまして誠にありがとうございます。マスクメロン陛下」
「よく来てくれた。アームスと同級と聞いておる。自宅と思ってゆっくりしていってくれたまえ」
「は、ありがとうございます」
(これ、俺も挨拶したほうがいい?)
(かもしれません)
ゼルに聞くとそう言うので挨拶をすることに。
「陛下、遠慮なくまたお邪魔させて頂きました。シャルロッテです」
「いちご姫、堅苦しい挨拶は良い。もう家族と同じなのだ」
マスク王優しい。ちょっとイヤミを言われるかと思っていたのだ。クインシーが勝手にメロンの王族にしたからな。
「それよりいちご姫、そなたの考えたメロンケーキは見事であるな。学園祭の催しは残念だったみたいだが、試食した他国の王族からレシピを教えて欲しいとあちこちで言われてな。大変喜ばしい事だ」
「喜んで頂けて光栄でございます。外交手段で使えるのであればご自由にしてくださいませ」
「おぉ、それは助かる」
「陛下、すでに他のフルーツでのレシピも登録しておりますゆえ、お使いになる場合には契約を交わして下さいませ」
と、クインシーが釘を刺す。実際にはお付きがちゃんとするだろうけど。
「バレンシア王子、オレンジ王国はどうであるか?豊作であると聞いておるが」
「は、オレンジを始め、柑橘類全般豊作にございます」
「うむ、それは何よりじゃ」
と、ご飯を食べながら話が進む。今日の主役はバレンシアだろうから大人しく食事に集中しよう。サラダの後はアヒージョ仕立ての具だくさんスープか。コックは俺の為に作ってくれたのだろうか。旨いなこれ。
(姫様、メロン入ってませんね)
(この透明な野菜みたいなのメロンの一種じゃないか?)
何となく冬瓜みたいなやつだ。微かにメロンの風味を纏いながらそれを主張せずスープの旨味を吸っている。
バレンシアもコックの腕に驚いているようだ。宿舎で食べたアヒージョを王宮料理にまで仕上げ事に気がついているのだろう。これに海鮮が入ったら尚旨いだろうな。
「マスクメロン陛下」
「ん?何かねバレンシア王子」
「貴国は庶民にフルーツを分け与える事をお考えはありますか?」
「メロンを庶民にか・・・。それは難しいであろうな」
「そうですか。実はオレンジは試験的にオレンジを始めとした柑橘類全般をガーデンで売ろうと考えております」
「ほう、それは誠か?」
「はい。我が国のことではございますがなにぶん前例がございませんので代表国の王であられるマスクメロン陛下に事前にお話を致したくこの度は同級生であるアームス殿下に無理をお願いして押し掛けた次第でございます」
「そうであったか。それは国の総意を得られておるのかな?」
「いえ、それはこれからにございます」
「なかなかに難問であろう?」
「はい。ですのでいちご姫を春休みに我が国へ招待してアドバイスを頂きたく存じます」
ブッ 何を言い出すのだお前は?
口に含んだスープを吹き出した俺はリーリャに口をフキフキされる。
「何故にいちご姫なのだ?」
「はい、いちご姫はすでに庶民に出回っておりますレモンをフルーツ同等の旨さまで加工致しました。それが庶民に受け入れられ大変喜ばれたのであります。オレンジはご存知の通りメロンやマンゴーと比べてフルーツとしては格下、しかしそれを昇華させる事が出来ると知ったのであります。我が国の安寧は庶民によって支えられるのではと」
「フルーツを大衆化させるつもりか?」
「フルーツの大衆化ではありません。柑橘類全般の大衆化です。もし、それが連合国として良くない事であれば、オレンジは除外いたします」
「そうであれば貴国の判断で問題なかろう。しかし、いちご姫を招待して何をさせるつもりであるか?」
「いちご姫は発想が柔軟でございますので良きアドバイスを頂きたく存じます。それによってオレンジ王国が強くなれば海の向こうの諸外国からの防衛も強固になりましょう」
「そういえば、かぼちゃも菓子にしておったな。確かにいちご姫の発想は豊かで面白い。他国との防衛に繋がるのであれば問題はないのでないのかな?」
おい、王様、勝手に決めんな。
そう思ってチラッとクインシーを見る。
「陛下、バレンシア王子のお考えはなかなかに面白いですわ。他国との防衛が絡むなら私も知っておいた方がいいかもしれません。バレンシア王子、シャルロッテ・マーセナリーを招待するのであればこのクインシー・マーセナリー・メロンも同行させて頂きましょう。宜しいですね?」
と、断らせない雰囲気を出すクインシー。わざわざマーセナリーの家名を出して恫喝しているかのようだ。めっちゃ迫力ある。
「か、かしこまりました。改めて招待状を送らせて頂きます」
バレンシアの話の持って行き方は上手かったが、クインシーはそれより遥かに上だな。マスク王が持っていた食べ物をまんまと奪ったトンビが鷹に食われたような感じだ。
ま、オレンジに行くのは乗り気ではなかったがクインシーが一緒に来てくれるなら海鮮を食いに行くのも悪くはない。
「私も行きたい。招待してくれるわよねバレンシア王子」
また、ユーバリーの私も攻撃が出た。
「ユーバリー、お前が行く意味は無かろう。先方に迷惑であるぞ」
マスク王の言うことは最もだ。
「バレンシア王子も押し掛けて来たんだから私が押しかけておあいこでしょ?」
「か、かしこまりましたユーバリー姫様にも招待状を送ります」
バレンシアの思惑は半分成功ってところかな。次世代の王はアームス達になる。これはアンデスが上手くアームスをサポートして立ち回らないとバレンシアに上手く丸め込まれそうだな。ま、俺には関係ないけど。
今日のデザートは小ぶりのメロンケーキが乗ったプリン・ア・ラ・モードだった。このカラメル旨いわ。シフォンが見てませんように。
食事が終わって部屋に戻って着替える。リーリャに抱きついてゴロゴロと甘えているとクインシーがやってきた。
「明日から出るぞ」
「庶民街に寄れる?」
「何かあるのか?」
「武器屋にスライサーの発注と包丁を作ってくれるか聞きたいの」
「包丁なぞ他の職人も作れるだろ?」
「懇意にしている料理人が物足りないらしいんだよ。ダメ元で頼んで欲しいって」
「わかった。私が連れて行ってやろう。その後は軍の訓練に参加だ」
は?
「軍の訓練。どうして?」
「バレンシアに見せておく。メロンの力を認識させておかねばならん」
「威圧しておくの?」
「そうだ。あいつは思ってたより頭が回る。万が一海の向こうと手を組まれたらやっかいだ。奴が王になる前に敵対するより味方でいる方が得策だと叩き込むのだ」
なるほどね。クインシーは15歳のバレンシアの将来性を見たのか。
「で、私が何故に訓練に参加を?」
「奴らの気合が入る。兵士たちを鼓舞しろ」
「アームスにやらせたら?」
「無理だ。まだアームスは兵士たちの信頼を勝ち得ていない。それにジルベスターが言っていただろ?お前の為に動く兵士がいると」
あー、そんな事言っていたな。
「それをバレンシアに見せておけ。お前に手を出したらメロン軍が動くぞと」
なんだそれ?
「何すればいいの?」
「号令だけで構わん。突撃っ!と言えばすむ。簡単だろ?」
「別にいいけど・・・」
しかし、号令だけか。それも寂しいな。ちょっとなんか考えよう。
自分の号令で軍が動くとか厨二病をくすぐられたシャルロッテであった。




