皆の心に残したもの
開店前から並び始めようとする奥様方。今日は休みの所も多いからより忙しいかもしれない。
騎士が入口前で立っているからまだざわついて並んではいない。
「ようこそ、マグソフ王宮へ」
と、挨拶をする。自分は学生服だ。これは学生達が試しにやっているイベントと受け取ってもらわねばならない。
「ちょっとお嬢ちゃん、どういうことなの?」
「本日は学生によるイベント、王宮カフェとなっております。お値段はいつもと同じですのでご安心を。中で王子がお待ちしておりますのでお姫様方は順番に中へお入りくださいませ」
「お待ちしておりましたお姫様」
ザッと騎士が出迎える。おー、流石だ。
「あんた、お姫様だってよ」
「ヤダよ、照れくさいじゃないかっ」
おばちゃん達はそう言うけど、お姫様なんて呼ばれることはないので嬉しそうだ。
「よく来たな姫」
ぶっきらぼうに挨拶をするバレンシア。が、それがおばちゃん達には意外と好評だ。昔から知ってる姫を出迎えた様に感じられるみたいだ。
「パンとケーキどっちにするのだ?」
「えっと、どうしようかな」
おばちゃん可愛いな。
「ったく、迷うなら両方食え」
「は、ハイ」
バレンシア商売上手だな。
「姫、何にするのだ?」
「ケーキをお願い」
「そうか。パンは良いのだな?」
「じゃ、キャラメルもお願い」
「わかった」
うん、アームスも悪くない。
「姫様、いかがなさいますか?もし宜しければ両方ご用意いたしますが」
「じゃ、ケーキとレモンのパンを」
「かしこまりました」
ゼルが一番王子様らしい。そのうちファンクラブとか出来るかもな。
「お待たせー」
ユーバリーは少しブカブカのメイド服。メイド見習いみたいな感じなので可愛いい。おばちゃん達も微笑ましく見ている。
今の所順調だ。
注文がいつもよりケーキとパンの両方入るので厨房はてんてこ舞いだ。しかし、作ってある数は決まってるので早々に売り切れるかもしれん。数を勘定して並んでるお客さんを止めないとまずい。並ばせるだけ並ばせて、ハイ売り切れてとか申し訳ない。
マクドに数を聞いて、行列の人数を数えて、そこから後ろお客さんにごめんなさいする。
「えー、せっかく並んでたのに。他のメニューもないの?」
マクドに聞きに行く。
「クリームシチューならすぐに出せる。おい、ソフテア、パンを焼け」
「夜に足りなくなるよ」
「カップにシチュー入れて、パン生地を薄く伸ばして蓋にして焼いといて」
と、一つ手本を見せる。
「わ、わかった」
本当はパイ生地だけど仕方がない。
で、行列に人達にクリームシチューとパンならあるけどと伝えたら半分くらい帰った。残った数を数えたら20人。そこから後は売り切れとして、メロンの護衛騎士に立たせておいた。
「ソフテアさん。とりあえず20個。そこで止めたから」
「賄もこれでいいかい?」
「いいよ」
マクドと売値をいくらにするか決める。銅貨10枚で、ワイン1杯も選べる様にしようとなった。
で、これがまた好評だ。ケーキ食ってた客からも注文が入るので慌てて追加で焼いてもらう。
「まだ食うのかよ?」
バレンシア、流石にそれは失礼だ。
「えっ、ダメですか?」
「いや、食わん奴より食う奴の方が好きではある」
おー、バレンシア上手い。
それを聞いた客からも追加注文が入った。
そして最後の客が食べ終わりランチタイム終了。
注文売上結果、1位バレンシア、2位アームス、3位ゼル。ゼルは中盤から運ぶ方に徹したから仕方がない。まんべんなく人気が高いゼルに運んでもらうほうが評判が良かったのだ。男性客はユーバリーにメロメロだった。メロン姫だけに。
これ、猫ミミメイドカフェ、メロメロメロンとかやれば儲かりそうだな。
ランチタイムの王宮カフェは大成功だった。
ソフテアがシチューポットパイモドキを作ってくれている間におしゃべり。
「アームス、俺の勝ちだったな」
「少しの差だろうが」
「はいはい、二人共お疲れ様。言っとくけど今日の接客は正しいものじゃないからね。護衛騎士が雰囲気を盛り上げてくれて、お客さんもそれにノッてくれただけだから。そうじゃなきゃあんな態度と言葉使いで勤まる訳ないから勘違いしないでね」
「シャルロッテ、私は?」
「バリ姉は見習いメイド。つまり子供の遊びみたいに受け止めてくれただけ。まぁ、可愛かったから男向けならあれでもいいけど」
「私人気出そう?」
「猫ミミ付けたらもっと人気でるよ」
そういうとムムムと悩んでいた。
「お待たせだね。これ私も食べた事がないから一緒に食べていいかい?」
「うん、一緒に食べよ」
マクドはめっちゃ緊張してるので隣に座っておく。
「こうやって、上からスプーンでパンを崩して中に入れて一緒に食べるの」
「お、旨いぞこれ」
アームスお気に入り。俺も食べてみるとゼルのクリームシチューより味付けがしっかりしている。ゼルのがおウチの味だとしたら、やはりこれは外食の味だ。ワインを飲むとちょうどいいかもしれない。
(それ美味しいの?)
女神シフォンが話し掛けてきた。
ったく、こんな時に話し掛けてきても答えられるか。
「マクドさん、女神像はどこにあるの?」
と、聞くと厨房に神棚みたいに置いてあったので食べかけだけど供える。
食べかけを供えるのもどうかと思うけどもう無いから仕方がない。
(甘くないけど美味しいわね)
神も食べかけを平気で食うなよ。
そしてデザートとしてシフォンケーキ、マーマレードパン、キャラメルパンを持ってきてくれる
「これはパンにレモンを練り込んだのか」
バレンシアはレモンパンを食べてマジマジと見ながらそういう。
「そう。手軽に食べられていいでしょ」
「これはオレンジでも出来るか?」
「苦味のない柑橘類ならなんでも。グレープフルーツとかはウイスキーとか足して大人味のジャムにすればいいんじゃない」
「お前、冬休みはどうしてる?」
「クインシー様とどっかに行く予定」
「春休みは?」
「未定」
「なら、オレンジに行く予定を入れておけ」
「先のことなんかわかんないからお断り」
「お前は素直にハイと言えんのか。招待してやると言っているのだ」
「だから招待なんてしていらないの。さっさとシフォンケーキを食え。マクドさん達は今から休憩して、夜の準備とかあるんだよっ」
「チッ」
「舌打ちすんな。気分が悪い」
そしてユーバリーは念願のシフォンケーキを頬張った。
「おいひぃ ふはふはへおいひぃ」
「バリ姉。はしたない。護衛が目を丸くしてんぞ」
「確かにフルーツを使ってないのに高貴な食べ物だ」
アームスは驚きバレンシアは黙ってしまった。護衛達にも食べさせたが黙っている。
「マクドさん。今日はいきなりこんな事になってごめんね。ご馳走さまでした」
「いや、めちゃくちゃ売上が上がったからお礼を言うのはこっちだ」
「王宮カフェとか珍しかったからかもね。今日だけの突風だと思ってね」
「わ、わかってる。こんなの普通出来ないからな。今日のバイト代は・・・」
「約束通りでいいよ」
と、銅貨20枚だけ貰ったのをユーバリーに渡す。
「はい、バリ姉が生まれて初めて自分で稼いだお金だよ。大切に取っておいてね」
「うん」
と、ユーバリーは嬉しそうだった。姫様からしたら銅貨20枚なんて無いに等しいけど自分で稼いだ金は重いのだ。
帰り道は俺とよく喋るユーバリーをよそに皆黙って歩いた。今回の出来事はそれぞれに色々な想いを残したのかもしれないな。