王宮カフェ
すいません。書いてる途中でアップしてしまいました。すでにお読み頂いた方は読み直して下さると幸いです。
2022/06/30 10:48訂正済
マグソフ亭が売り出したシフォンケーキと甘いパンは瞬く間に評判になり、ランチタイムは行列が出来るようになっていた。
そしてサバーン商店もマグソフ亭とタッグを組み、キャラメルソース、レモンマーマレード、ハキミツレモンの生産を開始してドンドン売上を伸ばしている。それにつられてラーメンも各地を回る商人が買い求め、商人と個人客が押し寄せている。両店とも人手が足りないとのことで、学園の生徒の良いアルバイト先になった。
シドとアイハンはその斡旋と指導でバイトリーダーとして活躍。
「いちご姫様、お陰でバンバン稼げるよ。将来もこんな仕事出来たらいいのにな」
「じゃ、派遣業をやればいいね」
「派遣業?」
「そう。働き手が欲しい店が自分で探すの面倒だろ?働きたい人もいいバイト先を探す手間も面倒。それをシド達がまとめて受付て紹介すればいいんだよ」
「どうやるんだ?」
「自分で商会を立ち上げたらいいんだよ。学生の間でもできるんじゃない?」
「そんなことができるのか?」
「商業ギルドに行って調べて来なよ。今から起業して軌道に乗ったら就職活動しなくていいし、勉強も面白くなると思うよ。このためにこれを勉強しなきゃって実感するし。やらされる勉強より、やりたい勉強するほうが楽しいし身に付くから」
アイハンはシドより歳上だ。来年成人らしいから起業も可能だろう。二人の馬も合うようでよく一緒にいる。なんとなく将来の構想が固まった事でやる気に満ちて来た感じが見えるな。やりたいことが若いうちから見つかるのはいいことだ。
庶民は16歳からの高等教育は特別なコースのない普通コースに進むことが多いが、アイハンには経済コースを目指せと言っておいた。どんな授業か知らないけど普通コースより役に立つだろう。シドはまだその年齢ではないけどそれに進めるように勉強も頑張るらしい。
冬休み前になりユーバリーの勉強を見てるとちょっと拗ねている。
「機嫌悪いね」
「いつ外に食べに連れてってくれんのよ?」
「だって行列出来てて入れなかったじゃん」
「えーーっ、連れてってくれるって約束したのにぃー」
そう言われてもなぁ、頼んだら行列から横入りさせてくれるだろうけど、それしたくないんだよね。されたら方はムカつくから。
「バリ姉、次の休みの日にバイトしてみる?まかないで食べさせてもらいなよ」
「何すんの?」
「接客。護衛も一緒に働かせたらいいし。バイト代は一人分しか出ないと思うけど」
「ちょっと面白そうね」
「じゃ、明日頼んで来るよ」
と、翌日マグソフ亭の休憩時間に裏口から入って話をする。
「お、姫様いらっしゃい」
「忙しいそうだね」
「あぁ、お陰さんでてんてこ舞いだ」
「次の学園の休みの日に二人バイトに雇ってくんない?ランチ前から夜の休憩前までなんだけど社会勉強させたいんだ。一人は学生、一人は大人だけどバイト代は学生の一人分でいいから」
「そんな条件でいいのか?」
「うん、私が付いて指導する。その代わりまかないとシフォンケーキも出してね」
「お安い御用だ。あとよ、あのケーキの型を増やそうと思ってるんだけどな」
「あれ以上作るの?」
「夜にも出そうかなと思ってな」
「やめた方がいいよ。それ目当てに夜に来られたら客単価下がるから。飯はともかく酒が出なくなると思う」
「ホントか?」
「うん。おばちゃんの団体が来て、シフォンケーキとお茶で居座られたら商売上がったりだよ」
おばちゃんの財布はシビアだ。お茶のお代わりもしないだろうからな。その点酒は違う。長く居てもだらだらと注文が入るのだ。
「わかった。ならやめとくか」
「うんうん、マクドさんの本業は料理だからそっちに注力したおいた方が正解。それにメレンゲ作りで腱鞘炎になるよ」
「それはあるかもな」
「何年後かわからないけど、私がメレンゲ作る機械作ってあげるよ。それまで頑張って」
「そっか。それは楽しみにしてるわ」
戻ってユーバリーの護衛と話をする。
「ユーバリー姫様を庶民の店でアルバイトをさせるなどダメです」
「ふーん。バリ姉、ダメだって。残念だったね」
「ちょっと、何に勝手に断ってんのよっ」
「しかし・・・」
「ゾイド隊長に怒られる?」
「はい」
「じゃ、見なかった事にして。バリ姉は休みの日に私の部屋で勉強するから」
「き、聞いてしまった今はそのような事は出来ません」
それもそうか。
「これ、アームス殿下の命令なら大丈夫?」
「そ、それであれば」
「バリ姉、アームス呼んできて。殿下の命令で社会勉強をさせろとなったら大丈夫みたいだから」
「わかった」
と、正統な姫をパシらせる。
「呼んできたわよ」
「俺に頼み事とか珍しいな。何でも聞いてやろう」
「じゃ、3回回ってワンと鳴いて」
「は?」
いかん、アームスが子犬みたいに喜んで来たからSっ気が出てしまった。
「冗談だよ。バリ姉の護衛に命令して。ユーバリーに社会勉強させろ、それにお前も付き合えって」
と、何も説明せずに命令させた。詳細を言うと自分も付いて来ると言い出しそうだからな。
「はっ、かしこまりました」
これでOkだ。
「シャルロッテが考えたケーキを食べさせてもらうの楽しみっ♪」
こら、いらんことを言うな。
「何だそれは?」
「気にしないで、バリ姉の戯言だから」
「ちゃんと説明しろよ」
「シャルロッテが考えた神様のケーキをバイトしたら食べさせてくれるの」
こいつはベラベラと・・・
「神様のケーキ?メロンのケーキか?」
「メロンとかフルーツは使ってないんだって」
「シャルロッテ、そんな物を作ったのか?」
「ん、ちょっとね。スライサーを買ってくれた第一号店だからサービスしただけ。そこのお店の料理も美味しかったし」
奥さんがフワフワで触り心地が良さそうなのはナイショだ。
「次の休みに行くのか?」
「そうだよ」
「なら俺も行こう」
やっぱり・・・。
「相手先に迷惑だから来ないで」
「どうしてだよ?」
「大国の第一王子なんて来たら迷惑に決まってんでしょっ」
「身分を隠せばいいではないか」
「庶民がそんな喋り方するか。振る舞いがもう偉そうなんだよっ」
「いいから連れてってくれっ」
そう地団駄を踏むアームス。子供かてめぇは?
まぁ、アームスも初めて出会った時より随分と変わって来ているから何とかなるか。しかし、喋り方とか治らんだろうからそれを活かすしかない。
「アームス、パーティーに着るような服持って来てるか?」
「あるぞ」
「それを着て接客しろ。それが条件だ。バイト代は一人分しか出ないからな。護衛は騎士姿で客引き。バリ姉はメイド服を着て接客だ」
「わ、私はともかくユーバリー姫にメイド服を着せるのですか?」
「ダメなら猫ミミだ」
「人前で嫌よっ」
「じゃ、メイド服な」
「そっちの方がいい」
アルバイト当日
「なぁ、バレンシア、お前どこからこの話を聞きつけた?」
「アームスがニヤニヤと楽しげだったからな」
「アームス、お前喋ったの?」
「す、スマン。しかしデルソルにはバレてない」
「あのな、人の上に立とうと思ったら何があっても顔に出さないというのも大事なんだ。顔に出すときは意図してだせ」
「どういう意味だ?」
「相手に忖度させるんだよ。あ、これを言ったら機嫌悪くなるなとか。ニッコリ笑ってべらべらと余計な事まで話させるとか」
「お前怖いな」
「クインシー様もやってんだろ?よく見とけ」
なぜ、王子を俺が教育せにゃならんのだ。
「バレンシア、お前の護衛もメロンの護衛と共に客引きだ。で、お前も接客させるからな」
「かまわんぞ」
王子キャラが両方共俺様キャラか。アンデスの方がタイプが違って良かったな。マシューはプライドが高すぎて無理だ。最後にデレさせたら上手くいくかもしれんけど。
「な、何だ姫様っ。何事だ?」
「ごめん、人が増えた。バイト代は約束通り一人分でいいからシフォンケーキと賄だけお願い。今日だけ王宮コスプレでやりたいの」
コソッ
(まさか本物か?)
(うん)
(ど、ど、どうすんだよっ)
(マクドさんとソフテアさんはいつも通りにしてて、私が何とかするから。ごめんね)
(ぶ、無礼討ちとかされねぇだろうな?)
(そんな事をしたら私がぶちのめすから大丈夫。知らなかった事にしておいて。お客さんにもバレるから)
(た、頼んだぞ)
エライ事になったと青ざめるマクド。ごめん、こんな事になってしまって。
まず、護衛に接客指導。
「下手な事をしたらその場でバイトは解雇する。この場は私が上司だ。良いな?」
「ハッ」
こういう時はきちんと命令された方が騎士達は動きやすい。何かあっても命令されただけだからな。
「お客さんを店に案内するときに外部の王族が来たかのように接すること。<お待ちしておりましたお姫様>相手がおばちゃんであろうとなかろうとお姫様と呼ぶように」
「ハッ、かしこまりました」
で、ユーバリーにはリーリャがご飯を運んで来るようにしろと指示。
アームスとデルソルは注文を聞いて厨房に伝える役だ。
「お前らは口の聞き方と態度をこの場で治すのは無理だからお客さんを姫様と呼ぶだけでいい」
と、それだけを指示して注文の取り方を教える。
ゼルはダンスパーティーの時のように振る舞えと言っておいた。注文取りと運ぶ両方をしてもらう。
アームスとバレンシアにゼルに負けたら恥だなと煽っておくのも忘れない。
さ、上手くいくか心配でたまらんわ。