同級生のお友達
「姫様、学園内ではお言葉使いをその・・・」
「気を付けるよ」
と、ゼルに手を繋がれて登校する。これで柔らかい手なら嬉しいのに。
ゼルはシャルロッテの小さく柔らかい手が嬉しいのか時折キュッキュッとしてくる。こっちは握り潰されるんじゃないかとヒヤヒヤしなければならないじゃないか。
「ごきげんよう」
教室に入ってお嬢様風に挨拶してみた。
ざわっ
(ゼル、なんかおかしかった?)
(姫様は無口でござましたので」)
前まではおどおどと教室に入り、休み時間にはゼルにくっつきに行くような生徒だったそうだ。
「ごきげんよう、シャルロッテ様。春休みの間に少し変わられたのかしら?」
(誰?)
(同国の伯爵令嬢コトカ様です)
「あら、コトカ様。お話ししてくださるなんて嬉しいわ」
「シャルロッテ様、身分が下の者に様付けは必要ございません。コトカとお呼び下さいませ」
「じゃあ、私もシャルロッテでいいわ。学校まで身分の話は無しにしましょ」
「そういう訳には・・・」
「構いませんわ。王族といっても正妻の子供ではございませんし」
ざわっ
(ゼル、なんかまずい事を言った?)
(その事は触れてはいけない話題になっております)
「コトカ、気にする必要はありませんわ。私は気にしておりませんし。それともあなたがお嫌かしら?」
「いえ、そのような事は・・・」
「なら、普通に話して頂戴。私は堅苦しいのが嫌いなの」
と、春休みデビューということで今までのシャルロッテにサヨナラだ。なぜ俺がこんな子供相手におどおどせにゃならんのだ。
「姫様、そろそろお席に」
「ゼル、その姫様呼びやめなさい。あなたが名前呼びして下さると、皆も気を使わなくていいでしょ?」
「しかし・・・」
「また口答えすんのかよ?」
ざわっ
あーっもうっ。地が出るだろうが。
せっかくお姫様らしく話してるのに。
「か、かしこまりました。シャ、シャルロッテ様」
ゼルにはこれが限界か。
最初の授業は算数か。10歳って小学4年生とかだっけ?
先生が黒板に問題を書いていく。
「ではこの問題をコトカ様に」
と、コトカが当てられて前にいく。
「えーっと、えーっと」
問題は3桁を2桁で割る問題。チョー簡単だ。
コトカは算数苦手か?算数苦手な子は割り算あたりでつまずくらしいからな。
「これは前年の復習ですよ?」
「も、申し訳ございません」
「では次の人」
と、机の並び順に当てられ、次もわからないみたいだ。
「では次の・・・」
先生がそこで止まる。次は自分なのだ。
「12です」
ざわっ
ん?
「あの、シャルロッテ様。式は?」
「こんなのは暗算で十分です。あと、教師が生徒に向かって様付けも必要ありません。シャルロッテとお呼び下さい」
「しかし・・・」
「構いません。敬語も不要です。他の貴族は知りませんが私には不要です」
「は、はい。かしこまりました」
この先生、小さくてほわほわして眼鏡で可愛いのだ。ぜひとも仲良くなりたい。
休憩時間にコトカがやってくる。
「シャルロッテがお勉強がお出来になるのは存じあげておりましたが、当てられてお答えになるのは初めて見ました」
(ゼル、前はどんなだったの?)
(もじもじしてずっと黙ったままでございました)
毎回そうなので先生も当てなくなったらしい。
「私、春休みデビュー致しましたの」
「春休みデビュー?」
「長い休みの間に生まれ変わったかのようになることですわ。もう10歳ですし、いつまでもウジウジしてられませんもの」
「まぁ、そうでしたの」
「コトカは算数苦手?」
「はい、割り算から急にわからなくなってしまって」
「じゃ、教えてあげようか?」
「宜しいのですか?」
「学校が終わったら部屋に来る?」
「はい、喜んで」
次は理科。これも余裕だ。
最後は音楽。これはダメだ。うっすらとしか覚えてない。どうか当てられませんように。
と、今日は3限で終わり。というか12歳までは毎日3限か4限で終わるようだ。
「シャルロッテ。もう一人増えても宜しいかしら?」
と、大人しそうな娘を連れて来た。
(ゼル、これは誰?)
(同国の子爵令嬢、アキ様にございます)
「アキです。私もお伺いして宜しいでしょうか?」
「よろしくてよ」
と、4人で一緒に帰り、そのまま宿舎の食堂へ。ゼルから他貴族を庶民の食堂へ連れて行くのはお止め下さいと言われて貴族の食堂へ。
「ゼル、私は部屋で食べますので、あなたはここできちんとした食事を取りなさい」
「し、しかし・・・」
「いちいち口答えすんなって言っただろ?」
「シャ、シャルロッテ・・・。そのお言葉使い・・・」
「あら、恥ずかしい。ゼルは護衛とはいえ、友達みたいな感じなのでついはしたない言葉を使ってしまいましたわ。おーほほほほ」
いい加減、この喋り方しんどいんだよな。
3人は同じ物を頼み食べていた。なぜ肉にイチゴソースをかけるのだろう?
ゼルは俺が食べてないのに自分が食べてるのは肩身が狭いようで可哀想だな。これからここで食べる時はイチゴソース抜きにして一緒に食べるか。
食べ終わると部屋に着替えに行くらしいので、こちらも部屋で着替える。そしてゼルにはポテトを揚げて貰った。
ポテトが揚がり終わる頃、二人はやって来た。
「それは何なのですか?」
「私のお昼ご飯。良かったら食べて」
二人は甘い飲み物を希望したのでイチゴミルク。俺は炭酸とレモンだ。
パクパクと手掴みでポテトを食べると二人は唖然としている。
「どうしたの?たくさんあるから食べていいよ」
「手でそのままですか?」
「ゼル、二人にフォーク出して」
そうか。お嬢様は手摘みなんてしないのか。
「あら、美味しいですわ」
「でしょ?ケチャップ付けてもいいよ」
二人はポテト、イチゴミルクとしょっぱい甘いのコンボにハマったようだ。
で、算数を教えていく。
「そういうことでしたのね」
「そうそう。理解出来たら簡単でしょ?後は同じような問題を何回もやって忘れないようにすることね」
その後は雑談になる。
どの男の子がかっこいいとか、フルーツ4、略してF4の誰がいいとかの話だ。大人しそうなアキもこの手の話題は好きなようで人が変わったかのように話し出した。
「シャルロッテはワイルド様がお兄様なんて羨ましいですわぁ」
と、アキ。
「もう一人の兄、グースはどうかしら?」
「どなたですか?」
第二王子だというのに哀れだな。
この後もどんな結婚がいいとかの話題になるけど全く興味がない。
「ゼル様も凄く素敵でらっしゃいますわよねぇ」
「ゼル、男と思われてんぞ」
「シャルロッテ、ゼル様が女性であることは存じてますわ」
「女同士でもかっこいいとかあるの?」
「はい。大人で優しくて、そこらの男性よりずっと素敵ですわ」
「だって、良かったなゼル。嫁に行かないなら嫁を貰ったらどうだ?」
「な、なぜ私が嫁を貰わねばならないのですかっ」
「だって、お前、硬いじゃん」
「は?」
「ちょっと、お腹出してみ」
「は、はぁ」
と、ペロンと服を捲る。
二人はキャッとか言いながら顔を手で隠す。指の隙間から見てんのバレてんぞ。
「な、この割れた腹。男と変わらん」
「ひ、姫様・・・」
「ミリイとか抱き付いたらふわふわで柔らかくて気持ちいいけど、こいつは岩みたいなんだよ」
と、コンコンとシックスパックをノックする。
「素敵ですわぁ」
コトカはさらにメロメロになってしまった。
「姫様・・・」
「そんな暗い顔すんなよ。護衛なんだからそこまで鍛えたんだろ?それは認めてやるが、触り心地は宜しくない」
「むっ、胸は多少なりともふわふわかと」
「その下が硬いんだよ」
そういうとガクッと項垂れた。
二人はゼルの腹筋を触らせてもらって赤くなってポーッとしたまま部屋に帰って行った。
夜は昨日仕込んだラーメンを食べる。まだまだダメだけど、ちょっと満足した。袋麺に近付けるには麺を揚げないとダメなんだろうな。あとは麺に直接味付けして、すぐに美味しいすごく美味しいにしていかなければ。
その夜、ゼルが添い寝をしてきて、俺の手を胸にやる。
「ち、力を抜いておりますのでお確かめを」
モニュモニュと触ってみる。
「うん、硬い」
そういうとゼルはシクシクと泣いていた。