神の声が聞こえる
「お父さん、ここのステーキ美味しいね」
「そうだろ?父さんのお勧めだ。ここに来たのは随分と久しぶりだけど変わってないな」
「へぇ。思い出の場所?」
「そんなところだな」
「さっきから気になってたのだが、お父さんとはどういうことだ?」
と、バレンシアが聞いてくる。
「メロンのお父さん」
「ハッハッハ。私は独身でしてな。いちご姫様に娘役をやって頂いているのですよ」
「そ、本当の娘の様に可愛がって下さってますわ」
「本当の父親はストロベリー王なのだろ?」
「みたいですね。でももう離籍してますので他人ですわ。あと、そういう話題はデリカシーに欠けますわよバレンシア王子」
「あ、あぁ、そうか。それは悪かった」
みかん野郎はこうして話してるとそんなに悪いやつでもなさそうだな。単なる世間しらずか?
続いてデルソルが話し掛けてくる。
「いちご姫、マンゴーはどのようなデザートになるのだ?」
「だから知らないって。マンゴーはドライマンゴーくらいしか食べたことなかったから」
「干したやつか?」
「そうそう。生のは今日の試食で初めて食べたに近いの」
「オレンジはどうだった?」
「ゼルが皮が口に触るって。中の薄皮を出したら?って言ったらはしたないからダメって」
「他の料理には使えるか?」
「だから柑橘類は使い勝手がいいって言ったでしょ?何なとやってみなさいよ。グレープフルーツとかはある?」
「あるぞ。しかしあれは少し苦いだろ?甘さも少ないし」
「砂糖かハチミツかけたらいいのよ。あとはジュースにするとか。それと蒸留酒とかに混ぜて使うのは柑橘類が一番使える。酸味の強い物はソースに使える。フルーツ単体としては甘さは少ないけど酸味を生かすなら柑橘類が一番。後は自分で考えて」
「メロンは他にあるのか?」
「メロンはやっぱりフルーツの王様と言えるかな。その分料理には向かないと思う。甘さの少ないのは料理にも使えるけど」
レムのお料理教室を見ておいて良かった。
ステーキをもっと食べたいけど、この身体はすぐにお腹いっぱいになるので残りはあっちいけと言われて落ち込んでたゼルにアーンしておいた。
帰りがてら赤と白のワインを購入するジルベスター。ビールも買ってたから飲み足りないのだろう。
宿舎に着いて皆と分かれて部屋に行くとクインシーが扉の前で拗ねていた。
「どこに行っていたのだ?」
「え、ご飯食べに。クインシー様は他の国の人とご飯だったんじゃないの?」
「面倒だから抜け出して来たのだ。今から飲むからなんか作れ」
なんか見たことない酒持ってる。ウイスキーみたいなやつだろうか?
なんかと言われてもポテチ、ポテト、ラーメンと卵ぐらいしかない。後は玉ねぎとか豚バラ。
「ゼル、先に風呂入ってこい。香水臭い」
と、ゼルを風呂に入らせている間に俺が作ることに。俺もリーリャも服を着替えて調理開始。
リーリャに玉ねぎを切ってもらってる間にごく少なめのお湯でラーメンを作る。豚バラを炒めて玉ねぎ投入。そこへラーメンを入れて炒める。なんちゃって塩焼きそばだ。仕上げに胡椒を掛けて完成。
「はい、つまみ代わりのご飯」
「これはラーメンか?」
「焼きそば」
フォークで食べるクインシー。
「おっ、旨いぞ」
「こういうの好きそうだと思ったんだよね」
リーリャは珍しい焼きそばをじっと見ている。
「食べたい?」
「エヘッ」
可愛いから作ってやろう。
もう一度同じ工程を繰り返す。リーリャには胡椒少なめだ。
クインシーはウイスキーっぽいのをグイグイいってるけど大丈夫だろうか?
あ、リーリャも飲まされてる。明日休みだし酔いつぶれてもいいか。
ゼルが風呂から出てきたらじーっと見てるので3回目の焼きそば作り。きみ、俺の肉を半分くらい食ったよね?
そしてゼルも飲まされる。ビールなら俺もというところだが、ウイスキーはあまり飲まなかったから欲しくはない。
「シャルロッテよ。各国のフルーツを食べてどうだった?」
「まぁ、単体なら今の順位は妥当かな」
「将来どこが伸びて来そうだ?」
「甘さ勝負で言えばやっぱりメロンとマンゴーが安泰。伸びて来るのは桃といちご」
「桃?」
「そう。美味しいのが出てきたら今のメロンを抜くかも。ただ扱いがデリケートだから難しいかもね。メロンはもっともっと甘くなるから最高峰同士ならメロンの方が上かな」
「マンゴーはどうだ?」
「んー、最高峰同士ならメロンかな。ただ料理まで含めると負けるかも。マンゴーソースに合う料理は結構あると思うから」
「りんごは?」
「甘さは今ので限界に近いぐらい。単体だと今の順位から上は難しい。お菓子にすると結構上位に来ると思う」
「イチゴもまだ旨くなるのだな?」
「お菓子にも合うからね。ジャムにしたら王道。品質が良い物は生、あとケーキにはメロンより合うと思う」
「そうなのか?」
「甘みと酸味のバランスがあるからね。メロンって酸味ないでしょ?」
「なるほど」
「ただ生に近いデザートならメロンの方が見栄えする。大きいから器に使えるしね」
「器?」
「半分に切って、身をくり抜いたら器になるでしょ?スプーンとかで実を丸くくり抜いて、発泡ワインとかに浮かべたら見た目も綺麗で大人のデザートって感じになるでしょ?」
「見た目か」
「そう、あのコックさんならそういうの上手いと思うよ。シャーベットとか凄かったもん」
「葡萄はどうだ?」
「粒が小さくて種があるから今のままならむり。でもそのうち粒が大きくて種の無い品種とか皮が薄くて食べやすいのとか出て来るといい所に来ると思う」
「しかし、貴様は何でもよく知っているな。それは神託か?」
あ、色々と喋り過ぎた。クインシーは誤魔化せないな。
「そう。神の声が聞こえるの」
「やはりな。おかしいと思ったんだ。貴様は未知の物を知りすぎている。神はお前に何をさせようとしているのだ?」
「美味しいもの供えろって」
「は?」
「今はメロンケーキを毎日供えろってうるさいの」
「それだけか?」
「それだけ。だから今日の勝負の事は本当。雷が落ちた神官は勝手に神の言葉を代弁して違う事を言ったからバチが当たったの」
「あれはそういうことであったのか」
「姫様、なぜ黙っておられたのですか」
「ゼルに言おうとしたら、くすぐったくて聞かなかったろ?」
「あ、あれはそうだったのですね」
「この話は誰かにしたか?」
「してない。今初めてした」
「そうか。なら黙っておけ。教会に狙われる」
「言わないよ。面倒臭くなるのわかってるから」
「神の望むのは本当にそれだけなのだな?」
「平和も望んでるけど、甘くて美味しい物が食べられなくなるのが嫌だからだと思う」
「メロンケーキを供えたら加護か何かあるのか?」
「美味しいって言うだけだと思う」
「加護はないのか・・・」
「変な物を供えたらバチは当たるかも」
「神とは勝手なものだな」
「だよね。だからほどほどでいいと思うよ」
クインシーに神の声が聞こえるという話をしたあと、しばらく飲み続けた3人。
先に寝ようと思って風呂に入ったら乱入された。もうタオルを巻いてなくても気にしない。何度目だこれ?
ふにふにフワフワ欲求はあるけどエロいのはどっかに行ってしまった。毎日自分の身体も見てるからな。
また、ゼルに頭をもがれそうになり、クインシーに窒息させられかけ、寝るときにリーリャの太ももに埋もれようとしたらくすぐったいのか悪魔が乗り移った。
神様、メロンケーキ供えるからリーリャから悪魔を祓ってくれないだろうか?
なんとなく香水臭いゼルをゲシゲシと蹴って向こうにいかせようとしたら、ベアホールドされて身動きが取れなくなってしまった。死ぬ・・・
死ぬならクインシーの胸かリーリャの太ももにしてもらいたい。そう思ったシャルロッテなのであった。




