またやってしまったので逆ギレで乗りきる
「姫様、どうされたんですか?様子がおかしいですよ」
「な、何でもないよ」
ずっと脳内に女神のギャーギャーうるさい声が響いているのだ。ノイローゼになりそうだ。
「ゼル、変になりそうなんだけど・・・」
「お疲れが出たのかもしれませんね。準備も忙しかったですし」
「おんぶ」
と、ゼルにおぶって貰った。そしてコソッと耳打ちする。
(あのね)
「ウヒャアっ。く、くすぐったいです。落としちゃいそうだから危ないです」
(話があるんだよ)
「ウヒャヒャヒャっ」
ダメだ。こいつに耳打ち出来ん。
仕方がないのでこのまま試食会場に向かった。
会場には貴族しか入れないと言われたが、ゼルもリーリャも貴族だから問題なし。
会場で降ろしてもらって試食していく。
オレンジから食べてみるか。
うん。少し味が薄いけど元の世界と似たような味だ。なぜここまで点数が低いのだろう?
「ゼル、オレンジ美味しいよね?」
「そうですね。ただこの薄い皮が口に触ります」
「そう?だったら剥けばいいじゃない」
「面倒であります」
実だけ食べて薄皮を吐き出せば?と聞いたら貴族はそんなはしたない食べ方をしませんと言われた。
次は葡萄。粒が小さいな。巨峰とかあればいいのに。甘さは結構あるけど種ありデラウェアって感じ。しかも吐き出してはダメだから種ごといかねばならない。点数が上がらないのはこれが原因か。葡萄そのものは庶民には出さないけど、ワインにしたら出してもいいのは不思議だね。
「ワインは庶民にも出せるんだね?」
「はい。ワインは神の恵みと言われていますので万人に与えられるのです」
とリーリャが説明してくれた。
さっきからずっとケーキを供えてよっと声が聞こえる。めっちゃうるさいけど無視だ。自分で神託しろよ。俺は神の代弁者じゃねー。
続いて桃。
あ、皮ままいくんだ。よくそんなしゃごしゃごした毛を口に入れるよね?めっちゃチクチクしそうだ。
よく熟してそうなのを選んで皮を剥いて齧ると確かにあまり甘くない。
「姫様、桃は皮まま食べた方が美味しいのですよ」
「ゼルは庶民だったのにフルーツを色々食べた事があるんだね?」
「えっ、あっ、し、試食で食べた事があるのです」
前まで庶民だったのにこの試食で食べられたのだろうか?まぁいい。
リーリャは初めて食べるようで風味は美味しいけど甘みが足りませんと言っていた。
リンゴは元の世界に近いぐらい甘い。なるほど元代表国だけの事はあるな。しかし、リンゴそのものの甘さはこれ以上上がらんのかもしれん。お菓子にしたら色々使えるのに。
(本当?もっと美味しくなるの?)
なぜ心が読まれた?無視だ無視。
で、イチゴも一応試食。今まで食べてきたものより大きくて甘い。いいのを選んできたんだな。しかし元の世界のはもっと甘いのあったな。これからまだ伸びるだろう。
「練乳かけたいですね」
とリーリャが言う。
(練乳って何?それ美味しいの?)
無視だ無視。
で、マンゴー。
「おっ、確かにマンゴーは甘いね」
「そうですね。驚きました」
「うん、甘いです」
(これは他に食べ方あんの?)
「知らんっ」
あまりにも女神がうるさいのでそう叫んでしまった。
ザワッ
リーリャが甘いですと言った時に知らんと叫んだので、周りの人からマンゴーを否定したように取られてしまった。
「おや、マンゴーに何か不満でもあるのか?」
あ、デルソル王子が近くにいやがった。
もぅ、なんてタイミングが悪いのだ。
「いえ、美味しいでございますわ」
「その赤髪、お前いちご姫だろう?」
なんで知ってんだよ?
「ストロベリーからメロンに移ったそうだな?今度はマンゴーに鞍替えするつもりか?」
「は?」
「その歳で世渡り上手な奴だ」
カチン
「何のことだよ?」
「ふんっ、メロンが一番であったのは昨日までのこと。今日からはマンゴーが一番だ。次の代表国もマンゴーになるだろう。その時は私が代表国の王ということだ。鞍替えしようたって無駄だぞ」
「はっ、神様はメロンケーキが一番美味しいと言ってたんだ。それを勝手に違うと言った神官はバチが当たっただろうが。勘違いすんな」
「貴様は何を言っているのだ?」
あっ・・・
つい鞍替えとか言われて反論してしまった。
「いえ、何でもありませんわっ。オーッホッホッホ」
(ねぇ、そこのメロンケーキを供えてよ)
誤魔化すのにメロンケーキを持ってその場を離れる。女神がうるさいので特設像の所に供えた。
パンパンと柏手を打って供える。
「ご所望のメロンケーキです。どうぞお召し上がり下さい」
(うんうん、めっちゃ美味しい。明日も供えなさいよ)
無理だ。俺にこれは作れん。
「おい、貴様。何これみよがしにメロンを供えたのだ。勝ったのはマンゴーだ。供えるならこれだろうが」
デルソルもうるさいので無視だ。
供えたケーキを食べるとより洗練されて美味しかった。あのコック、まだ改良続けてたんだな。これで負けたならさぞ悔しかっただろう。
「さ、ゼル。試食も終わったから帰ろうか」
「おい、貴様、何を無視しているっ」
と、肩を掴まれた。
「Don't touch me!」
「なんだそれは?」
「触んないでってことよ。気軽に私に触らないで」
「ガキのクセに何を言っておる。私はマンゴーの第一王子だぞっ」
「デルソル殿下、姫様におやめ下さい。大国の王子とあろうお方がなさる事ではございません」
「うるさいっ」
止めに入ったゼルをドンっと突き飛ばしたデルソル。
プチっ
「何やってんだゴルァァァっ!」
「姫様、いけませんっ」
↓→K ライジングニーっ!
ガスッ
「グハッ」
あっちゃあと、顔を押さえるゼル。
しまった。こんな観客のいる所でやってしまった・・・
「・・・ゼル、怖かった。テヘッ」
「姫様、手遅れです」
はい、ソウデスネ。
わぁ、マンゴーの護衛に囲まれたよ。どうしよこれ。
「きっさまぁぁ」
起き上がったデルソルがめっちゃ怒ってる。こいつプライド高そうだし、そりゃこんな反応になるか。こういうときは女を武器にしないとダメだな。
「きゃーーーーっ!犯されるうぅぅぅ」
「なっ、何を言い出すのだっ」
「マンゴーの王子に公衆の面前でイタズラされるぅぅぅ。この人ロリコンだわぁっ」
「やめろっ」
「自分が一番だから言うことをきけって無理矢理襲われるされるぅぅぅ」
「やめろと言ってるだろうがっ」
と、デルソルは俺の口を塞いで担ぎ上げその場から離れた。
「こんな所に連れて来てどうするつもりよっ。きゃーーーーっ」
「やめろと言ってるだろうがっ」
とまた口を塞がれた。
「おやめ下さいっ」
と、ゼルが割って入る。
「またゼルに触ったら次はジャンピングニーだけでなくコンボを食らわすからね」
「きさまっ」
「デルソル、ゼルは女だ。その胸を触った責任をどう取るつもりだ?ゼルを公衆の面前で辱めやがって」
と、逆ギレをかます。
「女?」
「そうだ。硬いとはいえ、胸は少し柔らかっただろ?お前は公衆の面前でゼルの乳を揉んだのだっ。この落とし前どうしてくれんだよ?」
「も、揉んでなぞおらんっ」
「いーや、むにゅっとしたね」
(ゼル、泣け。乳を揉まれたと泣けっ)
「ひ、姫様っ。私は無理矢理・・・辱めを」
「ほーら、みろ。ゼルは襲われそうになって怖くて泣き出したろうが。どうしてくれんだ?ゼルは乙女なんだぞ?これで嫁の貰い手が無くなったらどうすんだ?ゼルはメロンの王宮騎士だぞ?その意味わかってんのか?」
「し、知らんっ」
デルソルは焦っている。よし、形成逆転だ。
「マンゴーの護衛諸君。君達の王子は他国の女王宮騎士においたをしたのだ。この意味はわかるな?このことをどうマンゴーの王に報告する?こちらは本日王宮騎士隊長並びにクインシー王妃が来ている。私が報告をしたらどうなるだろうね?」
「お、お待ち下さい」
「待ったらどうなる?」
「そ、それは・・・」
「こちらの要求を飲め」
「どのよう事でありますか」
「デルソルに学園内でアームスに偉そうにさせないこと。それとさっきの事は遊びでじゃれ合った事にすること。それだけで許してやる。それかデルソルはゼルを正妻とするのでもいいけどな。男として責任取るか?その代わり他の妻や愛人を作るの事は許さんがな」
「姫様っ。私は嫁になぞ行きませんっ」
「だって、貴様ふられたな。ま、お前にゼルはもったいないから嫁に貰う話は無しだ。護衛、さっきの条件でいいな?」
「か、かしこまりました」
ふぅ、なんとか乗り切った。
「お前は何者だ?」
「ん?ストロベリーからメロンに鞍替えしたしたたか者だ。それとマンゴーは旨かったよ。ケチを付けた訳じゃない。旨いフルーツを作ろうとした努力がよく分かった味だった。だが作ったのはお前じゃない。生産者に感謝しろ」
「な、何を・・・」
「試合はマンゴーの勝ちだ。しかし神が望んだのはメロンケーキだ。それは理解しておけよ。アームスは試合には負けたが勝負には勝ったんだから偉そうにしてやんなよ」
「どういう意味だっ」
「神がメロンケーキを供えろってうるさいんだよ」
俺の剣幕に呆気に取られたデルソル達はそれ以上何も言えなかった。
シャルロッテは公衆の面前で王子をぶちのめした事をなんとか乗り切り、その場を引き上げたのであった。