腑に落ちる
「あいつは一体何なんだ?」
「通称いちご姫。元ストロベリー家の姫だ。今は離籍して俺の母親が後見人をしている」
「クインシー王妃が後見人?なんだそれは」
「母上が決めた事だ。あの二人はとても仲がいい。実の子供の俺たちよりな」
「で、アームスの婚約者とは嘘なのか?」
「残念ながらな」
「残念?あんなチビのどこがいいんだ」
「お前には関係ない話だ。もしお前が興味を持っても無駄だぞ。既にお前は見限られたからな」
「はぁ?」
「シャルロッテはオレンジを庶民に売ろうとしてたんだよ。が、もうどうでもいいと言った。お前は見限られたんだよ」
「庶民にオレンジを売るわけがなかろうが」
「それでいい。もうあいつと関わるな。ムカつかせたらぶっ飛ばされるぞ」
「あんなにチビにぶっ飛ばされるかっ」
「俺はぶっ飛ばされたけどな。その後半月ほどうちの王宮で暮らしてたが全くといって言いほど口をきいてもらえなかった。最近ようやく普通に話してくれるようになったぐらいだ」
「メロンの第一王子が口をきいてもらえない?無礼ではないのか?」
「あいつにそんな物は通用しない。何か言おうもんなら説教されて終わりだ。その説教も言い返す事が出来んぐらいやり込められる。なぁ、マシュー」
「殿下、うるせぇでございます」
「こいつも説教食らって涙目になってたからな」
「余計な事を言うなっ。でございます」
「あと、あいつの護衛のゼルは強いぞ。お前の護衛とは比べもんにならんから絡ませるな。ゼルはうちの王宮隊長とも互角にやりあう腕だ」
「ふん、大げさな」
「信じんでもいいか、シャルロッテに絡むなよ。見限られたお前が絡むと次はぶっ飛ばされるからな。身分を盾にするとうちの母親も絡んでくる。ややこしくなるからやめとけよ」
アームスはそう何度も念を押した。それが却ってバレンシアの興味を刺激したのであった。
「今日はもうジャムは売り切れたから勧めないでね」
と、パンケーキ屋に伝えておく。
「え?まじで。こっちも売上落ちるじゃん」
「売る数決まってるから仕方がないじゃない。あれ作るの時間がかかるんだよ」
「えー、何とかしてくれよ。もっと売れると思って仕入れ増やしちゃったんだよ」
「明日は売るよ。今日と同じなら午前中で売り切れるけど」
「参ったなぁ・・・。これじゃ赤字だよ」
しょんぼりするパンケーキ屋。これだけ頑張ってて赤字はちょっと可哀想か。
「しょうがないな。代わりの物をなんか作って来てやるよ」
今から簡単に出来るのは練乳だ。しかしパンケーキに練乳ってのもなぁ。
と、レムのお料理教室を見ていくとキャラメルソースがあった。ん?練乳とキャラメルって同じもの?
「ゼル、帰ってキャラメル作るぞ」
「キャラメルってなんですか?」
「練乳だ。さ、急ぐぞ」
入れ物がないので出来たキャラメルソースをボウルに入れていく。パンケーキにオプションで掛けてやればいいだろ。
少し遅くなったけど大丈夫かな?
「ほら、代用品作って来たぞ。オプションで金取って。その代金は私のだからね」
「なんだこれは?」
「キャラメルソース。そのパンケーキをちょうだい。組合せたの食べてないからどんな感じかわかんない」
と、サービスで3人分貰う。うむ、悪くはないな。
「姫様美味しいです」
「シャルロッテ様。すっごく美味しいです」
「だって、結構甘いからこれくらいしか掛ちゃダメだよ。それで銅貨1枚は取ってね。それでも利益出ないぐらいだから」
「助かったよ。お礼はするからな」
「楽しみにしてるね」
別にお礼なんていらないけど、まあ、気持ちを断るのも悪いしな。
ゼルとリーリャが旨そうに食ったのでパンケーキにキャラメルソースは飛ぶように売れて行った。
パンケーキを見てたらお好み焼きが食べたくなったので晩御飯はお好み焼き。元の世界のお好み焼きとは材料が色々足りないけどいいか。
早めに戻ってゼルにレシピを説明していく。
「あんまり混ぜちゃだめだよ。ざっくりねざっくり」
ソースの代わりにケチャップとマヨ、カツオ節も青のりも無いお好み焼きは物足りないなけど、なんか懐かしい。
「甘くない野菜の入ったパンケーキみたいですね」
「そう。そんな感じ」
と、食べてるとクインシーがビールを持ってやって来た。ユーバリーとジルベスターも一緒だ。
来ると思って用意したら来ないし、来ないと思ってたら来る。世の中こんなもんだ。
ユーバリーの部屋に移動するのも面倒なのでぎゅうぎゅうに座って食べる。ゼルは大変だ。フライパンで焼いてるから焼けたしりから次のを焼かねばならないのだ。
「お父さん、唐辛子を掛けても美味しいよ」
と、よりビールに合う食べ方を教えるとクインシーとジルベスターはモリモリ食べて飲んだ。
「シャルロッテ、お前オレンジの奴と絡んだそうだな」
「アームスに聞いたの?」
「あぁ。で、オレンジを売る交渉はするのか?」
「いやしない。あのバレンシア王子が気に食わない。もうオレンジはどうでもいいわ」
「フルーツを売るのはどうするのだ?」
「もう面倒だからいま売ってる物をお菓子にする。レモンのジャムもハチミツレモンも高くても売れる事が分かったし、キャラメルソースでも何でもいいや。みんな甘いの嬉しそうに食べてたから」
「キャラメルソースとはなんだ?」
「練乳をもう少し香ばしくしたような感じ。サバーン商店と話して誰かに作って貰うよ。レシピ代だけ儲けてもいいし」
「売れそうか?」
「今日、パンケーキに付けて売ったら売れてたから大丈夫だと思う。こういうの増やして行けば何もせずにお金入ってくるから将来店を持てるかな?」
「そうか。着々と進めているのだな」
「独り立ちしないとダメだからね。もうバレンシアみたいな奴と絡むの面倒だからフルーツは一旦ヤメ」
「メロンが売れるようになったらどうする?」
「メロン王国が直で売ったらいいんじゃない?どうせまだまだ先の話しでしょ?」
「そうだな」
「まずはメロンの庶民が食べられるようになってからだからね。他に売るのはそのあとでしょ。まぁ、フルーツが庶民に出回る前に甘いお菓子がでまわればフルーツはそこまで珍重されなくなるかもしれないけど」
「甘い菓子か・・・」
「みんな甘いの好きだね。どうしてお菓子を作ろうとしないのか不思議で仕方がないよ」
クインシーはやはりシャルロッテの発想は我々と違うと思った。常識が違い過ぎると。
庶民が大々的に甘いものを作ろうとすると貴族に睨まれる可能性があるからやろうとしない。が、貴族のシャルロッテがやるのであれば誰も何も言えない。これからはシャルロッテが中心になってお菓子というものが発展するだろう。それがフルーツに取って代わる可能性もある。
神はそれを望んでおられるのであろうか?それであれば止めることも出来ん。アンデスとユーバリーは貴族たちを納得させられるだろうか?自分か王が強権発動すれば可能だが国が荒れる。子供達が継いだときにしこりを残すからな。
良くも悪くもシャルロッテ次第ってとこか。
「シャルロッテ、こっちへ来い」
クインシーはシャルロッテを胸元に抱いて頭を撫でた。
「好きにするが良い。何かあっても私が後始末は私がやってやる」
自分が大国の王妃となったのも神の思召かもしれん。私の役目はシャルロッテを守る為のもの。ゼルが強さを身に付けたのもそうかもしれんな。全てはシャルロッテが何かを成す為のものであろう。
そう思うと今までの出来事がストンと腑に落ちたような気がした。




