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硬い

「じゃ、風呂に入ってくるから」

 

「お背中を」


「いらない」


毎回毎回こいつは・・・。ミリイが言ってくるなら喜んで一緒に入るのに。


風呂に入る時にもう目はつぶってはいない。エロい目で見なければ大丈夫なようだ。というか、こんな子供ボディを見てもなんとも思わん。ヒンヌーにも程がある。


と思うと心がチクチクする。シャルロッテが怒ってるのだろうか?


風呂から出て脱いだ服と下着を乾燥機付洗濯機へポイポイと入れる。


「ゼル、鎧をずっと着ているのか?ここはそんなに危ないのか?」


「いえ、宿舎は安全でございます」


「なら、もうそれを脱げ。いい加減うっとおしい。それにここの風呂はお前も使うんだろ?さっさと入ってこい」


というと、寝室に行ったので自分も寝室へ。


ゼルも友達みたいに接してくれるならいいけど、ずっと敬語で気を使われているのはしんどいのだ。


しかし、暇を潰す物が何も無いな。ゲームからこんなに離れるのは初めてゲームに触った時から初めてではないだろうか?


何もする事がなくボーッとしているといつまでたっても風呂の音が聞こえて来ない。


なにやってんだあいつ?


リビングに出ても姿はない。もう寝たのだろうか?


そう思っていると、ゼルの寝室からシクシクと泣く声が聞こえてくる。


なにやってんだあいつ?


放置しようかと思ったが、これからもあいつはずっと俺と一緒にいるのだろうから、気にはなる。従者とはいえルームメイトだからな。


一人暮らしにすっかり慣れた自分に取って他人と一緒に暮らすのは面倒だ。その上、人知れず泣いてるとか気分が悪い。



コンコンっ


「はっ、はいっ」


「ゼル、入るぞ」


カチャと扉を開けるとやっぱり泣いていた。


「何泣いてんだよ?」


「な、泣いてなどおりませぬ。これは目汁にございます」


目汁ってなんだよ?


「誤魔化すな。メソメソ泣かれたら鬱陶しいんだよ」


「も、申し訳ございません」


「鎧も脱げと言ったろ?」


「は、はい。申し訳ありません」


と、カチャカチャと鎧を脱ぐゼル。


ん?


胸?


えっ?


「ゼル」


「は、はい」


「お前、女だったのか?」


「はい、そうです。それすらもお忘れでございましたか・・・」


なんだよ、こいつ女騎士だったのか。


イケメンかと思ってたが、確かに良く見ると女の顔立ちだな。そう思うと急に美人に見えてくるから不思議だ。


「早く言えよ。ずっと男だと思ってただろ」


「申し訳ございません」


「謝るのはこっちの方だ。記憶が無くてスマン」


10歳の少女に似合わない謝り方をする。


「いえ、姫様に謝って頂くことなどございません」


「とりあえず風呂に入ってこい。俺は何も覚えてないから、学校の事とか色々教えておいて欲しい。風呂から出たら話そう」


「かしこまりました」


と、ゼルは風呂にいってすぐに出て来た。


うおっ、湯上がり美人か。泣いた顔が憂いで艶めかしい。男フィルターが無くなるとこうも見え方が違うのか。


「で、なんで泣いてたんだ?」


「あの、その・・・」


「いいから、遠慮無く話せ」


「姫様があまりにもお変わりになられて、その・・・」


「倒れる前はどんなんだったんだ?」


「その、もっと、大人しいと申しますか、ウジウジとかモジモジっとか、私のそばを離れない姫様でございました。他の方には心を開かず、私にだけ笑顔を見せて下さるのがその・・・」


なるほど、自分にしか懐かない美少女に保護欲を存分に刺激されてた訳か。


「で、あまりにも違う性格になって寂しかったのだな?」


「はい」


「仕方がない。添い寝は許してやろう」


「本当にございますか?」


「その代わり触られても文句を言うなよ?」


「も、もちろんでございます。いつも抱きつかれてお眠りになられていましたのでっ」


ムホホホホッ、これは役得。男だと思ってたのが女。しかも美人騎士だ。これは嫁候補の中にちゃんと入っているのだ。


「では、泣き止め。もう寝るぞ」


「はいっ」


と、ワクワクしながらベッドに入る。


男と思い込んでいた奴に抱き着くのは少々抵抗があるが、これは女同士。何も問題はないのだ。


布団に潜りこんで、エイッと抱き付くとゼルもギュぅとしてくる。


ムホホホホッ、至福・・・・?


ん?硬い・・・?

ミリイみたいにフワフワしていない。


「ゼル、女なんだよな?」


「は、はい」


「防具かなんか付けてる?」


「い、いいえ」


パチっと電気を点けて、上のパジャマを捲り上げてみる。


「な、何をなさるのですかっ」


oh! 割れてる・・・。見事なシックスパックだ。


腹をコンコンと叩いてみる。


「ど、どうされましたか?」


「手を見せて」


と、手のひらを見せて貰うと剣を振っているからか豆だらけのゴツゴツした手だ。


そして、あちこち触ってみる。が、二の腕すらふにふにしていない。どこもかしこも硬いのだ。


ムニュ


「きゃっ」


胸は柔らかいけど、その下が硬い。


「おやすみ」


「え?」


こんなの男と変わらん。こういう女性が好きな人もいるだろうが、俺はダメだ。女の子は柔らかくないとダメなのだ。


「ひ、姫様?」


「さっさと寝ろ」


シャルロッテはワクワクドキドキを喪失し、ふてくされて寝たのであった。



翌朝


「な、何を怒っていらっしゃるのですか?」


「期待外れだ」


「え?」


「いや、別にいい」


女騎士が魅力的なのは二次元だけか。現実はこうなんだな・・・


シャルロッテの嫁候補から女騎士は除外された。



「制服はこちらです」


と用意されたのを着るとまさに学園物の制服。とても可愛い。こんな物を着る趣味はないが、鏡の中のシャルロッテはモニターを見ているようなのだ。


「朝食はいかがなさいますか?」


「トーストだけでいい。ジャムは塗るなよ。毒見もいらん」


さっさと食べて学校へ行くことに。今日は始業式だけらしい。


鎧を着ようとするゼル。


「鎧なんていらないだろ?」


と、シックスパックの腹をコンコンと叩く。残念だ。非常に残念だ。なぜこんなに硬いのだ。


「姫様?」


「行くぞ」


結局、昨晩は学校の事を聞きそびれた。ゼルが女だと分かって一緒に寝るのを優先したのにゴリゴリ女だったのだ。


学校に向かう道すがら話を聞く。


どうやら、新学期でクラス替えがあるようだ。勉強内容は12歳までは基礎学習。13歳から15歳までが専門課程の基礎。16〜18歳までが専門的なコースを選択してより深く学ぶらしい。


「え?魔法コースなんてあるの?」


「はい。才能が無ければ進めませんが」


他は帝王学やら経済、植物育成、畜産、錬金術、剣術、体術とか色々あるようだ。


これは魔法か錬金術だな。


「姫様は帝王学か植物育成に進んで貰います」


「なんで?」


「王族だからでございます」


「それは決まり?」


「いえ、そういうものなのです」


「ふーん」


黙って違うコースを選択しよう。


ベリーベリーは帝王学コースに進んだらしいし、ワイルドも来年そうなるようだ。グースもそれを選ぶだろうとのこと。ラズは不明。あの娘は何を考えているかわからないそうだ。


シャルロッテに表だって意地悪していたのはグース。裏でいじめてたのはベリーベリー、ワイルドは完全無視。ラズは時々イタズラをしてくる程度だったみたいだ。


始業式の会場に入ってしばらくしたらワイルドが入って来た。


「きゃー、ワイルド・ストロベリー様っよ」


と女生徒が騒ぎ出す。


「ワイルドって人気あるの?」


「そうですね。わが国はフルーツ連合で3番か4番目ぐらいの地位がありますので」


へぇ。


また歓声が上がる。


「あれは?」


「マンゴー王国、デルソル王子です。マンゴー王国は現在2番手でございます。近年急速に力を付けて来られた国です」


「そして、あちらがアップル王国のフジ王子。以前までは代表国でありましたが現在はわが国と同じぐらいのお立場でしょうか」


その時に一際大きな歓声が上がり、ワッと女生徒が集まったのでよく見えない。


「ゼル、ちょっと肩車して」


「はいっ」


ゼルは喜んでひょいと肩に乗せてくれた。さすがゴリゴリ女だ。シャルロッテの小柄ボディなんて余裕で持ち上がるんだな。


「あちらは現代表国のプリンス、アームス様でございます」


「なんて国?」


「メロン王国でございます」


メロン王国のプリンス。


プリンスメロン・・・。真桑瓜だな。


「メロン王国、マンゴー王国、アップル王国、ストロベリー王国の第一王子はフルーツ4、略してF4と呼ばれており、次期フルーツ連合の代表国の王様はこの中から選ばれる可能性が高いのです。私は姫様がなられると確信しておりますが」


F4・・・。どこかで聞いた事があるな。


そして肩車されたまま見回すとベリーベリーにも男連中が集まり、ニコニコと笑っている。えーっとグースは・・・。あ、誰にも囲まれてない。王子だからといってモテるわけではないのだな。ラズも男連中に囲まれていた。


「ベリーベリーもラズもモテるみたいだね」


「姫様もきっとモテててますよ」


「誰も近寄って来ないけど?」


「その、姫様は人見知りというかなんというか、怖がりでございますので・・・」


ゼルの言い方からすると、気を使ってくれているのか、腫れ物扱いされているのかどちらかだな。


「友達とかいる?」


「それはその・・・」


はいはい、ぼっちって訳ね。

シャルロッテは今までゼルにべったりだったみたいだしな。


ゼルにおろして貰って退屈な始業式を終え、クラスに移動するも誰も話し掛けて来なかった。


「ゼル、帰ろうか」


「はい」


と、手を出してくるゼル。いつもこうやって手を繋いでたようだから手を繋いでみる。


硬い・・・


「もう10歳だから、手はいい」


そんなゴツゴツの手と繋いでも嬉しくないのだ。


しょんぼりするゼルに街へ買い物に行こうと言うと少し喜んでくれた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これ、めっちゃ面白いですね!テンポの良いセリフ回しがクセになります!
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