あの話は本当だった
「ゼル、学校の職員室に寄ってから帰るよ」
「先生の所に行くのですか?」
「うん。謝りにね」
「はい」
「先生いますか?」
「シャルロッテさん、もう体調はいいの?」
「今日はイライラしてて八つ当たりしてしまいました。ごめんなさい」
「いいのよ、いいのよ。わざわざ謝りに来てくれたの?シャルロッテさんは本当にいい子ねぇ」
と抱き締めてくれた。ヒンヌー呼ばわりしてごめんなさい。
「落ち着いたら少し話を聞かせてくれれる?」
と、別室に連れて行かれた。
「あらぁ、そんな事があったの」
「はい。だから、みんなヒソヒソ話をしてて、いつもなら気にならないんですけどなんかイライラして、先生にまで八つ当たりしてしまいました」
「シャルロッテさんは順調に成長している証拠ね。先生はこういうことに慣れていいるから気にしないでね。今度イライラしたら言ってね。先生で良かったらギュッってするからね」
「ありがとうございます。話は変わるんですけどいいですか?」
「何かしら?」
「飛び級の試験を受けるつもりなんですけどどうしたらいいですか?」
「じゃ、先生が申し込んでおくわね。年明け早々になるけど日にちが決定したら教えるわね。将来はどのコースにいくつもり?」
「錬金術コースと魔法コースです」
「あら、2つも選ぶなら、相当頑張らないとね。魔法は使える?」
「よくわかりません」
「なら、魔力を先に測っておく?それでダメなら錬金術コースに絞れるでしょ?」
「じゃあお願いします」
と、魔法コースの先生を呼んで来てくれた。
場所を移動して測定器の所へ。
「シャルロッテくんは非常に優秀だときいておる。が、魔法は生まれ持った物がどうしても必要じゃ。これでここまで魔力が来なかったら諦めた方が良い。成長とともに魔力も伸びるが現段階でここまで来なかったら望みは薄い」
と、仮装大賞の点数が伸びて行くような奴を指さした。概ね1/5くらいの所が最低ラインのようだ。実際の試験は1/3くらいまでの所が合格ラインだそうだ。
「ではここに手を置きなさい」
と、言われた通りに手を置く。
プッププププププ・・・・・ボヒュン
「な、なんじゃこれはっ」
「ダメでした?」
「いや、ちょっと待ちなさい」
と、先生は慌てて走って行った。
「ゼル、どうなったかわかる?」
ゼルは青ざめていた。クインシーから成人するまで魔力を測らない方がいいから錬金術コースを先に学ばせろと言われていたのを失念していたのだ。今の計測器の魔力数の上がり方をみてしまったと思い出したのだ。
「姫様、申し訳ございません。クインシー様の言いつけを失念しておりました。少しまずいかもしれません」
「どういうこと?」
「姫様の魔力は異常である可能性が高い。それがバレると余計な事に巻き込まれるから成人するまで魔力を測るなと言われておりました」
「俺、魔力高いの?」
「はい。計測器を振り切る程に」
「ゼルは魔法の事に詳しいんだね」
「あ、はい。昔魔法使いに憧れた時に調べまして」
「そっか。魔法って憧れるよね。そっか、俺魔力あるんだ」
これは嬉しい。魔法こそがファンタジーだからな。
「俺さ、青髪の魔法使いの女の子が好きなんだよ。ゼルの髪の毛を脱色したら青髪になるかな?」
「えっ?」
「好きなタイプがね、青髪でロリ顔の魔法使いなんだ。ゼルはロリ顔じゃないけど、紺色の髪だから脱色したら青になるんじゃないかなぁって。魔力も測って見たら?魔法使いなら条件2つも満たすよ」
「いっ、いゃ。あの魔力無くて剣士になった訳で・・・」
「そっか。それは残念。髪は脱色してみる?」
「い、いえ。このままで結構です」
「青髪になったらいっぱい撫でてアゲルヨ?」
むむむむと悩んで断られた。
用意がデキたから個人の研究室へ移動する。
「シャルロッテくん、こ、これに血を1滴くれんかね」
「先生、姫様のことですが、ここでの事は内密にして頂きたい」
と、ゼルが申し出た。
「内密に?」
「姫様は一度を命狙われております。これ以上、危険に晒したくはないのです」
「暗殺かね?」
「はい。姫様は多才であられます。そのうちに争奪戦が起こるやもしれません。これに魔法の才能が発覚すればさらに狙われます」
「なるほど。了解した。しかし、測っておいた方が良い。後は魔力制御の技を身に着けておかないと暴走するやもしれんぞ」
「かしこまりました」
と、針で刺して血を出す。
そして計測された物がモニターみたいな所に出た。
【魔法使いランク】賢者
「け、け、賢者だとっ」
ゼルはシャルロッテが今は無き魔法国家マジマジアの正統後継者である自分より上の魔法使いであることに驚愕した。ゼルのランクは大魔法使いなのだ。賢者は伝説の存在。ゼルが知る限り神話の中の話なのである。
魔法コースの先生が神妙な顔をする。
「シャルロッテ様。魔法の真髄を追い求めて下さいませ。これはあなた様しかできないことでございます」
先生がいきなり敬語になり、魔法の真髄を求めろと言い出した。
「どういう意味?」
「賢者とは魔法使いの頂点。というよりほぼ神の領域なのです。実在するとは信じられません」
あー、おそらく、前世でやらずに30歳で賢者になるというのは異世界に行ったらの話なのか。これ本当だったんだな。
「俺って異常?」
ゼルにそう聞いてみる。
「はい。とてもまずいです。フルーツ連合の中の話で済まなくなりました」
「どういうこと?」
と、ゼルに聞くやいなや、いきなり抜刀する。
「御免っ」
わっ!
ゼルが先生を斬ろうとする。
ヤバイっ
シャルロッテは先生に体当たりして突き飛ばした。
ギインっ
ゼルは飛び込んで来たシャルロッテが目に入り、なんとか剣の軌道を変えた。そして無理矢理軌道を変えられた剣が賢者と表示した測定機に当たり真っ二つに切れてしまった。
「何やってんだよゼルっ!先生にいきなり斬り付けるとはどういうことだっ」
「このことが外部に漏れると姫様を巡って戦争になるかもしれません」
「は?」
「もしくは確実に命を狙われます。賢者を敵に回すと勝ち目がなくなりますので。強大な魔法使いは常に暗殺の危険にさらされます。姫様は魔法コースに進むのを諦めて下さい」
ゼルから殺気が溢れ出て止まらない。
「お斬り下さいませ」
「先生も何を言ってんだよっ」
「お付きの方のおっしゃる通りでございます。私は秘密を漏らすつもりはございませんがお斬りになられた方が安心でしょう。私は賢者様に会えただけで人生に満足致しましたゆえ、ご遠慮なく」
「何言ってんだよ。こんなことで死んで欲しくないし、ゼルにも人を殺して欲しくないっ」
「しかしっ」
「分かった。なら俺が死ぬ。自分の為に罪の無い人が死ぬのもゼルが殺すのもまっぴらだ。俺は元々いらない子だったしな」
ゼルは本気だ。殺気が尋常じゃない。元々俺は死んだ身。シャルロッテも同じ。神の不始末を勝手に押し付けられただけの話だ。
シャルロッテはバタフライナイフを出して自分の腹を刺した。
「姫様ーーーーーっ!」
気が付くと腹を刺した部屋だった。
「姫様っ、姫様っ申し訳ございませんっ 申し訳ございませんっ」
半狂乱になって泣き叫ぶゼル。
「ゼル」
「姫様っ」
「もう泣くな。俺は死ねなかったんだろ」
「姫様、申し訳ありませんっ」
「先生は?」
「そちらにおられます」
「先生。ゼルがごめんなさい。許してやってくれますか? 私の大切な家族なんです」
「許すも何もございません。お付きの方が正しいのです。私なんかの為に申し訳ありません」
「ゼル、攻撃もしてない先生を斬ろうとかするな」
「申し訳ございませんっ」
「俺の為にやろうとしたのは理解したけど、二度とこんな事をするな。やろうとしたら今度は喉を刺して即死してやるからな」
「申し訳ございませんっ」
「シャルロッテ様。此度の事は墓場まで持って参ります」
「うん。ゼルにはきつく言っておくから」
先生は何事も無かったようにするために片付け、血の跡が残らないように丁寧に拭いていた。そして薄い毛布を持って掛けてくれ、俺はゼルに背負われて宿舎に帰ったのであった。
まだ意識はぼんやりとして頭が痛い。結構な量の血が流れたんだろうな。
そんな事を思いながらゼルにべったりとくっつく。
ゼルからはとても甘いいい匂いがしていた。
部屋の後片付けが終わった魔法コースの先生は自分の研究室でぼんやり座っていた。今日の出来事が信じられ無かったのだ。
「姫様ーーーーっ!」
ナイフを腹に刺してその場で大量の血を流して倒れたシャルロッテにゼルは半狂乱になって駆け寄る。この小さな身体でこれだけ血を失っては。
ゼルは魔法を解禁して治癒魔法をシャルロッテに掛ける。
先生が見たものは透き通るような青く美しい髪をした魔法使い。しかも見たこともない強力な治癒魔法。傷が一瞬で塞がり血は止まった。が、大きな血管を切ったのか一気に大量の血を失ったシャルロッテはなかなか意識を取り戻さない。
泣き叫ぶ魔法使いは元の髪に戻っていった。
あの従者はおそらく・・・
魔法コースの先生は時代が動くのだなと理解したのであった。




