大乱闘
「お帰りっ」
「ただいま戻りました姫様」
ゼルもクインシーも疲れているようだが晴れ晴れとした顔をしている。が、服がボロボロだ。クインシーの破けた服を見たメイドが慌ててローブを被せていた。破けた所から見える素肌って色っぽいよね。ゼルのはそう思わないけど。
「ゼル、服がボロボロだけど怪我してないか?ポーション飲む?」
「大丈夫です。怪我は治癒魔法を掛けてもらいましたので」
ん?
スンスン
「あ、汗臭いですか?」
「いや、ケーキかなんか焼いた?」
「いえ」
ゼルからめっちゃ甘い匂いがする。
スンスンスンスン
「か、嗅がないで下さい。風呂に行きますからっ」
「もう少ししたらここに集合だ」
そう、今日は兵士達との宴会なのだ。
「どこに行くの?」
と、ユーバリーが聞いてくる。
「兵士達と飯だ」
と、クインシーが答える。
「私も行く」
「ダメだ」
「どうしてっ」
「兵士の所は人数も多いし荒れるからな。ユーバリーは来るな」
「シャルロッテは行くんでしょっ」
「シャルロッテとお前は違う。今日は諦めろ」
クインシーにビシャっと言われて、ユーバリーは涙ぐんで拗ねて向こうへ行ってしまった。
「クインシー様、リーリャはどうしますか?」
「リーリャも無しだ」
クインシーの説明ではいつもの訓練に参加した以外の兵士も多く、自分が居ても酔ったら何をしでかすかわからんとの事。
騎士は立場があるので自制が効くが、兵士は色々な奴がいるらしい。クインシーがいるからそこまで酷くはないだろうけど念の為らしい。俺はクインシーが付き切りになるから安心しろだって。
とりあえず風呂に入って地味な服に着替た。
「リーリャ、今日は何してたの?」
「各部屋の掃除です」
「もしかしてバツ?」
「はい」
俺の予定が無かったのを狙われたようだ。
「ノノロ怒ってんの?」
「いえ、他のメイドに示しが付かないからみたいだそうです。掃除はメイドの仕事でもありますのでバツと言えないんですけどね」
「明日帰るけど、付いてくる?」
「フフフ。それもいいですね」
と、やんわり断られた。明日からリーリャにホニホニ出来なくなると寂しい。今晩は寝かさないでおこう。
馬車に乗って軍の宿舎へ行くとめっちゃ人がいた。本当に知らない人ばっかりだ。
料理はバイキング形式。唐揚げもあるし、ポテトは皮付きのクシ切りだ。あとは串肉とか庶民街で見たような奴が多い。ジルベスターとか喜びそうだな。
かんぱーいで宴会スタート。クインシーから今日は自分で取りにいかずにここにいろと言われた。
訓練に参加している兵士が中心にこちらに話しかけてくる。
「いちご姫様、あのポテト旨いです」
「良かったね。もう少ししたら調理器具が届くからまた違うの食べられるよ」
「そうなんですかっ」
と喜ぶ。
「ん?どこに発注したのだ?」
「ジルベスター様とナイフを買った武器屋にお願いしにいきました。クインシー様がナイフを褒めたと伝えたらとても喜んでいましたよ」
「お前、武器職人に調理器具を作らせたのか?」
「はい。その場で試作品作ってくれてバッチリでしたよ」
「お前、酷いことをしてやるな」
「酷い?」
「武器職人に調理器具作らせるとか命令したんだろ?」
「いいえ。初めは怒ってましたけど、酒に合うと言ったら作ってくれました」
「ん、職人はドワーフか?」
「さあ?」
「ちっこくてガチムチで毛むくじゃらだったか?」
「はい」
「やはりドワーフだな。しかし、ドワーフの武器職人が酒に合うと言われたとはいえ信念を曲げるとは思えんな」
「その職人が作ったナイフを持ってたからじゃないですか?」
「・・・そうか。ジルベスターと行ったのだな?」
「はい」
「この前休みだったのに、また休みだったのか?」
「わざわざお休みを取って下さったようです」
「あのジルベスターがわざわざ休みか・・・。ふふ」
クインシーは呆れたように笑った。
料理をあれやこれや持ってきてくれる。揚げ物が多いな。兵士はカロリー消費が激しいからこういうものになるかもしれん。
そしてどんどん酒が入って賑やかになってきた。クインシーに見張られているのでこそっと飲むこともできない。シラフで酔っ払いを見ているのしんどいな。
いつもの兵士達と男同士のように楽しそうに食べているゼル。クインシーと俺は座ってるが他は立って食べて飲んでいる。
座ってると輪にも入れないし、クインシーがドカッと座ってるから近寄ってくる人も少ない。これ、俺は来なくても良かったのでは?
と、結構酒が入って来たときに
「キャッ」
と、ゼルが軽く声を上げた。あいつ、今ゼルの尻をペロンとしやがったな。
「ごるぁぁあっ!そこのお前っ」
「な、何だよっ」
「お前、今ゼルの尻を触っただろ」
「手、手が当たっただけだ」
プツン
「素直に謝るなら説教で済ましてやったが、誤魔化すとは片腹痛い」
バッと、席を飛び出して、PPP←K
ドカドカドカッバシュッ
グエッ
と、パンチで浮いたところにサマーソルトキック。まともに食らって倒れて、起き上がろうとしたところに後に回り込んで
↓P+G
「フンがっ」
どっすーーん
ジャーマンスプレックスを食らわしてやった。
ピクリとも動かないけど死んでないよね?
「ひっ、姫様っ」
「ゼル、可愛らしい声だすじゃないか」
「や、やめて下さい」
「ちゃんと尻の敵を取ったからな」
「尻を触られたぐらいでやりすぎです」
「ダメ、ちゃんと上書きしてやる」
と、ゼルの尻をさわさわしておいた。硬くて楽しくはない。
「うおぉぉっ 姫様強ぇっ」
その声と共に歓声が上がる。
「なんですかあの体術はっ」
「コンボからのジャーマンスープレックス」
「こんな小さな身体と手でどうやって」
と、手を触られたら今度はゼルがヤクザキック。
「姫様に触るなっ」
いや、今のは悪気ないと思うぞ。
「いいぞーやれやれっー!」
兵士達はこういうのに慣れているのか楽しんでゼルに喧嘩をふっかけてくる。いつもの訓練している兵士達がこちらに加勢して乱闘戦になった。
もうめちゃくちゃだけど、思いっきり技を連発して兵士達の屍を作っていく。
その屍の上に立ち、シャルロッテは叫ぶ。
「お前ら弱すぎんぞ、それでも兵士かっ。いや、兵士ではない、あえて言おう、カスであるとっ」
「うおぉぉっ」
カス呼ばわりされて喜ぶ兵士達。いつもの訓練に参加してない兵士達はゼルも姫様も強いと聞かされていたが信じられず、訓練参加兵は女と遊んでいると思っていたらしい。それが兵士達をバッサバッサと倒したもんだから、凄いと尊敬に変わったみたいだ。
「ったく、シャルロッテの言う通りだ。弱すぎだお前らは。次の訓練は私が直々にお前らを叩き直すっ」
「おぉ、クインシー様が直々に」
おろ?兵士達はクインシーが怖いんじゃなかったのか?
いつもの隊長が頭を下げてきた。
「申し訳ありませんでした姫様」
「いや、みんな遊びで掛かってきたのわかってたから」
「本当に申し訳ありません」
「いや、大丈夫。こっちも遠慮なく技を出せてスッキリしたから。皆はクインシー様の事が怖くないの?」
「クインシー様から直々にしごかれた者は恐怖に変わります」
なるほど、知らないから喜んだんだ。
その後、ゼルも座っておけと言われて、こちらにくる。屍から復活した兵士達は食べ物や飲み物を持って来ては、「姫様!」と盲信者の目になっていた。
兵士に取って強さは正義なのだ。そのうち拝まれそうだな。
「兵士ってこんなんなの?」
「言うな、頭が痛い」
クインシーも苦労してんだな。
で、ゼルを触った兵士が謝りに来た。良かった死んでないようだ。
「申し訳ありませんでした」
「ガタイいいくせに女々しいことすんなよ。触りたくて我慢出来ませんでしたとか言えばまだ可愛げがあるものの、誤魔化すとか最低だぞ」
「はい」
バタフライナイフをシャカシャカっと回して喉に突きつけ、ドスの効いた声で言う。
「次はないぞ」
「はっ、はいっ」
よし、マウント取った。こいつは2度と逆らわないだろう。
「下がってよし」
シャカシャカっとしまってそう言った。
「護身用ナイフをそんな使い方をするな」
「いや、民間人にあんな事をしないように釘を刺しておかないとね」
「お前、本当に10歳か?」
「そうですわ。甘えさせて下さいませ」
と胸にポフッとしておいた。ムホホホホっ。やはりクインシーのはとても宜しい。
その後、しばらくして宴会はお開き。兵士達が敬礼して見送ってくれる。なんとなく、クインシーではなく俺に敬礼しているような気がする。
ーお開きになった宴会場ー
「いやぁ、いちご姫様すげぇな。あんな小さいのに」
「おぉ、全くだ。あの女騎士も強ぇな。本気でやっても勝てねぇんじゃねぇか?」
「ばかものっ。ゼル殿の剣技はジルベスター様と互角なのだぞ。いちご姫様はクインシー様にも怒鳴って言い返す程の肝の強さをお持ちなのだ。それに我々の身体を気遣って飲み物やメロンの差し入れを進言してくださったのも姫様だ。遊び半分とはいえ度が過ぎるぞっ。あの立場のお方なら無礼打ちになってもおかしくないのだっ」
「ストロベリー王国の元姫様なのですよね?ここへは遊びに来られている・・」
「違うっ。クインシー様が直々に後見人になられたのだ。クインシー様の娘と言っても過言ではない」
「ということは?」
「メロン王国の王族と身分は変わらん」
そう言われてサーッと青くなる庶民兵達。
訓練に参加していない兵士達はクインシーが戯れに連れて来た女騎士を少し鍛えてるだけだと思っていた。そしてシャルロッテは追放されて平民落ちしたと思っていたのだ。
「では、我々は王族に遊びを仕掛けたということに・・・」
「そうだ。いちご姫様はゆくゆくはアームス王子かアンデス王子の妃となられるであろう」
「しょ、処分とかになりますか・・・」
「いちご姫様は恐らくそのような事はせん。身分を盾にどうこうとされるような方ではない。姫様の寛大なるお心に感謝せよ」
「はっ」
ー帰りの馬車の中ー
「ユーバリー様とリーリャを連れて行かないと言った意味がわかりました」
「若い兵士達は物を知らんからな。酔うと何をしでかすかわからん。規律というものを今一度叩き込まねばならんな。私も舐められたものよ」
「クインシー様は他の公務もあるでしょうし、お一人で軍を統率するのに無理があるのではありませんか?」
「お前、やるか?」
「まっぴらごめんでございます。アームス殿下あたりに少しずつ任されては?」
「あいつが卒業したら考えるがな。兵法や訓練の指示は出せるだろうが、兵達を率いるのはそれだけでは無理なのだ」
「あとは何が必要ですか?」
「人心把握能力だ。人が増えれば増えるほどそれが必要になる」
カリスマ性ってやつか。
「どうやったら身に付くのですか?」
「それは持って生まれたものだ。ある程度は過去の演説や行動を模倣すれば身に付くがな。アンデスはそういうのが出来るだろう。が、メッキはいずれ剥がれる」
「アームス殿下はその能力はありませんか?」
「なくはない。が、まだ思慮が浅いのだ。もし、アームスが先程の場面に出くわしたとする。例えば貴様が触られたとしよう。どうすると思う?」
「処分?」
「そうだ。身分と権力を使って処分する。それは正しくはあるが、貴様がやった自ら叩きのめしてそれで終わりの方が仲間意識が強くなるだろう。先程の場は戦場ではなく、遊びの場面だからな。あれが戦場ならどうした?」
「処分しますよ。戦場では規律優先です」
「正解だ。アームスは恐らくその区別がつかん。なんでもかんでも処分したら、反感を持つ者も出てくるからな」
「そうですか」
「しかし、ゴツイ男達に掛かってこられて怖くはなかったのか?」
「殺気とか感じませんし、遊びなんだろうなと思いましたから。あれが本気ならクインシー様に助けを求めました。クインシー様も見てただけでしたし」
「よく見てるなお前は」
と、フフンと笑うクインシーであった。




