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職人ファイトス

「それは何を作るもんじゃ?」


「おやつとかビールのお供」


「酒のつまみか?」


「他にも使えるけど、それが食べたくてね」


「形は違うが、作って貰った物はビールが止まらんぞ」 


と、ジルベスターが説明。


「ほう。ここでそれを作れるか?」


「塩味だけで良ければ。辛いのはカイエンペッパー、唐辛子を小麦粉ぐらいまで細かく挽いたものが必要。あとはコンソメスープとか。それは包丁で細切りにすればできるけど、スライサーを加工したやつなら誰でも簡単に作れるよ」


と、細切りにする物も説明する。


「ちょっと待っとれ」


と言われてここで待つ。しかし、火を使ってるからか暑いわここ。帽子を脱いでファサファサ仰ぐ。


「工房ってこんなに暑いんですね」


「刃物を扱う所はそうですね。我々の鎧も夏場は暑く、冬場は寒い。なかなか大変な環境なのですよ。護衛騎士は建物内が多いですが、王宮騎士は外にも立ちますので」


そうだよなぁ。金属着てるからな。重いだろうし。


「軍も同じ?」


「兵は鎧兵、騎馬兵、弓、魔法部隊、補給部隊とか様々な役割がありますな。ま、厳しい環境なのは変わりません。戦争はずっとありませんが訓練は行いますので」


「連合を組んでても戦争とかなりそうですか?」


「今のところは平和です。が、いつ何が起こるか分かりませんからね。平和だからと防衛に手を抜いた所は狙われます」


そういや、フルーツ連合が戦火にならないように新たなる王を産めと言われたな。もしかしたらそういう動きが出るのかもしれない。


「連合国はメロン、マンゴー、ストロベリー、アップルが大国なんですよね? 敵になりそうな国はあります?」


「メロンとストロベリー、マンゴーとアップル。これが友好国同士です。争いになれば、対立するのはこの友好国外の対立でしょうな。そこに他の国がどう付くかです。連合国以外にも国がありますし、連合国はどこも豊かな土壌を持っていますので、連合以外の国がその土壌を求めてくる可能性もありますよ。他国の脅威の牽制の意味もあってフルーツ国は連合になっているのです。内部で争うのはそれを崩すことになるので愚かな行為なのですよ」 


「代表国って何をするの?」


「連合国以外との外交窓口です。交易の交渉権とかですね。連合は税率等をすべて統一していまして、どこかの国だけが利する交易を結ばないようにしています。連合のどこかが他国と深く繫がればそこを足がかりに狙われますからな」


なるほど。国の名前はファンタジーだけど、実情はファンタジーじゃないな。



ジルベスターに色々と教えてもらってると、ガチムチ毛むくじゃらの親父が試作品とじゃがいもを持ってきた。


「こんなもんでどうじゃ?」


「もうできたの?」


「こんなもん簡単だと言うたじゃろうが」


早速じゃがいもをスライスする。うんバッチリだ。


「凄い。バッチリ」


と、親指を立てて褒めると早速ポテチを作れと言われた。



厨房にいって油で揚げていく。もちろん脳内にはレムのお料理教室の画面を見ながらだ。


揚がった物を金ザルに入れてある程度油を切ってから塩を振り、ザッザッと塩を全体に回して完了。


「はい、できたよ」


「ふむ、小腹が空いたときとか、確かにビールに合うな。細切りのもこれと同じような感じなんじゃな?」


「塩味はね。辛いのが好きならカイエンペッパーを追加。より味が深いのがいいならコンソメスープに漬け込んでから揚げるといいよ。あとは玉ねぎをカラカラになるまで揚げて粉にしたり、ニンニクを同じようにカラカラに揚げて粉にして振りかけたりとか」


「分かった。細切りのも作っておいてやる。いつ取りにくる?」


「どうしよう?」


「ん? 忙しいのか?」


「明日学園に帰るんだよね」 


「では、私が取りに参りましょう。イチゴ姫様もご必要ですよね?」


「姫様?」


あ、とジルベスターは口を滑らせた。


「あだ名だよ。気にしないで」


スライサーと細切り用を5つずつ頼んだ。一つ銀貨1枚でいいらしい。しかもこれの開発登録しておいてくれるとのこと。


「開発登録って何?」


「新しい商品は権利が発生するのです。売上の一部をもらえるのですよ」


「おっちゃんが作ったんだから、おっちゃんが登録すればいいじゃない」


「人の考えたもんを横取りできるかっ」


「どうせ、おっちゃんしか作れないだろ?」


「登録せねば真似した粗悪品で登録される。そうなれば粗悪品でも登録したところに金を払わねばならん。それは面白くないじゃろ? じゃからお前の名前で登録した仕様書を買った所しか売れんようにする必要があるんじゃ。名前はなんじゃ?」


「シャルロッテ」


「どこに住んでおる?」


「学園の宿舎」


「違うっ。家のことじゃ」


「家はないよ」


「は?」


「学園の宿舎しか住むとこない」


「そこに父親がおるじゃろ?」


「実はお父さんじゃないんだよね。親は今いないから家もないんだよ」


「どういうことじゃ?」


「訳あって家から離籍したの」


「未成年じゃろ? こいつは父親でないなら後見人か?」


ジルベスターは仕方なしに説明をすることに。


「職人よ。公にするなよ」 


「何がじゃ?」


「この方は、元ストロベリー王国の姫様だ。今はクインシー王妃が後見人をされている。今日はお忍びだ」


「なんじゃと……」


「だから家がないんだよ。メロン家に入ったわけじゃないから」


「ワシは姫様に芋を揚げさせたのか……」


「そんなの気にすんなよ。ストロベリー家から追放された身だから姫様でもないよ」


「イチゴ姫様。住所の登録は学園の宿舎にされたのですか?」


「学園には離籍と後見人の届けはしましたけど、住所登録とかしたのかな?」


「身分証明書はお持ちですか?」


「そんなのあるの?」


「分かりました。お持ちでないならまだですね。クインシー様も忘れておいでなのかもしれません。王族は身分証明書がありませんからな」


そうなんだ。


「職人、後ほどそれらは伝えに来る。私ではないかもしれんが、その場合は使いの者に手紙を持たせる。それで良いか?」


「わ、分かり申された」


この職人、敬語使い慣れてないな。ちょっとかわいい。


商品は4〜5日で完成するらしいので、あとはジルベスターが色々と手配してくれるとのこと。


「姫様」


「はい」


「この度はご無礼をいたしましたでごわす」


何故に鹿児島弁?


「全然気にしてないよ。職人なんだからそんなの気にすんなって。それよりいいもの作ってね。言葉使いも普通でいいよ。俺も敬語苦手だし」 


「ワシのナイフは気に入ってくれてるのか?」


「刃物のことは分かんなかったんだけど、この艶消しカッコいいよね。ジルベスター様もクインシー様もこのナイフ褒めてたよ。かなり腕のたつ職人だって」


「そうか。ワシの武器が姫様の手によってクインシー様に見てもらえたのか」


「この武器は安すぎるって言ってたよ」


「S級のクインシー様にそう言ってもらえるとはな。ありがとう姫様」


なるほど、王妃というよりS級のクインシーに認めてもらったことが嬉しいのか。


「おっちゃん、名前は?」


「ワシはファイトスじゃ」


「またメロンに来るときがあったら顔出すね」


「ん? この国にはあまりこんのか?」


「メロンの者じゃないからね」


「そうか。姫様は学園の宿舎におるのじゃな?」


「卒業するまではね」


「今おいくつじゃ?」


「10歳」


「分かった」 



武器屋を出るとジルベスターが謝ってきた。


「申し訳ございません。つい口を滑らせてしまいました」


「いや、別に問題ないよ。あの職人しかいなかったし。職人って余計なことを話さないでしょ?」 


「そうですな。しかし、上手く職人を乗せる話法や、職人に凄まれても怯まずにナイフを構えるとは肝が座っておりますな」


「あの職人怒ってたけど、本気で手を上げたわけでもなさそうでしたし、もし殴り掛かって来たらジルベスター様は斬ったでしょ? そんなことさせてはいけないなぁって」 


「お気付きでしたか?」


「剣に手をやってたじゃない」


「いやはや、あの状況でそこまで気付かれるとは恐れいりました」


「でも、スライサー作ってくれることになって良かったですね。王宮、騎士団宿舎、軍の宿舎に渡してもらっていいかしら?」


「残り一つはイチゴ姫様、もう一つは?」


「宿舎の庶民向け食堂にあげるつもり。じゃがいものおやつなら安く提供できるでしょ。みんな、銅貨1枚2枚の食事に悩むぐらいだからおやつとかなかなか買えないだろうし」


「かしこまりました。出来上がればすぐにお届けします」


「あのお金は商品受け取りの時に払えばいいかしら?」


「こちらで払っておきますよ。こちらで使うものですし」


「私の分と宿舎の分は違いますわよ」


「寄付しますよ。想定より安価ですので。王宮から発注したらもっと高く付いてますからそれでもお得です」


ということなので甘えておいた。


戻るのが予定より遅くなってしまった。ジルベスターにお礼を言って部屋に戻るとユーバリーが部屋の外で待っていた。


「どこに行ってたのよ?」


「街に」


「どうして誘ってくれなかったのよ」


「なんか習い事してたんじゃないの?」 


「早く終わらせたのに、もういなかったじゃない」


知らんがな……


「明日、学園に戻るから、それから遊べばいいじゃない」


「それはそうだけどさ」


なんか女の娘って面倒臭いなとか思ってしまった。


「もう暇なの?」


「そうよ」


「なら、王宮の中を案内してくれる?」


「いいわよっ!」


と、ころっと機嫌が直った。



と言っても、特に珍しい物があるわけでもない。ガーデンの花とかも興味無いし。宝物庫はちょっと見てみたかったけど立入禁止だった。ユーバリーも入れないらしい。


「王宮で一番高い所ってどこ?」


と聞くと案内してくれた。騎士が全体を見渡す所らしい。


「いかがなされましたか?」


「シャルロッテが見晴らしのいいところに行きたいって言ったから連れて来たのよ」


「へぇ、王宮全体ってこんな形してるのね」


円形に壁が作られている。恐らく上空から見たらメロンの形をしているのだろう。


「敵とか来る?」


「そうなれば一大事ですよ。しかし見張りはかかせません」


「鎧って暑い?」


「冬の寒さの方がきついです。鎧が冷たくなりますので」


「首と名前が付く所を温めるとマシだと思うよ。首、手首、足首ね」


「そうなのですか?」


「うん。冬になったら試してみて」


「はっ、ありがとう存じます」


「今日は堅苦しいね?」


「職務中でありますから」


ジルベスターの部下だ。顔は知っている。


「ジルベスター様はいつもはどこに?」


「隊長室で執務をされているか、見回りをされております。本日はお休みを取られております」


「元々休みだったの? それとも休みを取られたの?」


「休みを取られました。今までほとんど休みを取られたことがありませんでしたので」


わざわざ休んで連れ出してくれたのか。ありがたい話だ。


そして、ビールのお供のお礼を言われたあと、クインシーとゼルが馬に乗って帰って来たのが見えたので玄関に迎えに行ったのであった。


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