後見人とは
ゴトトン ゴトトン
馬車に後ろ向きに乗ると酔いそうだ。
「半日程で着く。今日は休んで明日から稽古を付けてやろう」
「ありがとうございます」
「シャルロッテはユーバリーの勉強でも見てやってくれないか。どうも算数が苦手のようでな」
「かしこまりました」
「15歳の数学はわかるか?」
「多分大丈夫ですけど、アームス様も数学が苦手なのですか?」
「に、苦手と言うわけではないが・・・」
「なら、問題ございませんね」
「う、うむ」
メロン王国の王宮はストロベリー王宮よりずっと大きく立派だった。
「部屋は同じでいいのか?」
「はい、ゼルが私が居ないと泣いてしまいますので」
「姫様っ」
昨日の夜の事が恥ずかしかったのか怒るゼル。
「わかった。ベッドは大きいが一つしかないぞ?」
「構いません。いつも一緒に寝ていますので」
クインシーはやれやれと言った顔をした。俺が誰か居ないと眠れないとか思ってそうだな。
メイドに客室へ案内されるととても豪華な部屋だった。ベッドには天蓋まで付いてる。
「浴室はこちらでございます」
メイドさんが施設を案内してくれたあと、部屋に冷えたメロンを持って来てくれた。メロンなんて食べるのちょー久々だ。子供の頃は好きだったけど、いつぐらいから食べてないだろうか?メロンって高いから誰かにもらわないと食べる機会ないんだよね。
一つ食べてみると思った程甘くはない。熟してないわけではなさそうだから、甘みの少ない品種なのかもしれない。
「姫様、このメロン甘いですねぇ」
「そうか?」
そういや、イチゴもあんまり甘くなかったな。まぁ、元の世界のフルーツは品種改良しまくって育て方にこだわったやつだから比べるのは可哀想か。そういや、果物や野菜を育てるゲームもあったな。
「姫様、イチゴより甘いですよ」
ゼルは結構甘い物好きだから嬉しそうだ。
「ゼル」
「はい」
「これな、果汁にして砂糖足してシャーベットにしたらお前好きだと思うぞ」
「シャーベット?」
「混ぜながら凍らせるだけだ。お前の好きな練乳混ぜてもいいしな」
メロンと言えばチープなプラスチックのメロン型の入れ物に入ったシャーベットだ。俺には生のメロンよりこっちのイメージの方が強い。
「冷たくて甘いのですか。それはいいですね」
「風呂で食べるといいんじゃないか?」
「い、いいですねっ」
「じゃ、宿舎に帰ったらイチゴでやってみるか?」
「はいっ」
「あの・・・」
「はい?何かご用かしら?」
メイドさんがおずおずと話しかけてきた。
「あの、そのシャーベットとは簡単に作れるものなのでしょうか?」
「作ってくれるの?」
「厨房に伝えてみます」
ということなので、果汁に砂糖を加えて凍らせている途中で混ぜてまた凍らすだけと伝える。ついでに練乳の作り方も教える。
「ゼル、今晩の風呂で食べられるかもよ」
「はいっ」
夕食までごゆっくりどうぞと言われ、お茶とお菓子を用意してくれる。もう甘いお菓子はいらん。ポテチとかあればいいのに。暑いときにお茶もなぁ。
「炭酸水とレモンあるかしら?」
「ご用意致します」
ゼルはお菓子を食べたそうにしている。ドライメロンが乗ったクッキーとかだ。
「ゼルはこれ食べてていいぞ。俺はいらん」
「姫様が召し上がられないものを頂く訳には参りません」
「もう姫様じゃないだろ?気にせず食べろよ」
そう言われたゼルはクッキーを食べだした。
「姫様は甘い物を好まなくなりましたね」
「うん、しょっぱい物の方がいいかな。ポテトとか」
「あれも美味しいですよね」
「まぁ、おやつにはポテチでもいいんだけどね」
「ポテチ?」
「ポテトチップス。ジャガイモを薄くスライスして揚げたものだよ」
「スライスですか」
そんな話をしていると炭酸水とレモンを串切りにして持ってきてくれたので、ゼルがいつものようにグシュツと絞ってくれる。ゴリラみたいだ。
「姫様、ポテチとは私でも作れますか?」
「包丁で極薄くスライスするの難しいんだよ。スライサーがあれば簡単なんだけどね」
「スライサー?」
こんなやつとか説明していくとまたメイドさんがそれは何かと聞いてくる。
「調理器具の一種でね、野菜とかを薄く薄く切る為の物だよ。包丁でやるより早いし、素人でも簡単に同じ厚さで切れるんだ」
「それは作れますか?」
「薄い刃物が作れる職人ならすぐに出来ると思うよ」
「ポテチとはこちらでも作れますか?」
「包丁で透けて見えるぐらいに切れるならすぐにでも。それを揚げて塩振るだけだから」
「そちらも聞いておきますね」
「じゃ、フライドポテト作ってもらえるかな?」
と、作り方を教える。
なかなか面白いメイドさんだ。お客様に喜んでもらおうと色々してくれるな。
しばらくするとフライドポテトを持って来てくれた。
「このような物で宜しかったでしょうか?」
「ありがとう、バッチリよ。これ食べてみた?」
「い、いえ。メイドがお客様が口にされるようなものを頂く事はこざいません」
「メイドさんの名前はなんていうの?」
「私はリーリャと申します」
「クインシー様からおもてなしを命令されてるの?」
「はい、ご希望される事はすべて聞くように言われております。本来であればメイド長がご案内させて頂くのですがあいにく不在でございまして、私のような未熟なメイドで申し訳ございません」
俺達は急に来たからな。
「じゃ、一つお願いしても宜しくて?」
「はい、何なりとお申し付け下さいませ」
「じゃ、アーンって口を開けて」
「こ、こうですか?」
アーンするリーリャ
そこにフライドポテトを口に入れた。
びっくりして目を丸くするリーリャ。
「一緒に食べましょ。クッキーも余ると思うから好きな方を食べて」
ムグムグ ごくん
「お客様とそのようことは・・・」
「お願い。一緒に食べましょ」
「は、はい」
うむ、メイドさんはいい。このモジモジした感じがたまらん。人様の所のメイドだから抱きつくのはまずいけど、こうやってキャッキャウフフしながら食べる分には問題なかろう。
「リーリャ」
「はい」
「そんなにかしこまらないで。私は庶民ですのよ」
「え?姫様では?」
「元姫よ。もう離籍して庶民になったの」
「クインシー様がご後見人になられたと伺っておりますが」
「ストロベリー家を離籍したのだけれど、新しく籍を作るのに私は未成年ですので後見人が必要でしたの。ちょっと訳ありでクインシー様が後見人になってくださっただけよ」
「クインシー様がご後見人なら王族と相違ございません」
「クインシー様は王妃としてではなく、個人として後見人になって下さったの」
「同じことでございます。クインシー様はS級でいらっしゃいますので」
ん?
「どういうこと?」
「メロン王国ではS級冒険者には王族に準ずる立場が与えられますので」
ほう、そこまでの地位になるのか。
「後見人になって下さっただけですよ」
身元保証とか法的な手続きをする代行みたいなもんだろ?
「いえ、後見人になるというのは養子に入るのと同じでございます。籍が異なる親と申したら良いかもしれません」
なんですと?
「と、言うことは?」
「シャルロッテ様はクインシー様の義理の娘と言っても差し支えございません」
うそん・・・
「ゼル、知ってた?」
「いえ、身元保証だけかと思っておりました」
そうだよね?
「身元保証だけじゃないの?」
「庶民が後見人になる場合はそうですが、貴族がする場合は意味合いが異なるのです」
oh!俺は知らなかったとはいえ、俺はクインシーの義理の娘になったのか・・・。
「家名とか付くの?」
「恐らく、クインシー様の家名が付いてるのではないかと」
クインシー・メロンの正式な名前はクインシー・マーセナリー・メロン。俺の名前はシャルロッテ・マーセナリーになるのではとリーリャに言われた。
「そう言えばクインシー様は冒険者なのに家名があるの?」
「マーセナリー王国の第二王女様でもあられます」
げっ、クインシーって他国の王女だったのかよ。
よく考えると、S級に王族並の扱いと言っても名誉みたいなものだろう。王が惚れたからといって、庶民出身者を王妃に出来る訳ないか。
「色々教えてくれてありがとう。私はこういう事に疎くて」
「問題ございません。王宮で働くメイドはこのような制度や歴史などを知っていなければなりませんので」
そうだよなぁ。王宮のメイドってかなり優秀でないとなれないよな普通。
「リーリャは優秀なんだね」
「そのような事はございません。私は家のコネで王宮のメイドになれたので」
と、テヘっと舌を出す。ちょー可愛い。
「リーリャも貴族?」
「はい。子爵家の4女です」
「ゼル、リーリャを嫁に貰え。3人で住もう」
「姫様っ。なぜ私が嫁を貰うのですかっ」
「だって女の子好きだろ?子爵令嬢だぞ」
「私は姫様が好きなのです。女の子が好きな訳ではございませんっ」
「将来、仕事していくのにこんな可愛くて優秀な娘がいてくれた頼もしいし、毎日が楽しいじゃないか」
「では、姫様が嫁に貰いなさいませっ」
「リーリャ、嫁に来る?」
「フフフッ、シャルロッテ様は面白い方でございますね。私、求婚されたの初めてでございます」
笑うとなお可愛いわ。
結構マジで言ったのに残念ながら子供の冗談だと受け流されてしまった。
そして、夕食はマスク王を交えて食事をするらしく、ドレスに着替えさせられた。ゼルはタキシードみたいな服だ。まんまヅカだな。
リーリャもゼルのタキシード姿にうっとりとしている。
「ゼル、チャンスだ。リーリャを口説け」
「姫様っ」
今ならイケそうなのにと思うシャルロッテであった。