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クインシー

「で、望みはなんだ?」


「いえ、甘えさせて頂きましたけど?」


「こんなものはいつでもしてやる。ちゃんとしたものを申せ」


「今ので十分にございます」


「ったく、お前というやつは。で、ここを退学してどこの学校に編入するのだ?」


「まだこれから探す所です」


「お前は成績がかなり良いそうだな」


「偏りはありますけども、数学や理科系は好きですわ」


「最終的にはどのコースを選ぶつもりだったのだ?」


「錬金術か魔法には興味がございました。魔法は才能がなければ無理だそうですけど」


「ほう・・・。その2つは他の学校では学べんぞ」


「仕方がありませんわね」


「諦めるのか?」


「そうなりますね」


「なら、詫びは学費としておくからここにこのまま通え」


「いえ、それには及びません。ゼルの住まいもありますし、働かねばなりませんので」


「住まいはこの部屋をそのまま使えばいいだろう」


「ここは貴族階、しかも最上階でございます。庶民の部屋ではありませんわ」


「構わん」


「は?」


「私が学園長に話を通しておく。お前を他の学園にやるのは損失だからな。まぁ、学費ももう支払い済のはずだから、それはストロベリー家と話す。恐らくそのままメロン家とストロベリー家でお互いの非を相殺する形になるであろうから何も変わらん」


「意味がわかりませんが?」


「ストロベリー家の非は友好国の王子に暴力を振るったこと。メロン家の非はそのきっかけを作り、姫を離籍させてしまった事だ。お互いの非を相殺するとしても国の格と、次期王としての身分と妾腹の姫を鑑みてストロベリー家は何らかの補償を追加せねばならん」


そうかのか。


「それをお前の学費として請求する。これならばどちらも丸く収まる。何か追加で払うわけでもないし、途中退学しても返金もされないからな。お前がこの話を断るとこちらは何かしら要求せねばならん」


こいつ上手いこと話を持って行くな。実は王妃でなくて女王なのではなかろうか?


「なぜ私の為にそのようなことまでなさるのですか?」


「ん?お前は面白いからだ。大国の王子に啖呵を切ったり、しれっと私の胸を触らせろとか言うような奴はおらん」


げ、バレてる。


「アームスが金貨100枚賭けてお前の情報を得ようとしたのはあながち間違ってはおらんと私も思った。こいつは愚かだが馬鹿ではないからな」


うーん、このペースで付き合うと完全に飲み込まれるな。


「まぁ、断っても良いが、そうなるとお前は自分の身を守れるのか?」


「ゼルがおりますので大丈夫です」


「ふふっ」


何笑ってたんだ?


「ゼルは強いのですよ」


「うむ、なかなかやるのは見てもわかる。が、一人で守り切れるかな?」


「どういうことですか?」


「お前みたいな見目の奴は必ず狙われる。高く売れるからな。しかも元姫という付加価値付だ」


「でも・・・」


「賊がお前を狙ったらあの護衛はどう動く?もちろん身体を張って守るだろう。向こうはそれを承知して仕掛けてくる。まずお前を狙うと見せかけてお前を守りに入った所に護衛が狙われる。それで終わりだ。要人を本気で守ろうと思ったら最低二人は必要だ」


「しかし、他の皆も護衛は一人で・・・」


「それは王族だからだ。下手に手を出したら国を敵に回し潰されるから賊も手を出さない。それでも手を出してくるような奴は少数の護衛なんぞ居ても無駄だ。戦争を仕掛けるぐらいの覚悟で襲ってくるのだからな」


「で、では・・・」


「お前は離籍したことを公表しない、今まで通りの生活をするのが最善だ。どうしてもそれが嫌なら自らの身を守れるように強くなる必要がある」


「強くなる?」


「あの体術はなかなかの物であった。だがまだまだだ。武器か魔法が使えるようにならないと身は守れんぞ」


クインシーって何者なんだろうか?


「ご忠告ありがとう存じます。しかし、もう事務の方には離籍する旨を伝えましたの」


「ふむ、なら今から口止めしてもバレるのは時間の問題だな。よし、ならば私が後見人になってやろう」


「メロン国のお世話になるわけには参りません」


「いや、私が個人的になってやろう」


ん?


「王妃様個人ということですか?」


王妃=メロン国じゃないの?


「いや、クインシー個人だ」


「意味がわかりません」


「母上は王妃である前にS級冒険者なのだ」


と、アームスが補足した。


「冒険者って?」


「まぁ、化け物退治したり、護衛したり、時には傭兵をしたりとかだ」 


あー、ゲームや漫画とかに出て来るやつが本当にあるんだな。


「それがなぜ王妃に?」


「マスクが私に惚れたからに決まっているだろ。私のものは子を産んだとはいえなかなかの物だったろ?」


と、ゆさゆさしたのでご馳走様でしたと言っておく。


「ま、今の生活もメロン尽くしの飯以外は満足している。マスクは聡明であるし他に女を作らないという条件も守っているからな」


ほう、メロン王国に第二夫人とか妾はいないのか。


「王妃様もメロン尽くしのご飯はお気に召さないのですか?」


「王妃としては食べるが、クインシーとしてはいらん。飯の後に食うなら良いがな。お前もそうなのだろ?」


「はい。なぜ肉やオムレツにイチゴソースがかかっているのか理解出来ません」


「やはりな、母を思い出すとか人が触れにくい嘘を付きやがって」


「思い出すとは一言も言っておりませんわ。母が好きでしたとしか申し上げておりません」


「クックック、やはり面白い。アームスよ、こういうのを見習え」


クインシー個人なら後見人の話を受けてもいいのかなぁ?確かに後ろ盾があった方がいいんだけど。ゼルにも極力危ない目に合わせたくないしな。


いや、なんかはめられている可能性もあるから今返事するのやめておこう。


「クインシー様、お腹空いてませんか?」


「ん?料理も出来るのか?」


「変わったものをご馳走いたしますわ」


と、インスタントラーメンを3人分作る。具は卵のみ。


「これは何をしておるのだ?」


「時が過ぎるのを待っているのです」


「湯を掛けて待つだけ?」


「はい。私は3食これでも良いのです」


「ほう、旨いのか?」


「王妃様のお口には合わないでしょうが、クインシー様のお口に合うかどうかはわかりません。私は好きです」


「甘くないと言うことだな」


と、5分ほど待って蓋を開けた。


「ではどうぞ」


シャルロッテは箸のような物で、クインシーとアームスはフォークで食べる。二人にはスプーンも渡しておいた。


ズゾーズゾーとすすると驚かれる。この世界にはすする文化も無いし、音を立てて食べるのも宜しくない。元の世界の欧米諸国と同じだね。でもラーメンはこうやって食うのが一番旨いのだ。


「むっ」


クインシーが一口食べて渋い顔をする。口に合わなかったか?


「お嫌いでしたか?」


「いや、とても不思議な食べ物だな」


「卵はお好きな食べ方でどうぞ。そのまま食べてもよし、スープに混ぜてまろやかな味にしてもよしです」


俺は少し食べてから混ぜる派だ。


うん、やっぱりインスタント麺は旨い。


二人とも完食した。


「初めは不思議な食べ物だとは思ったが、また食べたくなるなこれは」


「はい、中毒性がございますので」


「これはストロベリー王国の食べ物か?」


「いいえ、こういうのが食べたいと食堂のおばちゃんにお願いして作って貰ったのです。ここまで来るのに数ヶ月かかりました。ラーメンはすぐに出来たのですけどね。お湯をかけるだけで食べられるようにするまで時間がかかりました」


「オリジナルの食べ物か。これはレシピを売るのか?」


「おばちゃんから商人ギルドに登録しなさいと言われました」


「いくらで販売するのだ?」


「ラーメンは食堂では銅貨2枚、卵の他にも具が入りますけど」


「ここの食堂は補助が入ってるからな。一般だと、銅貨4〜5枚ってところか。これ単体だともっと安いのだな?」


「どうでしょうね。まだ貨幣価値がよくわからないのですが、このまま売るとしたら銅貨1枚とかですかね?」


「うむ、銅貨2〜3枚は取れるだろう。移動商人や冒険者に売れるだろうしな」


「値段はさておき、ここを出たらこれを元手に商売しようかと思っておりました」


「軍資金はどれぐらいある?」


「金貨10枚ほど。ただそれはゼルのお金だったみたいで、私個人としてはございませんわ」


「持って来なかったのか?」


「いえ、支払いはゼルに任せていたのですが、おそらくそれもゼルのお金だったのではと。どうやら私はお小遣いを貰っていなかったようです。服とかは用意されておりましたけど」


「まぁ、宿舎と王宮から出ないのであれば金はいらんからな。しかし、妾腹とはいえ姫が文無しとか信じられん。アームス、その金貨は私が払うからかせ」


「母上、どういう意味ですか?シャルロッテはいらないと頑なに断ったではありませんか」


「こいつは税金の金貨はいらないと言ったのだ。私の個人資産、つまり冒険者時代の稼ぎで払う。お前は国を良くするために働け。この金貨は母からの投資だと思え」


「クインシー様、そのような事をされては・・・」


「いいから受け取れ。文無し学歴無しだと娼婦にもなりかねん。女が手っ取り早く稼ぐのはそれぐらいだからな。それともあの護衛にそれをさせるつもりか?」


「ゼルはゴリゴリ女なのでそれは無理です」


「そういう奴を好む奴は多いのだぞ?私も昔はゴリゴリだったからな」


え?


「それがあんなにふわふわになるのですか?」


「戦いの場から出ればすぐにそうなる。女とはそういうものだ」


そうか、ゼルもふわふわになるのか。


「お前はふわふわが好きなのだろ?」


「はい」


「なら、将来、奴が戦いの場から距離をおいても問題無いようにしていけ。それにはお前自身も何かしらの力を身に付ける必要がある。体術、剣、魔法、権力とかな」


「はい、ご忠告ありがとう存じます。本日頂いたお話と金貨は後日返事をさせて頂いて宜しいでしょうか」


「は?まだ断るつもりか?」


「いえ、ゼルとこれらどうして行くかの話から随分と変わりますので相談してからお返事をさせて頂きます。ゼルはもう従者ではなく家族ですので」


「ふっ、そうか。了承した。本日はアームスの部屋に泊まる事としよう。返事は明日でなくても良いが、護衛とアームスの部屋に訪ねて来てくれ」


と、部屋の場所を説明して二人は帰って行った。


ふう、疲れた。王妃と王子が護衛を連れてないなと思ってだけど、クインシーが強いから不要ってことなんだな。



ゼルは翌日に帰って来るかと思ったら夜に帰って来た。馬車並に往復走ったらしい。


「遅くなりました。姫様、何事もありませんでしたか」


「汗だくじゃないか。汗臭いから先に風呂に・・・」


ん?


「も、申し訳ございません。く、臭いですよね」


スンスン。身体、首元を嗅いでみる。


「いや、全然臭くないぞ。それ本当に汗か?」


「は、はい」


ちょっと首すじをペロンと舐めてみたらうひゃと声をあげた。あ、微かにしょっぱいわ。自分の汗ってもっとしょっぱいけど、こいつ塩分足りてないんじゃないか?脱水症状だったらまずいな。


水、塩、砂糖にレモン汁を絞って味を調整してゼルに飲ませる。


「ほら、風呂に入る前にこれをゆっくり飲め。一気に飲むなよ。一口ずつゆっくりだ」


「これは水ではないのですか?」


「人工的な汗だ」


そういうのとても嫌そうな顔をする。そういや、俺はゼルの汗を何の抵抗もなしに舐めてしまったな。


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