ここでも働いてみる
ゼルと二人でハイカラさんが通るみたいになって宿を探す。
「申し訳ございません。未成年の学生さんとご一緒にお泊めするわけには・・・」
「違う違う。こっちは私の護衛で女性です。私達はメロン王国の者で旅行に来ているのです」
「え?この方が女性?」
「外国人の女二人だとトラブルに巻き込まれそうだから男性の格好をしているだけです。信じられないならここで脱がせますか?」
「い、いいえ、失礼いたしました。お部屋をご準備いたします。一週間で銀貨12枚で朝ご飯と晩御飯が付いております」
「じゃ、それでお願いね」
そこそこ良い宿だ。部屋風呂付き旅館ってやつだね。
部屋の風呂と料理を堪能して翌日から醤油や味噌を売っているところを散策。
「姫様、あの店はなんですか?」
「団子とか売ってる甘味処ってやつだね。入ってみる?」
俺は醤油団子、ゼルには一通り食べさせるのにみたらし団子、ぜんざい、大福を頼んでやる。
「変な食感ですね。口の中がにちゃにちゃします」
「それは餅っていってね、よく噛んで食べないと喉に詰まって死ぬよ」
甘いので食べているが餅の食感はあまり好みではないようだ。餅美味しいのにな。
そして味噌屋に入って仕入が出来るか聞いてみると樽単位で売ってくれるようだ。樽一つで銀貨1枚前後。味噌によって値段が違うらしい。
そして乾物屋で鰹節を卸してくれるか聞くとこれも大丈夫のようだ。今回の目的はこれでほぼ終わり。どうしよう、2日で用が済んでしまった。
「ゼル、もう用事済んじゃったから後は遊びだね。それも飽きるだろうから半年ほど商売でもしてみる?」
「何をするんですか?」
「ポーション屋だよ。生活費を稼ぐのにちょうどいいだろ?」
と、どこかにポーション屋がないか聞いてみるもポーション?と不思議な顔をされた。
「ヤバンにはポーション屋がないのかな?それとも違う名前が付いてんのかな?」
「どうでしょうね?私には言葉がさっぱりわからないので」
仕方がなく、もう少し聞き込みをすると薬屋はあるとのことでそこに行ってみた。
おー、釜爺が居そうな店だな。
教えてもらった店はこの街で一番大きな薬やだ。薬草というか漢方薬みたいな臭いが充満していてここにいるだけで病気が治りそうだ。液体も置いてあるけどあれは何かな?
「すいません」
「どんな薬をお探しかな?」
「あの液体のはポーション?」
「あれは薬草酒だよ。毎日少し飲んでると身体の調子が良くなるんだ」
あー、養○酒みたいなやつか。少し話を聞くと、どこが悪いか伝えてここで調合してもらうようだ。で、ポーションというのは無いらしい。漢方薬が主流で医者を兼務しているみたいだな。
試しに滋養強壮の薬を買ってみる。公園のベンチに座ってその薬を鑑定すると
【回復薬】効果極小
初級回復ポーションみたいなものか。それにほとんど効果がないな。銅貨5枚と安かったけど、毎日飲んでようやく効いてくる感じなんだろうな。
昼飯を食べて携帯コンロを探しに行くが魔道具自体が売ってない。灯りは付いてたから電気はあるようだ。もしかしてヤバンは魔法が無くて電気とかの文明が発達したのか?
次に道具屋に行くと物凄くレトロな電化製品が売っていた。
「姫様、見たことがない魔道具ですね?」
「これ、魔道具じゃないよ。電気というもので動く道具だね。道具から線が出てるだろ?あれを繋げられる所でしか使えないんだ」
魔道具よりずっと安いけど、魔道具より不便ではある。取り敢えず小鍋と大鍋を買って帰るが宿で伝熱コンロを使わせてくれるだろうか?
宿に戻って聞いてみると危ないからダメと言われた。これではポーションも作れないな。
そしてどこか半年ほど住居付きの店を貸してくれる所がないか聞いてみると商工会で聞いてくれと言われた。
「すいません、住居付の店舗を貸してくれる所ないですか?」
「どんな店をする予定ですか?」
「薬屋なんだけどね。フルーツ連合での資格は持ってるんだけど」
「薬関係はこの国の許可が必要ですよ」
ということでポーション屋は無理だな。飯屋は面倒だし・・・。
が、薬屋で雇って貰えるか聞いてみては?と言われたので翌日薬屋に行くことにした。
翌日
「すいません、ここで半年程雇って貰うことはできます?」
いきなり雇えという外国人の子供に驚く店の人。
「お嬢ちゃん、子供はちょっとねぇ」
「私、フルーツ連合っていう所の薬の生産と販売の資格は持ってるの。ここに無い薬が作れるんだけど」
「ここにない薬?」
「昨日ここで買った滋養強壮の薬より百倍くらい効くやつとか作れるのよ」
「は?」
「ヤバンと薬が違うから信じられないかもしれないけど」
「本当にそんなのが作れるのか?」
「傷薬なら効果がわかり易いかな?」
とナイフをシャカシャカと出して指を切ろうとするとゼルに止められた。
「姫様、私が切ります」
ゼルは言葉がわからないけど俺が何をするのか理解したようだ。
「店員さん、今から私の連れが指を切るから、そっちの薬と私の薬のどちらが効く試してみる?」
「わざと指を切るのか?」
「そう。すぐに治るから心配しなくていいよ」
合図すると指をスッと切って血を流すゼル。
この程度なら初級ポーションで大丈夫。
「よく見ててね」
と傷口を見せてそこにポーションを掛ける。
シュワシュワとすぐに傷が跡形もなく消えたのを見て目を丸くする店員。
「だ、旦那様っ。旦那様っ」
慌てて奥にここの偉いさんを呼びに行く店員。
そして、店の奥に案内された。
へぇ、中でこんなに多くの人が働いてたんだ。
薬草をゴリゴリと潰している人、天秤で計って調合している人とかたくさんいる。
「君が不思議な薬もっているのかね?」
歳の頃は30歳半ばぐらいだろうか?甚平みたいな服装で後ろで一つに括った長髪の男性だ。
「フルーツ連合の一つ、メロン王国から来ましたシャルロッテ・マーセナリーです。こちらは私の護衛のゼル。言葉は私しか話せません」
「こちらで雇って欲しいと聞いたが?」
「帰る船が春にならないと出ないので半年間だけ雇ってもらえないかなって。その間ポーションをここで作りますよ」
「ポーションだと?ちょっと待っててくれ」
と旦那と呼ばれた人は奥に行ってしまった。そしてしばらくしてこっちへこいこいと手招きをされる。
その部屋に入るとおばあちゃんがいた。
「ようこそ、ヤバンへ。ワシはルリと申す」
可愛いい名前の婆ちゃんだな。
「始めまして。シャルロッテです。こちらはゼル」
「ここでポーションを作りたいじゃと?」
「春になるまで帰りの船が出ないので生活費を稼ぎたいなぁって」
「ポーションはヤバンには出してなかったはずなんじゃがな。解禁されたということかえ?」
ん?
「いや、ヤバンに出しちゃダメとか聞いてないです」
もしかしたらちゃんと授業に出てたらそれを教わってたのだろうか?
「こちらとしては願ったり叶ったりじゃがお前さんはいつくじゃ?」
「今11歳です。飛び級して資格取りました」
「ほぅ、優秀なんじゃな。それなら雇っても構わんがポーションは一般には売れんぞ。ずっとここに居てくれるなら考えるがの。いずれ手に入らんようになるものを店には置けぬし、効能が有り過ぎる物を作れるお前の身が危険じゃの」
「どういうことですか?」
「お前は金を生む人間として狙われるということじゃ。じゃからここの薬では治らん者に内密で処方するとかになるの」
「病気を治せるポーションとかはないですよ。怪我を治すのと体力を回復するのは作れますけど。後は身体を温めるのとか肌のシミやソバカスを取る化粧品とか」
「むっ?シミはどれぐらいの物が取れる?」
「どこまで取れるでしょうね?あんまり大きなシミには試した事がないので」
「実物はあるかえ?」
「薬草とか材料があれば作れますよ」
と、必要な材料を伝えると用意してくれた。
で、この部屋でそれを作っていく。
「ルリさん、ヤバンは魔法はないの?」
「ヤバンにはないのぅ。あちらは道具も魔道具じゃろ?こっちへ持ってきても使えんのじゃ」
やっぱりな。もしかしたら魔法ってシフォンの管轄とかだけ使えるのか?後で話し掛けてみよう。女神像も一応持って来てあるからな。
ポーションは自分の魔力で作るから作れるけど魔力がヤバンに無いということは俺の魔力も補充されないんだよな?魔力切れで倒れたりしないだろうな?魔力水とか持って来てないぞ。
そんな事を考えながら出来た日焼け止め効果大をルリに塗ってみると顔がすべすべになってシミは全部消えた。
「ば、婆ちゃんの顔が・・・」
「これ、スギよ、人前で婆ちゃんと呼ぶでない」
「失礼致しましたルリ様」
この人孫なのか。この婆ちゃんいくつなんだろ?
「素晴らしい薬じゃの。今はどこに住んでおる?」
泊まってる宿屋を説明する。そして宿屋に泊まる期間が終わったらここへ来いと言われた。住み込みで雇ってくれるようだ。
「お前さんの作ったポーションの代金がお前の給料じゃ。売り先はこちらで手配するからの。飯と家賃はいらぬ。この条件で良いか?」
「はい、大丈夫です」
こうしてシャルロッテは見知らぬ土地で暫く働く事になったのであった。