ポーション屋オープン
シャルロッテのポーション工房オープン日。俗称赤い工房。俺の髪の毛をイメージしたということで扉が赤いのだ。ストロベリー工房と呼ばれそうなのは訂正しておいた。ベリーベリーが噛み付いて来そうだからな。
衛兵に着るエアコンを寄付したことでこの近くに衛兵の詰め所を作ってくれるようだ。安い投資で護衛を雇ったみたいなものだな。
「シャルロッテ様、このポーションはこちらでよろしいですか?」
商品を棚に並べてくれているのは卒業生のマイロだ。ボサボサ頭だったから客商売の為に髪の毛を切らしたらなかなかのイケメンだった。
「何回も言うけど様付けはいらないってば」
「しかし・・・」
「面倒なんだって。呼び捨てでいいよ。何ならシャルでいいから」
「わ、わかりました。ではおシャルさんと」
誰がモンキーやねん。おシャルさんて猿山を見に来た子供かおまえは?
「姫様、愛称呼びは婚約者とか家族だけのものですので、それにシャルロッテならロッテとかの方が宜しいかと」
そんな愛称お口の恋人みたいやんけ。
「もうシャルロッテでいい」
卒業生達からはシャルロッテさんと呼ばれるようになった。
卒業生は6人。男4に女2人。今年卒業した人じゃない人もいて、リッカ推薦の6人で優秀なのだ。特にマイローは上級ポーションまで作れる。他はまだ全員中級レベル。というか上級を作れるものはほとんどいないのだ。
マイロー
レオ
サイラス
ジャスパー
オリビア
アイラ
「マイロー、この店の責任者をしてね」
「え?」
「私は店に居ない時も多いから。宜しくね」
自分で店を持った時に責任者経験は役立つのだ。皆はここで経験を積んで独立していくだろうから、独立出来そうな人に順番で責任者をしてもらおう。
店を持たずに開発とポーション作りだけをしたい人は残ればいい。マイローは国に帰って自分の店を持ちたいらしいからな。
皆の給料は月に銀貨15枚。マイローは責任手当を付けて銀貨20枚だ。ポーション工房は毎月給料だけで金貨1枚程度必要。それ以外に研究費やお昼ご飯代とかを入れると毎月金貨2枚は固定で出ていくからしっかり稼がないとな。ゼルにも給料を払うと言ったら利益がちゃんと出てからで大丈夫というかいらないとか言われた。メロンから給料も出て食費も全部出してるけどそういうわけには行かないのだ。
卒業生達は優秀なポーション士としては給料が安い。他の普通の店で働いているのと変わらない給料なのだ。が、独立した時にはここで覚えたポーションを生産販売出来る契約をすることになっている。赤い工房のチェーン店でもいいし、まったく違う自分の工房でも好きにしてくれ。
マイロー以外はせっせと飲むカイロや消臭ポーション、日焼け止め等を作っている。なかなか自分の作りたいポーションの研究をさせてあげられないくらい生産に忙しい。ポーション作りは魔力が切れたら使い物にならないので、魔力回復ポーションも作った。というか水を俺が魔力棒でかき回してやるだけで魔力回復ポーションになるのだ。これは非売品でここのスタッフ専用とする。
ようやく陳列も終わったので中で一休みだ。オヤツはシフォンケーキ。
「私、この工房に入れて幸せです」
シフォンケーキを食べながらそういうアイラ。ちっこくてかわいいアイラはリスみたいだ。甘い回復シロップに惚れ込んでぜひ雇って欲しいと懇願してきたのだ。リッカにも才能があるから大丈夫だと言われてこの工房に入れた。
一方、もう一人の女性オリビアは無口だ。淡々としたレインより喋らない。その代わりモクモクとポーションを作り続けることが出来る。シフォンケーキもモクモクと食ってんな。
開店準備も終わったし、アイスティーを飲みながら薬草辞典を見て次は何を作ろうかなと見ていく。
これはクミンか。なんか聞いたことあるな。腹痛を和らげる効能とかあるんだな。シナモンって棒みたいなんだな、へぇ。これ女の子の日の痛みを和らげるとか書いてある。ぜひポーションを作っておかないと。でターメリックは・・・ん?
慌ててレムのお料理教室レシピを検索する。
うおっ、なんてこったい。これカレー作れんじゃんっ。レシピに分量も書いてある。
「ちょっと薬草屋に行ってくるっ」
と休憩中の皆に言ってダッシュ。
「ひ、姫様っ。そんなに走らないで下さいっ」
Bダッシュ連打は速いのだ。
「ばぁちゃんっ。これとこれとこれと」
店に入るなりスパイスを注文する。
「次は何のポーションを作るのかえ?」
「ポーションじゃないよ。食べ物」
は?とか言われたけど早く早くと急かせてスパイスを大量購入した。
戻ってスパイスを調合していく。今日作るのはチキンカレーだ。調合していく様は薬剤師みたいだ。
「なんですかこの匂いは?」
「お腹の空く匂いでしょ?」
スパイスを炒めて材料をクツクツと煮込んで完成。味見をするとおウチカレーではなくインド料理屋のカレーの味だ。トロミがなくてスープカレーみたいになったけど今日はこれでいいや。
皆にも今日はいいからと仕事を片付けさせて晩御飯にする。
「こ、これなんだよ姫様っ?」
聞いてきたのはレオだ。年上だけど小柄で少年って感じがする。賑やかで明るいやつだ。何度言っても姫様呼びをやめないわりにタメ口なのだ。
「カレー。美味しいでしょ?」
「めちゃくちゃ旨いよっ。これ食堂で売ったらめちゃくちゃ売れるよっ」
「材料がポーションと同じなんだよね。食堂で売るほど数が手に入らないし、売るにしてもめっちゃ高くなるよ」
「どれくらいの値段なんだ?」
「一人銀貨1枚くらいもらわないとダメね」
「いっ、一食銀貨1枚・・・」
原価で銅貨10枚くらいになるからな。店で出すにはこれくらい値付けしないとダメだ。
「というわけだから心して食べてね」
「はっ、ハイ」
それまでガツガツ食ってたのが急に少しずつ食べるようになったのだった。
試しにカレースパイスでポーションを作ったら万能薬になった。頭痛、腹痛、熱、体調不良、だるさなど全般に効くようだから風邪の時とかによさそうだな。明日、これに治癒と回復も足して作り直してみよう。苦さと渋さもカレーのアクセントになるだろうし。
このままここに泊まろうかと思ったけど、レインが部屋に戻ってくるから宿舎にカレーを持って帰った。レインには辛かったようで涙目になっていた。辛さは後から足すようにしよう。
翌日、ポーション屋開店。レイン、クインシー、ジルベスター、リーリャにも来てもらった。
「ポーション屋ってお腹の空く匂いするんですね」
リーリャが店にはいってスンスンしてそう言う。
「昨日新しい料理を作ったからね。みんなには今日のお昼ご飯に出すよ」
ゼルは昨日作り方を見ているのでリーリャとカレーを作って貰う。とろみを付けるのに小麦粉を足してもらうことにした。
で、ポーション屋は午前中は誰も来ない。宣伝してなかったから当然だな。日頃からポーションなんてバンバン売れる物ではないからな。
「客が来んな」
クインシーも肩透かしを食ったようだ。
「宣伝も何もしてなかったからね。まぁいきなり大量に客が来られても大変だしぼちぼちでいいよ。クインシー様が買ってくれる物で利益出るし、オレンジの分も作らないダメだから」
まだメロン納品分も数が揃ってないのだ。早くしないとオレンジの分が間に合わない。
そして早めの昼ご飯。スタッフのみんなも食べたいとのことなので全員でカレーを食べる。昨日のも美味しかったが、今日のはとろっとしていてもっと美味しいとのこと。辛いのが好きな人はカイエンペッパーを自分で足してもらった。
そしてこののんびりとしたポーション屋は昼から様子が一変するのであった。




