鳥肌が立つわっ
兵士達の食堂は大盛り上がりだ。
「シャル大佐、タオルをどうぞ」
次から次へとタオルを持ってくる兵士達。今は汗なんぞかいとらんっ。お前ら女児の汗を拭いたタオルを欲しがるとか変態か?
「お前ら汗臭いタオルなんて欲しがるなっ」
「しゃ、シャル大佐は汗臭くなんてありませんっ。い、いい匂いがするのでありますっ」
いい匂いとか言うな。余計に気持ち悪いわっ。
タオルはいらんと断ると食べた食器やフォークとかどんどん交換されていく。もう好きにしてくれ。
ー王宮晩餐会ー
「クインシー、シャルロッテはどうした?」
マスク王はいつまで経っても姿を見せないシャルロッテはどうしたとクインシーに尋ねる。
「今宵はフルーツ連合のトップ4カ国の晩餐会。シャルロッテはメロン籍ではありませんので呼んでおりません」
「それはそうだがせっかくメロンに来ているのだから呼んでやれば良かったであろう」
「陛下、けじめはつけねばなりません。シャルロッテはメロンの王族ではあれどメロン家の者ではありませんので」
「かぁ様。そんな言い方は酷いです」
「ユーバリー、シャルロッテは妹のような存在ではあれど妹ではないということを理解しなさい。各国の王族の前でみっともない事を言うものではありません」
クインシーは余計な話が出ないようにシャルロッテはメロン家の者ではないと皆の前で言い放った。
「クインシー王妃、そのような事を気になさらずともぜひこの場にお呼び下さらんか。軍に対してあのような見事な号令をされた幼き姫とぜひ話をしてみたいのです」
マンゴーのアーウィン王はそうクインシーに告げる。
「アーウィン陛下、シャルロッテには私の実家であるマーセナリーの家名を与えております。この場に呼ぶとマーセナリー家の者として呼ぶことになりますわ。フルーツ連合のトップ4カ国がマーセナリーの者を正式な晩餐会に呼んだのが他国にバレると余計な災の元となりましょう」
クインシーはシャルロッテを災の種と皆に印象付ける。マーセナリーを近付けると他国への刺激になるぞと。出来ればシャルロッテからメロン王族の身分を外したくはない。せめて成人するまではメロンという大国の傘をさしておいてやりたいのだ。しかし、他国が正式にシャルロッテに婚約を申し込もうとするならメロン王族の身分から外さねばならない。ストロベリーはともかく、マンゴーとアップルから申し込まれたら断る正式な理由がないのだ。
「クインシー王妃、シャルロッテ姫は・・・」
「ジョナサン陛下、ここにはメロンの正統な姫もおりますのでメロンの姫ではないシャルロッテの事ばかり話題に出るのは少々ユーバリーが可哀相になりますわ」
そう言われたマンゴーとアップルの王はこれ以上シャルロッテの話題を出せなくなってしまったのであった。
晩餐会終了後にくだけた歓談へと移行する。酒を飲みながらの話だ。
「クインシー、シャルロッテが部屋にいるようなら呼んでやってはどうだ?もう歓談なのだし良いだろう。私も少し話を聞きたいのだ」
「陛下、シャルロッテは兵士達を労っておりますので部屋にはおりませんわ」
「労う?」
「はい。今日の訓練を無事にやりきった事を労うと申しておりましたので食事も兵士達の所で食べていることでしょう。きっと夜中まで開放されませんわ」
「クインシー王妃、メロンは王族であっても兵士の宿舎で共に食事を取るものなのですかな?」
「アーウィン陛下、シャルロッテはそのような事は気にしませんのよ。それに明日は騎士達と共に食事を取るようですのでダンスパーティーにも不参加ですわ」
「騎士達と?」
「シャルロッテに付いてる護衛のゼルはメロンの騎士でもありますからね。皆を労うつもりなのでしょう。王宮騎士隊長の事も父と慕っておりますから」
自分ではなく他人を父として慕っていると聞いて苦い物がこみ上げてくるアマ王。
「アームス、シャルロッテはいつ暇になるのだ?」
デルソルがアームスに詰め寄る。
「さぁな、あいつの予定を把握しているのは母上だけだ」
「ユーバリー様、あなたの事よりシャルロッテのことばかり話題になって面白くないのでは?」
「ベリーベリー様、それはそちらのお気持ちでは?」
「あら、正統な姫ではないシャルロッテなんてなんとも思っておりませんわ」
「妹に対して随分と冷たいのですね」
「妹といっても半分だけしか血の繋がりもありませんし、あの娘の残りの半分は卑しい血ですもの。妹だなんて」
オーッホッホッホと高笑いするベリーベリー。
「私はシャルロッテと血の繋がりはありませんけど妹だと思っておりますわ」
そう言い返したユーバリーにアームスが突っ込む。
「ユーバリーの方が妹の間違いじゃないのか?」
「アームスにぃ、うるさい。アームスにぃこそ弟みたいに扱われてるじゃない」
「うるさいっ。そんな訳あるかっ」
「よく叱られてるじゃない」
「しっ、叱られてなんかないっ」
「兄妹喧嘩は止めておけ。それよりアームス、シャルロッテは軍事訓練に休みの度に参加しているのか?」
「いや、今回で3回目じゃないか?今日みたいに誰か来た時に号令かけるだけだ」
ワイルドの質問に答えるアームス。
「それだけで兵士があんなに盛り上がるものなのか?」
「あいつは兵や騎士達と仲がいいんだ。一緒に飯も食うし一緒に暴れたりする。部下の体調管理は隊長の責任だと怒鳴り飛ばしたり、ポーションやら食い物を差し入れたりとか下の者を気遣う姿勢が皆嬉しいのだろう」
「そんな事をしているのか?」
「あぁ。母上が号令を出すよりシャルロッテが号令出した方が盛り上がるんだ。あのジークメロンコールを聞いただろ?あれもシャルロッテが考え出したのだ」
「アームス、あれはどういう意味だ?」
横からフジが口を出して来る。
「メロンに勝利をみたいな意味らしい。バレンシアも自国でやれないか聞いていたな」
フジは自国に戻ったらジークアップルをやってみようと思っていた。自分のコールに兵士達が地響きのようなコールで返してくるのは男心をくすぐるようだった。
「アンデス王子は婚約とかお決まりかしら?」
と、第一王子達がシャルロッテの話をしている中、ベリーベリーがアンデスにそう問い掛ける。
「いえ、自分はまだまったくそのような・・・」
「女王を補佐するとか興味はないかしら?」
どうやらベリーベリーは自分がストロベリーの女王になった時にアンデスを自分の夫にロックオンしたようだ。メロンの次の王はアームスで決まりだろうから第二王子を夫にしメロンとの協力関係を強める。アンデスは知力はあるが気は強くはない。自分の言いなりになる夫として最適なのだ。
後はユーバリーと豚とくっつけられたら完璧とほくそ笑んでいた。
ー兵士の宿舎食堂ー
俺は一体何をやっているのだ?
シャルロッテは順番に並ぶ兵士たちにコマンドを入れて足4の字固めとかプロレス技を掛けていた。皆痛いだろうに恍惚とした表情を浮かべている。殴り飛ばすと物が壊れるので関節技にしていたのだ。
最後のやつにジャーマンスープレックスを食らわした所で終わりだ。木の床にもろに食らわしたけど死んでないよね?
「シャル大佐、凄い力ですね」
力ではない。コマンドを入れたら出来るのだ。恐らくこれが俺の魔法なのだろう。
「シャル大佐、タオルですっ」
汗を拭き拭きしたらその場でスーハースーハーしやがった。せめて見えない所でしてくれ。鳥肌が立つわっ。
ーマスク王私室ー
「マスクよ、前にも言っておいたがシャルロッテに婚約の申込みが来そうになってものらりくらりと受けるなよ」
「マンゴーやアップルの申込みであってもか?」
「マンゴーやアップルの申込みだからなのだ。断る理由がないから受けるなと言っておるのだ」
「しかし、将来の王妃としての申込みならば・・・」
「だからシャルロッテはそんなものを望んではおらんのだっ。何度言えばわかるっ」
「なぜそこまで嫌がるのか理解が出来ん」
「お前がもし婚約を受けると言うのであればシャルロッテからメロン王族の身分を剥奪せねばならん。2度も王族の地位を剥奪されるシャルロッテの気持も考えろ。お前もシャルロッテが可愛いのだろうがっ」
「シャルロッテの幸せを考えればこそ」
「ええーい、もういいっ。もし婚約を受けたらお前と離縁するっ。私はシャルロッテからプロポーズをされているからお前と別れてシャルロッテのプロポーズを受ける事にする」
「お、お前。女同士でそんな事が・・・」
「マーセナリーに戻ればそんなものどうとでもなる。もしくはどこか遠い所で暮らすとしよう。冒険者に戻るのも悪くない」
「ク、クインシー・・・」
「嫌なら言うことをきけっ」
「は、はひ」
フルーツ連合代表国の王もクインシーには逆らえないのであった。




