シャル大佐
さて、メロンとオレンジに販売するポーションは安定して作れるようになったから後は任せておこう。俺は新作チキンラーメンを作らねばならないのだ。
オレンジ王国から手に入れた醤油を使って食堂のおばちゃんと味を作っていく。
「こんな黒いソースがこう使うと美味しいもんなんだね」
「塩より味が深いからね。これで一度試してみて」
「はいよ」
「ここで他の料理にも醤油を扱う?まだ取引量増やせると思うよ」
「他にどうやって使うんだい?」
「塩の代わりに何でも使えるよ。柑橘類と合わせてもいいし、砂糖と合わせてもいいよ」
「砂糖を使うと高くなっちゃうからね」
そうだよな。砂糖は庶民にはそこそこ高いのだ。それに街の食堂やお菓子屋みたいなのも増えて砂糖需要が高まって値上がりし始めている。はちみつも採れる量がだいたい決まっているので同じく値上がりしているようだ。
サバーンに行って砂糖はどこから仕入れているのか聞いてみよう。
「はちみつは各国から入って来るんだが、砂糖は主にアップル王国とやや北よりの国の方からだな」
「流通量が落ちてるの?」
「どうやらアップルが出し渋りもしているみたいなんだよな」
砂糖が高くなるとオレンジ王国の柑橘類はダメージ出るからアップルがそれを狙ってるのかもしれん。
「他はどっから入ってくるの?」
「帝国産のもあるがアップルより遠い分値段は高くなる。今は同じぐらいの値段になったがな」
「帝国産の仕入れ増やせる?」
「そうだな。砂糖の取引が増えてるからそうしておいた方がいいかもしれんな」
砂糖はポーションにも使ってるから原価がどんどん上がればこっちも痛手だ。今の価格くらいまでに抑えてもわらわねば。
研究室に戻ってふと考える。
ポーションの研究をしていて気付いたのはポーションとはその素材の効能を増大させるものということだ。回復草をそのままかじったりしても多少回復するし治癒草もそうだ。しかし、魔力とくっつくことでその効能は爆発的に高まる。込められた魔力量が多いほどその効能アップは顕著だ。
俺の作るポーションが他の人のより効果が高くなるのは魔力量によるものだと俺は思っている。自分の魔力は尋常じゃないらしいからポーションを作る時に大量に注ぎ込まれているのだろう。
そこで思いついたのが砂糖の甘さを増幅出来ないかということだ。
まず沸かしたお湯に砂糖を混ぜて溶けない所まで溶かしていく。出来たのはガムシロップ。それを鑑定してみる。
【砂糖水】とても甘い水。糖度60
糖度60か。甘いフルーツでも糖度17〜8とかだから激甘だな。試しにはちみつを鑑定すると糖度80前後だった。はちみつってガムシロップより甘いんだな。
そして試しにガムシロップを魔力棒でぐるぐるとかき混ぜていく。見た目には変わらないけどどうなるだろうか?
【甘味ポーション】砂糖水より甘い。 糖度1800
ブッ、なんだこれ?
こんな糖度ってあるのか?めちゃくちゃ甘いフルーツの100倍、ガムシロップの30倍って・・・
これをフリーズドライの機械に入れて明日の朝にどうなってるか試すか。
翌朝、ガムシロップは粉末というか砂糖の塊みたいになっていた。鑑定すると甘味ポーションとでる。これを粉にする機械に砕いて入れていくと粉糖みたいな物になった。
砂糖と同じ量を水に溶かしてみると、糖度は砂糖の30倍のままだ。
「姫様、これは砂糖ですか?」
「いや、甘味料といったほうが正しいね。砂糖をポーション化することで甘さが30倍に増えた」
「ということは?」
「砂糖の値段が1/30になったのと同じだね」
「凄いじゃないですかっ」
「うーん、これを世に出すと砂糖作ってる人が困るよね」
「確かに」
「それで砂糖が作られなくなったらこれも作れなくなるから黙っておくよ。ポーション作りの為に使うとしようか」
「そうですね。姫様にお任せします」
ただ、砂糖が入手困難になったときの為にストックをしておく必要はあるよね、ということで夏休みまでせっせと甘味料を作っておくことにした。夏休み中にポーション店をリノベーションすることになっているので夏休みが明けたらそこで保管しよう。
そして夏休み前。
「レイン、メロンに行くけど一緒に来る?」
「私は留守番している。オレンジに行った時も肩身が狭かった」
レインは庶民だもんな。
「ご飯とか大丈夫?」
「大丈夫。上級ポーションを買ってもらえるお陰で食堂で食べられるから」
ということでレインはお留守番することに。
数日後、アームス達とメロン行きの馬車に乗りに行くと、デルソルとフジがいる。
「アームス、どういうことかな?」
「すまん・・・」
バレンシアは国に帰ってガーデンでの状況を説明するとのことで来ないようだが、デルソルとフジは一緒に来る事になってしまったようだ。
「は?今なんて言った?」
馬車の中でさらに重要な事をアームスに聞かされる。
「断れなかった理由がそこにあるのだ」
どうやらメロン王国にマンゴーの王様、アップルの王様まで来るとのこと。そしてストロベリーも・・・。
ワイルドはともかくアマ王も来るのか。
「各国の王妃は来るの?」
「おそらく。い、い、い、言っておくが俺が決めた訳ではないからな。父上が4大国の交流を行いましょうと持ち掛けられて承諾したのだ」
アームスのせいではないらしい。
「言っておくけど、その交流会には出ないからね」
「それは母上に聞いてくれ」
はぁ。夏休みにメロンに行くのがこんなことになるとはな。
メロンに到着すると前回よりさらに盛大な出迎えだ。
「おかえりなさいませ」
リーリャが出迎えてくれるので抱きついてふにふにむちむちを堪能する。
デルソルと王子は使用人達に連れられて違う客室に案内されて行った。
「リーリャ、大国の王子が来てるからモーションかけてみたら?」
「第一王子の婦人なんて無理ですよ。愛人ならともかく」
「じゃあ、私の愛人になる?」
「腹が伸びて元に戻らなくなりますからダメです」
「これお土産にあげるから」
「なんですかこれ?」
「砂糖のめっちゃ甘いやつ。砂糖の30倍甘いからこのひと袋で砂糖の大袋と同じだよ。オヤツの時に使ってね」
「あ、愛人にはならないですよ」
「じゃ、奴隷になって」
「もっと嫌ですっ」
自分が男だったらなとつくづくと思う。そうすればリーリャはずっと一緒に居てくれるかもしれないのに。
部屋にはゼルとリーリャしかいないのでリーリャのむちむちを堪能しながらそんなことを考えているとドアがノックされた。
やって来たのはクインシーだ。
「明日、軍の訓練に参加だ」
「挨拶と号令だけでいいんだよね?」
シャルロッテは公の場でない時はだんだんとクインシーにタメ口をきくようになっていた。
「それでいい。あとお前に軍部の役職を与えておく」
「いらないんだけど」
「明日の訓練は他国の王も見学に来るから必要なのだ。お前の軍での役職は大佐だ。ストロベリー家も来るから皆からいちご姫様と呼ばれるのもアレだろ?」
「それもそうだね。でも大佐なんてあったの?」
「ないぞ。表向きの役職だから気にするな。あと衣装も用意したからそれを着るようにな」
「隊長と大佐はどちらが上?」
「大佐が上だ」
メロン軍は細かく階級があるわけではない。隊長が各隊長のトップでその上がクインシーだったよな。大佐はその間の役職ということか。しかし、中尉とか少佐とか無いのに大佐なんてどこから出てきたのだろう?
「アームスとかには役職与えないの?」
「私の後、誰が軍を統括するかまだ決まってないからな。今役職を与えるわけにはいかん」
なら、俺にも与えないで欲しい。このままなし崩し的に軍を任されそうで怖い。
「クインシー様」
「なんだ?」
「今日の晩御飯は部屋で食べていい?各国の王様や王妃も一緒なんでしょ?」
「まぁ、今日は構わんが明日の晩餐会には出ろよ」
「それも辞退したいんだけど。メロン籍の人だけでいいんじゃないかな。デルソルやフジがマンゴーやアップルのレシピを教えろとうるさいんだよね。なんか面倒臭いことになりそうで」
「そうか。やはり今回の交流はお前が目的なんだな?」
「多分。変な言質とられそうだからいない方がいいかなと思って。クインシー様だけの方が場をコントロールしやすいでしょ」
「わかった。ではお前は不参加ということにしておく」
「私は軍の訓練が終わったあと、そのまま軍の食堂でみんなと交流しておくよ」
「ふっ、アイツら喜ぶだろうな」
「はい、大佐として皆を労っておきます」
ということで晩餐会回避に成功したシャルロッテなのであった。




