スイカバー
「ゼル、ここにある本は俺のだから好きにしていいんだよね?」
「はい、構いませんが」
「じゃ、宿舎に全部持っていくから」
「全部ですか?」
「そう、全部」
パラパラと中身を見てみたけど、古臭い恋愛小説、冒険譚などが半分以上。歴史物語とか、あとは参考書ちっくなものだ。子供向けなので読みやすいからこれならいいな。
この本は他の人は読まないのかと聞いたら、自分より下の年齢はいないので大丈夫らしい。
冒険譚や恋愛小説はそこそこ読まれた跡があるので、お下がりも含まれてるんだろうな。
「私は以前何をよく読んでいたんだ?」
「はい、こちらでございます」
これは灰かぶり姫みたいなやつだな。シャルロッテは自分の境遇と重ね合わせてたんだろうか?
「この王子役をゼルがやってやれば良かったのに」
「逆です。私が姫様に助け出されたのですよ」
「ん?どういうこと?」
「私は騎士ではありますが、女ですので浮いた存在だったのです。姫様の護衛を命じられなければ辞めていたかもしれません」
「女騎士は少ないの?」
「そうですね。いなくはありませんが、やはり男の騎士と比べると強さに難がありますので」
「ゼルは強いの?」
「それも原因でございます」
なるほどね。若くして男より強い女騎士とか邪魔だったんだろうな。他の兄姉は護衛騎士と世話係が別にいるみたいだけど、俺だけゼルが兼ねてるし。
どうやらシャルロッテに男騎士を付けたけど、怖がって泣くのでゼルと交代したとのことで、ゼルはその時にシャルロッテに生涯の忠誠を誓ったようだ。
「なぁ、騎士が忠誠を誓うとどうなるんだ?」
「命と同等です。誓いを破る事は死と同じです」
「俺が王族でなくなっても?」
「はい。私はシャルロッテ様個人に忠誠を誓いましたので」
「身も心も捧げるってこと?」
「はい」
「じゃ、俺がゼルに何をしてもいいの?」
「姫様のお心のままに」
「じゃ、バンザイしてみて」
「こうですか?」
コショコショコショコショ
「ウッヒィィィィィ」
うん、いい反応だ。
ロッテンマイヤー系メイドから冷たい視線が飛んでくるので少しだけでやめておく。
「ゼル」
「は、はい」
「明日、学園の宿舎に戻るぞ」
「えっ?」
「ここに居たら息が詰まる。部屋からもほとんど出して貰えないんだろ?」
王宮にいるとほぼ軟禁状態なのだ。道理でこのボディは日焼けとか全くしていない訳だ。部屋に閉じ込めてたらそのうち脚気になるぞ。そういや、クララが歩けなくなったのは脚気だったとかの裏話を聞いた事がある気がする。
「しかし、夏休みの間は王族の業務などが・・・」
「シャルロッテはなにかする予定はあるの?」
「今年はメロン王国との交流がございます」
「アームス王子だっけ?そいつらが来るの?」
「はい」
「それに俺が出ないといけないか聞いといて。どっちでもいいならパスだ。交流するのは正妻の子供達だけでいいだろ?」
「かしこまりました。伺って参ります」
と、ゼルはロッテンマイヤー系メイドに指示をして聞かせにいかせた。
「ゼル」
「はい」
「二人っきりだね」
「そうですね」
「バンザイして」
「えっ・・・」
「いいから、早くっ」
「は、はいっ」
コショコショコショコショ
「ウッヒィィィ キャハハハハハっ、やっ、やめてっ お止めください姫様っ キャハハハ」
「良いではないか、良いではないかっ」
これだけくすぐったいのにバンザイをやめないゼルの精神力凄いな。
「もうダメッ」
そう言ったゼルは俺をギュムッと抱き締めた。
「キブッ ギブッ」
ゼルの背中をタップする。
「サバ折りしてくんじゃねーっ」
「も、申し訳ございません。姫様がおやめにならないので・・・」
「身も心も捧げて、俺の好きにさせてくれるんじゃなかったのかよ?」
「そ、そうではありますが、このくすぐったいのはいかんせん我慢が・・・」
「ゼル」
「はい」
「もし、お前が悪漢に捕らえられてくすぐり拷問にあったらどうする?それに耐えられないと俺が殺されるとかになったら?」
「そ、それは・・・」
「これはその時の訓練なのだ」
「そ、そうでありましたかっ」
こんな訓練あるか。
「では、バンザイだ」
「は、はい」
ウヒャヒャヒャヒャヒャと大きな笑い声で耐えるゼルを戻ってきたロッテンマイヤー系のメイドは冷めた目つきをしてコホンと咳払いをした。
「姫様、交流会は必ず参加するようにとのことでございます。現連合代表国の訪問に欠席は許されないと」
そうですか。
「交流って何をするの?」
「晩餐会と翌日に玉遊びにございます」
「玉遊び?って何?」
「小さな玉を棒で打って穴に入れる遊びでございます」
「あー、ゴルフか」
「ゴルフ?」
「いや、なんとなくわかった。だけど、この身体じゃ無理だろ?」
「子供は前から打つので大丈夫でございます」
ハンデ付ってわけか。
「じゃ、それが終わったらもうここに居なくていいね?」
「はい、ご自由に」
交流会は一週間後らしい。それまですることがないので冒険譚を読んだり、歴史物語を読んで、メイドが居なくなった時はゼルに特訓をしていた。普通慣れていくのにいつまでも新鮮な反応を示すゼル。なかなか初い奴だ。これで柔らかかったらいいのに。
そして交流の晩餐会。
「姫様、下着はこちらを」
いつもはカボチャパンツ。今出されたのはイチゴ柄のパンツで、元の世界で見たことがあるような奴だ。
「なにこれ?」
「王家の正装でございます」
「パンツまで決まってんの?」
「はい」
「ゼルはどんなパンツはいてんの?」
「私は普通のでございます」
「見せて」
「は?」
「いいから見せて」
と、パンツを持ってこさせると男物みたいだ。
「これ、男物?」
「ちっ、違いますっ。騎士への配給品です」
「だって、前から出せるようになってんじゃん」
「な、何を出すのですかっ」
こいつウブだな。
こうやってだなと腰に当てて、指を出して説明すると真っ赤になっていた。
「ひ、姫様はなぜそのような事をご存知なのですかっ」
「お前が無知過ぎるんだよ。宿舎に戻ったらお前の下着を買いに行くからな」
「こ、これでけっこうですっ」
「上は何を着けてるんだ?」
「ぬ、布を巻き付けております」
「じゃ、上もな」
「わ、私は騎士でありますのでそのようなものは・・・」
「ダメ。お前はただでさえ硬くて男みたいなんだから見た目ぐらい女になれ。後は髪の毛も切るな」
「か、髪を伸ばすのですか」
「そう、ポニーテールか姫カットでもいいぞ」
「姫カットですか?」
「宿舎の近くに美容室とかはあるのか?髪の毛を切ってくれるところ?」
「ございます」
「なら、伸びたらそこでやってもらおう」
そしてイチゴパンツにはきかえ、ふわふわドレスに着せ替えさせられた。赤のオーガンジーみたいな素材のドレスに黒の小さな水玉模様。それに赤い靴。頭には大きな緑のリボンだ。
「いでででででっ」
髪の毛をくくられるのって頭皮が引っ張られて痛い。
「さすが姫様。どこから見てもストロベリー王国の王女でございます」
これはゼルが選んだ衣装らしい。季節的にイチゴというよりスイカに見えなくもない。鏡を見るとスイカバーみたいだ。頭でなくてスカートの裾を緑にしたら完璧だったのに。
「では参りましょう」
食堂ではなく別の建物。迎賓館と呼ばれる所に行くようだ。少しの道のりなのに馬車に乗せられて会場へ。
まだ使用人しかいない。来るのが早かったようだ。
と、慌てたようにバタバタと物を運ばされている男の子に見覚えが。
「ここで何してんの?」
「あ、イチゴ姫・・・様」
ラズの同級生の男の子だ。
「パーティの準備のアルバイトです」
「王宮でバイトって凄いじゃん」
「はい。ラズ様と同級生ということで本日臨時で雇って頂きました」
「なんで敬語使ってんの?いつも普通に喋ってんのに」
(王宮で姫様と話すだけでもまずいんだよっ)
(なんで?)
(庶民と王族が馴れ馴れしく話せるわけないだろっ)
なるほどね。
(名前何だっけ?)
(シドだ)
「ではシド、私の世話係を命じます」
「は?」
(いいからっ。飯取って来たりしてくれよ。俺の好みわかるだろ?イチゴとかいらないんだよ)
(わかった)
「私で良ければ何なりとお申し付け下さいませ。イチゴ姫様」
「じゃ、あなたの上司に私より命令があったと伝えて来なさい」
「はっ」
「姫様、給仕なら私がいたしますのに」
「いや、ゼルは離れないで。俺は隅の方でじっとしてるから。一人になった時にグースがいらん事をしてきてぶちのめしたらまずいだろ?」
「かしこまりました」
それにアームスとベリーベリー、もしくはラズ。もしかしたら見合いとか兼ねてんかもしれんからな。邪魔しないように端にいないと。メロン国は姫様とかいるのかな?
そんな想像をしながら使用人達の邪魔にならないように壁の所に置かれている椅子に座って皆の働きをみるシャルロッテであった。




