小さな魔法医エリカ外伝 ~ミラーナ王女は譲らない~
現在連載中の『小さな魔法医エリカ ~ほのぼの治療日記~』の登場人物の中でも、極めて特異なキャラクター『ミラーナ王女』の過去とは?
イルモア王国の王女『ミラーナ』は、幼少期から自分がやりたい事は全てやり、欲しい物は全て手に入れる子供だった。
我が儘を言うのではない。
ましてや泣き喚いた事など一度もない。
ではどうしたのか?
全て言葉巧みに説得するのだ。
5歳の頃、自身に剣術の教育係を付けさせる事に成功している。
目的はハンターになる事。
その頃から冒険譚や戦記物の絵本を読んだり、同様の物語を読み聞かせて貰うのが大好きで、大きくなったら自身がハンターになる事を夢見ていた。
だが、そんな事(自身がハンターになりたいと思っている事)は全く感じさせずに父親である国王を納得させている。
曰く、国王の長子である自分は、例え自分が国王として父の跡は継がず、国王となる男性を婿として迎え入れて王妃になるとしても、国王の血を引く者として民を守る気概を示さなければ国民の支持は得られないから。
こんな事を言われては、父親である前に国王として認めざるを得ない。
更には魔導師や参謀も同様の手口で教育係として付けさせている。
国王自身、そんな娘に騙されているとは露程も思っておらず、むしろ剣士・参謀・魔導師として成長していく娘を誇らしげに思っていた。
そんな国王も、1つだけ不満に思っている事があった。
それは、ミラーナが一度も父親である自分の事を『お父様』と呼ばず、何度要求しても『父上』としか呼んでくれない事だった。
母親である王妃に対しても『お母様』とは呼ばずに『母上』としか呼ばなかった。
他の娘達2人は、最初こそ姉のミラーナを見習うかの様に『父上』『母上』と呼んでいたが、何度も教えている内に『お父様』『お母様』の呼び方が定着した。
しかし、ミラーナだけは頑なに『父上』『母上』で押し通した。
理由を聞くと「意味は同じだから」と言って、全く直す気配が無かった。
ようやく待望の王子が生まれた頃の事。
ミラーナは12歳になっていた。
淑女としての教育も、既に始まって2年が経っていた。
しかし、未だに自身の事を『お父様』と呼ばないミラーナに対して業を煮やした国王は、ちょっとした脅しのつもりで
『私の事をお父様と呼ばないのであれば、私はお前を淑女とは認めない! 国王の娘として、淑女として相応しい言葉遣いに改めよ! 今後、私の事は『お父様』、母の事は『お母様』と呼びなさい!!』
これなら言い返せないだろうとドヤッた国王は、直後のミラーナの言葉に打ちのめされた。
ミラーナは平然として
『承知致しました。では今後は『父上』ではなく『国王陛下』とお呼び致します』
と言ってのけた。
「は?」
ミラーナの言う事に理解が追い付かず、国王は間の抜けた言葉を発する。
ミラーナは淡々と続ける。
「私は意味が同じであるならば、自分が言い易い言い方を無理に変える事は無駄な事だと思っております」
「いや、あの…」
困惑する国王を尻目にミラーナは淡々と続ける。
ついでを言えば、跡継ぎである王子が生まれた直後から、ミラーナは自称を『わたくし』から『わたし』に変えていた。
「仮に私が国王陛下の呼び方を『父上』から『お父様』に変えたとしても、そもそも私に淑女としての自覚が全く無い以上、呼び方を変える事に意味があるとは思えません。私に淑女としての自覚が無い以上、陛下を『お父様』と呼び方を変える事にも意味があるとは思えません。ですので今後は『父上』でも『お父様』でも無く、『国王陛下』とお呼び致します」
そう言い残すと、ミラーナはさっさと謁見の間を後にするのだった。
その後、国王は『お父様と呼ばれるのは諦めるから、せめて国王陛下などと言う他人行儀な呼び方は止めてくれ』と、涙ながらに懇願し、ミラーナの国王に対する呼び方は『父上』で定着した。
更にミラーナは、万が一剣が折れた場合に備え、体術の教育係を付けさせる事にも成功した。
ミラーナの『なにがなんでもハンターになる』という目的は、着実に進みつつあるのだった。
自身の目的達成の為には手段を選ばないミラーナ王女。
無理矢理達成するのでは無く、周囲が『そうせざるを得ない状況に追い込んで行く』のは天性の物なのか?
なんだかシリーズ化しそうな予感…
と思っていたら、短編集としてシリーズ化してしまいました。