盗賊ジョブの俺、追放されるも美少女二人に拾われる。~美少女二人が放してくれないので今更帰って来いと言われてももう遅い~
よろしくお願いいたします。お読みいただければ幸いです。
俺ことレックス=アルタミータは、とある酒場でくすぶっていた。
というのも先ほど、いつも固定でパーティを組んでいた連中から追放されたのだ。
パーティ名は、”暁”という。
リーダーと他のメンバー曰く、次の通りだった。
『うちのパーティもそこそこ名の知れるパーティとなってきた。』
『そこに盗賊のあんたがいると体裁が悪いわけ。』
『それにあんた戦闘じゃ敵にかすり傷を与える程度で、役に立たない無能じゃないか。』
指摘の通り、俺のジョブは盗賊だった。
剣士や盾役のタンク、魔法使いなどと比べるとそれは地味なジョブだ。
それでもマップ探索や、トラップの感知。索敵など出来る仕事をこなし、パーティには十分に貢献してきたつもりだった。
「何も突然、追い出すこと無いだろ。」
だが現実は開いてみれば、冷たいものだった。
また、もともとの内気な性格もあり新しい環境を作るのにも億劫であった。
もうどうしていいか分からない絶望感に打ちひしがれていた。
「もう閉店時間だよ。そんなに悲観しなくてもソロの奴だっていっぱいいるだろう?」
「それはそうなんだけどさ。」
酒場のおばちゃんの言う通り、ソロでやっている奴もいる。
だがその大半は日銭稼ぎで精いっぱいの連中だ。
冒険者として名を上げるなどという目標とは程遠い話だった。
「ほら帰った。帰った。店じまいだよ。」
「おばちゃんも冷たいんだな。」
「馬鹿言っているんじゃないよ。早く行きな。」
半ば追い出されるようにして、おばちゃんの酒場を出る。
外はとうに深夜であり、今日が期限である宿に戻るほか選択肢はなかった。
早朝、他のメンバーの冷たい視線を受けつつ宿を出た。
これで完全に根無し草だ。
一応、貯蓄はしていたがこの先何があるかわからない。
ひとまずは農家の馬小屋にでも銅貨1枚程度で泊めてもらわなければいけないだろう。
「さて、行ってみるか」
昼を過ぎた頃に色々と考えた結果、ひとまず1人でダンジョンに向かうことを決めた。
例えたいした稼ぎにならずとも、最低限の食事代と宿泊代を稼ぐ必要がある。
ダンジョンに入ると言っても、低層ならば1人でも問題ないだろう。
そう考え、ダンジョンに入ろうとした時だった。
ダンジョン前周辺でたむろしていた連中の声が聞こえてきた。
「午前中、”暁”の奴らがダンジョン攻略に失敗したってよ。」
「それ本当か?期待の新鋭だって聞いてたが。」
そんな言葉が交わされていた。
詳細を聞きそうになったが、もう自分には関係のない話だと割り切りダンジョンに入った。
ダンジョンに入ると既に何人か、ソロで狩りを行っている者達がいた。
俺が入ると、睨みつけるようにしてこちらを見てきた。
忘れていたがソロ同士の場合、狩場の奪い合いになることを避けるため縄張りがあるのだった。
仕方なく、ダンジョンの奥の方へ向かう。
しばらくしてようやく人気が無くなる場所にたどり着く。
ポップするモンスターを数体、倒した。
やはり一人の狩りでは効率が悪い。
何より、ケガをしないように戦うのが難しい。
少しでもケガをすればすぐに帰らないといけないのだ。
一人では多少のケガでも、それが別の致命傷に繋がりかねないからだ。
俺は細心の注意を払いつつ、狩りを続けた。
そうしているうちにニ時間程度が経ち、1日分としては十分な稼ぎが出たその時だった。
「きゃああああ!!」
女の叫び声が、ダンジョンの奥から聞こえてきた。
俺は迷った。助けに行くべきか、否かを。
ソロでダンジョンの奥に進むのは、とても危険なのだ。
行きも危険だが、疲弊した帰りが一番危ない。
例えばダンジョン入り口にある詰所に話せば、救助隊を出してもらえるかもしれない。
そんなふうに悩んでいるうちにもう一度、女の声が聞こえてきた。
「誰か!!誰か助けてぇ!!」
知らぬ間に、体は動いていた。
ダンジョンのトラップや、ギミックをかわしつつ最短のルートで奥へと進む。
幸いなことにこのダンジョンは何度も来たことのあるダンジョンだった。
わずかな時間で、目的地へと到達した。
するとそこには壁のトラップに片足や腕を取られ、逃げられない状態の少女が二人いた。
周囲には三体のゴブリンがいる。
「「「ギキィッ」」」
恐らくトラップを仕掛けたのは、その三体のゴブリンなのだろう。
捕らわれた少女たちは泣きながら、助けを求めていた。
よほど少女二人を捕らえられたことがうれしいのだろう。
ゴブリンたちは気配を消しているとはいえ、背後に近づいた俺に気がつくことはなかった。
「まずは一匹!!」
躊躇なく、ダガーをゴブリンの首に滑らせる。
即死はしていないが、十分な致命傷だ。数分もすれば息絶えるだろう。
そこで初めて気がついたのか、残りの二匹が驚いたように振り返った。
「遅いんだよ!!二匹目!!」
一匹目と同様に首筋にダガーを滑らせる。
血しぶきが舞った。
これで残るゴブリンは一匹となった。
ダガーを逆さに持ち、構える。
一方のゴブリンも所持していた棍棒を構えた。
一対一の勝負となった。
「ギキィ!」
初めに動いたのはゴブリンだった。
小柄な体躯を生かした、スピード攻撃だった。
「ゴブリンのくせに厄介な!!」
思わぬスピードの攻撃を避けつつ、俺は後退した。
お返しにとダガーを振るうが、棍棒で防がれる。
戦いはゴブリンの方が優勢のように見えた。
だがそれは、俺があえてしていたことだ。
スピードに任せ猛攻を繰り出し続けるゴブリンの姿が突如として消える。
「悪いが、そこには落とし穴があったんだ。」
上から下をのぞき込むと、仕掛けられた針で串刺しになったゴブリンの姿が見て取れた。
そう。俺はダンジョンのトラップを逆手に取り利用したのだ。
三体とも仕留めたことを再度確認して、少女達へと向き直る。
「もう大丈夫だ。トラップも解除しよう。」
トラップ解除は盗賊のスキルでもある。
トラップを解除すると、二人の少女たちはお礼の言葉を口にした。
「ありがとうございます。」
「私も。ありがとうございます。貴方が来てくれなかったら、今頃ゴブリンの餌食になっていました。」
「いやいや。それほどでも。」
二人組の少女は、それぞれ燃えるような赤色のロングヘアーの少女と、水色のボブカットの少女だった。
「そういえば、君たちの名前は?僕はレックスというんだけど。」
「ああ。そうですね。忘れていました。私はミシェルといいます。みんなミィと呼びます。」
「私はカレンです。みんなはそのまま呼びます。」
赤色の髪の子は、ミシェル。水色の髪の子はカレンというようだった。
「二人は冒険者になってどれくらいなんだ?」
「大体、三ヶ月くらいですね。」
「そうか。三ヶ月か。」
聞けばミシェルは剣士で、カレンは魔法使いだという。
悪くないペアだが、三ヶ月の新人が潜るにはこの場所は苦しいと俺には思えた。
「それで今後の行動方針なんだが、ひとまず帰るので問題ないね?」
「はい。私もミシェルも疲れていて、とても戦える状況ではないので。」
「お願いします。」
俺は二人を連れて帰ることにした。
だが地図を開き現在地を確認すると、結構な奥深くまで進んでいたことが分かった。
「ダンジョンの地図なんて、高価なものを持っているんですね。」
「ああ。これは自作の地図さ。買うと高いからね。」
マップ探索は俺の得意技のうちの一つだった。
例えば石を投げて音の反射を聞くだけで道の長さや、先が行き止まりかどうか判別がつくのだ。
実際に歩いた箇所と石投げで、自作の地図を完成させていたのだった。
「おっと。そこの右の壁にはトラップがあるから触らないでね。」
「え?本当に?」
「試してみるかい?」
半信半疑のミシェルの様子に、俺はトラップが動作するかを試して見せることにした。
裏拳でトラップの壁を叩くと同時に後ろに飛び退った。
するとジャキンという音と共に、巨大な針が突き出し通路をふさいだ。
その後、徐々に針は引いていき元のなんでもない通路の見た目となった。
「本当だ!!すごい!!」
「レックスさんはすごいんですね!!」
それからも帰り道でトラップを発見し解除したり、ギミックを見つけては説明したりしながら帰った。
その度に二人は揃ってすごい、すごいとほめてくれた。
そして数時間の後、ようやく無事にダンジョンの外へと出られたのだった。
「「今日は、本当にありがとうございました!!」」
ダンジョンの外に出た後、二人は揃って頭を下げてきた。
それに俺は軽く返す。
「いいよいいよ。でも次からは気を付けるんだよ。」
「はい。それで、お話があるんですけどちょっといいですか?」
「うん。いいけど、なに?」
そこで会話をいったん切ると、二人は顔を見合わせ一度頷き合ってから言葉を口にした。
「明日も。いえ今後、私達とパーティを組んでもらえませんか?」
「え?」
それは思ってもみない言葉だった。そしてありがたいものだった。
だが昨日の今日で、捨てられた自分が拾われる事実に驚きを隠せなかった。
「あの?やっぱり駄目でしょうか?」
「いや。いいよ。いいんだ。こちらこそよろしくお願いするよ。」
「「やった。」」
二人は揃って喜んでいた。
それを見て、なんだか自分自身もうれしい気持ちとなったのだった。
何度もありがとうを口にするミシェルとカレンを後に、俺は帰路についた。
夕陽はとうに沈んでおり、夜の繁華街はにぎやかさを見せていた。
貯蓄は少々あるが、遊ぶわけにはいかない。
今日はなんとか食えるだけの日銭しか稼いでいないのだ。
必然的に安い値段で食事のとれる、いつものおばちゃんの店へと足がおもむいていた。
「でさ、明日からパーティを組んでくれることになったんだよ。」
「ほう、そうかい。昨日の今日でいいこともあるもんだね。」
カウンターでグラタンをつつきつつ、店のおばちゃんと話をする。
「ところで”暁”の連中がダンジョン攻略に失敗した話は知ってるかい?」
「一応、耳にする程度には。でも未練も興味もないよ。俺は追放された身だし。」
「昨日の今日でずいぶんな吹っ切れ具合だね。まったく。」
おばちゃんは呆れ顔で俺の方を見た。
だが知ったことか。
どうせ追放された身だ。
過去を振り返ってもろくなことが無い。
扱いや待遇など、嫌な記憶が掘り起こされるだけだ。
俺はそれらを忘れるように、残りのグラタンを一気にかきこみ店を後にしたのだった。
翌日、指定の時刻にダンジョン前に行くとミシェルとカレンの姿が既にあった。
二人ははじめ安堵した表情をしてから、俺に声をかけてきた。
「来てくれるかどうか、少し不安でした。」
「レックスさん。今日はよろしくお願いします。」
その声に俺も、笑いながら言葉を返す。
「この通り、きちんと来ているよ。こちらこそよろしく。」
どことなくぎくしゃくした様子の二人に、緊張をほぐすために話題を振る。
「今日は、実力試しにオークを狩ろうか?」
「オークですか?」
「うん。ゴブリンだと、二人なら軽く倒せそうだしね。事実、あそこまで進んでいたことがその証明さ。」
「なるほど。分かりました。」
チームワークを発揮するための練習にもなる。
しかもオークであれば、人型に近い魔物でもあるので練習相手にはもってこいだった。
準備が整ったところで、早速ダンジョンに潜ることとなった。
昨日の帰り道同様に、俺が先導しダンジョン内を進んでいく。
「そこの床、よく見ると色が違うだろう?トラップだから踏まないでね。」
「わ、わかりました。」
トラップ回避と索敵を同時にこなしつつ、オークのいる場所まで進む。
分岐点では石投げで行き止まりか確かめたり、雑魚を誘って狩るなどしていった。
ダンジョンに潜って一時間、ようやく目的地のオークがいる場所へとついた。
この場所では定期的にオークがポップするのだ。
「俺が先制した後、後退するから合わせてもらえるかな。」
「はい。」
「やってみます。」
今、俺達は物陰からオークの様子を伺っている。
オークは鼻が良いため、あと少しでこちらに気がつくだろう。
そうなる前に、俺は仕掛けた。
自身のトップスピードで、オークの前面に飛び出す。
「ブフォ!?」
突然の出来事に驚愕を示すオーク。
そしてオークは盾を構えた。
だが俺の狙いは足の健だ。
オークの横を走り抜ける。
通り抜ける際に、右足の健をダガーで切り裂いた。
「ウグッ!!」
痛みと共に、オークが右によろける。
その隙に俺は後退し、入れ替わる形でミシェルが剣を構え突撃した。
右足をカバーするように立つオーク相手に、側面からの一撃をミシェルは放った。
盾でガードするも、やはり右足が痛むのかオークは反撃が出来ない。
通常なら反撃が来ているところだ。
その間に、カレンの魔法の詠唱は完了していた。
「火炎よ燃え広がれ!!」
火の魔法が発動し、オークを包んだ。
「ブフォオオオ!!」
オークはその場で転がりまわった。
しばらくして、動かなくなる。
だが息の根はまだ止まっていなかった。
「ミシェルとどめを刺してくれ!!」
「分かりました!!せっ!!」
ミシェルの放った刺突は、深々とオークの心臓に突き刺さった。
そしてそのオークは絶命したのだった。
「「やりましたね!!」」
「ああ。」
綺麗にシンクロして声を上げる彼女たちに、俺は苦笑しつつ頷き返したのだった。
それからもしばらくの間、同様の方法でオーク狩りを続けた。
何十体目かのオークを狩り終えたところで、狩りをやめることにした。
二人を見れば、玉のような汗がにじみ浮かんでいたからだ。
「二人とも今日はもう終わりにしよう。」
「「はい。」」
狩りは疲労との兼ね合いだ。
疲れが出れば、ミスやそもそもの戦闘力の低下などを引き起こす。
何より帰り道が危険だ。
俺は、急いで帰ることにした。
トラップは多いが、それさえ避ければ最短で帰れるルートを選ぶ。
解除しなければ進めないトラップもあったが、それも問題なくクリアできた。
そしてダンジョン外に出ると、もう夕方だった。
丸一日、ダンジョンに潜っていた事実に素直に驚いた。
「チームとして成り立ってましたか?」
時間の経過の早さに驚いていたのもつかの間、開口一番ミシェルが聞いてきた。
「もちろん。想像以上の手ごたえだよ。」
「「やった。」」
「それと明日は休みにしよう。今日のオークの稼ぎで一週間はもつからね。」
「明日はお休みですか。」
カレンはどことなく寂しそうにしていた。
そんなカレンに俺は優しく言葉を返した。
「明後日、また同じ時間に集合しよう。大丈夫。また会えるよ。」
「はい。」
狩ったオークの鼻をギルドで換金した後、解散となる。
解散後、俺は早歩きでいつものおばちゃんの店へと向かった。
食事をなるべく早く済ませ、早めに休むためだ。
冒険者は体が資本だ。休む時は休まなければならない。
明日を休息にあてたのはそういう理由だった。
体力管理の重要さをもっと二人に伝えておくべきだな。
そう思いつつ、おばちゃんの店の扉を開けた。
すると、待っていましたとばかりに声がかかった。
「レックス。お客さんだよ。」
「客?」
おばちゃんが指し示す方を見ると、フードを被った男の姿があった。
見るからに怪しい姿に、顔をしかめる。
「悪いんだが疲れているんだ。それにフードくらいとったらどうなんだ。」
疲れている身で、厄介ごとは勘弁だった。
おばちゃんも剣呑な空気に、嫌気がさしたかのような表情をしていた。
「これはすまなかったな。私だ。」
そう言うと男はかぶっていたフードを外した。
そこにいた男はなんと”暁”のリーダーだった。
それに俺は、さらに眉根をしかめた。
「久しぶり。というには短い気がするが。」
「俺もそう思う。」
「それで用件は?さっきも言った通り疲れているんだ。あと、食事をとりながらでもいいか?」
「食事はとりながらでも構わない。」
「おばちゃん。いつものグラタン1つ。」
「あいよ。」
リーダーは、見たことのない真摯な態度で俺に対応してきた。
それに俺は、ある種の不気味さを感じた。
準備してあったのか、すぐにグラタンが出てくる。
しばらくそれをつついた後、リーダーが何も言葉を口にしないのでこちらから聞いた。
「それで用件は?」
「お前を”暁”に引き戻しに来た。」
「はい?」
その言葉に、俺を含め聞き耳を立てていた者達も驚いた。
「なんでまた。勝手に追い出しておいて、引き戻そうとするんだ?」
「ここ二日、俺達”暁”は失敗続きだ。」
「それは聞いてるが、俺と何の関係が?」
「そこで今日の手すきの時間に、お前を監視してみた。俺達から抜けたのは、お前だけだったからだ。」
監視とはまた穏やかではない言葉だ。
つまり狩りの間、ずっと見張られていたという事だ。
「お前のマッピング・トラップ回避・索敵能力・指示能力は、卓越したものだった。」
「おいおい、俺達を見張ってたのか。」
「ただ見ていただけだ。何もしていない。」
若干まくしたて気味になった俺に、トーンを落とすようにリーダーは言葉を口にした。
「一リーダーとして謝罪する。すまなかった。だから戻ってきてくれ。」
その謝罪に、俺は無言で返した。
虫のいい話だ。
加えて、頭に浮かんだのはミシェルとカレンの二人だった。
重々しい空気の中、俺は慎重に言葉を選んで口にした。
「悪いが、俺にはもう新しい仲間がいる。”暁”に戻ることはできない。」
「あの二人組の新人か。」
「そうだ。もう放っておけない。」
それでリーダーは口を閉ざし、沈黙した。
途端、店内に静寂が訪れる。
しばらくするとリーダーはフードを被りなおし、立ち上がった。
「分かった。お前を引き戻すのはあきらめる。」
それだけ言い、おばちゃんにチップを渡しリーダーは店を後にした。
グラタンの残りはすっかり冷めてしまっていた。
夜、農家の馬小屋に戻るとすぐに眠気が襲ってきた。
疲れていたこともあるのだろう。
藁の山に倒れこむように、横になる。
そしてそのまま、完全に熟睡し翌朝を迎えたのだった。
朝、目覚めると体は快調だった。
これなら気晴らしに、どこかへ出かけらるだろう。
そう思っていた矢先だった。
「レックスさん!!大変です!!」
カレンが何故か、馬小屋に突入してきたのだった。
俺は突然馬小屋に入ってきたカレンに驚いたが、ひとまずカレンを落ち着けることにした。
「どうしてここが分かったのか気になるが、とりあえず落ち着くんだ。」
「は、はい。居場所は、街の人達に聞いたら教えてくれました。」
カレンを落ち着けていると、ミシェルも馬小屋の中に入ってきた。
ミシェルもどこか焦っているのか、こちらにかまわず言葉を口にした。
「それより、話があるんです。」
「話って?」
とまどう俺に、二人はそろって言葉を口にした。
「「パーティ”暁”の数名が、ダンジョン内で行方不明だそうです。」」
曰く、昨日の深夜にパーティ”暁”はダンジョンに潜ったらしい。
そして数時間で戻るはずのところ、一人だけが帰還し他のメンバーが行方不明になったことを報告したとの事だ。
また、ギルドは捜索隊を募っているとの事だった。
カレンがうつむき気味に言葉を口にする。
「前のお仲間さんですよね……」
「知ってたのか。」
「はい。私もミィも知ってました。」
「レックスさん。どうするんですか?」
脳裏に、昨夜のリーダーの姿がよぎった。
どこか思いつめていたようにも思い起こされた。
それと真剣な目で見つめてくる二人に耐えきれず、頭をガシガシとかきながら俺は答えた。
「ああ!!もう分かった!!探しに行こう!!」
「「ですよね。レックスさん。」」
二人とも綺麗にシンクロして微笑んだのだった。
「手に余ると判断した場合は、即座に撤退。ギルドに報告するだけに留まるからね。」
「「分かりました。」」
持てるだけの回復薬や包帯を荷物に詰める。
ギルドの捜索隊も出ているとの事なので、俺たちは後回しになるだろう箇所を潰すことにした。
ダンジョンに入る許可をもらい、奇しくも昨日オーク狩りに利用した道を通る。
「これを見てください!!足跡です。」
「もしかするとビンゴかもな。」
昨日の夜、”暁”のリーダーは監視していたと言っていた。
その監視の間に、俺の通る道筋やトラップの回避方法と解き方を覚えた可能性が高い。
俺は昨日のオーク狩りの場所に、”暁”の他のメンバーがいる可能性を考えた。
「二人とも。昨日と同じ場所に一旦向かおう。」
「「了解です。」」
結果から言えば、ビンゴだった。
”暁”のメンバーの一人が、オーク狩場の端で倒れ伏していた。
包帯を巻き、回復薬を飲ませる。
二人の手際が良いこともあり、応急処置はすぐに終わった。
「お前。レックスか。」
「他の誰に見えるんだ?何があった?」
「お前達の真似をして、オーク狩りで調子を取り戻そうとしていたんだ。」
「それで?」
「そしたらヤツが出てきた。オークキングが出たんだ。それで皆、バラバラに……」
その言葉に、俺は思わず顔をしかめた。
オークキングは特別危険指定の魔物である。
また、このダンジョンのボスでもあった。
「頼む。リーダーがまだ戦っているんだ。どうか、助けてください。」
かつての高圧的な態度は無く、心からの懇願だけがあった。
選択肢は二つだ。
一つは目の前の男だけを助けて、ギルドに報告のみをする。これは事前に伝えてある、手に余る場合に一致する。
もう一つは近くにいるだろう他のメンバーも助けた上で、オークキングを討伐するというものだ。
前者であれば簡単だ。加えて安全である。
後者は難易度が跳ね上がる。加えて、オークキングとの戦闘になる可能性が高い。
「「レックスさん!!」」
選択に悩んでいると二人が俺の方を見て、名前を呼んだ。
二人の目には確固とした覚悟があった。
「分かってるのか二人とも。危険なんだぞ。」
「分かっています。でもレックスさんがいるなら、きっと大丈夫です。」
その言葉に何も言えなくなる。
恐らく俺がここで撤退しても、二人は残りのメンバーを探しに行くだろう。
そうなれば彼女たちが死ぬという最悪の事態を招きかねない。
それだけは絶対に避けたいと思った。
また、昨日の思いつめたリーダーの姿が思い起こされた。
いくらひどい扱いを受けていたとはいえ、知っている人物が死ぬのは気分が悪かった。
「分かった。他のメンバーも探そう。」
応急手当をしたメンバーに体力が回復次第、退避するように伝える。
ある程度歩けば、他の捜索隊に見つけてもらえるだろう。
そして、本格的に他のメンバーを探すこととなった。
幸いなことに、広間がそれほど大きくなかったためか他のメンバーもすぐに見つかった。
残るは、オークキングと戦っているというリーダーのみとなった。
「ちくしょう。どこに行きやがったんだ?」
「全く見当たりませんね。」
もしかするとリーダーは、あえてダンジョンの奥まで進んだのかもしれない。
オークキングをひきつけ、他のメンバーを逃がすためだ。
「仕方がない。奥に進もう。」
俺は自分の地図を広げると、可能性の高そうな道を絞り込んだ。
数本の道を、行っては広間に帰るを繰り返す。
六本目の道に入った時、俺は違和感を感じて二人に待つように伝えた。
盗賊スキルの索敵を用いるとともに、耳を澄ます。
「奥に一体の魔物の反応と、金属音がする。」
「もしかするとリーダーさんなんじゃないですか!?」
「分からない。とにかく行ってみよう。」
道に仕掛けられたトラップを解除していく。
万が一、オークキングから逃げる際に手間取らないようにするためだ。
その作業をしていると、いくつかのトラップは発動済みであることが分かった。
恐らくリーダーがオークキングとの戦闘中に踏み抜いたものと思われた。
そのようにして進んでいくと、徐々に剣戟の音が聞こえるようになってきた。
リーダーが見つかったのだ。
道を進んだ先には、元の場所と同じような広間があった。
そこではリーダーが壮絶な戦いを繰り広げていた。
それは、まさに喰らえば一撃必殺の攻撃をかわし合っているようなものだった。
特にオークキングの巨躯から繰り出される一撃は、一発でももらえばそれが致命傷になりかねないものだ。
その証拠にオークキングのもつ斧が振り下ろされるたびに、ダンジョンの床が揺れていた。
よく長時間、オークキングと渡り合えていられるものだと思った。
だがリーダーの体をよく見ると傷だらけで、特に腹部に出血の跡があるのが目立った。
恐らくだが生きて帰らない覚悟で戦っていたのだろう。
そんなリーダーに俺達は戦いに割って入ることをせず、言葉だけ伝えた。
「よく聞け!!他の仲間は助かった!!あとはあんただけだ!!」
「リーダーさん!!助けに来ましたよ!!」
リーダーはそれを聞くと、驚いたように一瞬こちらの方を見た。
そして大きくうなずいた。
そしてその瞬間から、オークキングの注意がこちらにも払われるようになった。
今は、大きな斧を構えて注意深くこちらを観察している。
そう。俺達とオークキングの戦いは始まったのだ。
「あいつは俺がやる。その間に、リーダーの応急手当を頼む。」
「「分かりました。」」
短いやり取りを交わす。
二人は素直にそれに従い、リーダーの元へ駆け寄った。
これは誘いだ。
貧相なダガー一本しか構えていない俺と、三人に増えた大剣持ち。
どちらかを選び戦えと言われたら、前者である俺の方が楽だろう。
案の定、オークキングはターゲットを俺へと切り替えて攻撃してきた。
「うおっ!!」
その巨躯に見合わないスピードでもって、オークキングは踏み込んできた。
これには見切りに自信のある俺も、慌てた。
とんでもないスピードで、とてつもなく大きな斧が振り回される。
それは例えるなら暴風だった。
しかも時折、拳や蹴りが混ざってくるのだ。
避けるので精一杯となり防戦一方となった。
ダガーを構えるも、それを振るう機会が与えられない。
俺は広間で戦うことを諦め、坑道の様なせまい道に入ることを選んだ。
もちろん石投げを使い、袋小路でないことを確認した上でだ。
これで斧の大振りだけは阻止することができるはずだった。
しかし、オークキングは一筋縄ではいかない存在だった。
振り回せないはずの斧を短く持ち、器用に連撃をこちらへと放ってきたのだ。
予想外の対応力に、俺は舌打ちをする。
小振りなそれは、ダガーで打ち合うことも可能だったが俺はあえて避けに徹した。
そして、来るべき時はやってきた。
一瞬、オークキングの姿が掻き消えた。
視界を下にやると、その姿が見えた。
落とし穴のトラップが発動したのだ。
しかも下部には針が仕掛けられている。
そう、このために俺はこの細い坑道の様な道を選んだのだ。
「もういっちょ!」
俺は勢いよくトラップの仕込まれている壁を叩きぬいた。
それは矢が飛び出るというものだった。
射出された矢は、狙い通りオークキングへと刺さった。
しかも運よく、左目に突き刺さっている。
「ギャアアアァアア!!」
オークキングの悲鳴が上がる。
これは好機だった。
俺は助走をつけるための距離をとる。
ダガーを構え、駆け始めた。
チャンスは一回だけだ。
トップスピードに至った時、宙を跳ぶ。
そして残った右目に向けて、ダガーを思い切り突き出した。
ずぶり。という音と共に、ダガーがオークキングの右目に深々と突き刺さる。
そして最後に、ダガーの柄を思い切り蹴りぬいた。
ダガーがさらに深く沈み込む。
恐らく、刃は脳にまで到達しただろう。
「アアアァアアァアアァアアァ!!」
オークキングから再び悲鳴が上がる。
武器は失ったが少なくとも、オークキングを致命傷を与えることには成功した。
見れば針の落とし穴のせいで、足も貫かれており大量の血を流していた。
このまま眺めているだけで絶命するだろう。
そしてその目算は合っていた。
当初こそ暴れまわっていたものの、しばらくするとオークキングは静かになった。
俺は、オークキングを倒すことに成功したのだった。
その後、オークキングの腕章と差し込んだダガーを回収し広間に戻った。
すると直後に、ミシェルとカレンの二人が抱き着いてきた。
「ふ、二人ともっ!!」
「レックスさん。生きててよかった。」
「私も心配でした。」
美少女二人に密着された状態でどぎまぎしていると、奥の方からリーダーの声が聞こえてきた。
「おーい。感慨にふけっているところ悪いんだが、私を起こしてくれないか。」
「あ。忘れてました。」
カレンが微妙にひどいことを言う。
リーダーの声に我に返ったのか、ミシェルもリーダーの方へ回った。
俺が近づくと、リーダーは直接俺に聞いてきた。
「オークキングはどうなった?ものすごい悲鳴が聞こえていたが。」
「俺が倒した。」
「そうか。――今回は、本当にすまなかった。そしてありがとう。」
「気にするな。それより、もうじきに来る救助隊を待とう。」
気まずいのだろう。
リーダーとの会話は、それで終わりとなった。
それからしばらくして救助隊はやってきた。
オークキングを討伐したと報告すると、こちらを疑ってきた。
しかし実物を見せたことで、その疑惑はすぐに解消された。
その後は速やかにダンジョン外に出ることとなった。
ダンジョンの外に出ると、また夕方となっていた。
「今日は休息にならなかったな。」
「でも、なんだか気分が良いです。」
「私も。」
俺はなんとなく二人といたい気分だったが、夜も近いこともありそのまますぐに解散となった。
後日、オークキング討伐の報奨金が支払われ懐が潤った俺達は繁華街に来ていた。
といっても向かったのは、いつものおばちゃんの店だ。
「というわけで、カンパーイ!!」
「「カンパーイ!!」」
「おや今日は華やかだね。その二人が例の子らかい。」
今日はテーブルを占拠し、盛大に打ち上げをやるのだ。
「あんたが酒っていうのも珍しいね。」
「今日は特別さ。おばちゃん。」
言っている間にも、いつものグラタンや他の料理が運ばれてくる。
合わせて次々と酒も運ばれてきていた。
「あ。このグラタン美味しい。」
「だろう?俺のお気に入りなんだ。」
「本当にいつもそればかり頼むんだよ。」
「そうなんですか。」
ちょうど酔いも回ってきたところで、新たな客が入ってきた。
それに対し、おばちゃんは対応する。
「あー。悪いんだがね。今日は貸し切りなんだ。よそをあたってくれないかい?」
「いや、飲みに来たわけじゃないんだ。今日は改めて感謝と謝罪を述べに来たんだ。」
新たな客たちは、”暁”のフルメンバーだった。
それに驚いたおばちゃんは、確認するかのように一度こっちを見た。
俺はそれに頷き、ひとまず”暁”のメンバー達の話を聞くことにした。
「それで話は?」
俺が聞くと、メンバーの一人が言葉を口にした。
「今回は助けてくれてありがとう。そして、すまなかった。」
前半は今回の騒動に関する感謝で、後半は今までの扱いすべて含めての謝罪である事が伺えた。
他のメンバーもそれに続き、感謝と謝罪の言葉を口にしていった。
「感謝なら、こっちの二人にしてくれ。この二人がいなかったら俺は動かなかったかもしれない。」
「そうか。」
そこで短い沈黙が流れた。
その後、とあるメンバーがその沈黙を破った。
「なあ、やっぱり俺達のところに戻ってきてくれないか?」
そう口にした。
それに対して俺が返答しようとしたところ、ミシェルとカレンが割って入った。
二人は俺の両腕にそれぞれ抱き着きながら、言葉を口にする。
「お、おい。二人とも?」
「駄目ですよ。レックスさんは、もう私達のものですから。」
「そうですよ。あげません。」
二人はしっかりと、俺の腕に密着し離さないようにしていた。
俺は人前で少し恥ずかしかったが、二人の気持ちが分かり嬉しかった。
そしてそれを見た”暁”のメンバー達は目を丸くした後、笑って言った。
「ああなるほど。こりゃ誘っても帰ってこないわな。」
居合わせたその場の全員がどっと笑って、ことは全て済んだのだった。
[感謝]
お読みいただきありがとうございました。
はじめてまともに書いた、追放系への挑戦作でした。
感想等あれば頂けるとうれしいです。反応出来るときに反応します。
[反省]
なんだか、よくある追放系と違うものが出来上がりました。
自分としては、これはこれで良かったと思ってはいるのですが……
[現状]
修業のために短編を主に書いています。
しばらくずっと短編を書くと思います。
[最近の悩み]
一人と1人。などの、数字表記に困っています。
今作は漢字表記で統一しました。