貰い物【1500字ショートショート】
「米できたけぇ、持ってきんさい」
「ありがとうございます」
田舎町に移住して1年。物々交換の風習にも慣れてきた。近所のおじいちゃんが米を30kgくれるのだ。お礼にうちで取れた柿を渡す。
「あと……これ要らんかね?」
小さな竹かごの中に、何者かの小動物が眠っている。白く短い毛がモフモフしていて、目の周りが黒く、鼻が赤い。可愛い。
「なんですかこれは?」
「これはうちの軒下に眠ってたんじゃ。耳がないし尾っぽが短いけぇ、なんだろうと思うてなぁ」
「でも可愛いですね」
「じゃろう? 持ってきんさい。ペットがいるっていうのは楽しいもんよ」
私はその動物を受け取り、飼うことにした。
しかし一体何なんだろうか? 猫? でも耳がない。この辺にはハクビシン、イタチ、鹿、熊なんかが生息してるけど、それのどれにも当てはまらない気がする。
とりあえず飼ってみることにした。
以前猫を飼っていた時に使っていたケージに動物を入れ、観察する。
移し替えられたショックで起きてしまった。ぱっちりと大きな瞳が開く。
しかし静かなもので鳴かない。
これは室内飼いにもってこいかも。
鼻が丸く赤いからイチゴと名付けたその動物は、すくすくと成長していった。
体長170cmくらい。
家に来て二週間後には二足歩行で立てるようになった位だ。
でも私の布団で一緒に寝るくらいまだまだ子供だ。
しばらくするとこんな技までできるようになった。
「イチゴ、ボールくるくる」
イチゴは指さすように人差し指だけを天井に向けて伸ばし、そのうえでボールを回転させるという技までできるようになった。
イチゴに徹夜して覚えさせた技だ。
「イチゴは凄いねえ! 偉いよ~」
かわいいかわいいイチゴ。
こんな風になってもイチゴは全く鳴かない。
少しくらい鳴いてもいいような気がするけど。
イチゴを持って来てくれたおじいちゃんにイチゴの姿を見せる。
「これは……ピエロじゃな」
「ピエロ?」
「この地域には稀に野生のピエロの子供が生まれることがあるんじゃ」
確かに成長したイチゴの姿は全身白く、目の周りは黒く、鼻が赤い。
「服を着させた方がいいぞ。なんたってピエロだからのぉ。パントマイムくらいなら覚えるかもしれんぞ」
私はイチゴにパントマイムを教えた。
教えると言っても自分が上手くできないので、YouTubeを見て勉強した。
私が説明すると、イチゴは一生懸命覚えた。
その際に言葉も覚えたようだ。
せっかくなのでひらがなの書き方も教えた。
それからというもの、家には沢山の人がやってきて、イチゴのパントマイムを楽しんだ。
テレビでも放映されたりなんかして、イチゴは有名になっていく。
なんか寂しい。イチゴを育てたのは私なのに、遠くに行っちゃうみたい。
テレビの放映を機にサーカスにスカウトされたイチゴは、自分の意思を筆談で示し、サーカスに入ることになった。
もうイチゴとはお別れ。なんだよ。イチゴ、私に恩はないわけ?
サーカスの人が迎えに来た時、イチゴは振り返り、紙にボールペンで、「いままでありがとう。だいすき」と書いた。
涙が溢れて、「ありがとう! 私も大好き!」と叫んだ。
イチゴはサーカスでも活躍した。
世界中を周ってパントマイムを披露した。
今でも家にも巡業してくれて披露してくれる。
その夜は同じ布団でイチゴと眠る。
いつまでもイチゴは私の子。