幕間 カナリア個人の憂鬱
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合同訓練を終えたカナリア、モーエンは今日の訓練についての確認と明日からの方針修正を話し合うためそのままの足で部隊室へ向かった。
「やれやれ……毎度のことながら坊主はやってくれるぜ」
「本当に……」
だがまずは精神的疲労をねぎらうべくお茶で一息を。
ファンデル王国は他国に比べて貴族、平民の格差は緩く学院生なら尚のこと同列に扱う風習がある。
もちろん古い習慣に囚われている貴族も居るし、平民も弁えは必要とされている。しかし平民出のカナリアが王族のレイドやエレノアを指導員という立場からさん付けを許されていることから個々の組織による立場が尊重される。
カナリアやモーエンを呼び捨てるのはまだいい。昔なじみでもあるし注意するのは今さら、というよりも二人はアヤトの為人を知っている。言ってしまえば彼に悪意は全くない、ただ素直すぎるだけだ。
だが同じ学院生とはいえ侯爵家のカイル、伯爵家のティエッタに対する態度は度が過ぎていた。持たぬ者という立場も踏まえて周囲の批判を受けるのは当然のことで。
実のところアヤトの過去が過去なだけに、あまり実力を知られすぎると悪目立ちしてしまうので学院生レベルと認識されている方が良かった。
それでもカナリアは過去の自分を見ているようで我慢できず、学院生の今後を踏まえると最善の選択をしたと開き直っていた。
一応学院生には広めないように口止めもしている、そもそもアヤトの過去が余りに不憫なだけに多生の羽目を外しても許される、別に悪いことはしていないと、後は宰相に報告して丸投げするつもりでいた。
こうした度胸もラタニの小隊員として鍛えられているのだがそれはさておき。
「さてと、今回の代表はなかなかの粒ぞろいだったな」
落ち着いたところで早速モーエンが本題に入る。
資料や噂だけでなく実際に確認したことで予想以上の実力があった。
「はい。当時の序列メンバーよりも実力は上でしょう」
カナリアも同意する。もし学院生の頃の自分だったらまず序列入りは難しいと認められるほど。
タッグ戦でもそれぞれ良い連携ができている(リースはアヤトが帰宅したため、見学だったが)。帝国側の代表も今年は選りすぐりと聞く。特に天才精霊術士と呼ばれる二学生が居るとの噂もあったが、このメンバーなら勝ち越しも夢ではない。
ここ数回の親善試合で帝国に負け越しているだけに期待感が募り、報告すれば宰相らも喜ぶだろうと何気ないフォローもできた。
それだけに残り四日の合同訓練を無駄にせず、より勝率を上げる必要があるも――
「聞いていた以上ではあったが……」
「それだけに、残念でしたね」
二人の興味を引いたのはやはりロロベリア=リーズベルト。
あのラタニが精霊術士の申し子と賞賛するように精霊術の扱いがとにかく上手い。特に目を引いたのは制御力、恐らく自分たちよりも上だと感じさせた。
近接戦闘もどんな気まぐれかは謎だが調理師に赴任してからアヤトが鍛えているだけあってかなりのレベル。
なにより強さを求める意思。ラタニとアヤトの模擬戦が本格化するなり誰もが驚き、呆れる中、一人だけ集中して観察し続け、誰よりも悔しがっていた。
才能よりも、ロロベリアのようなタイプが最も伸びる――それだけに惜しい。
強さを求める意思、純粋な才能と両方に恵まれているロロベリアだが精霊力の保有量には恵まれていない。故に言霊でのけん制を控え、大規模な精霊術も簡単に放てず短期決戦を余儀なくされてしまう。
もちろん近接戦闘もできるなら織り交ぜれば充分強い。しかしより上を目指すならどうしても精霊術を磨く必要がある。
保有量は開花時に個々で差はあれど成長するにつれ少しずつ上昇するので悲観することもないが、現時点で他の序列保持者やニコレスカ姉弟と差があり過ぎた。
精霊力の研究は進んでいるも保有量の上昇についてはまだ明確になっていなく、誰がどれだけ伸びるかも謎のまま。
ただ上位精霊術士は誰もが開花時から恵まれているだけに、ロロベリアの保有量は望み薄。
同じ王国民として、同じ精霊術士として彼女の才能が開花しないのは実に惜しい。
「ま……俺たちが悩んでいても仕方ないか」
「ですね。今は親善試合を制するために何をするべきかを第一に」
それでも二人が気にしてどうにかなるわけもなく、まずは任された任務を遂行するべきと気持ちを切り替え。
「やはり実戦に勝る訓練なし、このまま予定通りに進めるべきですが」
「坊主のデタラメっぷりも暴露したことだ、より効率的にするのもアリか」
予定外の初日を踏まえてお互いに考えていた修正案を煮詰めていく。
「ではモーエンさん、明日の訓練に備えて訓練場の準備をお願いします。私は報告書を書いておくので」
「りょーかいだ」
話し合いも終了し、それぞれのやるべき事を済ませるためにモーエンは立ち上がり。
「ただま、坊主が素直に協力してくれるかね」
「私が頼めば問題ないでしょう。なんせ私は彼に多くの貸しを作っていますから」
「なるほどね……にしても、坊主は傍若無人に見えてほんと律義だ」
「だからこそ憎めないんですが」
「違いない」
そのまま手をひらひらさせてモーエンは部隊室を後にした。
残されたカナリアは早速報告書を書き始め。
「……昔は憎めないだけでなく可愛かったのに……本当に残念です」
言葉通りとても大きなため息を吐いていた。
カナリアのアレについては後ほど詳しく明かされる予定(笑)。
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アヤト毎回登場の無双しまくりな内容なのでアヤトが好きな方は特にお楽しみに!
作者も息切れ覚悟でこの一週間めちゃ頑張ります!
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なので今後とも今作をよろしくお願いします!
読んでいただき、ありがとうございました!