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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第四章 つかの間の休息編
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デタラメ遊戯

アクセスありがとうございます!



 ラタニが合図と口にしたように、模擬戦の質が激変した。


『蹂躙せよ!』


 言霊によりラタニの前方から風刃が飛び出した。

 先ほどの風刃に比べて五〇センメル程度のサイズ、しかし五〇の数で四方からアヤトへ襲いかかる。

 正規の精霊術士で優秀な部類に入る者の言霊でもこのサイズの刃なら精々三〇が良いところ。学院生なら詩を紡がなければまず不可能。

 しかもラタニの精霊術は発動速度からして別格の速さを誇る。


「随分と大盤振る舞いじゃねぇか」


 だがアヤトも負けていない。

 不規則な角度から不規則なタイミングで迫る風刃をものともせず躱せるものは躱し、無理なら朧月を振るい徐々に距離を詰めていく。

 ただの精霊術士ではない、ラタニの精霊術で包囲されながら躱すだけでなく距離を詰められる者など精霊騎士団にも居ない。


「あんたを近づけると厄介だからねぇ――と」


『パチン』


 だが指鳴らしで発動した風刃が猛追。不意に変化を加えられた攻撃に迎撃不可を判断し後方へと回避を余儀なくされた。


「チッ……陰険なタイミングで来やがって」

「ナイスタイミングって言って欲しいねぇ! まだまだ行くよ!」


『収縮、解き放て!』


 悪態を吐きつつ再び接近の意思を見せるアヤトを見据えてラタニはほくそ笑み、空気が圧縮された真空弾を発動。

 サイズこそ拳よりも小さく直線的だが風の刃より速く、なにより一度で数十発の速射性を持つ精霊術。

 単調でも速く、躱しても追い打ち可能な攻撃にさすがのアヤトも近づくことは出来ないが――


「そこで突っこんでくるあんたこそ陰険だっての!」

「英断と言えっ」


 躱すどころか前進を選択したことにラタニが抗議めいた叫びを上げる。

 それでもアヤトは立ち止まるどころか朧月を振るいつつ更に速度を上げていく。

 完全に捌ききれず衣服や顔、腕を掠めていくも被弾なく真空の弾幕を抜け出せたことで間合いに入り朧月を一閃。


「うわっと! あんたマジで振り抜いたっしょ!」


 序盤の近接戦より鋭い横薙ぎは精霊力の集約をさせる暇も与えない。防げる速度ではないと判断したラタニはこの模擬戦で初めて後退したがローブの裾が斬られてしまう。


「マジ遊ぶんだろうが――くっ!」


 好機と見なしアヤトは追撃を狙うも、寸でのところで横へ飛んだ。


『轟け!』


 追撃していれば確実に被弾するタイミングでラタニの前方へ稲光が落ちた。


「テメェはマジで黒焦げにする気か」

「マジ遊ぶって言ったっしょ! つーか少しはお休みしようと思わんのっ?」

「テメェに詩紡がせると厄介どころじゃねぇんだ――よ」


 後転で回避しつつアヤトは右手を振るい投げナイフで応戦。

 これには追い打ちの精霊術を放とうとしたラタニも虚を突かれ身体を捻るも頬に赤い筋が。


「だからってナイフはやり過ぎじゃねっ?」

「そっちは精霊術があるだろ――っ」


『パチン』

『パチン』


 批判しつつ指鳴らしで精霊術を発動、前進を試みたアヤトは咄嗟に軌道を左へ。

 同時にラタニとの直線上の空間が歪み、圧縮された空気がパンッ、パンッと破裂。

 もし前進していれば完璧にアヤトを捕らえていたタイミングで。


「不可視の攻撃をよくもまあ毎回見切るねぇ!」

「空気の流れを読めば不可視でもねぇからな」


 つまりこの激しい攻防の中、アヤトは発動する際に起こる僅かな空間の歪みすら気づいていた。

 またラタニは初動のないアヤトの前進を見るではなく予測しながら、絶妙なタイミングで罠を張った。

 周囲の気配を常に探る。

 相手の行動を予測する。

 戦闘における基礎的な方法をこの師弟は規格外な領域で実践している。


 何度見てもデタラメな光景だとカナリアはもう笑うしかない。


 テンション差はあるも子供のような言い争いをしつつ攻防を続ける二人の様子は、まさに楽しく遊ぶ子供のようで。


 しかしアヤトは斬り捨てるつもりで。

 ラタニは精霊器を持たない彼に精霊術を被弾させるつもりで。

 つまり一瞬でも気を抜けば命を落としかねない攻防。


 しかもこのハイレベルな高速戦闘がラタニとアヤトにとって遊びレベルの実力なのだ。

 いや、正確には両者とも本気を出している。ただ本気の出しどころが違うだけ。

 ラタニも近接戦に関しては充分強い、しかしあくまで本業は精霊術士。近接戦では本業の精霊騎士に比べると見劣りしてしまう。

 アヤトは王国最強と謳われる精霊騎士のサーヴェルすら圧倒する近接戦闘の猛者。

 実のところ単純な移動速度はラタニに劣るのだが、瞬発力ではアヤトが上回っている。加えて卓越な戦闘技術を身に付けたことで近接戦なら完全にアヤトが有利。


 しかしアヤトは持たぬ者、投げナイフの技術は一流でも距離を空けられると攻撃手段が単調になる。

 対しラタニは王国最強の精霊術士、言わば距離を空ければ空けるだけ多彩な精霊術で本領を発揮する。

 遠隔戦では完全にラタニが有利と、両者の得意とする戦い方は真逆で。

 ただいくらラタニでも言霊でアヤトを完全に捕らえる精霊術を放つのは難しい。

 なのでラタニは近接戦を嫌がり、アヤトは多少の被害覚悟で近づこうとする。


 結果としてアヤトはいかにラタニの言霊をかいくぐり近接戦へ持ち込むか。

 ラタニはいかに言霊で、または詩を紡げるだけの距離を作りアヤトを捕らえるかとの精霊術士と精霊騎士が対戦する際、基本的な攻防を繰り返す。

 二人の本気で遊ぶというのは、相手の得意とする戦い方を覆すことを指しているわけで、もっと言えば覆して『ざまあみろ』とバカにしたいだけ。

 激しい攻防中に言い争うのも無言になれば『必死すぎだろ』と、やはりバカにされるから。

 とにかく子供じみた理由や意地で二人は命懸けの遊戯を楽しむ。

 そして二人が本気で戦うのは技術や戦法ではなく、力業で相手を無力化する方法。


 お互いの切り札を使う、比喩ではなく本当に相手を殺す戦いになる。


 その結果、一年前の悲劇を生んでしまった。

 故にカナリアは本気で遊べと念を押した。

 純粋な実力を見せつけるなら、むしろ本気で遊ばせた方が痛感できる。

 現に距離を詰めようとするアヤト、距離を空けようとするラタニと単調な繰り返し。

 本来なら泥仕合と呼べる攻防なのに。


 狙い通り学院生らは先ほどとは違う認識をしていた。




みなさまにお願いと感謝を。

少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークへの登録、評価の☆を★へ!

また感想、誤字脱字などの報告もぜひ!

作者のテンションがめちゃ上がります!

読んでいただき、ありがとうございました! 

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