やらかした
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上位精霊術士の証のローブを纏った二人が演習場に現れるなり代表メンバーは整列。
レイドやエレノアといった王族でも関係なく、学院生として先輩に敬意を払うのは当然なのだがアヤトのみは列に加わらず演習場の壁面にもたれ掛かったまま。
しかしラタニの小隊はアヤトと顔見知りなので注意するどころか無視だった。
「ではこれより合同訓練を始めます」
淡々とした口調で宣言するのは明るい茶色の髪を一つにまとめ、メガネ越しに見える切れ長の瞳、上位精霊術士の証であるローブを綺麗に着こなすカナリア=ルーデウス。彼女は六年前にマイレーヌ学院を卒業した先輩で三学生時には序列一位。
その隣りに居るのは白髪交じりの金髪に目尻の下がった人の良さそうな顔立ち、同じく上位精霊術士の証であるローブを纏うモーエン=ユナイスト。若いメンバーで構成されている小隊で最年長の四二才とお目付役的な立場。
ちなみにラタニの小隊は水のカナリア、土のモーエン、他に火、風の精霊術士の五人編成。みな三年前にラタニが隊長に任命された際、自身でスカウトしたメンバー。
少数ながらも他の小隊に引けを取らない実績を上げているのはラタニの実力だけではなく、個々の能力があってこそなのだが合同訓練の指導員はラタニを含めた三人。
「その前に質問です。アーメリ殿はどうされましたか?」
にも関わらずカナリアとモーエンのみについてレイドが代表して問いかければ。
「遅刻です」
「……はい?」
「いつものことです」
「……そうですか」
表情一つ変えず淡々と告げるカナリアに納得するしかない。
「隊長殿は自由人なもんでな。まあそのうち来るから許してください」
「モーエンさん、本来なら許されるものではありません。最年長のあなたが甘いから隊長がつけあがるんです」
「おいおい、若者の前で説教は辞めてくれよ」
二人のやり取りで少なくともカナリアが隊の中で苦労人なのだと学院生らは理解した。
「とりあえず隊長は腐っても特別講師としてあなた方の実力は存じているので無視しても良いでしょう。なので私たちが確認するために模擬戦をしてもらいます」
それはさておき改めてカナリアから訓練内容が説明される。
「まずは個々で、その後にペアとしましょう。対戦する相手は自由とします。では、誰から始めますか?」
個人で一二人、ペアで六組と誰もあぶれず対戦できるとの内容に、真っ先に動いたのはカイルだった。
「カルヴァシア、俺とやらないか」
ラタニやロロベリアから話を聞いて、選抜戦で実際に見定めてはいる。ただ自身で相手取ることで実力を確認したいと考えていただけにこの合同訓練で機会を窺っていた。
「お前はカナリアの話を聞いていたのか」
なので誘ってみたが声をかけられたアヤトはため息一つ。
指導員のカナリアを呼び捨てにするだけでも失礼に値するにも関わらずカイルに対しても不躾で。
「この模擬戦はカナリアらが実力を確認するためだ」
「……なにが言いたい」
「実力差がありすぎれば確認できんとわからんか」
「つまり、やる気はないと」
「ま、次の機会に遊んでやるから今は見合った相手にしておけ。お前には序列三位さまくらいがちょうど良いだろ」
更には上から目線な対応。
本来なら激怒するところだがアヤトの実力だけでなく、ラタニらから聞いた為人を知るだけにカイルはもう笑うしかない。
だがアヤトについて詳しく知らない者からすれば傲慢以外の何でもない。
「この私をくらい、ですって?」
引き合いに出されたティエッタが二人の間に割って入った。
「それとも私を良くご存じないのでしょうか」
微笑を浮かべているも見据える瞳には敵意が込められ、問いかける声は鈴のような美しさでも、刺々しさを隠そうともしない。
「武の一族と名高いロマネクト伯爵家の長女だろ」
完全な嫌味と気づけどそこはアヤト、怯むどころか煩わしげに返答。
むろんティエッタもアヤトの実力は選抜戦で確認している。持たぬ者にも関わらず精霊士や精霊術士と対等以上に渡り合える強さを高く評価し、感心すらしていた。
「ご存じな上であなたは先ほどの侮辱を口にしたと?」
しかし武の一族だからこそ、自身の強さに誇りを持つが故にアヤトの発言を許すことは出来ない。加えてアヤトの実力は評価すれど、やはり素性を知らず常識に囚われている。
つまりティエッタとしては序列保持者に近い実力との評価でしかなく、自分を軽んじる発言が侮辱に聞こえるわけで。
「侮辱した覚えはないがな」
「先ほどカイルさんに序列三位くらいがちょうど良い、と仰っていましたが」
「あん? お前は侮辱と真実の違いもわからんのか」
「そちらこそ、真実と侮辱の違いが分からないようですね」
それでも態度を変えないアヤトにもティエッタは微笑みを絶やず余裕の対応。
見据えるティエッタ、視線すら向けないアヤトと視線こそ交わらない妙な睨み合いの中、まず動いたのはフロイスだった。
「――これ以上お嬢さまを侮辱するなら斬る」
精霊力を解放するなり淡いアメジストのような輝きに変わった瞳を鋭く、長剣をアヤトの喉仏に突きつけた。
敬愛する主に対する態度に冗談ではなく本気と伝わる殺意を向けるもアヤトは臆するどころかため息を吐く余裕すら見せる。
「おい、飼い犬の躾がなってねぇぞ」
「……なに?」
「それとも躾けたからこそか? 何とも飼い主に対して忠実に育てたじゃねぇか」
挙げ句に最悪な挑発、これにはフロイスも柄を握る力が強くなり――
「フロイス、止めなさい」
アヤトの喉を突き刺す寸前、ティエッタが制した。
「ですがお嬢さま――」
「聞こえなかったかしら? 私は止めなさいと言ったの」
「……かしこまりました」
反論するより先に再び制されフロイスは長剣を下ろし精霊力を解除。
「私の従者が野蛮な真似をしたわね。謝罪しましょう」
「必要ねぇよ」
「そう? では代わりに私の従者を犬呼ばわりしたことについてを不問としましょう」
「そりゃどうも」
あくまで冷静なやり取りを交わすも一触即発の状態は続いている。
「やっぱりやらかした」
「……どうするのよ」
合同訓練開始早々、ギスギスとした最悪な状況にリースが予想通りと呟きロロベリアの不安は増していた。
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