姉の意地
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アヤトの見立てでもリースの手に入れた精霊力の暴解放、七秒の切り札は王国最強の精霊騎士すら凌駕する身体能力を身に付ける。
ただ最初の教え通り強化された身体の扱いを物にしなければ先に時間切れになる、という条件を付け加えられた。
更に強化された身体強化に振り回されてしまい直線的で深みがない動きは実戦経験が豊富な格上相手には通用しない。現にアヤトには七秒どころか二秒で敗北している。
それでも問題はない。
たとえ七秒でも本気の父親を相手取れる精霊騎士はいなく、精霊術士でも数名程度。
いくらユースが学院上位の強さでも、あくまで学院生レベルでしかない。
つまり力でねじ伏せられると、リースは迷いなく飛び出した。
「――っ」
その動きは目視すらできない疾さ。
双剣を振るう間もなく懐にリースが入り込み、鳩尾へ拳を叩き込む。
「……っ」
腹から背中に突き抜ける重い衝撃にユースは声すら上げられず双剣を手放し蹲った。
しかしリースは攻撃を止めない。
右手でユースの襟首を掴み、片腕のみで持ち上げそのまま地面に叩きつけた。
「ぐはぁ!」
背筋に走る激痛に精霊力を維持できず、元の金髪金眼に戻り。
「だから言った」
たった二発で身動きが取れないほどのダメージを受けて、徐々に意識を失うユースの耳に届く声。
淡々としながらも自信に満ちていて。
「お姉ちゃんをなめるな」
無表情ながらも、自分には分かる姉の微笑。
「たく……マジ……だせぇ……」
愚痴をこぼしながらもユースは笑っていた。
やはり姉は最高にかっこいい自分の英雄だと。
これが現実だったと満足して。
「やっぱ……姉貴、つえーわ……」
完全に意識を失った。
そして――
「とうぜん」
弟に弱さを教えることができた満足感でリースは精霊力を解除。
同時に精霊力の消耗から来る激しい倦怠感に。
「おねえちゃんは、つよ……い……」
ユースに覆い被さるよう意識を失った。
『ユース=フィン=ニコレスカ、リース=フィン=ニコレスカ戦闘不能! 担架を急げ!』
◇
姉弟対決の結末は姉の意地でリースの勝利。
しかし両者気絶の結果に審判は慌ただしく叫ぶ。特にリースは不可思議な現象から急激に精霊力を消耗しているのを感じるだけに危険と判断。
なのでタッグ戦にも関わらず救護班が闘技場内になだれ込み二人を担架に乗せて運んでいく。
ただロロベリアとアヤトは依然向き合ったままの状態なので試合に支障はなく。
「……そんな危険な解放をリースに教えたの」
むしろニコレスカ姉弟の戦い中に会話をしていたのだがそれはさておき。
リースの見せた身体能力の強化は脅威ではあるがまさに命がけ。
精霊術と違い僅か七秒の力、強化に対し割に合わない方法にロロベリアは批判ではなく呆れてしまう。
そう、この方法を教えたアヤトを批判する気はない。
なんせ自分もラタニに命がけの特訓をお願いしている。ここで批判してしまえば自分を否定していると同じで。
「強制はしてねぇよ」
なにより悪気なくアヤトが答えるように選択したのはリース。ならアヤトにも、リースにも批判は出来ない。
「ま、どちらにせよあの解放はリスの切り札みたいなもんだ。お前も含め、他の連中は知ったところで選ばんだろうな」
「……そうね」
精霊力を暴走させた強化は常に枯渇の危険を伴う以前に保有量の問題。
リースの保有量でさえ七秒程度、ロロベリアならよくて二秒。加えて使用後に意識を失うなら従来通りに精霊術を駆使した戦法の方が確実で。
更に精霊術士が精霊術ではなく精霊士と同じ身体強化のみ、という戦法は沽券に関わるので他も試そうともしないだろう。
ただ精霊力の解放に関する新たな見解は精霊力の研究に大きな布石を与えるほどの発見、それを何でもない風に語れるアヤトはやはりデタラメで。
そして戦闘中に見せたユースの葛藤、思いを知り、ここまで聞けばアヤトがサーヴェルから受けた依頼の内容は大凡の見当は付く。
アヤトだけでなくサーヴェルもユースの隠していた実力、葛藤に気づいていただろう。
故に今後のユースの為に、弟の思いを受け止められる姉になって欲しいとの親として願った成長。
ならアヤトが最適だ。
実力は当然ながら、本物の強さを知る彼ならばと。
だから一人の武人として学べる物が多くあるとリースに伝えているわけで。
ただ決勝の舞台は出来すぎな気もするが、やはりマヤの仕業だろうか。
気にはなるも問い詰めたところで交わされるのは間違いなく。
「日頃の行いだな」
一応聞いてみたがやはり交わされてしまった。
とにかく色々な疑問は払拭されたと判断したようで、抽選会で見せたようにアヤトがほくそ笑む。
「さて、いい加減突っ立っているのも飽きた」
ニコレスカ姉弟が担架で運ばれ闘技場には審判の他にロロベリアとアヤトのみ。
今は決勝の舞台で両者のペアが戦闘不能。
つまり二人の戦いの結果で最後の代表ペアが決まると、今までニコレスカ姉弟に注目していた観覧席の視線が集中する。
強烈なインパクトを与えた試合後に楽しんでもらえるかは約束できないが、ロロベリアには関係ない。
自分は最初から目の前にるアヤトのみを意識してきた。
ただ楽しませるだけでなく、少しでも近づくために勝利を意識して。
二月前、精霊術クラス一学生の前で行われた二人の戦いが。
「遊んでやるぞ、白いの」
「行くわよ、アヤト!」
全学院生の前で再び行われる。
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