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白き大英雄と白銀の守護者  作者: 澤中雅
第十五章 迫り来る変化と終演編
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ささやかな幸せ

アクセスありがとうございます!



 ラタニの奇行で崩れた髪を直すためにロロベリアとミューズが連行されたのは正装するのに使われた化粧室で。

 王城内の化粧室だけあって内装も豪華。並ぶ衣服や化粧道具も立派なものばかり、貴族令嬢すらも憧れの場所だ。


「……やっぱり専門の人にお願いしましょうよ」

「わたしも自信ありません……」


 しかし衣服や化粧に興味の無い二人なだけに高揚するはずもなく、むしろ場違いな場所に困惑していたりする。


「別に上手くできなくてもいいんよ。あたしは二人にしてもらいたいんだからにゃー」


 対するラタニは結い上げていた髪をほどいてドレッサー前に着席。


「二人も知ってるだろうけどあたしは一人っ子でねー。実は兄弟姉妹ってーのに憧れてたんよ」

「そうなんですか?」

「そうなんですよ? まあアヤトを迎え入れて念願の弟は出来たけど、あいつはクソ生意気だしお姉ちゃんの言うことを聞かない聞かない。それに髪を整えたり、こんな服いいねーみたいな会話はやっぱ姉妹のほうがしっくりくるわけで」


 ロロベリアの質問を鏡越しに答えつつラタニは手に取った櫛を背後に放った。


「お姉ちゃんの晴れ舞台を前にさ、可愛い妹が髪をきれいきれいに梳かしてくれて、こんな感じの髪型がお姉ちゃんにはぴったりだ、みたいなやり取りするのって良いと思わんかい?」


 放物線を描いた櫛は狙い澄ましたようにロロベリアの手元に。


「それにあたしもあんたたちも普段は物騒というか、訓練訓練で血生臭い時間ばっかだから、たまには普通の姉妹の普通の時間を楽しみたいとラタニさんは思いましたとさ。だからお願いするよん」


 ラタニの望みを聞いてロロベリアも思うところはある。

 血は繋がらなくともロロベリアにはマリアという姉がいた。当時はまだ自分が幼くてオシャレに興味は無く、そもそも教会ではオシャレに気を遣う余裕がなかった。

 だがもし今もマリアが生きていれば、ラタニが望んでいるような時間を過ごしていたかも知れない。普通の女の子として、普通の姉妹としての時間を楽しんでいたかも知れない。

 もちろん今の生き方を否定するつもりはないが、姉呼びを強制されたとはいえロロベリアもラタニを姉のように慕っているのなら。


「そういうことなら頼まれました」

「あんがと」


 たまにはこうした時間を楽しむのも良いかもしれないと櫛を手にラタニの元へ。


「ミューちゃんはしてくれないのかい?」

「もちろん望まれるのであればお相手したいですが……」


 まあ知ったからこそミューズが及び腰になるのも無理はない。

 ラタニの望むのは姉妹としての時間。普段から姉と呼んでいるロロベリアはまだしもミューズは最近親しくさせてもらってるだけで、二人のような親密な関係と言えばやはり違うわけで。

 

「だから二人にしてもらいたいって言ったでしょうに。つーか望んでなければ連れて来ないよん」


 ミューズの心情を察してかラタニはケラケラと笑った。


「ミューちゃんもアヤトが大好きだ。そんでもってあたしはアヤトのお姉ちゃん、つまりミューちゃんもあたしの可愛い妹分ってねん」

「どんな理論ですか……」

「おりょりょ? ロロちゃんはお姉ちゃんの妹分にミューちゃんが加わるのが嫌なのかにゃー? 私みたいな可愛い妹が居るのに浮気するのって。それともアヤトのことでミューちゃんを応援してるみたいで複雑なのかにゃー?」

「しませんって」

「だろうねん。じゃなきゃ二人はもっとギスギスしてるはずだし、それこそ姉妹みたいに仲良しさんになってるからこそあたしも気にせずミューちゃんをお誘いできたわけだ」


 アヤトを好きな子なら自分の妹、という極論にロロベリアは呆れているだけ。

 要はミューズを妹分にしたいのならそれでいいと割り切れるからこそ、ラタニも誘ったと鏡越しにミューズを手招き。


「もちミューちゃんがあたしみたいなお姉ちゃんは嫌だなー、て思うなら無理強いしないよん」

「むしろそう言って頂けて嬉しいです」


 ラタニから歩み寄る姿勢を見せてくれたならミューズも遠慮なく参加させてもらおうと櫛を手に。


「ならミューちゃんも今日からあたしをお姉ちゃんと呼んでねん」

「よろしいのですか?」

「むしろ望むところさね」

「では……お姉さまとお呼びさせて頂きます」


 そして密かにラタニを姉と呼んでいるロロベリアが羨ましかっただけに、気恥ずかしさはあるも素直に呼ばせてもらうことに。


「上手く出来ているでしょうか」

「出来てるよん。可愛い妹たちにきれいきれいしてもらうのは幸せだねぇ」

「たまにはこんな時間も良いですね」

「まったくだ」


 二人で半分ずつ髪を梳かせば言葉通り幸せそうに目を閉じるラタニにロロベリアやミューズも自然と笑みが浮かぶ。

 その様子はまだぎこちないかもしれないが、仲の良い姉妹のような光景で。


「あたしはアヤトを幸せにしてくれる子なら誰でもいいんよ」


 だが不意に告げた本心に二人の手がピタリと止まる。


「ロロちゃんの事情も分かるけどね、やっぱあの子はあたしの大事大事な弟だ。姉としては幸せになってもらいたいんよ」


 それでもラタニは目を閉じたまま独り言のように告げる。

 非合法な実験を生き延びたのも、捻くれようと今のアヤトで居てくれたのはロロベリア――シロと出会ってくれたお陰だ。

 故にロロベリアを応援したい気持ちはある。しかしラタニにとってはアヤトの幸せが優先だ。

 もしアヤトにとって最良の相手がミューズならミューズを応援する。

 もし今後二人以上に幸せにしてくれそうな子とで会えたのならその子を応援するとの意思表明で。


「ただね……あの子もあたしも普通の幸せってのは難しいわけで。自由奔放、好き勝手に生きてても柵みってのがあるからねぇ」


 二人は知らなくともアヤトは今も貴重な時間を捨ててまでラタニの為に動いてくれている。例え本人がやりたいようにやっていると言い張ろうと、誰かの笑顔を守る為なら陰に徹するお人好しなのだ。

 非合法な実験で手に入れた力、神との契約で手に入れた力による柵みだけでなく、優しいからこそ身を削ってでも他者を優先してしまうのがアヤトなのだ。

 だからラタニだけはアヤトの味方でい続ける。最低な約束で縛り付けてしまった贖罪の意も否定しないが、やはり姉として弟には幸せになってもらいたい。

 小隊が解散すれば自分の環境も変わり、自由な時間を取れなくなる。つまりアヤトの傍に居る時間も削られてしまうわけで。

 また特別講師も辞任すれば二人と気軽に会うのも難しくなるからこそ、自分の気持ちを知ってほしかった。

 ただ続きもあるわけで。


「だから普通の幸せが手に入らなくても、せめてあの子が幸せだにゃーって感じられる子が傍に居て欲しい。でも出来るなら二人のどちらかがいいわけで」


 今後のことなど誰も分からない。しかしロロベリアやミューズ以上にアヤトを愛し、幸せな気持ちにしてくれる子は現れないとラタニも感じている。


「そんでもって出来ることなら、あの子がどっちを選んでも……二人は変わらず仲良しさんな姉妹みたいで居てほしいにゃー」


 故にどちらかの想いが届き、結ばれようと仲違だけはしないで欲しい。


「なんてお姉ちゃんわがまま過ぎるかにゃ?」


 無理な願いとの自覚はあるが、アヤトの幸せを優先するからこそ悲しい顔を向けて欲しくないと望むラタニに対し、二人は同時に髪を梳かし始めた。


「もしかしてわがままを伝えたくて私たちを連れて来ました?」

「ロロちゃんは本当に疑い深いにゃー。あたしは姉妹で仲良くきゃっきゃしたいだけだってん。ミューちゃんのお目々なら分かるでしょうに」

「それが……お姉さまの輝きは他の方に比べて読み取るのは難しいんです」

「そうなの?」

「お姉さまから触れられたので打ち明けますが、秘められた精霊力が暴風のように渦巻いているせいか、どの輝きが正しいのか判断ができなくて……」

「さすがアヤトのお姉ちゃん。本心を隠すのがお上手で」

「別に隠してるわけじゃないんだけど……ミューちゃんにはそう視えるのか」


 さらりと新事実が明かされるもそれだけ。

 二人とも望みに対する返答はしなかったラタニも追求しない。

 梳かされる髪から二人の複雑な気持ちだけでなく、優しさが伝わった。

 その優しさが二人とも同じ答えを秘めていると分かった。

 なら今はそれで良いと、後は姉妹の時間を楽しもうと――


「なんなら三人で帝国に移住して結婚するって手もあるな」

「さすがにそれは――」

「……いいかもしれませんね」

「ミューズさん!?」


 しないのがラタニで、何故か乗り気なミューズにロロベリアだけが慌てる羽目に。

 確かに帝国は一夫多妻制を認めている唯一の国、移住すればどちらかが悲しむ未来はないかもしれないが色々と問題もあるわけで。

 

「それか王国法を変えてもらうよう国王さまに頼んでみるか。弟と妹分がいっぺんに幸せになるならお姉ちゃん頑張っちゃうよー」

「そんな私利私欲で法を変えるのもどうかと思いますけど!?」

「何度も言うけどお姉ちゃんはアヤトの幸せ最優先なのさ」


 ラタニなら本当に実現しそうなだけにロロベリアは慌てふためくもどや顔で言い切られてしまう。


「さすがはお姉さまです」

「ミューズさんもアヤトだけでなくお姉ちゃんにもそれで済ませようとしないで下さい!」


「楽しい妹分を持ってあたしは本当に幸せだにゃー」


 更に全肯定するミューズに突っこんだりと忙しいロロベリアを他所に、ラタニはケラケラと笑った。



 

環境の変化によってアヤトと過ごす時間が減る前に、ラタニはロロとミューズに本心を伝えました。

この二人に伝えたのも作中で語ったように、自分の目の届かないところで無理をする弟を見守って欲しい気持ちと、二人だからこそ託せる想いがあったのかもですね。

それだけラタニさんから見てもロロとミューズはアヤトにとって必要な存在でもあり、王国の英雄となった自分にとっても普通の幸せを実感できる存在なんだと思います。ロロは当然ですけど、ロロがいようと諦めず積極的に歩み寄ろうとしたミューズの頑張りが少しずつ実っているんでしょうね。

さて、予告通り次回から授与式が始まりますが、様々な思惑の中行われる授与式は無事終わるのか。

そもそもアヤトくんはどこで何をしているのか……は、もちろん次回からのお楽しみに。



少しでも面白そう、続きが気になると思われたらブックマークに登録、評価の☆をお気持ちのまま★にして頂ければ嬉しいです!

みなさまの応援が作者の燃料です!


読んでいただき、ありがとうございました!


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