式典を前に
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久しぶりに新旧の学院生会と序列保持者 (アヤトを除く)での時間を過ごした面々は授与式に備えた準備を開始。
レイドやエレノアは王族としての参列なので正装する為に移動、カイルたち旧学院生会と序列保持者は一緒に観覧するカナリアたちの元へ。
グリードやロロベリアといった現学院生会と序列保持者は宰相から式中の手順、立ち位置などの説明を受けることに。
「それにしてもスゲー熱気だわ」
「ほんと凄いわね」
一通りの説明を受け終え、再び応接室に戻る道中で率直な感想を述べるユースとランに他の面々も同意する。
開始時刻の正午まで一時間以上もあるのにバルコニー前の広場は既に民衆が集まり多い賑わっていた。中には気の早い者らがラタニを称える万歳を始めるほどで、その声援が場内に響くほどだ。
王国を守った英雄の晴れ舞台、平民人気の高さも相まってとにかく熱気が凄い。改めてラタニの人気を実感させられた。
「ただ突っ立ってるだけなのに緊張してきたわ……」
だからこそ緊張もするわけで、特に普段から大勢の人前に立つという経験の無いディーンは及び腰にもなる。まあ同じ立場のランやシエンは平然としているのだが。
「思えばアヤトくんは欠席で正解だったかもしれないね」
「一人だけ真っ黒の服。悪目立ち」
「逆に黒だからこそ目立たないです」
「まあ民衆の目的はアーメリ特別講師なので誰も気に止めないでしょうけど」
「確かに。だからディーンも緊張する必要ないんじゃない?」
「そうは言ってもな……」
「なんにせよオレたちはオマケっすから気楽にいきましょうよ」
後は本番までゆっくりするだけとユースは応接室のドアを開けた。
「…………」
「愚弟、どうした?」
しかし室内に入らず固まるユースに背後からリースが問いかけるも返事はなく。
「なにしてる……の……?」
怪訝そうにしていたランに続きも室内を見た面々が唖然となる中――
「たく……その反応はなにさね」
「みなの気持ちも分からなくもないがのう。爺やもそう思わぬか?」
「見惚れてしまう、という点では同意いたします」
ソファに腰掛け盛大なため息を吐くラタニを他所に、予想通りの反応と楽しむサクラとエニシ。
恐らく本番まで自分たちと一緒に居るよう希望してサクラとエニシはこの応接室に通されたのだろう。もちろんエニシは普段通りの執事服だがサクラは皇族として正装をしている。
ただエニシが同意するようユースらの目を引いたのはラタニ。
授与式の主役なので正装は当然、しかし普段は適当に一括りしている赤髪は綺麗に纏め、薄く化粧もされている。加えて纏っている真っ白な布地に紫のラインが入った法衣が神秘的で。
元々顔立ちが良いのもあるが、身なりを整えればこれだけ変わるのか。一瞬誰だか分からないほど普段のラタニとギャップがあった。
「きれい……」
故に感嘆の声が漏れるほど今のラタニは美しいのだが、当の本人は微妙な表情。
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね……こちとらむず痒さでくたばりそうなんよ」
「だからって寝転がるとシワになるし髪も崩れるから! そもそもどうしてお姉ちゃんがここに?」
見た目が変わっても中身は変わらずそのままソファに寝そべるラタニに慌てて注意しつつ、ロロベリアからもっともな質問が。
主役だからこそ他にもやることがあるはずなのに、なぜ応接室でサクラとお茶を飲んでいるのか分からなかった。
「準備が終わったなら好きにさせてくれてもいいでしょうに。てなわけでみんなとお話でもしようとここに来たらサクちゃんとエニちゃんがいたんよ」
「……なにがてなわけ?」
「もち国王さまの許可ももらってるよん。つーかアヤトが居たら良い笑いもんにされたかもだし、居なくて良かったわ」
「さすがのアヤトも今のお姉ちゃんを見て笑わないと思うけど……」
「国王さまには馬子にも衣装だって大爆笑されたけど?」
「…………」
確かにレグリスなら笑いそうだと言葉を詰まらせるロロベリアはさておいて、恐らく慣れない正装をさせたラタニを下手に拘束すれば逃げ出すかもしれないと敢えて自由にさせているのか。
とにかくサクラとエニシは予想通り国王への挨拶を済ませてから自分たちと過ごすべく先に応接室へ来たようで、ラタニが居る理由にも納得したところでようやく一息吐くことに。
「ラタニさんもアヤトが欠席したのを知ってたんすね」
「知ってたってーより宰相さまから聞いたんよ。お熱出したマヤが『お兄ちゃんが一緒に居てくれないと寂しくて泣いちゃうよ~』ってわがまま言ったんでしょ」
「そこまでは言ってないけど……お姉ちゃんもアヤトの行き先を知らないのか」
「知らんよ? つーかロロちゃんはどーしてあたしを疑うかな」
「別に疑ってはないけど……」
からの早速ユースが探りを入れるもラタニは首を振るのみ。まあアヤトが意味深な行動をする際、ほぼラタニも関わっているだけにロロベリアが訝しむのは仕方ない。
「まあ授与式が終わればみんなでマヤの見舞いにでも行くかね。アヤトも寂しくて泣いてるかもだ」
「アヤトが泣くとは思えないけど、ルビラさんたちも一緒にお邪魔するつもりですよ」
「元より妾もニコレスカ家にはお邪魔させてもらうつもりでいた故、同行させてもらおうか。爺やも含めて構わぬか?」
「もちろん歓迎します」
「お袋殿も喜ぶな」
「賑やか楽しみ」
ただ詮索したところで無駄と早々に諦め授与式まで談笑を楽しむことに。
マヤの病気は嘘なので心苦しいがサクラやエニシも含めた大所帯でも、友人の訪問はクローネが喜ぶのでロロベリアたちからすればむしろ望むところ。
「なんにせよ、さっさと終わらせたいもんだにゃー」
「だから寝転がったらダメですって! というか床に転がらないでください!」
などと楽しんでいたのはつかの間、いきなり床に寝そべり転がるラタニを再びロロベリアが注意する。
いくら床が綺麗でも真っ白なローブがシワになる上に整えられた髪はくしゃくしゃ。
せっかくの身支度も台無しで、髪だけでもやり直した方が良いまでに乱れていた。
「ロロちゃんは厳しいにゃー。んじゃ、ロロちゃんがお姉ちゃんの髪を整えてくれまいか?」
「私が?」
「ああでもロロちゃん不器用そうだから一人じゃ無理か。ならミューちゃんも手伝ってくれい。二人なら上手くきれいきれいしてくれそうだ」
「わたしもですか……?」
「不器用なのは否定しないけど、そもそも整えるなら専門の人に頼む方が良いと思う……」
のだが、不意に指名された二人はキョトンとなるもラタニは止まらない。
「てなわけで化粧室に行ってくるからみんなは待っててねん」
「だからなにがてなわけですか!」
「あの、わたしはあまり器用ではないのですが……」
ロロベリアとミューズの意見も無視、立ち上がるなり二人の手を掴んだラタニはそのまま応接室を出て行ってしまった。
「ラタニさんらしいっちゃらしいけど」
「あの二人ってのが気になるよね」
「さすがの俺も同感だわ」
ラタニの行動に呆れる反面、強引な連れ出しをユースたちが意味深に感じたのは言うまでもない。
勲章授与を前にしてラタニさんがロロとミューズを連れ出しました。
正装しても関係なく奇行をするのはラタニさんらしいですけど、面子も含めて少し意味深ではありますね。
ただの気分で二人を連れ出したのか、それとも別の理由があるのかは次回として、次々回からいよいよ式典も開始となります。
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