気遣い
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ラタニの計らいで少々過激な初対面になったがナーダとアヤトは握手を交わして改めてご挨拶。
「しかしソリシュからも聞いていたが、アヤトの強さは私でも計りきれない。ハッキリ言って異常すぎる」
からの手合わせをしたからこそナーダは困惑顔に。
噂だけでなく娘であり学院長のソリシュからもアヤトについては聞いている。
序列十位とはいえ現在序列入りしている九人に勝利、敗北は全て棄権している。去年の親善試合に向けた選考戦で序列一位のロロベリアに唯一敗北しているがそれも棄権でしかなく、終始アヤト優先だったらしい。故に直接観戦していたソリシュもアヤトの実力は読み切れないと口にしていた。
持たぬ者でありがなら持つ者を凌駕しているなど本来誰も信じないだろう。それでもラタニが才能を見込んで弟子にするほどならとナーダも無理矢理納得していた。
だがあくまで学院生の中では、という線引き。実際に手合わせして分かったのは学院生どころか王国最強の精霊騎士、サーヴェルすらも越えている。
持たぬ者がこれほどの強さを身に付けるのは果たして才能だけか。いくらラタニが師事したとしても異常すぎる。
「そりゃあたしの弟子だからねん。つーかこの子は性格含めて異常だからにゃー。気にしてたらキリがないさね」
「性格が異常、というのは聞き捨てならんな」
「だって誰相手でもふざけた態度とりまくってるでしょうに。その図太い神経も異常じゃまいか」
「図太さでもテメェに言われたくねぇよ」
「あたしこそ言われたくないねぇ」
「……私としてはどちらも似たようなものだ」
だがケラケラと笑いながらアヤトとじゃれ合うラタニの様子にナーダは首を振るのみ。
恐らく才能以外の何かがある。それはラタニにとって踏み込んで欲しくない秘密だろう。
そもそも才能だけでは納得できない強さを秘めているのはラタニも同じ。本人が口を閉ざしたい秘密を無理に追求するつもりはない。
それよりも普段は人懐っこく友好的でも、肝心な部分は一線を引くラタニの壁がアヤトに対してのみ感じられない。互いに悪態を吐きながらも姉弟のような関係で。
出会ってからどこか危うさを秘めていたラタニに心を許せる存在が出来たのなら、ナーダとしても嬉しい限りだ。
まあそう言った配慮の出来るナーダだからこそ、ラタニも気兼ねなくアヤトと遊ばせたわけで。
また意図を酌んだ上でアヤトが遠慮なく遊び相手になったのもラタニのナーダに対する信頼を察したからだがそれはさておき。
「二人はこれから訓練をするのだろう。私は席を外す」
目的だったアヤトの実力だけでなく、二人の関係姓を知れて満足したナーダはここでも配慮することに。
「もう帰るん? せっかくアヤトと会えたんだからゆっくり話せばいいのに」
「そうしたいのはやまやまだが、まだ屋敷に帰ってないんだ。王都も久しぶりだからゆっくりしたい。ただお前の勲章授与式翌日まで滞在する予定だ。終わった後にでも屋敷に顔を出せ、食事でも一緒にしよう」
「お酒も出るなら嬉しいねぇ」
「上物を用意する。その時はアヤトも来てくれ。改めてゆっくり話そう」
「へいよ」
もちろん配慮だけでなく交流の場も取り付けるのも忘れない。またアヤトと剣を交えてみたいし二人がどのような手合わせをしているのかも興味がある。
なによりこの師弟のやり取りは聞いているだけでも面白い。だからこそ忠告をしておこうとナーダは思い立つ。
「既に気づいているだろうが、お前の敵対勢力が不穏な動きを見せているらしい。勲章授与式も含めて注意しておけ」
仕方ないとは言えこれまで不遇な待遇を受けていたラタニが認められる日が来た。
名誉に興味は無く、むしろ平凡な日々を望んでいるのも知っていようとナーダにとっては待ち望んだ瞬間。それを醜い嫉妬による暴走でケチをつけられたくない。
今は良き友人という関係でも、ナーダにとってラタニは娘のような存在でもあるのだ。娘の晴れ舞台を邪魔されたくない気持ちは当然で。
「今は大人しくしてるんでご安心を。つーかそいつらが何しかけてこようと返り討ちにしてやるぜい」
「たしかにお前を害せるような連中ではないが慢心は隙を生む。老婆心としてでも良いから心に留めておけ」
「ありがとです」
「では当日にまた会おう」
故に不要な心配だろうと念を押してナーダは背を向けた。
◇
「お前が信頼するだけある」
「だしょう?」
訓練場から立ち去るナーダを見据えつつ印象を告げるアヤトにラタニは誇らしげに笑った。
気難しいアヤトにも好印象を与えるだけの魅力がナーダにはある。言うなればサーヴェルやクローネのように相手との距離感を計るのが上手いのだ。加えて貴族としての誇りを持ちながら、不要なプライドは抱かない価値観や、不器用すぎる情の厚さが共に居て心地よくもある。
「総督さまの娘ならいいかにゃーって思う程には良い人さね」
「心の母の忠告だ、素直に聞いておけ」
だからこそ養子縁組を持ちかけられた時は揺らいだと、正直な心情を吐露すればアヤトも察した上で話題を変えることに。
「なぜ無駄な気を遣った」
「国王さまに会ったんかい?」
「つい先ほどな」
ナーダの言う通りラタニに危害を加えられる者などまずいない。しかし愚かしい者は時に信じられないほど愚かしい行動を起こすくらいラタニも分かっている。
にも関わらずレグリスの要請を突っぱねた。不測の事態に備え最善の準備をしておく必要性も理解しているのなら自分に調査をさせればいい。
その理由が自分への配慮なら水くさいと批判の目を向けるアヤトに対しラタニはため息一つ。
「あたしさ、特別講師を辞めるかもしれんのよ」
「だろうな」
唐突な告白にも動じないのはアヤトも現状の変化を予想していたからだろう。
今までは小隊長とはいえ部下四人の少数精鋭。周囲に疎まれていたこともあり自由な時間を作るのも難しくなかった。
だが今は周囲の態度が変わり、大隊長に昇進の話も挙がっている。功績を考えれば拒むわけにもいかず、学院の意識改革が進んでいるのなら次は軍内の意識改革を進めたいというレグリスの考えも当然なのだ。
まさに先日ナーダに指摘されたように王国最強という称号が枷となり、ラタニは自由を失いつつある。
「面倒なしがらみでやりたいことをやるのも難しくなる。あんたならこれからも好き勝手するんだろうけどねん」
そして自由奔放に生きているアヤトも過去やマヤという枷がある。
加えて陰と言えど王国にとって重要な戦力である以上、憎まれ口を叩こうと弱者を放っておけない性質からこれからも陰として協力を続けてしまう。
ラタニとしては今後も自由に生きて欲しいが残念ながらそうもいかない。
「要は最後まで青春しておきんさいな」
ならせめて、学院に滞在している間は自分を受け入れてくれた友人たちとの時間を優先して欲しい。ただでさえマヤとの契約で得た力で運命を消費しているのなら尚更で、少なくとも自分の面倒事で貴重な時間を割いて欲しくないのだ。
そんな気遣いもばれているならと、敢えてぶっちゃければアヤトは距離を取り始める。
「俺は俺で勝手にやらせてもらう」
「おいおい。心の姉の忠告だ、素直に聞いておけよ」
「誰が姉だ」
なによりぶっちゃけたところで素直に聞き入れてくれないのも承知の上と、諦めながらラタニも距離を取った。
「そんなにあたしの晴れ舞台を邪魔されたくないのかい? ラタニさん愛されちゃって困っちゃうねぇ」
「寝言は寝て言え。面倒事は早い内に終わらせたいだけだ」
「そんでもって総督さまに訓練するからって付いた嘘を嘘にしないよう、わざわざ遊び相手までしてくれるとかあんたも律義だ」
「久しぶりに身体を動かしたいだけだ」
「今夜はツクちゃんたちとの約束もあるし、軽くにしとくか」
「へいよ」
軽口を叩きながら向き合いラタニは精霊力を解放、アヤトは朧月を抜く。
「軽くと言えど前回みたいに負けるつもりはないよん」
「ほざけ」
ちなみに軽くと言いつつも、カナリアが様子を見に来た頃にはボロボロの姿で倒れていた二人の姿があった。
アヤトくんも認めるナーダさまは本当に優しい方ですね。
そしてラタニさん、愛されてますねぇ。まあ捻くれアヤトくんにはその気遣いが届かないんですけど、それもやっぱり何だかんだでアヤトくん、ラタニさんが大切なだけでしょう?
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